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第6章 獣王国編
6-17 神の武器、武闘大会予選、本戦
しおりを挟む闘技場の中には四つの舞台があり、おおよそ千人近い者がそこで競い合うことになる。
初日に二戦して六十四名まで減らし、次の日は舞台が二つになり、更に十六名になるまで予選は行われる。
前回の二位と三位は本戦にはシードで参加するので、合計十八名となる
二人は別の舞台に別けられた。
恐らく獣王の計らいだろう。
ナツは踊る気持ちを抑えられず、待合室で柔軟を施していた。
大きな部屋で所狭しと各々準備をしている。
参加者は殆どが獣人だが人族やエルフ族や魔人族も少なからずいる。
それぞれが褒賞目的であったり、名誉目的であったり、腕試しであったり。
不安な気持ちは何処にもなかった。
それはナツの尻尾が物語った。
ブンブンと空気を裂く音を出していた。
ここの中に、ママより強い者はいない。
いいところを見せるんだ!
その気持ちだけだった。
逆にフユは苛立っていた。
爪を立て床をカリカリとしていた。
尻尾は大きくバタバタと振っている。
だが猫獣人にとっては別の意味があった。
理由は周りの嘲るような視線にあった。
何せ子供で女だ。
ナツも同じ視線を向けられているだろう事を考える。
(・・・全然気にしてないだろうなぁ)
と脳筋を羨ましく思う。
だから早く始まって欲しいと苛立っていた。
アタシの爪で黙らせてやる、と。
その頃オリハは腰袋からクッキーと飲み物を取り出していた。
既に予選は始まっていた。
だが観ることはない。
完全に遠足気分だった。
ポリポリしながらワイワイしていた。
何せハルはあまり戦う事に興味はない。
アキは姉と母がいれば問題はない。
オリハはナツとフユ以外はどうでも良かった。
尻尾を千切れんばかりに振りながらナツが姿を見せた。
「ナツが来たぞ」
そうハルとアキに教える。
席から立ち上がりハルが手を振る。
応援の声を上げるが届くはずはない。
他の者の歓声もある。
戦いの音もあった。
だがナツは振り返り手を振った。
アキが小さな手をキュッと握りしめている。
その様子を面白く感じ、背を軽く叩いて微笑んだ。
モジモジしながら席の上に立ち声を上げる。
「兄上がんばってくださーい!」
アキの届かないはずの声にナツは振り返り満面の笑みを浮かべ、握り拳を振り上げた。
返された反応に顔を赤く染め頬を膨らませちょこんと席に座った。
堪えきれずにアキに「天使っ!」と頬ズリをした。
試合は開幕早々の腹部への拳撃で終わってしまった。
出てくる時とは異なり萎びた尻尾が感想を述べているようだ。
それに比べてフユの初戦は長かった。
そしてアキとハルの歓声に応える事もなく舞台に上がった。
尻尾が鞭のように地面を叩く様で、不機嫌なのが手に取るように解った。
対戦相手がニヤニヤとしていたからだろう。
フユは武器を構える事なく顔面を爪で引っ掻いた。
ダメージは殆ど無い。
何せ引っ掻かれただけなのだから。
そして素早い動きで翻弄し、相手は捉える事すら出来ずまた顔を爪で引っ掻いた。
顔を抑えた手を外して引っ掻いた。
相手が戦意を喪失するまでひたすら引っ掻き続けた。
勝ち名乗りを受け、オリハ達に手を振るフユは尻尾を垂直に立てつつ笑顔であった。
その後も問題なく勝利を収めた。
翌日の予選の二戦もだ。
寧ろ物足りないと、いつも通りの修行を希望するほどだった。
なのでしっかりと技の仕上げを行なった。
変わった事と言えば二日目からの名前の読み上げの際に、歓声が上がった事だろうか。
本戦出場も十歳は最年少だという。
三日目、一人づつ選手紹介が行われた。
前回二位と三位だった獣王の後ろに付き従っていた狼獣人と虎獣人は常連なのもあり歓声が湧いた。
それ以上だったのはナツとフユだ。
その声に照れるナツは可愛いとオリハはほくそ笑む。
フユはポーズを取ったり手を振ってそれに答えた。
その様を可愛いとオリハは目尻を下げた。
その歓声の中ヤジを飛ばした者も数名いたが、一人残らず卒倒した。
オリハがやったという証拠は何処にもない。
予選からの組合せを見て、実力者が被らないように主催者側で配慮してある気がした。
オリハから見てシードの者が頭一つ抜きん出ていて、後はほぼ横並びの実力であると判断したからだ。
主催者である獣王より本戦の開催宣言が行われた。
畏まった長い挨拶はない。
「第八十八回っ!獣王国武闘大会本戦の開幕をここに告げるっ!儂を!楽しませてみせろーっ!」
地声のみで会場を揺らすほどの声を上げた。
そして熱狂を帯びた歓声が沸き起こる。
その最中、オリハは一人微笑んだ。
ここからは技の使用を許可していた。
予選では相手の実力次第で殺してしまいかねないと判断した。
ナツに教えたのは魔力で相手を叩くという技だ。
詠唱も呪文も要らないが、もし魔法と呼ぶとすれば無属性魔法と言ったところか。
魔力はあるが属性魔法が不得意なナツには相性が良かった。
利点は防具も魔法結界も意味を成さない点だ。
防ぐにはナツが拳に込めた以上の魔力で身を守る必要がある。
術式がおざなりになった現代では初見殺しといえるかもしれない。
初戦その技で盾の上から握る手を潰し、ダメージ回避不可な打撃を積み重ねたナツに軍配が上がった。
フユは教えた技は使う事なく「Vine Bind」という植物の蔦で相手の動きを阻害する魔法で相手を翻弄し、腕と脚の腱を切り勝利を収めた。
遠目からレオンパルドが苦虫を潰す事なく、喜んでいる顔が見えて残念に思うオリハだった。
その日は八試合が行われ終了した。
その晩のご褒美を兼ねたブラッシングでは珍しくアキの妨害はなかった。
四日目、この日はシード選手も含めて六試合が消化される。
この日の注目はシード選手と当たる者が二試合消化する辺りだろう。
その役目を見事にナツとフユに割り振られている。
一戦目をナツ、二戦目をフユ、三戦四戦と間が空いて五戦目にナツ、六戦目にフユとなる。
モンペであるオリハは当然組合せの段階でレオンパルドにクレームをつけたが「実力から見て妥当だ」と一蹴された。
「確かに」と答えたオリハは満更でもなかった。
ナツは初戦堅実に打撃を重ねた。
フユは今日は風魔法を主にしていた。
杖も持たず指も動かさずに唱えられる魔法は見事に相手を捉えた。
理由はナイフの柄が短杖と同じ効果を得られるよう加工した所にあった。
だが初日から無詠唱ではなく詠唱破棄で魔法を唱えていたので、六戦目を最初から意識していたのだろうとオリハは感心していた。
五戦目、ナツと狼獣人の戦いが始まった。
力強さと素早さを武器に槍を振り、そして突進を交ぜた戦い方だった。
序盤、間合いを読みきれず苦戦を強いられる。
だが受けと回避を徹底させたオリハの教育方針により致命打は受けない。
知恵者であれば隙を作ろうと策を弄するが、脳筋なナツは徹底して勝負所を待った。
終盤、脚に疲労が来た所を見逃さずに懐に飛び込み、連撃を浴びせ勝利を得た。
長く苦しい戦いを終えナツは咆哮を上げた。
六戦目、フユの相手は前回二位の虎の獣人だ。
相手は盾を持たず片手剣で戦うスタイルだ。
つまりオリハと同じといえた。
勝負は早かった。
開始と同時にフユがナイフで斬りかかるも容易に剣で受け止めた。
その体勢のまま無詠唱で「Wind Cutter」を放ち相手の肩を切り裂いた。
斬撃は受け止めた筈だ!と狼狽る相手に二撃目をナイフで斬り込む。
考える暇は与えない。
魔法だと判断できず、回避不可能で目に見えない風の刃を前にして、膝をつくのに時間はかからなかった。
フユにはいつの間にやら熱狂的なファンが付いていた。
「にゃん」とポーズをすれば更なる歓声を巻き起こした。
戦闘に特化していない犬と猫の獣人が準決勝まで進出、しかも最年少と話題に事欠く事はなかった。
その夜オリハが二人をこれでもかと言う程褒め称えたのは言うまでもない。
五日目、準決勝は頭一つ抜きん出ていたシードを退けた二人の敵ではなかった。
残るは決勝とエキシビジョンマッチである獣王戦になる。
決勝はナツ対フユになった。
だが事前に二人に話していた事があった。
残念ながらナツとフユのどちらかではレオンパルドには勝てないだろうと。
だから策を授けていた。
何の問題もない、何せ最年少者だ。
あの戦闘狂の獣王が乗らない筈がない。
決勝の舞台に立つナツとフユ。
最年少者に歓声と喝采が湧き起こる。
まだ開始の合図はない。
舞台中央へ歩み寄る二人。
これからの戦いを前に静けさを増していく。
二人同時に来賓席に構えるレオンパルドを指差した。
迎えるは完全なる沈黙。
ナツが親指を立て喉元を横に裂く。
フユが親指を立て地面に向けた。
浮かべる表情はオリハ譲りの悪い笑みだ。
観客が絶叫を上げた。
最年少者同士の戦いより面白い筈だ。
勝ち残った者が獣王と戦うより必ず面白い筈だ。
その意思が手を叩き獣王コールを巻き起こした。
レオンパルド対ナツとフユの図式を作り出した。
絶対王者が目を輝かせた。
笑いを噛み殺しながら立ち上がった。
この瞬間においてはオリハの事も頭から消え去っていただろう。
来賓席から舞台まで飛び降りた。
狩りを告げる咆哮をあげた。
そして決勝戦が始まる。
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