赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第6章 獣王国編

6-12 神の武器、三歳

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アキを背負ったオリハは強く柏手を打った。
宿屋中に大きく鳴り響いたその音は、算数の授業中に船を漕いでいたナツとフユの身体を震わせる。
その様子をハルは愉快げに眺めていた。

夏になり、暑い日中に身体を動かすよりはと午前中に外で修行をして、午後から授業をするようにした。
二人が毛皮を着ているので熱中症対策だ。
その弊害か、午後から頭を使うと眠くなってしまうようだ。
眠気と戦いながら勉強しても効果はない。
溜息をつきながらオリハは言う。

「少し寝むれ、後で起こしてやる」

「「ん~」」

そう頷き目を擦りながら、ナツがオリハの手を引っ張り、フユがハルを抱きかかえた。

「ん?どうした?」

「・・・オリハもおひるね」

そう言いグイグイとナツが手を引っ張る。
既にハルはフユが二階へと連れていった。
仕方ない、と笑みを浮かべ大きい駄々っ子を抱えて階段を上がる。
明日からは昼食後にお昼寝の時間を作ろうかと本気で考えながら。

毎日の掃除の効果か宿屋の外も中も綺麗になったが、客は時期的なものあり来る事はなかった。
相変わらずの貸し切り状態だ。
ネズミ獣人の店主も、オリハが自分の分の食事を作ってくれる事に礼は言うが気後れすることもなくなり、いつもハル達の様子を茶を啜りながら微笑ましく眺めていた。
近所の人らに「孫が出来た」と世間話をするほど可愛がってくれていた。
「娘の料理が美味しい」と聞こえてきた日は一品おかずが増えたりした。


ナツの換毛期である秋。
ブラッシングはオリハの趣味に近い。
いつも小まめにしている。
オリハの腕なのか、ナツもフユもされながらよく喉を鳴らしている。

フユの時はして来ないのだが、不思議とナツをブラッシングしているとアキが近寄って来る。
そして「グエッ」と声が出るほどのし掛かり「ぼくもー」とオリハにせがむのだ。
そして仕返しとばかりにナツに顔を舐めまわされている。
「やー!」と本気で嫌がるが、アキが悪いので止める事はない。
オリハとハルとフユで、その嫌がる様を眺めながら声を出して笑うのは、ブラッシング時の常になっていた。

十一月になると今度はフユの換毛期だ。
抜け毛の量はアキよりもかなり多い。
抜けた毛の処分は当然、燃えるゴミだ。
獣王国のこの時期のゴミの日には、街中の至る所でごみ袋が一杯になっていた。

そして体育の授業も一年を過ぎた。
最近は物見遊山の輩も見なくなった。
型や素振りも丁寧にゆっくりだったものが、丁寧にそして素早く出来るようになっていた。
身体強化も今までは魔力で底上げしていただけのものから、魔法でしっかりと出来るようになった。
アキはまだ詠唱破棄だが、フユは無詠唱で出来るようになった。

「よし、今日から我との組手を始めるぞ」

ナツとフユにそう告げると、オリハは木剣を構えた。
ナツには両腕に鋼の手甲と脚絆を付けさせている。
フユには片刃のナイフを二刀持たせた。
防具はレザーの胸当てと皮の脚絆に抑えてある。
動きを阻害しない為だ。

「本気で・・・殺す気でこい」

そう言うオリハの周りだけ熱を帯びているかの様に雪が避けていく。
因みにアキは背負っていない。
ハルに抱かせていると不思議と大人しくしている。

自分達には実践装備をさせて、オリハは木剣だ。
普通なら気兼ねしてしまう所だ。
だが魔獣の子としての経験がそれを許さない。
それをさせる事はない。
そしてオリハに対して強い信頼があった。
魔力を全身に満たし、強化魔法をかけた。

「「グウゥッ!」」

迷いのない戦闘態勢を見て、頼もしさを感じオリハは笑みをこぼす。
久方振りの実践だが、二人の連携は錆びついていない様だ。
絶えずオリハの左右の視界の端に映る様に距離を取っている。
フユがナイフを握っている右手の人差し指をオリハに向け、無詠唱で「Wind Cutter」を放った。
それを視線で同じ魔法でレジストする。
だがこれは当然陽動だ。
そのタイミングに合わせてナツが懐に飛び込む。
見計らっていたかの様に、脳天へ木剣が振り下ろされる。

ここまではアキ達は読み切っていた。
左腕の手甲で木剣を上段回し受けで回避し、ガラ空きの腹部へ右正拳突きを打ち立てるつもりだった。
だが木剣を払おうとして顔を顰めた。
片手では払いきれない!そう判断して両腕で全力で受けとめた。
そして後方へ飛び間合いを取り直す。

「ナツ!攻撃する事に気を取られて受けが甘い!フユ!初撃の威力が弱く陽動だと悟られるぞ!それに二撃目はどうしたっ!」

二人は頷き再び唸り声をあげた。
組手と呼ぶには余りある熱量がそこに立ち込めた。

その横でハルとアキは雪遊びをしていた。


新年も明けて、またオリハがベッドに伏す時期がやってきた。
ナツとフユとハルは「大丈夫?」と心配してくれる。
去年の事をしっかりと覚えてくれていた。
アキは見慣れない母親の痛がる姿にオロオロとしている。

「ああ、大丈夫だ」

そうオリハは笑顔で答えた。

「じゃあ・・・お母さんの子離れの授業ね?」

「なっ!?」

とハルが無邪気な笑顔で言う。
そして四人で街に行ってきます、と。
これにオリハは待ったをかけた。
「せめて、せめてアキは置いていってくれ」と。
しかしこれを無慈悲にも却下する。
「アキー行くよー」とハルに言われ「・・・母上、ごめんね?」と追いかけていった。

これによりアキの中で、ハル>オリハ>フユ>越えられない壁>ナツ、という順位が確立した。
「ひ、ひどい、ひどいぞハル」と枕を涙で濡らすオリハの頭を、震える手でネズミの爺様が撫でてくれた。

だがオリハの子供専用豆腐メンタルが少し硬くなった。
四人が帰って来る頃には、立派な拗ねオリハがいたが、一刻程チヤホヤすると機嫌を直した。


春の足音が聞こえて来る頃に変化があった。
物見遊山の連中はいないが、ナツやフユと同じ年頃の子らが遠巻きに見物していた。
モジモジとする様子を見てオリハが声をかける。

「そこの子らよ、やってみるか?」

そう言われて四人の獣人の子らが飛び出してきた。

「武器を扱いたい者は?」

そう聞かれ三人の子が手を挙げた。
魔人国の教会の子らに教えた時の様に、剣で木を切り倒してみせた。
そして安定の木剣を授ける。
もう一人の子に手を広げ「ここを殴ってみろ」と言う。
その後、身体の動かし方を丁寧に説明してもう一度殴らせた。
そして全然音が違う事に驚いていた。
効果があるのだと理解させた上で、素振りと正拳突きをゆっくりと丁寧に繰り返させた。

型や素振りから、相手の動きを想定してのシャドーへと移っていたナツは懐かしそうにそれを見ていた。
だがフユは頬を膨らませていた。
そんなに丁寧に教わっていないと。
そしてオリハに問いただした。

「ねえオリハ、なんか教え方が違う」

「それは仕方あるまい、お主達は我にとって特別なのだから」

「・・・むう」

質問と逆の意味で答えられ、照れ臭ささを誤魔化すのに更に大きく頬を膨らませた。
そんなフユの顔を可愛らしく思い、頭を撫で口に飴玉を放り込んだ。

「ナツッ!」

「うわん!」

そう言いオリハは飴玉を少し遠くに投げた。
懸命に駆け飴玉に追いつき、飛び上がり齧りついた。

そんな日々を過ごしながら、オリハは三歳を迎えた。

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