赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第6章 獣王国編

6-13 神の武器、やらかす

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雪の日だろうが、雨の日だろうがオリハ達の修行のない日は休みの時だけだ。
この日は夏の日差しが遮られる程の雲に覆われていた。
雲から垂れ滴る雫は、子らに降り注がれる事はない。
上空に描かれた大きな五芒星がそれを遮っているからだ。
物理障壁に当たった個は軍となり滝の様に流れ落ちる。

中々に風情のある光景だな、とオリハは視線を敢えて一瞬だけ逸らした。
ナツとフユはその機を逃す事なく踏み込んでくる。

(ククク、良い子らだ)

二人の攻撃を避け、受け止めながら褒めていた。
他の子らは魔力の操作と見取り稽古をやらせている。
まだ見取り稽古で何かを得る事はないが、強くなったと慢心させない事が目的なので問題はない。

今はハルとアキも混ざり、障壁の端から滝の様に流れ落ちる水をかけ合いながら遊んでいる。
その様子を眺めながら、一日でボロボロになった木剣を土に還した。

(そろそろこの子の出番だな)

そう思い愛剣を撫でながら、街から近寄ってくる気配を探っていた。
物見遊山にしては威圧的に感じる。
寧ろ挑発されている気がしたからだ。

(そう目立つ事もしておらぬのに)

頭を掻きながら溜息をついた。
実際の所、王都に流れ着いてから一年半。
同じ宿屋に居座り見た目も珍しく、種族の違う子供らを連れて歩く。
ここ最近は玄人すら唸る模擬戦を郊外で繰り広げており、寧ろ目立たない要素を探す方が大変だった。

暫く様子を伺っていると子らの方にも反応があった。
気配に気がつき、鼻をスンスンと鳴らした。

「ハル、アキ、ここから動かないで」

ナツがそう告げ、フユが他の獣人の子らに「よろしくね」と頼みオリハの元に来る。

「・・・この雨の中よくわかったな」

嗅覚も聴覚も封じられる激しい雨の中だ。
しかもオリハに向けられた気配だ。
素直にそう思い二人を褒め、そして撫でた。
「「えへへ」」とこちらも素直に受け止める。
これが二人の心境の変化に関わっている事を当の本人達も知る由はない。

視界の先に挑発の主が映る。
オリハの感想は「王とは暇なのか?」だった。
大きな傘を差した狼獣人と虎の獣人を引き連れ、その先頭を威風堂々と大きく鬣を揺らし歩く様は、王者と呼ばれるに相応しい貫禄を伴った。

だがナツとフユの感想は大きく異なった。
魔獣に育てられ現代の獣人では持ち得ない程の野生の勘。
その勘がはっきりと勝ち目がないと告げる。
そして後ろに控える獣人にも同様の感覚を覚えた。

のしのしと結界の下に足を踏み入れた。
半球型に展開しておけば良かったか?など暢気な事を考えていると、相手から口を開いた。

「・・・でかいな、この結界はお主が?」
 
「ああそうだ、何か用か?・・・獣王殿」

「いや・・・ガキ共におままごとを教えてる女ってのに興味があってな」

完全なる挑発。
だがオリハは大人だ。
己のやっている事を「おままごと」と罵られようが気にはしない。
教育者としての琴線に触れたつもりなのだろう。
口悪く罵ろうが目的は挑発だ。
感情が解るオリハには嫌な臭いを発していなければ何の効果もない。

そして相手はこの国の王だ。
揉める事に何の利もない。
だがナツとフユから強い嫌悪感を感じる。
適当に流したフリをしても、二人が納得いかず飛び出されては面倒だ。
ならばと挑発には挑発で返すのがオリハだ。

「それなら赤ん坊の役が空いておるぞ?・・・我は大きな赤ん坊など要らぬから遠慮するが」

つまり、安い挑発になど乗らぬ、子供みたいな真似はするな、そうオリハは返した。
これに従者二人が顔を伏せ噴き出す。
よく判らないが、上手く言い返したのだろうとナツとフユは思った。
だから素直にオリハに聞いた。

「ねえねえ今のどういう意味?」

「なんであの二人笑ったのー?」

知らずに煽りまくる二人。
従者二人は完全にツボにハマって笑っている。

「あ、後で教える、取り敢えず今は話すな」

そう言いオリハは二人を宥めた。
ワナワナとするのは獣王ただ一人。
素直に「戦え」と言えば良かったのに、王としての矜持からなのか、更なる舌戦を求め挑発を繰り返した。

「き、気に入った、お主、儂の妾にしてやってもいいぞ?」

と、舌舐めずりをしながらいやらしい顔を向ける。
だが獣王からは劣情も感じない。
やれやれと言わんばかりに肩を竦め答えた。

「悪いが暑苦しい布団に興「に手を出すなっ!」

そう声と唸り声をあげオリハの前にナツが飛び出した。
次にフユが前に出た。

「・・・アタシのにいやらしい顔をしないでっ」

そう言いながらも顔は何故か嬉しげだ。
尚、オリハは呆然と立ち尽くしている。
「ママ」という言葉の意味を探しているのかもしれない。

深く考えずに挑発を口にしていた獣王は慌てて従者を見やる。
肩を竦めて「王が悪い」従者はそう言った。
威厳も何処かへ消え失せ、しょんぼりとする獣王にナツが吠えた。

「僕が、僕が相手になってやる!」

狼の従者は口笛を吹き、虎の従者は面白そうにそれを眺めた。
謝るつもりだったろう獣王は、腰を落とし小さな挑戦者に目線を合わせる。

「儂に・・・勝てると思っているのか?」

そして不敵な笑みと殺気を放った。
だが決して臆することはない。
何せ魔獣フェンリルとオリハの子らだ。
ナツは更に牙を剥き唸った。
フユは毛を逆立てナイフを構えた。
その様に従者二人は感嘆の声と口角をあげた。
子らに向けられた殺気で漸く現世へ帰ってきたオリハ。

「ま、待て、二人共落ち着かぬか・・・貴様もいい加減それを止めろ」

今度はオリハが獣王に向け殺気を放った。
ナツとフユが勝ち目がない、と思い知らされた仕返しとばかりに深く濃く強く。
従者二人が獣王の前に飛び出す様に立ち塞がる。
だが獣王は先程とは異なるいやらしい笑みを浮かべて二人を御した。
明らかにやる気になっている。

(・・・寧ろ逆効果であったか)

そう溜息をつき殺気を収めた。

「・・・どうせなら面白い舞台があるだろう?」

「あん?」

「王の座すら望みとあらばくれてやる、だったか?」

「出るのか?」

「ああ、らがな」

「・・・それじゃ意味ねえじゃねえか」

「安心しろ、二人が負ける様な事があれば・・・望みとあらばくれてやる」

そう言い伊達眼鏡を外して獣王の目を見た。
どちらが格上なのかをはっきりとさせる為に。
それを意識して行った事で、獣としての本能をより強く刺激した。
ソレは毛穴を開き、脂汗を流れさせ、毛を逆立て、瞳孔を拡げさせた。
獣王に激しい恐怖を齎した。

オリハは怒っていた。
それはほんの少しの差だった。
ナツの挑戦を真摯に受け止め、戦士への礼として殺気を返したのだ。
一刻前なら感謝したかも知れない。

だが「ママ」と呼ばれてしまった。
その時点で自動的に我が子認定してしまった。
その我が子に殺気を向けたのだ。
過保護で親バカのオリハの逆鱗に触れてしまった。

完全に理不尽なモンペだ。

格付けする程度に抑えられたのは、ナツとフユの意を汲んだに過ぎない。
オリハは視線を逸らし伊達眼鏡をかけ直した。
逆立った毛が伏せていく。
そして獣王に齎された感情は安堵へと変わっていく。

「・・・ククク、グハハハ、ガーッハッハッハ!」

いきなり笑い出した獣王に従者達も戸惑いをみせた。
そしてオリハはとても嫌な予感がした。
何処かで嗅いだ事のある匂いがしてきたからだ。
体を震わせながら一頻り笑った後、オリハに指を差して告げる。

「惚れたっ!儂がお主に勝ったら側妃として迎えいれるっ!」

「・・・は?」

「即刻退位して後宮で儂が死ぬまで可愛がってやるっ!」

「・・・え?」

「ガキ共っ、此奴らに勝てるくらいにはなれ!楽しませてくれよ」

「「あっ・・・はい」」

そう言い返事も聞かず大きな笑い声を上げながら帰っていった。

(・・・我、やらかした?)


その翌日、王都にある噂が流れた。
獣王がエルフの女性に愛を告白した。
来年の武闘大会で獣王が勝ったら側妃に迎え入れるらしい。
時を同じくして執務を全て家臣に任せて獣王が姿を消した。
その事により噂はさらなる拍車をかけた。
フラれたのか?獣王は武者修行をしているのか?

そして確信する。
来年の武闘大会は何かが起きるぞ、と。

噂の出元が四人の獣人の子らであった事は誰も知らない。


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