74 / 162
第6章 獣王国編
6-4 神の武器、言葉
しおりを挟むその夜、オリハは条件を出した。
獣人の子らの心を傷つけない様にする為に。
フェンリルもこれに異存はないようだ。
寧ろオリハよりも上手に嘘をつける、と言わんばかりに、上から見下ろしながら鼻息を吹き掛けられた。
オリハはその意図を理解して「ぐぬぬっ」と唸った。
もう一つは暫く旅に付き合ってもらう、と言うものだ。
獣人の子らの事を慮ったのもあるが、オリハには確認したい事があった。
フェンリルに質問をしていたのもその為だった。
自分の根源に関わるモノだ。
大狼には理の外の理だと伝えた。
首を傾げられたが、オリハにはそれ以外に言いようがなかった。
「魔澱みは分かるか?魔物を生み出す紫色の渦だ」
フェンリルは頷いた。
自分が生まれ出でたモノだ。
ただその瞬間に消えてしまった記憶がある。
そして長い生の中、幾度か見たモノでもある。
「取り敢えず魔澱みが見たいのだが・・・」
目を瞑り、記憶を探ってみた。
子供らと共にいるようになってからは、行動範囲が狭くなっていたからだ。
・・・ああ、あそこがあった、とフェンリルはオリハに頷いた。
「ふむ、では、子らに明日は近場で過ごしてもらい、体調に問題なければ、明後日案内してもらえるか?」
嘘をつくのにちょうど良い、と頷く代わりに尻尾で答えた。
どれ程の期間かわからないが、その期間で子供達に理解をしてもらおう。
愛しい子供らとの最後の旅だ。
その事にフェンリルは心躍らせていた。
「・・・気が変わったらいつぶふっ!」
しつこいと言わんばかりに、オリハは鼻息を吹きかけられた。
獣人の子供達は翌朝には、もう我慢出来ずに動き回っていた。
フェンリルは子らに誇らしげに説いた。
流石は私の子だ、と。
アレは幼い子供がかかる病だったの、と。
もう立派な大人だ、と。
そう言われて誇らしげな顔をする子供達。
そして更に喜びを込め誇らしげに告げる。
あなた達が一人前になって私はとても嬉しい、巣立ちの日も近い、と。
意味は解らないだろうが、嫌な響きを感じたのだろう。
だがフェンリルは、不穏な表情をする子供達を無視して、顔をすり寄せ、全身で喜びを表現した。
そして懇願する。
一人前になれたら私の元から離れなくてはなりません、でも・・・もう暫くは一緒にいてね、と。
自分達の成長を喜び褒め称え、その事をさも誇らしそうに告げる母親に、嫌だと言える子供がいるだろうか?
獣人の子らから戸惑いを感じる。
喜びも感じる。
そして強い淋しさも。
オリハはその様子を眺めていた。
何をどう説いたのかはわからない。
だが、フェンリルが何らかの嘘を説いたのはわかった。
(・・・お主は強いな)
己では成し得ない判断をしたフェンリルに、そう賛辞を贈った。
ギュストから大きい棘を刺された。
いつ己の中の時計が動きだすのか、気が気ではなかった。
それでも同じ様な判断が出来る自信はオリハにはなかった。
ハルとアキを抱きしめた。
身勝手だと思った。
だがこの地に己が存在する限り、愛を与え続ける事を心の中で誓った。
オリハから「子らに名はあるのか?」と問われフェンリルは首を横に振った。
アキはオリハが名付けた訳ではないが、獣人の子らを見た時に思った事があった。
雄の犬の獣人の子は真夏の太陽を思わせる、赤茶けた毛色をしていた。
雌の猫の獣人の子は真冬の雪を思わせる、真っ白な毛色をしていた。
その事をフェンリルに話した。
「・・・お主に異論がなければ、だが」
「バウっ!ワウっ!」
頷きそう吠えた。
フェンリルは一人前になった証として、オリハが提案した名を二人に与えた。
ナツとフユと。
ナツとフユはフェンリルに抱きつき喜び吠えている。
オリハはその様子を微笑ましく暫く眺めた。
そして近寄った。
名を貰い興味を持った今が良い。
次は己の番だ、と。
まず、フユの前にしゃがんだ。
そしてフユの胸元を指で突いて、大きく口を開いた。
「フユ・・・フ、ユ、だ」
フユはフェンリルを見た。
その言葉の意味を肯定するように頷いた。
「・・・フ、ユ?」
「そうだ、フユ、だ」
「ワン!フユ!フユ!」
猫の獣人がワンと言うのに違和感を覚えるが、名前を与えられ、興味をそそられ、ヒトの言葉を初めて使った。
「ワンッ!わん!わん!」
ナツが、僕は?ねえ僕は?と言うようにオリハに尻尾を振り縋った。
同じように胸を指で突いて大きく口を開いた。
「ナ、ツ・・・ナツ」
「ナッ・・・ナツ?」
「そうだ、ナツ、だ」
「ナツー!ナツッ!」
そう尻尾を振りちぎらんばかりに喜んだ。
今度は己を指差した。
その後はハル、アキと。
「オ、リ、ハ・・・オリハ」
「「オリハッ!」」
その後ハルとアキの名もちゃんと言えた二人の頭を優しく撫でた。
その日は言葉を教えるのに一日を費やした。
フェンリル、お母さん、他にも色んな物を指差して聞かれた。
ハルも一緒になってそれを真似た。
その様子をフェンリルは、微笑ましくも寂しそうに眺めていた。
「「ワン!オリハー、ニクー!ワンッ!」」
と腰袋から野菜を取り出したオリハに、ナツとフユが縋る。
どうやら二人は野菜はあまり好きではないようだ。
身振り手振りを加えながらニヤッとして「まぁ見ていろ」と答えた。
エインから預かった腰袋は収納だけではなく、時間経過もおきない優れ物だった。
町から森に行く際に、これでもかと食材やら何やら買っておいた。
買い物前に、金貨を下ろしにギルドに寄った。
カードを受け取った受付嬢が残高を見て、アワアワとしていた。
だからオリハは、ギルドの預金残高を知るつもりはないし、聞かなかった。
エインに頭が上がらない思いをする。
だが礼は言わない、何故なら変態だからだ。
夕食としてナツとフユに合わせて、パンと肉多めの野菜炒めと、コトコト野菜煮出しスープを作った。
フェンリルの分も含めたのでかなりの量だ。
ハルとオリハは手を合わせた。
二人にはまだ説明が難しいので強要はしない。
スプーンやフォークなども同様だ。
まだ手掴みでいいと思った。
ハルはこの一週間、お粥に付き合っていたせいか、モリモリとシャクシャクとバクバク食べ始めた。
肉と一緒に炒められた野菜を、訝しげに睨んでいたが、ハルのその様子に喉を鳴らしてナツとフユが恐る恐る皿にかぶりついた。
最初のモグモグからバクバクに変わるのに時間はかからなかった。
「「わん!わん!」」
そう言い二人は空の皿をオリハに差し出した。
おかわりの要求だろう。
胃袋を掴んだ感触に心の中でガッツポーズをした。
・・・それを食べたフェンリルは、生肉生活に戻れるか自信をなくしていた。
次の朝アキを背中に抱いて、ハルとナツとフユをフェンリルの背に乗せて出発した。
ナツとフユは「わん、ハル!アレ」と次々に指を指してヒトの言葉を聞いていた。
ハルはナツとフユ、交互に抱かれながら説明をしていた。
(ああっ!もふもふと天使の共演・・・いや我の為の饗宴っ!)
と鼻血が出る思いでそれを眺めた。
フェンリルも尻尾の動きでその様子の感想を述べた。
旅はゆっくり行こう、と伝えている。
だからのしのしと進んだ。
慌てる必要はない。
別れの時は少しでも先の方が良い。
その一言を、その一歩を思い出にして、ゆっくりと進んだ。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる