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第4章 魔人国、前編
4-4 神の武器、指名
しおりを挟むピチピチと小鳥の囀りが聞こえる。
窓から朝日の木漏れ日が射す。
暦の上ではもうすぐ冬がやってくる。
だがこの国ではそれをあまり感じない。
複数ある活火山の影響らしい。
オリハは目を覚まし伸びをした。
横ではまだハルがスースーと寝息を立てる。
起こさない様にそっとベットから降りて窓を開けて外を眺める。
もう既に働いている人達がいる。
その装いにも寒さは感じない。
先程の囀りの主がピピピと飛び立った。
「いい天気だ」
そう言い今度は大きく伸びをした。
変な夢を見た事以外は素晴らしい朝だ。
肌で感じる気温は陽気な春の頃に似ている。
冬が来ても雪も降らないのでコートや冬支度がいらないらしい。
ただ夏はとても暑くなるらしい。
今すぐにでも、いや夏までには魔人国を出た方が良いだろうとオリハは思う。
そう言えばあの二人は元気にしているだろうか。
とティダとシャルを思い出す。
すぐにでも我を助けに、いやすぐにでも会いたいと強襲、いやすぐにでも会いたいと郷愁の念に駆られる。
「・・・はあ」
深い溜息をつく。
まだ頭の切り替えが出来ない。
「我は悪くない」
ボソッとそう呟き荷物の整理を始める。
まずは巾着袋の方からだ。
六芒の柄が描かれた薄っすらと光る物を取り出していく。
冷凍させた魔物の肉だ。
芯まで凍らせた魔物の肉を真空膜で包み魔法障壁を貼り付けた物だ。
このままでは狩ったその場で味見をして、魔法障壁を展開したので解除される日がそれぞれ異なる。
一度、魔法障壁と真空膜を解除する。
ゴトっと少し浮いていた分床に落ちる。
その内の一番大きなブロックを指で触る。
粗熱は感じない、調理できそうだ。
これはファイアボアという炎に包まれた魔物の肉だ。
最初に狩った時は失敗してしまった。
仕留めた瞬間に自分の肉を焦がし始め、気がついた時は炭になっていた。
なので二回目はコッチコチに凍らせた。
そして削り出したのがこの肉だ。
粗熱で肉が焦げそうだったので、まだ味見も出来てないない。
サンダーイールが残り少ない、狩りに行くか、と肉の在庫を確認する。
野菜はもう諦め丸薬に頼ることにした。
二十個程の肉片を宙に浮かせ、風魔法で真空の膜を作り肉に巻いた。
後は魔法障壁を反対にして貼り付ければ完成だ。
普通の魔道士なら魔力を注入しなければ十分保てばいい方だろう。
オリハなら三、四日は軽い。
べっこうで包んだ丸薬も残りが少ない。
火力の調整がフライパンより魔法で作った方が楽な事に後から気がついた。
リュックから砂糖の入った袋を取り出す。
これで無くなるので後から買い出しだ。
丸薬を粉末に砕き砂糖と混ぜる。
そして宙に浮かべ熱風の檻を作りそれを入れる。
粉末がくるくると舞いながら甘い匂いを漂わせる。
ハルが甘い匂いのせいかモゾモゾしだす。
だが粉末の回転は止まらない。
くるくる、くるくる、クルクル・・・
嫌な事を思い出しそうになり首をブルブルと振る。
液状化したら玉の形に成形して出来上がりだ。
緑の粉末が透明の飴の中に閉じ込められている。
リュックの中身も一旦出した。
数枚の金貨、服、肌着、調味料、調理器具、ハルの食事用タッパー、虎の子の日本酒、布オムツ、抱っこ紐などなどだ。
布オムツも抱っこ紐も必要はないのだがなんとなく捨てられなかった。
服はワンピース型では肌寒い、ローブでは暑い気がしてドレス型を着る。
調味料も残りを見て足りない物を確認した。
ハル用のタッパーの残りも後二回分といったところか。
そして荷物を片付けた。
ハルが目を擦りながら起きた。
「おかーしゃ、おはよ」
「ああ、おはよう」
とハルを両手で掴み回った。
「キャハハハ」と笑い声が響く。
その後ハルに服を着せながら小さく感じた服を見て、買い替えの必要性を感じた。
朝食はタッパーの物を終わらせて済ませた。
その後まず冒険者ギルドに向かった。
念の為に帯剣はしておく。
これは防衛というか見た目の問題だ。
ギルドで依頼票を確認する。
魔物の討伐依頼があれば食糧の確保と合わせて受けるつもりだ。
C級で受けれるものもいくつかある。
どれにするか、いっそ全部受けてやろうか、などと考えていると後ろから声を掛けられた。
「あの・・・腐竜殺しの聖母のオリハさんですか?」
「む、そう呼ばれているそうだ」
前の時を思い出し少し警戒したが、受付嬢の言葉は違うものだった。
「ああ、良かった、指名依頼が入ってます」
「指名?我にか?」
「はい、昨日エインリッヒ様が近日中に来られるから、と直接依頼に」
「エインリッヒ?」
「ええ、エインリッヒ・フォン・ドゥエムル公爵様です」
「・・・内容は?」
「教会預りの年長組の子らに剣と魔法の手解きを頼みたいそうです、子供連れの冒険者であれば子供好きなのだろう、と」
名前を聞き、恰幅の良い変態を思い浮かべ依頼が鞭で打て、ではないかと疑ったが違うと知り安堵した。
従事者に慕われ、領民の生活のために美味しい物を、と身を粉にする領主とあの変態が同じ訳がない、不敬であったな、と。
報酬も内容に比べて高額であり、相手はオリハの好物の子供達だ。
夢のようであったティダの故郷の孤児院での生活を思い出しながら了承した。
恐らく断ったらギルド職員から泣きつかれるのだろうが。
「それで、いつからだ?」
「依頼を受けて頂けたらこちらから直ぐに公爵家に連絡を入れる手筈になってます、少々お待ちください」
と裏に戻っていった。
まあ買物は昼過ぎからでも問題はない。
食糧は・・・依頼が終わってからまた集めれば良いか、とアバウトな予定を立てた。
「オリハさん」
と先程の受付嬢が戻ってきた。
「公爵様が今から子供達との顔合わせも兼ねて教会に来て欲しいとの事ですが」
「わかった、伺おう」
そして教会の場所を聞き向かった。
通り道が昨日の現場だったので大きく迂回した。
犯人は現場に戻るというが君子危うきに近寄らずだ。
教会の前では三才から五才くらいの三人の子供達が土弄りをして遊んでいた。
一番大きい子がエルフの男の子で後は魔人の子だ。
大人は見当たらないので公爵はまだ来ていないのだろう。
ハルがウズウズしているのを感じる。
「済まぬがこの子も混ぜてやってくれぬか?」
と近づき頼んだ。
エルフの子が「いーよー」と笑顔で答えてくれた。
「名前はー?」
「ハルという」
「ハルちゃんおいでー」
とハルはオリハを見た。
「良いぞ」と頷くと走っていった。
泥だらけになりながらはしゃぐ姿を、おお!天使の共演だ!と評して眺めていた。
「あーまたあなた達は泥だらけにして」
と黒の修道服を着たシスターが苦笑いしながら教会の中から顔を出した。
見知らぬハルを見て首を傾げている。
「すまない、混ぜてもらっておる」
「いえいえ、こちらこそ泥だらけに」
泥だらけのハルを呼び浄化魔法で泥をキレイにする。
「そして行ってこい」ともう一度送り出した。
「終わったらその子らにも施す故」
「便利な魔法ですね!冒険者の方ですか?」
「ああ、公爵殿よりこちらの年長の者に訓練を頼まれてな」
「エインリッヒ様が・・・お受け頂きありがとうございます」
「公爵殿はその・・・どんな方なのだ?」
まだ疑念を払拭しきれていないオリハはつい聞いてしまった。
「教会で子供達を預かる様になってからは予算も増やして頂きましたし、個人で寄付も頂いてます、立派な方ですよ・・・変わった方ですが」
やはり違う、あの変態ではない。
そう思い込もうとするオリハには小さく呟いた最後の言葉は届かなかった。
年長の子らは十四歳と十五歳の子二人で今は教会の中の掃除をさせているらしい。
飴玉を泥遊びする子らの口に放り込む。
甘い、甘いと騒ぐ姿をみてやはりこの現状に疑問を抱く。
シスターと食事の事を話していると、ふと胸騒ぎがした。
知り合いではないが知っている気配がする。
知っていたくはないが近寄りたくない気配が寄ってくる。
あわあわとガクガクしてくる。
「オリハ様!これはお早いおつきで」
丸いお盆に金色の髪と口髭が乗っている。
振り返ると奴がいた。
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