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第5章 魔人国、後編
5-10 神の武器、決着
しおりを挟む「ああ・・・本当に・・・本当に反吐が出るっ!」
そう言いオリハは皇后の手を引き寄せ抱きしめた。
そして魂の解析と回復を行った。
オリハは歯痒い思いをしていた。
それはエインと同じように皇后の意図を把握しようと慮っていたせいだ。
ただ少し異なったのは「何故魔王化の侵食を促すのか?」だった。
感情がわかるオリハだからこそエインより先んじて目的が分かった。
明らかな挑発、あからさまな煽り、そして皇后から感じたのは愉悦。
魔王化を促す事ににどんな利益があるのか?
面白そうだったからだと?
自殺行為で快楽でも得るのか?
変態なのか?
ヒトの考え方に囚われて本質に気がつかなかった。
相手の心、魂に影響を与える「魔王」の魔力を前に笑っている事に。
マリアやハル、アキはオリハが魔力で守っているから影響がないだけだ。
弟である国王は罪悪感からではない。
しっかりとスキルの効果で震え上がっていた。
なら皇后は?守る為の魔力は感じない。
つまり何らかの原因が魂に存在している?
そう考え至った事でようやく[魔王]を目の前に促す自殺行為と繋がった。
頭に浮かんだのはオークキングだった。
魔王化したエインに取り憑くつもりだと。
狂気を前にヒトとして起こり得る利益を計算して答えに至るはずがなかった。
だがそこに辿り着いた時には、もうエインの心に侵食に必要な餌が大量に撒かれていた。
そして一計を案じた。
まずエインの心を空っぽにする程の精神的な衝撃を与える事。
そして狂気に「全知」のスキルで、神の武器の存在に気がつかれない様にする事。
その答えがただの憐れな女を演じ、そして地に頭を伏せ続ける事だった。
オリハとて誇りや自尊心はある。
だが何かと天秤にかける事はしない。
オリハのソレはいつも己に向いていた。
だからこれから成す事に反吐が出そうになった。
これから成す事に歯痒い思いをしたのだ。
そして解析を行い魂を診た。
生死には影響はなかった。
だが精神に多大な影響を与える程、魂が傷だらけだった。
数十年に渡って狂気に晒された結果だろう。
塞ぐ事は出来るが傷痕は残る。
だが少しでもと魂の回復を行使する。
そして魂の中の狂気に解析を行った。
魔人族の青年が脳内に現れた。
青年は真紅の瞳を輝かせ優しげな笑顔でこう言った。
(やあ初めまして、いやお久し振りかな?)
あの時と同じ挨拶をする。
だが既にそこにいるのがギュストだと知っていた。
焦る事も慌てる事もない。
[お主は毎回同じ挨拶をするのか?]
(なんだ、他の僕ともう会ったのかい?]
[二度目、いや三度目だな]
(それで・・・貴女は何をしているんだい?)
魂に回復の魔力を送り、ギュストを追い出そうとしている事を指しているのだろう。
それ以上でもそれ以下でもない行為だ。
その事に答えず質問を返した。
[ギュストこそ・・・ここで何をしている]
(狂気がする事に理由はないよ、都合が良かっただけだ)
[都合だと?]
(魔王を宿した子を持つ王妃だった、魂に偶然宿れた、ただそれだけだよ・・・で?貴女は?一体何のつもりだっ!?)
真紅の瞳が揺れ睨みつける。
[その魔王は我の大事な友人だ、だから母を返してもらう、その事に理由がいるのか?]
明らかな挑発だった。
そして満ちる回復の魔力に苛立ちを露わにする。
(何故だ!何故邪魔をする!僕達は仲間だろう?!同じ狂気を宿したっ!)
[我も狂気も、もう不要なのだ、世界は大きく変わった・・・お主のお陰でな]
(ふ、ふふふ、ふははは、僕のお陰で?!だが僕は僕だ!追い出されてもまた何処かで狂うだけさっ!)
[その事で・・・ギュストに頼みたい事がある]
(頼み?僕に?邪魔をする貴女が?・・・まあいいよ、その選択も狂気だ、聞くだけ聞いてあげる)
[我の娘ハルは何かの星の元に産まれたのか?我は・・・ヒトとして生きられるのか?]
(・・・そういう事か・・・わかってて僕をここから追い出すんだね、やってくれる!)
[頼む・・・教えてくれ]
(断る、悩めばいいよ)
[頼む!我の事は良い、せめてハルの事だけで良い!頼む!]
(・・・はぁ、で?あの子が僕らを取り込んだのは何回?)
[おそらく・・・二回だ]
(僕の「全知」は狂気には当てはまらない、理由はわかるね?)
[ああ・・・全知が理解出来るのは理の事だけだ]
(つまりわかるのは影響があったかどうかだけだ・・・無いね、これで良いかい?)
[そうか・・・すまない、感謝する]
(御礼はいい、あの頃の借りを返しただけだ・・・だけど消される前の狂気として意趣返しはさせてもらうよ)
[・・・なんだ?]
(もう一つの質問に答えてあげる・・・貴女はヒトじゃない)
[・・・知っておる]
(それに存在証明はある)
[!?・・・では何故動かないのだ?何を成すのだ?いつだ?いつ天へ還る?!]
(ふふふ、これで少しは溜飲が下がった、せいぜい悩んで苦しんでよ・・・貴女に女の幸せは似合わないからさ)
そういうとギュストが脳内から消えた。
覚悟して望んだ二回目だからなのか、オリハには前ほどの疲労はない。
気絶している皇后を抱きしめたままハルを見た。
・・・もぐもぐしている。
己には何も出来ないと歯痒い思いを感じる。
だがギュストが影響は無いと言ったのだからと心配は後にした。
魂の回復は進んでいる。
だがやはり王妃の魂に傷痕は残る。
オリハの一番の懸念は狂気に取り憑かれた期間の記憶だった。
自分の息子を毛嫌いした記憶。
息子を酒や薬で籠絡した記憶。
恐らく他にもあるだろう。
同じ母として消してやりたくも思う。
それは可能だ。
だがそれを選択するのは己ではない。
「エイン!」
「は、ハイ!」
「魔王」を解除してオリハを見守っていたエインを呼びかけた。
魔王化した魔力が効かなかった事は気づいているだろう。
魂の回復を行なっているのだから。
だから説明を簡潔にする。
そして・・・決めてもらう。
「皇后の魂に碌でもないモノが取り憑いていた」
「な・・・で、では母上がおかしくなった原因はそれで御座いますか?!」
「エインを嫌っていたのも全てだ」
「・・・そう、ですか・・・」
エインは複雑な表情を浮かべる。
それを見てオリハは酷いと思った。
己は残酷だと思った。
そして更に不必要な選択を突きつけた。
「記憶を・・・消してやる事は出来る」
「・・・!?」
「魂に傷痕がある、精神に何らかの影響がある以上、記憶は無い方が良いとは思う」
「・・・」
「すまないが・・・エインが決めてくれ」
精神の影響を考えれば無い方が良い。
これからの幸せを考えれば無い方が良い。
だが彼らは王族なのだ。
民衆の先に立ち、率いて、誇りにならなければならない。
過ちがあれば自ら正さなければならない。
オリハは分かっていた。
エインならどちらを選ぶのか。
分かっていて聞いた。
同じ母としての皇后を思い聞いてしまった。
エインが母との絆をやり直す機会だと。
「・・・そのままで、お願い致します」
「・・・すまない、エインすまない」
「異な事を・・・寧ろ私めを慮って下さったのでしょう?感謝しか御座いません」
そう丸盆の上の三本線が優しく伸びた。
オリハがギュストと語り合っている間に、エインは王妃の救出を指示していた。
丁度、衛兵が無事保護したと報告に来た。
そして・・・最後のケジメをつける。
「さて、いつから気がついていたのです?」
「・・・兄上が継承権を捨て城を出た頃からだ」
「もう二十年以上ですか・・・不甲斐ない兄ですみませんでした」
「いやっ!それは私が!」
「まず殴りなさい」
「そ、そんな事!」
「私めの恩人に言われました、怒りは溜め込んではならないと・・・あるのでしょう?昔から溜め込んでいたものが」
「だ、だが!」
「殴れと言っているでしょうっ!!!」
「くっ!」
遠慮がちな拳がエインの頬を揺らす。
「・・・優秀な兄に溜め込んだ鬱憤はこの程度なのですか?!子供の頃から何度も飲まされた苦渋はこの程度なのですか?!王になってからも馬鹿にされ続けた怒りはこの程度なのですか!?」
「だ、黙れ!」
煽られて対面させられた思いに拳を向ける。
「兄上にっ!何がっ!わかるというのだっ!私だって!私に出来る事をっ!やってやりたくてっ!」
言葉と拳を叩きつけ息を切らした弟にこうべを垂れた。
「もっと・・・早くこうしておけば良かったのです、申し訳ありませんでした・・・母上の件も相談したかったでしょう?」
「あ、兄上っ!いえっ私が下らない意地を!」
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「!?」
「聞いていませんでしたか・・・赤子は私が責任を持ちます、今後一切関わらず他言無用です」
「・・・その様に」
「どのような経緯があろうとも、兄として王を譲った時の約束だけは果たしてもらいます、よろしいですね?」
「・・・はい」
「では歯を・・・食いしばりなさいっ!!!」
・・・遠慮のない兄の、いや父の一撃は弟を華麗に宙を舞わせた。
のちにオリハは「あれは見事な力伝導だった」と評したという。
そしてマリアは「私めにも!」と評したという。
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