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第4章 魔人国、前編
4-9 神の武器、魔道具
しおりを挟む「流石は公爵様だ・・・我には理解できん」
意趣返しとばかりに椅子から立ち上がる。
半月の様な笑みを浮かべ悪意を奏でる。
「理解は出来ぬ、がこれまでの徒労と心労は自分を虐めるためのものか?大事な国民のためではなく?」
靴を鳴らしながら近寄っていく。
その音は悪魔の囁きが如く。
「とんだ博愛主義もあったものだ!」
諸手を地に振り下ろし怒りに顔を顰める。
執事と侍女、マリアが止めに入ろうとするがオリハがそれを目で制した。
魔力による威圧はしていない。
だが感じてくれるだろうと。
執事と侍女は身が振るえ立ち止まり「あふん」とマリアが地に伏した。
違う意味で感じてしまった様だ。
エインもこの怒りの意図が伝わったのか、座ったまま肘を卓の上に乗せ両手を前に組み、握った拳が震えている。
「魔素の恩恵?・・・そうするしかなかっただけであろう」
やれやれといわんばかりに首を振り両手をあげた。
「その魔素がっ!この地がっ!エインの想いを踏みにじったのだろうがっ!」
その怒りを捻じ込むように拳を握りしめた。
「・・・変態故にそれを喜んでおるのか?」
侮蔑に顔を歪め首を傾げた。
「そんな事っ・・・ありません!」
エインは震える拳をテーブルへ叩きつけた。
「ええっ!そうです!私は・・・私は魔素が嫌いです!この土地が憎いのです!本当にそうするしかなかったのかと祖先を恨んでおりますっ!!」
エインはそう言葉を発して息を飲み込んだ。
魔人国において柱となった初代様は絶対であった。
巨大な魔澱みを封印する為にその地より動く事を許されず、初代様もそれを望んだ。
それは幾万年の時を経ても信仰され続けるに値する行為だった。
しかも自分の直系の祖先である。
それを考えてはいけないとエインはその感情を封じていた。
それはオリハだから理解出来た事だ。
主に不敬であると封じた怒りと同じだからだ。
「知っておるかエイン、怒りは溜め込むとロクな事にならんのだ」
ニヒヒと悪戯っ子のように微笑みエインを見る。
野盗共に八つ当たりする事で発散していたオリハだから言える台詞だろう。
(・・・怒りを?・・・私のために?)
その為の茶番だと自分の為の茶番だと思うとエインは嬉しく思う。
だがどうする事も出来ないのに変わりはない。
魔素も土地も変わらないのだから。
最後の意図を見抜けず困惑するエインの頭上から魔法により生成された水が大量に注ぐ。
周りに飛び散らぬよう魔法障壁付きだ。
「ぶふあっ!?」
椅子に座ったまま頭から水浸しになる。
「くっくっくっ水も滴るいい男だ・・・エイン、酒は抜けたか?」
そう言う目の前のオリハも頭から足の先まで水浸しになり髪をかきあげている。
その仕草と表情にエインは目を奪われた。
それと同時に優秀な思考は疑問を呈した。
「な、何をっ?!」
「怒りを情熱に変えるぞ、魔素を消しさるのだ」
「魔素を?・・・消し去る?・・・そんな事が?!」
「うむ、その為の魔道具を作る!」
そう言い切り腕を組み仁王立ちするオリハの顔は一点の曇りもない自信に満ちていた。
その顔を見てエインは把握した。
何故含みのある言葉を突きつけたのか。
自分の口から何を聞きたかったのか。
そしてこの国に来た理由を。
エインは含み笑いを禁じ得ない。
この国の現状を変える手段がある事を、自分の怒りをぶつける物がある事に喜びを感じる。
椅子から立ち上がり執事と侍女に指示をだす。
「研究所に抱えの魔道具師を全員呼び出せ!街にいる者もだ!」
主人の喜びに満ちた顔は従者達を働かせるに充分だった。
「オリハ様、研究所に案内します」
そう同士に深く一礼をした。
「責任を取って頂きます・・・最後までお付き合い下さいね」
そう丸盆の様な顔の上の三本線が述べた。
「・・・お手柔らかに頼むぞ」
と苦笑いを浮かべついて行こうとする二人に大きなタオルが投げつけられ「やり過ぎです!」とマリアに叱られたのであった。
その部屋には人によっては就寝する時間ではあるが、既に老若男女問わず十人程の者が集まっていた。
魔人もいればエルフ、ドワーフもいる。
オリハは別室で服と肌着を乾燥させてからハルを抱いてマリアに案内された。
エインは違う服に着替えている。
「こちらの方で最後になります」
とドアが開き魔人の男が腰低く入ってきた。
同業が複数いる事に驚いているようだ。
急な呼び出しなのに誰一人嫌悪感を漂わせる者がいない事にオリハは感心する。
「急な呼び出しに応じて頂き感謝致します」
そう低頭に口火をエインが切った。
腰の低い公爵を前に誰も慌てない所を見るといつもこうなのだろう、と感じる。
「こちらのオリハ様から魔素を消し去る魔道具の提案がありました」
「オリハだ、よろしく頼む」
やはり職人なのだろう。
女性である事や種族など御構い無しでざわつく。
理由は魔素を消し去る魔道具だ。
恐らく研究はし続けていただろう分野だ。
集めた、という事は答えの存在を意味する。
ざわつきを無視してオリハが問う。
「その方面で研究をしていた者は?」
三人の手が上がった。
「すまないが進展と状況を確認したい」
本来なら秘匿される情報なのだろうが公爵の前だ。
三人共事細かく説明してくれた。
そしてオリハは思う、やはりと。
基本的には車を動かすように魔素を熱量に転換する仕組みだった。
つまり膨大な熱量が必要であれば魔素の消費量が増える。
その為の膨大な熱量が必要になる魔道具の開発という研究だ。
または、魔素1:1熱量であるなら魔素3:1熱量の様にあえて不効率にしたりという内容だった。
「・・・それで魔素を消し去るとは?」
早く聞かせろと言わんばかりに一人の職人が食いついてくる。
「うむ、我がこのまま答えても良いが・・・今のエインなら思いつくだろう?」
「?!・・・私が、ですか?」
「新参の我が偉そうに語るより、ここまで皆を導いて来たエインが思いつく方が良いと思うのだが?」
集まった者共の視線がエインに注がれる。
誰も公爵様を呼び捨てにしている事に疑問はないようだ。
オリハは自信を持ってエインを見て頷く。
手を組み口髭を撫でながら思案する。
(・・・今の・・・私・・・?)
つまり先程の会話の後という事になる。
オリハが茶番を仕掛けたのは怒りを理解させるだけではなかったのか?と。
(・・・魔素の恩恵・・・踏みにじった・・・変態!・・・魔素への怒り・・・消し去る?)
オリハが発言した事や示したかった事を反芻する。
そして唐突に髭を撫でる手が止まった。
思いつけば簡単な事だった。
だが魔素の恩恵を受け、この大地に信仰と感謝をしていれば絶対に思いつかない事だ。
頭を両手で抱えこみ震えてそう呟いた。
「・・・無駄に・・・する」
答えの出たエインを満足気な笑みで見つめる。
その答えの意味が分からず職人達がざわつく。
顔を上げオリハをみてはっきりと言った。
「魔石で魔石を作る、という事ですね!」
オリハはサムズアップでそれに答えた。
そもそも魔澱みはこの世界の柱からしても管理外の物だ。
オリハにとっての恩恵とは主や柱から意図して与えられるものである。
封印を施した時の魔と力の柱はまだヒトであった。
つまりこの魔素は恩恵ではないと。
恩恵でないモノを無駄に使う事に何の躊躇も必要ない。
「魔石で大気中の魔素を魔道具内に吸収して、更に外部の魔素を熱量に、吸収した魔素を圧縮して魔石として排出、という仕組みだ」
とざわつく職人達に簡単に説明をした。
内部の魔石が壊れても作られた魔石と入れ替えれば、形状は、用途は、と談議が盛り上がる。
「大気中はともかく土中はどうなるんでしょうか?」
そう女性の職人が声をあげた。
今度はそれを中心に談議が始まる。
いくつか案が出たが長引きそうだったので、オリハが口を挟んだ。
「ミスリルを媒介にしてそれを土に挿せばよい」
「その手が!」と悔しそうな嗚咽が広がる。
そしてデメリットの話になる。
見境なく吸収すると現存する魔道具に影響が出るからだ。
当然だがオリハも考えていた。
「け「結界型にすれば良いのでは?」
とエルフの職人から声が上がった。
やるな、とサムズアップした。
フフン、とサムズアップが返ってくる。
これにより結界の大きさを魔石、魔道具どちらかに登録すれば用途が広がる事になる。
例えば冷蔵庫内のみ、買い物袋のみ、車の荷台、と部分部分で魔素が消せる事になる。
「・・・観光」
ボソッとエインが呟いた。
「温泉にヒトが呼べるではないか」
そうして魔道具談議は一晩中花が咲く事になった。
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