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第6章 獣王国編
6-18 神の武器、決勝戦決着
しおりを挟む戦いの始まりを告げる声はない。
その本人が舞台の上にいるのだから。
そしてその男は今、心の底から笑っていた。
喜んでいた。
芽吹いた獣人の新たな種を誇らしげに思った。
我が子である皇子らには期待をしている。
自分の様なバカではない事が嬉しく思う。
だが獣人としての象徴たる力は持ち合わせていない。
「やはり獣人はこうでなくてはな」という思いを口にする事はない。
ただ一介の獣の王として心からの賛辞を贈った。
ただ、不思議な事に貌は一切その思いを告げてはいなかった。
表情に浮かぶは捕食者たる獣の貌。
そして込められた殺気が開幕の鐘の音となった。
ナツは牙を剥きフユは毛を逆立て飛びかかった。
戦いに喜びを感じる暇もない。
その表情は格上相手に抗う貌だ。
レオンパルドは左の手の平で拳を受け止め、右腕でナイフを受けた。
まず受けた手の平ではなく手の甲まで突き抜ける痛みを考えた。
そして腕で直にナイフを止めた事で、二つの重ねられた斬撃に気がついた。
強化された腕にナイフが浅い切傷をつける。
時間差で使うのはあくまでも応用技だった。
本命は斬撃と重ねて切断力を増す為の技だ。
だが二撃目、三撃目と受け止められ間合いの外へと追いやられる。
レオンパルドの受け方と体格の差ともいえよう。
ナツのフユの間合いの外でもレオンパルドには間合いの内だ。
「にゃっ?!」
と慌てて身体を伏せて回し蹴りを躱した。
ナツは避けきれず肩で受けて吹き飛ばされた。
追撃をされぬようにフユは間合いに残る。
レオンパルドは唐竹割りの如く爪を真上から振り下ろした。
掠り切られたフユの毛が舞う。
間合いは取らずにその場に敢えて残る。
ナツに背後からの必殺の隙を与える為だ。
その身軽さと素早さで紙一重で回避を続ける。
余裕はない。
無詠唱で「Wind Cutter」をレオンパルドに飛ばす。
意識を自分に向ける為だ。
だが嘲笑うかのように、透明の風の刃は霧散する。
最初の連撃から既に当たりをつけられていた。
土属性の魔力で身を覆っている。
本来であればレジストまで至らない防御方法なのだが、フユとの実力差、レオンパルドの魔力濃度がそれを可能とした。
フユは思わず舌打ちをする。
そして「Air Bullet」に切り替える。
風の下位魔法である事に差はない。
ただ一点に注がれた魔力は獣王の防御膜を貫通する。
例え投げられた小石程度だとしても手を止める訳にはいかない。
獣王は愉悦を前に微笑む。
戦いという分野においては機微を感ずるに抜かりはない。
後方で魔力を練り上げる気配は感じている。
気を引くために懸命に踊り続ける少女を愛おしく思う。
ご褒美だ、そう微笑んでいた。
オリハは拳を握りしめていた。
ギュッと音が聞こえる程、ミシミシと骨が軋む程強く握りしめた。
レオンパルドなら策を弄した一撃を敢えて受けてくれると信じていた。
だからその時を前に息を飲んだ。
会場は静けさを増す。
誰も声を上げることはない。
暴虐たる王と踊るヒロインと、壁の花の様に立ち尽くすヒーローを見守っていた。
悪手はなかった。
だが終わりの時は必ずある。
回避が出来ないと悟ったフユは十字受けの形で後方へと飛び下がる。
それよりも早くレオンパルドの前蹴りがフユを捉えた。
威力を減らされた筈の前蹴りだが、受けた骨が軋むには充分な威力があった。
手甲越しであるにも関わらず、乾いた音が鳴る。
痛みが走った筈だ。
電気の様な痛みが。
だがフユは微笑んだ。
苦痛を伴った笑みは、はにかんだ笑顔となった。
軸足には既に蔦が絡み付いていた。
ナツが魔力を存分に貯めたミスリル製の手甲を前に押し出しながら獣王へと突撃する。
「Vine Bind!」
無詠唱と合わせた二重詠唱で発生した蔦が獣王の右腕と左腕を搦め捕った。
レオンパルドは舌打ちをした。
くらってやるつもりだった。
だが状況が変わった。
完全にくらわさせられる、と。
蹴り足が地に着く前に、背後の気配が自分に達すると確信する。
ネタは予想していた。
だから身に纏う魔力の濃度を濃くした。
オリハは席を思わず立ち上がった。
ナツの無属性ともいえる攻撃の防御策としては満点の正解だ。
だからこそ立ち上がった。
「・・・行けっ!」
だからこそ声を上げた。
ナツに教えた本命の技は、体内に直接無属性の打撃を与える技だった。
初めて教えた時はナツは怖がった。
何せ魔物が体内から四散したのだ。
だから「魔物と獣王以外には使うな」そう教えていた。
「アレなら耐えられる・・・筈だ」と。
オリハでさえ不意を突かれれば大ダメージを受ける事を覚悟する。
防御しようとすれば、事前に体内の臓器を魔力で覆わなければならない。
だが獣王は外に魔力を張った。
完全なる勝機を前に歯を食いしばった。
三年間の子らの苦労を前に、目から雫が垂れ落ちた。
レオンパルドの魔力の膜を抜け、腰の位置に手甲を当てた。
「な、なんだっ?!」
打撃ではないソレに声を上げた。
叩きつける必要はない。
ただ静かに添えた。
ナツの全魔力が光りに染まり獣王を突き抜けた。
レオンパルドが大きく身体を震わせる。
口から血を吹き出した。
ヨタヨタと前へと進む。
だが膝をつく事はない。
王としての矜持なのだろうか?
フラつく身体でナツとフユを視界に収める位置へと向きを変えた。
レオンパルドは全身が大きく震えていた。
白目を赤に染め吐く血は止まらない。
ナツは魔力を全開まで振り絞って息も絶え絶えになっていた。
フユは折れた右腕をダランと下げ、ヒューヒューと喉を鳴らしていた。
「・・・見事だった」
そう告げレオンパルドは優しく微笑んだ。
そして目を閉じ一言呟いた。
「だが・・・再生・・・」
その瞬間、レオンパルドの震えが止まった。
吐血も収まり生命力が漲っていくのを感じる。
開かれた目は・・・何時もの獰猛な目に戻っていた。
ナツとフユは声を出す事も出来ないでいた。
既に満身創痍。
荒くなった呼吸を整える事だけを考え、一挙手一投足を見守った。
そしてオリハは下唇を噛んだ。
甘かったと悔やんだ。
スキルの存在を考えていなかった。
「よくやった・・・儂をここまで追い詰めたのはお前らが初めてだ」
そう言いまだ闘志を目に宿した二人を見る。
千尋の谷から這い上がった同族の子らに心からの喜びを抱いていた。
「まだ若い、慌てる必要はない」
そう告げ魔力の濃度を更に上げた。
限界という壁を超えた魔力が色をつけ始める。
真っ赤に燃え上がる様な真紅の色を。
その圧を受けナツとフユは身を震わせた。
幾度も味わったオリハと変わらぬ圧を前に震えた。
「お前らならいつか儂を超えられるかもしれん・・・だが今はまだ早い・・・白旗を挙げる勇気も大事だ」
そこに捕食者の目はもうなかった。
慈しむ目と圧倒的な力の差を前に、二人は闘志を失い静かに頷いた。
レオンパルドの魔力が色を失い、今年の勝者が決まった。
自国の王に歓声が湧き起こる。
そして死力を尽くした子供達に。
レオンパルドが二人にハグをして、健闘を讃えていた。
そこには立派な獣の王者が確かにいた。
オリハは気が抜けた様に席に座った。
ハルとアキも同じ様にポフッと座った。
涙する二人の頭をそっと抱き寄せた。
オリハは静かに目を閉じた。
・・・この流れで我の事を忘れてくれないだろうか、と。
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