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第7章 ノーセスト王国編
7-6 神の武器、茶番
しおりを挟むオリハはニコリと微笑んだ。
そして扉の方へと足を進めた。
「宰相殿、久し振りだな」
そう言い悪臭の横にいる男に声を掛けた。
獣王国の来賓室で挨拶をした男だった。
「獣王国以来ですかな、お久し振りですな」
そう笑顔でオリハが差し出した手を握り返した。
気になる事もあったので魔力の解析により魂の確認もしておく。
魂も感情も問題ない。
宰相殿は白のようだ、とオリハは確認する。
「ドルトン、知り合いなのか?」
「ご報告致しました隣国での武闘大会で、獣王殿をフラれた御方ですよ」
「・・・宰相殿、別の言い方はないか?」
そう王に説明する。
何故かエインから喜びの感情を感じた。
お主は関係ないだろうとオリハは眉を顰める。
取り敢えず何処の馬の骨でもなくなったと、安眠中ではあるが痛々しそうに包帯を巻かれた皇太子の元へ戻ろうとした。
「挨拶もまともに出来んのかっ!これだから耳長はっ!」
「女相手の挨拶の仕方も知らないのか?」
口を開き掛けた王を遮ってオリハが先に言い放った。
「なっ!」
「初対面の女性相手なら容姿を褒めても良い、ああ「僕」は駄目だぞ?「私」と言った方が良い」
「ふ、ふざけるなっ!」
「違う、そこは「初めまして」だ」
誰彼ともなく失笑が溢れた。
それに伴い挨拶も出来ない男の役は顔を赤く染めていく。
当然照れからではなく怒りからだ。
「す、すまない、くっ・・・お、弟が失礼した、これはオルディス・ダリス・ホールド公爵だ」
「ほう、王弟殿下殿か、我はオリハという」
そう言い手を差し出した。
王弟はその手を無視してオリハを睨みつける。
「・・・どうした?握手の仕方から教えねばならんのか?」
「っ!」
勢いよくその手を握り返した。
外目からも怒りに任せて力を込めているのが分かる。
それに対してオリハの顔はただ侮蔑の笑みを浮かべる。
「・・・手が汗ばんでいる時は拭いてからの方が良い、それでは女にモテないぞ?」
「っ!?」
王弟は慌て手を離した。
手を握りしめ肩をワナワナと震わせる。
オリハはついでに解析も済ませていた。
魂には何の影響もなくただの黒幕と断じた。
「オリハ様、どうぞ」
「ああ、ドゥエムル公爵、ありがとう」
そう言いエインはハンカチを手渡した。
敢えてオリハは王弟と同じ公爵と呼んだ。
完全に嫌味である。
「皇太子達を診て構わないか?」
「は、はい!お願いします」
王弟はもう口を挟まなかった。
怒りに震えながらも片側の口角を持ち上げていた。
やれるものならやってみろと言わんばかりに。
ベッドの足元から上がり手を握った。
オリハは解析で呪いを探す。
解呪が効かないという事から検討は付けていた。
単純な魔法による呪いであれば解呪が効かない訳がない。
そしてウネウネと動く粘液を見つける。
それは魂に癒着していた。
「恐らく蠱毒・・・の類いだろう」
「ど、毒なのですか?!」
「怨念と言った方が近いだろう」
そしてオリハは説明する。
魔物と魔物を戦わせて生き残った魔物をまた魔物と戦わせる。
延々と繰り返されるその行為により怨念という毒を含んだ肉になる。
それを食事に混ぜられたのだろうと。
何故そうなるのか今なら分かる。
元々魔物は怨念に近い感情の集合体である魔澱みから生まれる。
その持って生まれる悪しき感情がかけ合わさるのだろうと。
「そ、それで・・・」
「大丈夫だ、これなら治せる」
そう王と王妃に微笑んだ。
「「「「っ!」」」」
その微笑みに4人がビクッと肩を震わせる。
声を出さずに涙を流す者。
それを抱きしめる者。
ハンカチで目を抑える者。
そして驚愕する者と。
・・・隠す気はないのか?
とオリハは呆れ顔だ。
子供達は大丈夫なんだ、と胸を撫で下ろしている。
そしてエインを見た。
労うような笑みを返される。
お主のためではない、と内心悪態をつく。
「オリハ様、治癒にお時間はかかりますでしょうか?」
これにオリハは片眉を上げた。
エインは聞いてはいるものの、これは暗に時間をかけろと言っているのだ。
「そうだな・・・失った体力の回復もある、見た目は直ぐに元に戻るのだがな・・・」
時間については明言を避けつつ、直ぐに治すと遠回しに伝えた。
エインが望む時間をパスした形だ。
「では前になされたように24時間という所ですか?・・・起きられるのは」
「そうだ、一度では負担もかかるだろう、二度に分けるつもりだ」
「前に」とは呪いに対してではなくエインにした事を指したのだろう。
その為に「24時間」と言い切り「起きる」という言葉を使ったと理解する。
そしてそれをやれと言ったのだ。
これにオリハは了承し、分ける必要はないのに「二度」と言った。
これはエインに対してではなく王弟に対してだ。
つまり一晩時間を与えた。
かかってこいと。
「流石はオリハ様です」
満足げにエインはそう笑った。
手の平の上は面白くはないが、子供達のためだと不満を飲み込んだ。
「この子達に良く歌って聞かせた歌などはあるか?」
王妃に向き直りそう聞いた。
自分の所為で、そう思っているだろう負担を少しでもオリハは軽減してやりたかったのだ。
同じ母として。
「その、精霊歌を良く歌ってあげましたが?」
「そよぐ風、で始まるエルフ族の歌か?」
「はい、そうです」
「我のスキルだが・・・歌声に込めた願いを相手に届けるという物なのだ・・・だから王妃の治したいという願いを借りたい、共に歌ってくれぬか?」
オリハは固有魔法である[Holy Sing]で祓えると判断した。
当然スキルではないのでただの誤魔化しである。
そして治す為に王妃が必要であるかのように言った。
きっと悩んだであろう。
私さえいなければと。
だがこの子達には母親は必要なのだ。
ならスキルだと謀ったとして何か問題があるか?
効果を偽ったとして何か咎めがあるか?
後は最後まで演じきるだけだ。
王は王妃に優しく頷いた。
それに強く頷き返す。
手袋が汚れることも厭わず腕で涙を拭った。
エスコートするように差し出したオリハの手に手をそっと重ね、ベッドの前まで歩む。
「治したい、それだけ念じろ」
「はいっ!」
そよぐ風 揺れる水面
Swaying wind and Water surface
そこにあるは恵みの意思
There is a grace of force
歌うという意思の元発せられる音は部屋に静かに力強く響いた。
王妃は子供達に願い聞かせるように。
オリハは魔法言語で。
異なる言葉は金色の魔力により絡み紡ぎ織りなされる。
(・・・あながち嘘ではなかったかも知れぬ)
織りなされた音は金色のヴェールになり子供達がいる天蓋でふわふわと漂い、そしてくるくると回った。
王妃の願いという歌を受け取り、自然と[Holy Sing]に乗せたのだろうとオリハは感じる。
育む大地 芽吹く緑
Earth and green to nurture
そこにあるは優しき意思
There is a graceful of force
金色のヴェールから光が優しく降り注ぐ。
その光が子供達に染み入るように流れ込む。
浄化される怨念は優しさを懐古する。
絆された呪いが煙と化し天へと昇って行く。
聴き入る者は全て惚けた。
神聖な儀式を前に見入った。
それは確実に治癒すると確信される光景。
その光景を邪魔しなくてはと、慌て動き出したのは王弟であった。
オリハはそれに気づいていたが放置した。
肩へと伸ばされた腕を薄紫色の手が掴む。
麗しの君の歌を妨害しようとしたと、怒りが丸い顔に滲む。
腰を抜かしへたり込んだ王弟にマリアが指を口に当て「お静かに」とマナーを教えた。
四季を彩る精霊に心からの感謝を・・・
Thanks to the spirits that decorate the four seasons・・・
浮腫のように腫れた肌が元に戻った事により、包帯が緩んだようだ。
風の精霊が音楽鑑賞のお礼とばかりに室内を漂ったようだ。
ハラリと捲れる包帯から綺麗な肌が見えた。
それを見て泣き崩れた王妃を他所に、オリハは再度王太子達を確認した。
魂に付着していた粘液は一雫残らず消えていた。
そして24時間眠れるように睡眠魔法をかけた。
煩わしい物を、醜い物を見ないで済むように。
「明日また来る」
そう王へ手を差し出した。
「あ、ありがとう」
握り返した手から解析する事は忘れない。
狂気を感じる事もなくオリハは安堵した。
子供達を連れ部屋を出た。
王の手をエインが握り、表情とは裏腹の感情を示していた。
言葉を交わしたようだがオリハの耳には届かなかった。
聞く気もなかった。
どうせ父親としての心構えでも説いたのだろう。
わいわいと我が物顔で王城を歩く。
「オリハ様っ!」
パタパタとエインとマリアが駆け寄ってきた。
「さ、先程のアレは何で御座いますかっ!」
さらっと嘘だと断定された。
口を尖らせエインをジト目で見る。
「・・・他の者にもバレておったか?」
「国王陛下と宰相閣下以外は大丈夫かと」
「・・・なら良い」
プイッとエインから顔を背けた。
拗ねた声と異なりほんのりと笑みを浮かべながら。
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