赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
75 / 162
第6章 獣王国編

6-5 神の武器、咆哮

しおりを挟む


目的の地までは一週間かかった。
駆ければ一日で着いたかもしれない。
だが、ノンビリとした行軍だから構いはしない。

道中の食事は賑わいを増した。
ナツとフユの「「オカワリッ」」のお陰で作り甲斐が増した。
ハルの食事の量も二人に釣られて増えたように思う。
アキはまだ母乳だ。
「侍女の心得」によれば、そろそろ乳離れの時期でもおかしくないのだが、嫌がる気配はない。
離乳食も用意してみたが、逆に嫌がった。
オリハルコン製の母乳は美味しいのかもしれない。
フェンリルは食事時には姿を消して、魔物を狩って食べていた。
表向きは食べる量としていたが、実際はこのままだと生肉生活に戻れなくなる恐れを感じたからだ。

道中に遭遇した魔物は、ナツとフユが楽しそうに遊びながら倒していた。
フェンリルが仕込んだのであろう、二人の連携は中々のモノだった。
ナツは正面からの拳や蹴りのスタイルで、フユは爪を使い速い動きで撹乱するスタイルだった。
だがオリハは、身体の使い方がっ!魔力の使い方がっ!と個人技能の面で身悶えていた。

試しに教えてみたのだが、言葉が通じないせいか全く伝わらなかったのだ。
拳の突き出し方にしても、どうして身体を窮屈にしながら突き出さなくてはならないのか説明が出来ない。
だから嫌がる、そしてやらない。
魔法を教えたくても、詠唱が出来ない。
魔力の流れも説明が出来ない。
だからオリハはもどかしい思いに耐えていた。
二人の手に負えなさそうな魔物は登場する事もなく、オリハが土槍で串刺しにしておいた。
何となくだが、武器の形を成す魔法を好んで使っている気がした。
恐らく元武器なせいだろう。


目的の地に着いた頃、ナツとフユは最初の楽しげな雰囲気はなく、フェンリルにしがみ付いていた。
歩いていた森も外観を変え、薄暗く不気味な怪異の様相を呈した。
魔澱みが森に影響を与えているせいだ。
そして一つの雄叫びがこだまする。

「AWOOOOOOOON!!!」

白銀の大狼の咆哮には邪を祓う力があると言われていた。
その咆哮に織り交ぜられた魔力も併せて、幽体系の魔物が散り散りになり消滅していった。
骸骨系、ゾンビ系の魔物も、その場で身動きが取れなくなっている。
「Holy Roar」と呼ばれるフェンリルの固有魔法だ。

「おおっ!これが・・・凄まじいな」

とオリハは感嘆の声を上げた。
フェンリルにはそういう固有魔法があるとは聞いたことがあったが、見たことはなかった。
少なくともヒトに有効な手段ではないからだ。
だが、呪いや呪いの武具などは無効化できるらしい。

そして、オリハの中の魔法研究者的な面がウズウズしてきた。
まだいる魔物や、また寄ってきた幽体系の魔物に声に魔力を込めて試してみた。

「ワオオオオォォォォォンッ!!!」

・・・効果は無い、ただの雄叫びのようだ。
フェンリルに鼻息を強く吹きかけられた。
・・・鼻で笑われたようだ。

「AWOOOOOOOON!!!」

とフェンリルがこうやるんだ、とお手本を示すようにもう一度「Hory Roar」を発動させた。

「ぐぬぬぬぬっ」

出来そうな気がしたのだが、気のせいだったようだ。
だがオリハはブツブツと魔法理論を組んでみる。
そして声に破邪の効果があるかないかなので、どうしようもないと至る。

(・・・我は獣ではない、ヒトなのだ、ならば)

オリハは手を前に拝むように組んだ。
目を閉じ、そして息を深く吸い込む。

ra・・・ra・・・ra・・・

オリハの中から紡がれた音は、魔物達の足を止めた。
そして魔法言語による賛美歌が流れる。

Hail Our Lord  as the sun above 太陽が如く燦然と照らす我らが主よ

そして歌声に魔力を乗せた。

Oh We worships 私達は崇拝します

主を讃える歌は金色の魔力を伴った。

Hail The Lord bless us 主よ我らに祝福を与え給え

溢れ出る金色の波が辺りを漂う。

Oh We pray 私達は祈ります・・・

その金色に触れた魔物は、砂浜で波に攫われた砂山の如く崩れ落ちていった。
そして片目から自信なさげにそっと開けた。

「・・・おお!?出来たっ!」

どうだっ!とドヤ顔でフェンリルを見た。
出来て当たり前だ、と言わんばかりに鼻息を強く吹きかけられた。

・・・解せぬ。

だがハルはパチパチと拍手してくれた。
ナツとフユもそれの真似をしてくれた。
それに片手を上げ軽く会釈し、胡散臭い笑顔で応えた。
その拍手に応えながら「Holy Hymn」・・・ではおかしいな「Holy Sing」とするか、などと考えていた。
尚、賛美歌にその様な効果は無い。
そんな効果があれば誰でもアンデッドキラーになれてしまう。
ただ、大狼の咆哮の代わりにヒトとしての歌声を当てはめただけだ。
だからこそ、オリハは自信なさげに目を開いたのだ。

不死属性の魔物共が目の前から消えて、ナツとフユは安堵の表情を浮かべていた。
どうやら苦手らしい。
オリハの記憶では、獣人達は不死系の魔物があまり好きではなかった。
幽体系は特に。
殴っても死なないからだ。
ハルは魔物相手には基本動じない。
記憶にあるのは、野盗共が大きな声で口汚く罵った時くらいなものだ。
前にオリハが不思議に思い聞いたことがあった。

「お母さんがいるから」

と絶対の信頼を寄せられていることを知り、喜びのあまり鼻血を出したのはここだけの話だ。


五人と一匹は森の中心へと向かった。
道中湧いてくる魔物は、フェンリルに「Holy Roar」を強要し、幽体系の魔物を消滅させた。
決して先程バカにされた意趣返しではない・・・筈だ。
オリハが残った骸骨系を拳で砕き、ゾンビ系を脚で潰した。
「Holy Sing」でも良かったのだが、発動が遅いのと魔力の透明化が出来ないという欠点があった。
「ならこの方が早い」となるのは脳筋として当然の事だ。

ゾンビ系の飛び散る腐肉が服に付かない様に、飛んできた腐肉を背中のアキにも当てない様に気を使っていたオリハは、その体捌きをジッと見つめる二つの視線には気がつかなかった。 

半日ほどそれを繰り返し進んだ頃、ようやく中心に辿り着いた。
中心です、と札がついているわけではないが、はっきりとソレだと解る。
薄紫色の渦があったからだ。
そして魔澱みを護る様に一つの影があった。
ヒトの体をなしているのに首から上が欠落していた。
全身をフルプレートアーマで包み、剣と盾を携えていた。

首なし騎士、デュラハンと呼ばれる魔物だ。

その姿にナツとフユがフェンリルから飛び降りた。
フユは抱いていたハルをオリハに預け、デュラハンに身体を向け、毛を逆立てた。
既にナツは毛を逆立て、唸り声をあげ戦闘態勢に入っている。
それをオリハは止めに入ろうとした。
徒手空拳で魔法が使えなければ相性が悪い。
その上、冒険者ギルドで言えばC級相当の魔物だ。

「ま、待、ぶふっ!」

そのオリハを悪意も害意も無い肉球が襲う。
敵意がないので反応出来なかったのは仕方ない事だ。
そしてフェンリルの肉球は、残念ながら少し硬かった。
顔面を打ち付けたオリハはフェンリルを睨む。
睨まれた事は意に返さず、首を横に振った。
子らを止めるな、と。

「・・・危なくなったら止めるぞ?」

当たり前だ、と言わんばかりにフェンリルは尻尾で答えた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...