赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第6章 獣王国編

6-4 神の武器、言葉

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その夜、オリハは条件を出した。
獣人の子らの心を傷つけない様にする為に。
フェンリルもこれに異存はないようだ。
寧ろオリハよりも上手に嘘をつける、と言わんばかりに、上から見下ろしながら鼻息を吹き掛けられた。
オリハはその意図を理解して「ぐぬぬっ」と唸った。

もう一つは暫く旅に付き合ってもらう、と言うものだ。
獣人の子らの事を慮ったのもあるが、オリハには確認したい事があった。
フェンリルに質問をしていたのもその為だった。
自分の根源に関わるモノだ。
大狼には理の外の理だと伝えた。
首を傾げられたが、オリハにはそれ以外に言いようがなかった。

「魔澱みは分かるか?魔物を生み出す紫色の渦だ」

フェンリルは頷いた。
自分が生まれ出でたモノだ。
ただその瞬間に消えてしまった記憶がある。
そして長い生の中、幾度か見たモノでもある。

「取り敢えず魔澱みが見たいのだが・・・」

目を瞑り、記憶を探ってみた。
子供らと共にいるようになってからは、行動範囲が狭くなっていたからだ。
・・・ああ、あそこがあった、とフェンリルはオリハに頷いた。

「ふむ、では、子らに明日は近場で過ごしてもらい、体調に問題なければ、明後日案内してもらえるか?」

嘘をつくのにちょうど良い、と頷く代わりに尻尾で答えた。
どれ程の期間かわからないが、その期間で子供達に理解をしてもらおう。
愛しい子供らとの最後の旅だ。
その事にフェンリルは心躍らせていた。

「・・・気が変わったらいつぶふっ!」

しつこいと言わんばかりに、オリハは鼻息を吹きかけられた。


獣人の子供達は翌朝には、もう我慢出来ずに動き回っていた。
フェンリルは子らに誇らしげに説いた。
流石は私の子だ、と。
アレは幼い子供がかかる病だったの、と。
もう立派な大人だ、と。
そう言われて誇らしげな顔をする子供達。

そして更に喜びを込め誇らしげに告げる。
あなた達が一人前になって私はとても嬉しい、巣立ちの日も近い、と。
意味は解らないだろうが、嫌な響きを感じたのだろう。
だがフェンリルは、不穏な表情をする子供達を無視して、顔をすり寄せ、全身で喜びを表現した。
そして懇願する。
一人前になれたら私の元から離れなくてはなりません、でも・・・もう暫くは一緒にいてね、と。

自分達の成長を喜び褒め称え、その事をさも誇らしそうに告げる母親に、嫌だと言える子供がいるだろうか?
獣人の子らから戸惑いを感じる。
喜びも感じる。
そして強い淋しさも。
オリハはその様子を眺めていた。
何をどう説いたのかはわからない。
だが、フェンリルが何らかの嘘を説いたのはわかった。

(・・・お主は強いな)

己では成し得ない判断をしたフェンリルに、そう賛辞を贈った。
ギュストから大きい棘を刺された。
いつ己の中の時計が動きだすのか、気が気ではなかった。
それでも同じ様な判断が出来る自信はオリハにはなかった。

ハルとアキを抱きしめた。
身勝手だと思った。
だがこの地に己が存在する限り、愛を与え続ける事を心の中で誓った。


オリハから「子らに名はあるのか?」と問われフェンリルは首を横に振った。
アキはオリハが名付けた訳ではないが、獣人の子らを見た時に思った事があった。
雄の犬の獣人の子は真夏の太陽を思わせる、赤茶けた毛色をしていた。
雌の猫の獣人の子は真冬の雪を思わせる、真っ白な毛色をしていた。
その事をフェンリルに話した。

「・・・お主に異論がなければ、だが」

「バウっ!ワウっ!」

頷きそう吠えた。
フェンリルは一人前になった証として、オリハが提案した名を二人に与えた。

ナツとフユと。

ナツとフユはフェンリルに抱きつき喜び吠えている。
オリハはその様子を微笑ましく暫く眺めた。
そして近寄った。
名を貰い興味を持った今が良い。
次は己の番だ、と。

まず、フユの前にしゃがんだ。
そしてフユの胸元を指で突いて、大きく口を開いた。

「フユ・・・フ、ユ、だ」

フユはフェンリルを見た。
その言葉の意味を肯定するように頷いた。

「・・・フ、ユ?」

「そうだ、フユ、だ」

「ワン!フユ!フユ!」

猫の獣人がワンと言うのに違和感を覚えるが、名前を与えられ、興味をそそられ、ヒトの言葉を初めて使った。

「ワンッ!わん!わん!」

ナツが、僕は?ねえ僕は?と言うようにオリハに尻尾を振り縋った。
同じように胸を指で突いて大きく口を開いた。

「ナ、ツ・・・ナツ」

「ナッ・・・ナツ?」

「そうだ、ナツ、だ」

「ナツー!ナツッ!」

そう尻尾を振りちぎらんばかりに喜んだ。
今度は己を指差した。
その後はハル、アキと。

「オ、リ、ハ・・・オリハ」

「「オリハッ!」」

その後ハルとアキの名もちゃんと言えた二人の頭を優しく撫でた。
その日は言葉を教えるのに一日を費やした。
フェンリル、お母さん、他にも色んな物を指差して聞かれた。
ハルも一緒になってそれを真似た。

その様子をフェンリルは、微笑ましくも寂しそうに眺めていた。


「「ワン!オリハー、ニクー!ワンッ!」」

と腰袋から野菜を取り出したオリハに、ナツとフユが縋る。
どうやら二人は野菜はあまり好きではないようだ。
身振り手振りを加えながらニヤッとして「まぁ見ていろ」と答えた。

エインから預かった腰袋は収納だけではなく、時間経過もおきない優れ物だった。
町から森に行く際に、これでもかと食材やら何やら買っておいた。
買い物前に、金貨を下ろしにギルドに寄った。
カードを受け取った受付嬢が残高を見て、アワアワとしていた。
だからオリハは、ギルドの預金残高を知るつもりはないし、聞かなかった。
エインに頭が上がらない思いをする。
だが礼は言わない、何故なら変態だからだ。

夕食としてナツとフユに合わせて、パンと肉多めの野菜炒めと、コトコト野菜煮出しスープを作った。
フェンリルの分も含めたのでかなりの量だ。
ハルとオリハは手を合わせた。
二人にはまだ説明が難しいので強要はしない。
スプーンやフォークなども同様だ。
まだ手掴みでいいと思った。

ハルはこの一週間、お粥に付き合っていたせいか、モリモリとシャクシャクとバクバク食べ始めた。
肉と一緒に炒められた野菜を、訝しげに睨んでいたが、ハルのその様子に喉を鳴らしてナツとフユが恐る恐る皿にかぶりついた。
最初のモグモグからバクバクに変わるのに時間はかからなかった。

「「わん!わん!」」

そう言い二人は空の皿をオリハに差し出した。
おかわりの要求だろう。
胃袋を掴んだ感触に心の中でガッツポーズをした。

・・・それを食べたフェンリルは、生肉生活に戻れるか自信をなくしていた。


次の朝アキを背中に抱いて、ハルとナツとフユをフェンリルの背に乗せて出発した。
ナツとフユは「わん、ハル!アレ」と次々に指を指してヒトの言葉を聞いていた。
ハルはナツとフユ、交互に抱かれながら説明をしていた。

(ああっ!もふもふと天使の共演・・・いや我の為の饗宴っ!)

と鼻血が出る思いでそれを眺めた。
フェンリルも尻尾の動きでその様子の感想を述べた。
旅はゆっくり行こう、と伝えている。
だからのしのしと進んだ。
慌てる必要はない。
別れの時は少しでも先の方が良い。
その一言を、その一歩を思い出にして、ゆっくりと進んだ。

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