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第5章 魔人国、後編
5-11 神の武器、腐れ縁
しおりを挟む「申し訳御座いませんオリハ様、暫く後処理で時間がかかると思います」
気絶した王を背に拳を振りながらエインがそう言った。
「構わぬ・・・我も数日は身動きが取れなくなる」
そう言いハルを撫でた。
エインはオリハが無理をしたと勘違いしたのかも知れない。
碌でもないモノについても聞きたいだろう。
心配そうにこう言った。
「落ち着いてから詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ構わぬ・・・それにしてもエインが王になった方が良いのではないか?」
気絶した国王を見てオリハがそう言った。
豚も玉座に縛った方が良いと思うのもある。
「御冗談を、豚の王など冒険者に狩られるだけに御座います」
そう言い笑った。
アレは美味そうなのに、コレは不味そう、オリハはそう思った。
「そ、それでですね、オリハ様」
「ぬ?」
「あ、あの気が少し早いのですが・・・ご褒美の件でございます」
「ああ」
「豚めがおねだりなど恐縮なのですが、な、何でしたらもう一度魂の回復などを・・・」
「・・・数日経てば侵食など消えるであろう?」
「仰る通りなのですが・・・駄目で御座いましょうか?」
「駄目というかそもそもご褒美などない」
「・・・なっ!?」
「何だ?期待していたのか?」
「は、はい、いえ、そ、そういう訳では・・・」
「魔王に侵食されながらその様な事を考えておったのか?」
「め、滅相もありません、その様な事は・・・」
「可哀想に残念だったな、下卑た事を想像しておったろうに」
「な、そ、そんな!私めは!」
耳ごと菫色に染まったエインに耳元で囁いた。
「・・・このド変態め」
「・・・おふぅ」
マリア作の期待をさせてから落とす言葉責めのご褒美プランであった。
アキを背負ったマリアの案内の元、ハルを抱き、その場にへたり込むエインに背を向け片手をヒラヒラとさせるオリハ。
(・・・ありがとうございましたっ!!)
その心の叫びは王城に響くことはなかった。
それから三日間はオリハも手が離せなかった。
まず寝食の場として王城の一室を打診されたがこれを拒否。
オリハは車での生活を求めた。
王族の乳母を理由に出されたが、先刻まで諍いがあった所でと大義名分を掲げた。
本音はただ居心地が悪いだけだ。
その上広くて使いにくそう。
結果、折衷案として希望であった車を王城の敷地内に置くことになった。
食料品は魔道具付きでいくつか持ってきていたので何も問題なかった。
一人で料理を作るのは久し振りだった。
先日まで食べていた御食事と比べると、つい唸ってしまうがハルが「おいしー」と食べてくれたので良しとした。
食後にもぐもぐの件を聞いてみたが首を傾げるだけだった。
もぐもぐはしたか?には頷く。
何をもぐもぐしたのか?には傾げる。
何かをしたが何かは分からない。
もしくはまだ言語力が追いついていないのかも知れない。
ギュストが影響は無いと言った事については、鵜呑みにするしかなかった。
借りがあるらしい事を信じることにした。
最初のギュストが言っていた「君に免じて」がハルなのだとすれば、今回のギュストも免じて本音を言ってくれただろうと信じた。
エインがここに帰ってくるかは別にして、マリアも主人に付き添うだろう。
その晩は三人でゆっくりと就寝した。
翌朝、やはりハルが熱を出していた。
だがオリハは成長していた。
もう「国一番の医者を!」と取り乱すことはない。
より効果的な看病は「侍女の心得」で会得していた。
米粥や麦粥のような物を用意してやりたいが、まだ輸入の目処が立っていない。
農業としても脱穀や精米まで、一粒単位で魔化し脚が生えるのでこぼさない技術が必要なのだとか。
畜産も試験的に手をつけてはいるが繁殖まではまだ時間がかかる。
まあエインは変態なので何とかするだろう。
ハルには野菜をコトコトと煮出したスープを飲ませてあげた。
三日目の夜エインとマリアが覗きに来た。
エインがハルを見て「国一番の医者を!」と叫んだのを見てオリハは顔を伏せた。
二人にも食事を振る舞った。
「オリハ様の手料理!」などとのたまっていたがいつものキレがない。
状況を聞いておきたいが、どうせまともに寝ていないのだろうと強制的に眠らせた。
実際やる事も多いだろうと早朝までにしておいた。
ちゃんと持続型回復魔法もかけてある。
もちろん袋は回避して。
そしてアキには申し訳ないがエインに添えておいた。
翌朝にはハルの熱も下がっていた。
信じるとは言ったが念の為に解析はしておいた。
何も問題はなかった。
オリハにニパッと笑うハルを思わず抱きしめる。
問題はないと安心したせいだ。
(ヒトではない、存在証明はある)
「・・・狂気らしい大きな楔だ」
オリハはそう呟くと胸が苦しくなった。
女としては構わない。
せめてこの子らが大きくなる時までは、そう神託も何もない主に願った。
一週間もする頃には後続車が到着した。
出迎えにはエインもいた。
マリアを見たら頷いたのでまともに寝てもいないようだ。
なのに丸いままなのはどういう仕組みなのだろうか。
オリハルコンは魔王の手に降臨した事もあった。
完全に魔王化した者を勇者の武器として倒した事もあった。
だが丸い者は誰一人いなかった。
おそらく豚の矜持のなせる技なのだろうか?
もう一週間経った頃、エインが一人で報告に来た。
珍しくマリアの同行もなかった。
アキについては箝口令が敷かれたと聞いた。
だが王城内を散歩がてら髪を隠して抱いていてもかなりの視線を感じる。
人の口に戸は立てれないのは人族に限った話ではない。
だからこの後の頼み事を察することは容易かった。
また辛い選択肢を選んだのだろうと慮った。
なので先にオリハから話をした。
狂気という呪いに近いものが偶然にも皇后に取り憑いたことを。
祓ったソレを何故かハルが食べてしまう事を。
その話を聞き、真っ先にハルの心配をしてくれたエインにはやはり感謝しかない。
エインからの話は捕らえた原理主義者から始まった。
残念ながらほぼ下っ端で首魁に当たる者は別にいるらしい。
尻尾は掴んだので後は何とかするそうだ。
今回の一件で「魔王」のスキル持ちである事が明るみになり、国王への推挙が持ち上がった。
だが如何に自分が変態であるかを熱弁し、国王になれば「魔王」を利用すると断言したところ諦めてもらえたそうだ。
やりかねないので正しい選択だと思う。
アキの母親ベーナについては、侍女仲間や友人に聴き取りを行ったところ、昔から弟に好意を寄せていた事がわかった。
側付きとして支えていたが、皇后からの甘言もあり一度関係を持ってしまい、子が出来るまで続いてしまった。
妊娠がわかった時には王城から追い出され、街に住んでいたが、産まれたアキの髪を見てようやく自分の仕出かした事の重さを知り、兄であるエインに庇護を求めようとしたと。
母親である皇后は伏せて起き上がれないとの事。
自分のした事を理解しており、身の回りの事を全てマリアに頼んだそうだ。
一度エインも面会したが泣きながら謝り続けられたと言う。
「・・・毛嫌いされていた方が良かったです」
と言うエインの目は潤んでいた。
そして最後の本題に移った。
「まだ事後処理も、原理主義者の件も・・・母上の件もあります」
「そうだな」
「アキは・・・出来るだけ早く国外に・・・お連れ頂いた方が安全だと思います」
「・・・ああ」
「勝手では御座いますが、オリハ様との契約はここで満了とさせて頂きたく思います」
「良いのだな?」
「ええ、ただ国境までは万全の態勢でお送りさせて下さい」
「わかった、後は任せろ・・・今日はアキと居れるのだろう?」
そう言いオリハは「バブバブ」言うアキを椅子に座るエインに抱き渡した。
「ええ、親子水入らずで・・・ハル様、どうぞアキの横、エインめの膝上に」
膝をポンポンと叩いてハルを乗せた。
アキの頭を撫でるハル。
辛い選択を成した筈だがその様子を微笑ましく笑顔で眺めるエインを見て、心苦しくも温かく思うオリハだった。
「・・・親子、夫婦水入らずでございますね、ポッ」
「!?」
「オリハ様、私め、ワインが飲みとうございます」
「くっ!自分で注げ」
「残念ながら手も足も空いておりません」
「なっ!?」
謀られたっ!と砂を噛む思いをしながらも、今日だけは仕方ないと溜息をつくのだった。
翌朝の出立時には運転手二人、料理人、護衛と女性で揃えていた。
そして「goddess oricha typeLは引き続きお使いください」との事だった。
「あとこちらを貸し出させて下さい」
「ぬ?!これは異空間収納の?」
「古代から伝わる骨董品ですが、これからはアキの荷物も増えます、是非役立てて下さい」
「・・・高いのであろう?」
「貸すだけです・・・お会いした時に不要になっておりましたら引き取りますので」
何処に行こうとも探し出します、と聞こえたオリハは少し怖くなった。
「・・・お手柔らかにな」と車に乗り込んだ。
椅子に座り車の窓を開けアキとハルを窓際に立たせ見送られる。
「あ、オリハ様、アキの養育費と乳母の報酬を合わせて振り込んであります」
「なっ!?い、いつの間にっ?!」
「私め、こう見えても王族に御座いますので」
そしてこうべを垂れ続けたエインとマリアを置いて、車は国境へと走り出した。
締まらない最後だった。
だが絶対に会いに来るだろう予感が・・・
いや、悪寒があった。
車に揺られふと思い出した。
今日で一年か、と。
ハルの元に降りて一年になると。
こうして旅を続ける以上、また出会いと別れがあるのだろうな。
なら別れの言葉もない、こんな別れがあっても良いのかもしれぬ。
これがきっと・・・腐れ縁というやつなのだろう。
そう含み笑いをして子供達と窓からの魔人国の風に吹かれた。
~~~~~~~~~~~~~~~
オリハ様、ハル様、アキ、お元気でしょうか?
あれから一週間経ちました。
私め、まだ王城で事後処理に追われております。
お恥ずかしながら気がつけば筆が止まっている、そんな日々を過ごしております。
愚弟めも書類を山積みにして鍛え直しております。
母上は・・・もう少し時間がかかるかも知れません。
マリアも母上の世話と私めの手伝いに忙しくしておりますが、溜息が多御座います。
今も・・・
「も、申し訳ございません、すぐ片付けます」
と書類の山を崩しております。
オリハ様達と過ごした数ヶ月はそれだけ大事なモノでございました。
あの最後の夜、言われた事をふと思い出しました。
「エインはマリアを女性としてどう思っておるのだ?」
「尊敬する友であり、家族でしょうか・・・同じ豚仲間に御座いますし」
「そのような豚仲間である事よりも・・・大事なのは相手を思いやる、歩み寄る気持ちではないか?」
大事なのは思いやる歩み寄る気持ち・・・
書類を片し終えたマリアを見て、私めもこのままではいけない、そう思いました。
「・・・マリア」
「は、はいエインリッヒ様」
「手を出してください」
「はい?」
差し出された手を乗馬鞭で叩きました。
「あっ!?」
「・・・気がむいた時で結構です、私めも・・・罵ってくれませんか?」
「・・・わかりました・・・この金髪豚野郎っ!!!」
そう睨みつけると嬉しそうに駆けていきました。
お互いに・・・前を向けそうです。
これで、宜しいのですよね、オリハ様・・・
その頃何処かで「違うぞっ?!」とオリハは叫んだという。
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