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第6章 獣王国編
6-7 神の武器、旅路
しおりを挟む「あはははははは・・・ハッ!?」
ハルとアキとくるくるしていたが目が覚めた。
ナツとフユはまだ戦っていたのである。
離れたところからフェンリルがジト目で見ている。
咳払いを一つしてハルを下ろして、手を繋いだ。
「うむ、行こうか」
ハルもオリハのその表情を見て笑みを浮かべた。
いつものお母さんだ、と。
だから尋ねてみた。
「お母さん、あのお兄ちゃん誰?」
「・・・主だ」
「しゅ?」
「かみさまだ、我などを気にかけてくれたのだ、とても優しい方なのだぞ」
「でも・・・頼りなさそうだった」
「ぷふっ!・・・そうだな、ハルの言う通りだ」
ハル経由でそのやり取りを聞いていた主は、髭を生やすか暫く本気で悩んだと言う。
そんなほんわか気分の横では、デュラハン戦がクライマックスを迎えようとしていた。
序盤、隙をつき優勢に見えたが、いかんせん経験が足りなかった。
剣ではなく盾を上手に利用され、二人の攻撃が通らなくなっていた。
そしてまだ少年、少女だ。
体力が限界を迎えていた。
デュラハンのシールドバッシュをまともにユキが受け連携も取れなくなり、ナツが疲労から態勢を大きく崩してしまった。
満を持して振り上げられたデュラハンの剣は・・・フェンリルの雷光により黒い煙を伴った。
そして背後からの凛とした剣線が、切り上げにより天へと疾った。
二つに別れたデュラハンは土へと還った。
ナツとフユに回復をかけ、飴玉を口に放り込んだ。
身振り手振りで噛むのではなく舐めろ、と伝えた。
フェンリルが「ガウッ!」と強く吠えた後、二人を舐めた。
叱って褒めたのだろうと思った。
やはり強いな、と賛辞を贈る。
二人をフェンリルの背に乗せた。
ハルが手を繋いで歩きたがった。
なら魔物が襲って来ないよう、咆哮ではなく今度は我が歌おう。
曲目は何にするか?
・・・では子守唄でいこうか。
Lullaby, and good night
My sweet baby mother’s delight・・・
金色の波が鬱蒼とした森を照らした。
賛美歌で発動させた「Holy Sing」よりも更に広範囲の輝きに満ちた。
ナツとフユは疲れもあり、早々に眠りに落ちた。
その光と歌声は不死の者でさえ穏やかな永遠の眠りに誘った。
それはハルも途中で寝てしまうほどに・・・
オリハはハルを抱きしめ、静かに森を歌い歩いた。
「・・・ヒャインッ!」
だが、フェンリルだけは蹴り起こした。
己の根源を確認出来たのだが、もう一つ試したい事がオリハにはあった。
魔澱みの発生は悪しき感情だけなのだろうか?という試みだ。
自浄化作用の点で言えば、良い感情で発生するわけはない。
なら、悪い感情を前の様に消し去り、良い感情を乗せたらどうなるだろう?というものだ。
これはオリハのスキルの性能から鑑みた可能性だった。
魂から生まれるスキルは、個の特徴に多少なりとも影響を受ける。
王族のみに受け継がれる「魔王」然り。
元々直感の優れたティダの「直感力」然り。
この場合の個はオリハではなく、魔澱みを指した。
その結果を、同族たるフェンリルに捧げるモノとして。
出来かけの魔澱み、完成していない魔澱み、と問うても流石のフェンリルにも解らなかった。
だからヒト里を避け、またゆっくりと旅をした。
途中、買い出しの為に一度だけ町に寄った。
フェンリルの希望でナツとフユも連れて行った。
ハルやアキやオリハとも違う、自分達と似たようなヒトを初めて二人は見た。
その事で母の、フェンリルの気持ちを知ったのかも知れない。
そしてその日が近い事も。
言葉の単語の教育はハルが担当した。
フェンリルの背で、ナツとフユに交互に抱かれながら。
「ナツお兄ちゃん」「フユお姉ちゃん」
ハルは二人をそう呼んだ。
二人もハルとアキを可愛がってくれた。
オリハはその都度、鼻血を出しそうになっていた。
言葉がまだなので魔法の修行はつけてあげられないが、剣や徒手空拳の修行をオリハはつけてあげた。
フユは武器に興味を持ったようだ。
ショートソードの木剣はオリハの定番だ。
ナツは素振りの代わりに型を教えた。
防御の型は全く様にならなかったので、回避技を集中的に教えた。
格上と戦う時は防御、回避が物を言うからだ。
そして魔物との実践。
だから、旅の歩みは遅かった。
オリハ達は学ぶ時は学び、遊ぶ時は遊んだ。
ある日、雨が降った。
フェンリルと子供達は泥だらけになりふざけあった。
泥団子を投げ合った。
ハルにはちゃんと加減していたので、黙って見ていた。
フェンリルが水溜まりを前脚で踏みつけた。
アキを庇うのにオリハは回避出来なかった。
なので、全員まとめて洗濯してあげた。
ある日、川があった。
皆んなで魚を捕った。
フェンリルが魚を捕まえようと、前脚で川を裂いた。
大量の水飛沫と魚が宙を舞った。
アキを庇うのにオリハは回避出来なかった。
なので、連帯責任で全員まとめて洗濯した。
ふわふわふっかふかのフェンリルもふもふ権はオリハのモノだ。
なので、旅の歩みは遅かった。
そして暑い夏が終わり、セキソツが飛ぶ時期がやってきた。
衣替えの時期だ。
ハルもアキもオリハも服を変えた。
ナツとフユは服に慣れさせる為に着せた。
毛がゴワゴワするようで落ち着きがない。
フェンリルは毛が少し生え変わっていた。
ブラシの代わりに風魔法で毛を梳いた。
夏の毛より秋や冬の毛の方が柔らかくて気持ちが良かった。
アキは未だに母乳じゃなきゃ嫌だと駄々を捏ねた。
もう一歳になるのだからそろそろとは思うが、嫌がるので仕方ない。
そんなにオリハルコン製母乳は美味しいのだろうか?
「そう言えばハルも長かったな」と言うと「そんなことない」とハルはむくれていた。
そんな日々も終わりを迎える。
それに最初に気づいたのはフェンリルだった。
嫌な臭いを感じたようだ。
その方向に暫く進んだ。
そしてオリハも気がついた。
あの町で嗅いだ嫌な臭いを。
秋の空は修行と食欲と別れを告げた。
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