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第4章 魔人国、前編
4-11 神の武器、告白
しおりを挟むエインの手のひらの上で転がされるている。
そう認識しつつも温泉を堪能するオリハ。
オリハが十年かかると思った事を一年かけないと宣言し、たった四日で料理人まで手配してみせた。
温泉宿は既に魔道具が設置され、昨日のロールキャベツが美味しかったのは料理人の腕の差だと朝食で教えられた。
それ程の料理人をいつの間に手配したのだろう。
冒険者ギルドの指名依頼の手続きも全て済ませたという。
過去の所有者に関わった王族や貴族の中にもこれほどの手練手管に秀でた者はいなかった。
(我、このままでは飼い殺しにされそうだ)
ブクブクとお湯に顔を沈めながら思い耽る。
ハルがていっ!と頭を叩く。
「ぶごふっ!」
鼻から湯が入り慌てて頭を出す。
「ゲホッゲボッ」
「あははははっ!」
「よくもやりおったな!」
「きゃー!」
と今日もハルを抱いて水風呂に突入するオリハだった。
取り敢えずやる事がないので冒険者ギルドに行く。
念の為に残高を確認してもらう。
受付嬢が「ひぃっ!」と声をあげたのでブラフではないようだ。
依頼票を眺めていると声をかけられる。
受付嬢が笑顔で首を横に振る。
指名依頼が入っているので駄目だそうだ。
トボトボとギルドを後にしようとする。
ハルと手を繋ぎ可哀想な感じで振り返る。
それでも受付嬢は笑顔で首を横に振る。
本当にトボトボとギルドを後にした。
教会の子らも午前中はお手伝いだ。
伺えば邪魔になる。
やる事を探しに雇い主の所に仕方なく顔を出す。
だがエインはいないようだ。
自分だけ忙しそうで腹が立つ。
研究所に行き魔道具開発の邪魔にならないように隅っこでハルと眺める。
ハルと一緒に「凄~い」とか「大き~い」を連呼する。
他意はないのに魔道具師が反応している。
作っているのは大きな車のようだ。
人が乗り生活出来る車と、魔道具を作る工房用の車と、魔素避けが必要な物を運ぶ農作物などを乗せた車の三台を一セットで作るらしい。
聞いた所によると一斉に各方面に別れて魔人国内を巡るとの事。
「同行者なのに我は何も聞いていない」
そう他の魔道具師に愚痴をこぼした。
「ドンマイ」って言われる。
飴玉をあげて温泉宿に戻った。
エインから貰った報酬一覧を見る。
一生遊んで暮らせそうだ。
元々あった金貨でも数年はあそんで暮らせた。
ちなみに預金の中で金貨はそんなに増えてはいない。
増えたのは白金貨だ。
桁がついた白金貨など記憶にも珍しい。
まさか己がそんな大金を持つとは思いもしなかった。
そんな事を考えながらふと項目に目をやる。
調理実習費とある。
(ここの料理人に料理を教えてもらえないだろうか?)
ふとそう思い昼食前の手を加えられた台所改め、厨房を覗く。
チラッと見て思い至る。
これは邪魔になるやつだと。
それに台所は借りれたが厨房は借りれる気がしない。
そして、お昼の御食事を頂く。
料理を運んできてくれた侍女に新しい料理人が休憩時間や空いた時間で調理を教えたりしているのかを聞いてみた。
そういうのは特にないらしい。
やってみせてやってみろの実践派なのかも知れない。
本当に教会に行く以外やる事がない。
教会に行く事をやる事と言い切っても良いのかは悩む所だ。
だから教会に向かった。
年少組からはハルのお母さんで通っている。
子供達と遊びながら年長組の自主練を見てあげて夕方に宿に戻る。
これから当分の間、朝、昼、夕の食事の準備をする厨房を邪魔にならないように覗いて技を盗む(努力をする)。
研究所にハルと見学に行く。
教会に行って子供達と遊び年長者の自主練を見てあげる。
週に一回、魔物肉の食事を作る。
後は食べて温泉に浸かって、たまに魔物を狩って寝る日々を送る事になる。
魔物肉の食事が週に一回なのは神父が遠慮するためだ。
寄付は別にさせてもらった。
教会の年少組に「ハルのお母さんはヒマなの?」と聞かれ思わず涙した。
この世界では太陽暦を使用している。
少し違うのはうるう年が二年に一回で、日数が増えるのではなく減るところだ。
これはこの星が小さい事に影響しているのかもしれない。
気温はほんのり肌寒く服もローブの修道服に変わっている。
ハルも冬だが秋服に衣替えをした。
そういえば先日最後の魔化野菜が生き絶えたとか。
あの飼育していた研究員の女性が偲ばれる。
今日は研究所という名の工場は休みだ。
暦の上で十二から一に変わる、新年の前日という事らしい。
久しぶりにエインに呼び出された。
夕食を御一緒にと。
断っても良いが温泉宿の料理人は雇用主の所へ出向くだろう、と諦めて行くことにする。
ドレスコードは変態相手なので気にしない。
「自分だけ忙しそうにしおってこの豚野郎」と罵りたいところだが喜ぶので難しい。
褒めたら褒めたで喜ぶのでドMは扱いが難しい。
屋敷で出迎えられ久し振りに会ったエインはやつれてはいたが顔は明るく楽しそうに太ったままだ。
当初は魔化野菜を大量に試食し続けた結果だろうと思っていたが、最近は「豚」と罵られやすい様に努力しているのではないか?と考えている。
そしてエインから芳醇な感情を感じる。
オリハは平民でハルというコブ付きだ。
種族も違うし子も成せない。
だからそれはないと思っていた。
侍女に別の部屋に案内されてドレスを見繕われる。
最初から着てこないだろうと予想されていたようだ。
「公爵様のご希望」と題された黒革のドレスは丁重にお断りした。
そもそも何故あの男が身体のサイズまで正確に把握しているのか?
たまに怖くなる。
だが天使をより天使にするドレスを用意していたので特別に許すことにした。
黒革のドレスではないのに褒め称えられた。
断られる事を想定して黒革のドレスを用意していた事にようやく気がついた。
ドレス自体を断る事のないように。
やはりエインの手のひらの上だ。
次の時は第一候補を真っ先に着てやろうか、と思ったがそれこそ思惑通りな気がする。
席についてから思った疑問を口にした。
この男は変態だが王族で公爵様だ。
「国元で晩餐会とかあるのではないのか?」と。
「顔合わせはありますが、忙しいと言えば何とでもなります」と笑って答えた。
今日は休みにしたようだが昨日まで飛び回っていたので嘘ではない。
だがそれで済ませられる力関係がよくわからない。
「一週間後には出立できると思います」
美味しい御食事を終えワインを傾けながらそう言った。
「本当に一年で終わらせるつもりなのだな」
呆れながらそう答えた。
噂では東の湾に港の建設を始めたらしい。
輸入や輸出も国境だけではなくそちらも利用するためだとか。
「・・・オリハ様のせいですよ?」
「我の?」
「怒りを情熱に変えろと仰ったではありませんか」
と人懐っこい笑顔を向ける。
「・・・よく覚えておるな」
忘れろとばかりに手で払う。
「お陰で三倍です」と赤くないのに言う。
「街中も大分変わりましたでしょう?」
「まだ二カ月だぞ?驚きを通り越して呆れておる」
「少しは・・・オリハ様が思い描いた絵に近づけましたでしょうか?」
「我の絵などとうに超えておる」
「ご謙遜を・・・私め!まだまだやりたい事がございます!」
「この街を観光地として生まれ変わらせます!国境の町を、人族側も含めて活性化させとうございます!」
「美味しいを国中に広げ!生活に彩りを!港から船を出せば国家間の往来も早く楽になりましょう!」
「そうすればいつの日か本当の意味で・・・ヒトとヒトが手を取り合う日が、そんな日が来ると思うのです」
「ああ・・・その日が楽しみだ」
「私め、その風景を一日でも早くオリハ様に見て頂きたいのです!」
「有難い話だが無理してエインに何かあっては領民が泣くぞ?」
「私めの身体は粉にしても不思議と無くなりません」
「・・・本当にどうなっておるのか」
「出来る事ならば・・・私はその絵をオリハ様の横で、オリハ様と共に見てみたいのです」
「コブ付きの市井の女を口説く言葉としては大業過ぎて三流だ、訓練が足らぬ」
「・・・鞭を手渡して叩いてくれるよう願い出るのが精々でございます」
「やはり変態だ」
「・・・ありがとうございます」
ワインを片手に夢の語りは夜の帳が下りるまで続いた。
車で送るというエインの申し出を断る。
酔い覚ましに歩いて帰ると。
「なんならお泊り頂いてもよろしいのですよ?」
「・・・その様な怖い真似は出来ぬ」
「私め、変態でございますが紳士でございます、変態紳士です」
「仕事や友としてならともかく、未婚の女が閨を共にするわけにはいかぬ」
「部屋はあります、何でしたら私め、外で転がっておきます」
「噂は恐ろしい、既成事実は結構だ」
「・・・それを・・・望んではなりませんか?」
「断る」
二句もなくそう告げ、手をヒラヒラとさせハルを抱き宿に歩き出す。
オリハの背が見えなくなるまで礼の姿勢を崩さないエインの姿がそこにはあった。
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