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第8章 サウセント王国編
8-7 神の武器、スタンピード
しおりを挟む王城に立ち入るとアルベルト子爵が先に到着し、オリハの来訪を言付けていたようで、子供達共々王の元へとそのまま通された。
案内されたのは、王が座する謁見の間ではなく来賓室だった。
理由はもう一人の王が来た事によるものだろう。
「おうオリハ、儂に会いに来たか」
「違います!私の所にお戻りになられただけに御座いますっ!」
そう言い向き合い視線で火花を散らす。
オリハはその二人を無視する事にした。
相手をしていては話が進まない。
そして面倒事にしかならない確信があったからだ。
押さえ役を探したが、流石にマリアは別室のようだ。
立場上、侍女なのでこればかりは仕方ない。
「ああ、オリハちゃん、アルベルト子爵から子細は聞いたよ、お疲れちゃん」
サウセント国王陛下が軽く手を挙げ、アルベルト子爵が低頭を以って礼を告げた。
王としての態度ではない。
本来ならば「有難きお言葉」などと膝をつくべきところだろう。
「ついでだ、気にするな」
ならばこれで充分だ。
「それより子供達の件だが・・・」
「うん、それもようやく検討がついたようだね」
視線をアルベルト子爵に向け言葉を促した。
「はい、北西の魔澱みの魔物の管理は徹底しておりました、屍軍舞の予兆など皆無だった筈です」
「・・・人を隠すなら人の中だと思ったんだけどねぇ」
だからこそ遅くなってしまったのだ。
深い溜息をつき、今度はオリハに視線を向けた。
理由を探るような、試すような視線だ。
屍軍舞と誘拐された子供達との関連性。
場所として魔澱みを選び、その魔澱みの異常な変異。
知っているんだろう?
そう問われているのが分かった。
「・・・すまないが、先行させてもらう」
この王なら情報統制をしてくれるだろう。
それにこの場にエインもいる。
悪い結果にはならないとも思った。
だがこの世界には禁呪は不要な情報なのだ。
ならば伝える必要はない。
そして最悪の事態が起こる前に全てを終わらせる。
オリハはそう判断した。
「・・・出来れば討伐隊組むまで待って欲しいんだけどねぇ」
その口から飛び出た言葉は視線を外して言われた。
ただの望みである。
理由を言わないオリハの言にオリバーは従った。
言わないだけの理由があるのだと察してみせた。
そのやり取りの横でオリハに無視され、子供達にちょっかいを掛けていた獣王が口を挟む。
「おい、手を貸そうか?」
助かる、その言葉を飲み込んだ。
何せ惨劇の狂気が相手だ。
強者の手は欲しい。
レオンパルドの力量なら問題はない。
そう、力量だけなら。
「何、うちのガキ共も攫われてんだ、側妃になれとは言わん」
そうだ。
こういう王でもあった。
「レオ・・・」
「代わりに一晩だけ付き「断る」
そうだ。
こういう男でもあった。
「オリハ様っ!わ、私は見返りなど求めませんよっ!」
だがご褒美は欲しいのだろう?
そうエインをジト目で見ればサッと目を逸らした。
やはり話が進まなくなった。
「大変だねぇ」
何がそんなに面白いのか。
含み笑いを隠さないオリバーに嘆息を漏らした。
「オリハさん・・・足手まといは承知の上で・・・同行させてもらえないでしょうか?」
「・・・待ってはおれぬか?」
先程とは違う。
我が子の為に何かを成そうとしている。
悲壮なまでの決意を伝える匂いを出している。
母である己には断れない。
そう思いながらも問うた。
「・・・私には・・・もうあの子しか残されていないのです・・・それに後発部隊を状況を踏まえた上で指示出来る者がいた方が良いでしょう?」
「死ぬつもりはないな?」
「ミシェルの・・・娘の命と引き換えでない限りは」
オリハの好みの答えであった。
覚悟もなく付いてこられても迷惑なだけだ。
生半可な覚悟でも迷惑だ。
死なない決意と身命を賭す決意。
相反する心こそが不可能を可能にする事が出来ると、オリハはそう考えている。
「ひとつだけ条件が・・・っ!」
オリハが扉に視線を移した。
時を置かずにレオが耳を動かし、エインがアキとハルを背に、ナツとフユが構えをとった。
来訪を知らせる音はノックではなく足音で知らされた。
無遠慮に両開きの扉が勢いよく開かれる。
「へ、陛下!大変です!ま、魔物の大群がっ!」
「・・・また屍軍舞か?それとも別の軍舞か?」
この男は無礼講でなければまともなのだな。
オリハの感想は別の物だった。
「いえ!支配者級は確認されておりません!大量発生のようですが・・・ただ規模がっ!」
そして「外をっ!」と促され、テラスから北西の地平を眺め見ると、蠢く黒い波がそこにあった。
「・・・時間稼ぎにしちゃ豪勢だねぇ」
オリバーが渇いた笑いでそう呟いた。
元に戻って残念に思うと共に、オリハはその思慮に片眉をあげた。
「時間稼ぎ・・・だと思うのか?」
「ん?そうじゃないの?」
何処まで察しているのやら。
ただそれにはオリハも同意であった。
神の武器たる己の存在を、狂気が、全知で、その気配を察したのだと。
禁呪の目的は魔物を生み出す事ではない。
ギュストの肉体を現界させる事でもない。
禁呪で失われた魂が天へと還る道を辿り、ギュストも天界へ。
そして神殺しを成すつもりなのだと。
その為の時間稼ぎ。
それと神の武器の余力を削ぐつもりなのだろう。
そうこう見ている間に、魔物の波は押し寄せて来ている。
これを蹴散らしてあの場に向かうのは、オリハとて骨だ。
そして辿り着いたとして、出迎えるのは惨劇たる狂気。
ギュストはスキル[全知]にて最善の手を打った筈だ。
「城の守りは問題ないか?」
「立て籠もるだけなら大丈夫、かなぁ」
そしてオリバーは兵士に指示を出し始めた。
魔術師達に結界をより強固に。
保管している食糧の確認。
情報統制と指揮系統の確認。
(成る程、これが狐の王か)
想定外の事態の筈だ。
それでも慌てる事なく淡々と指針を示す。
「やれる事をやるだけだよ・・・オリハちゃん、悪いけど後は頼むね」
そしてその考えを読んだかのように答え、手を振りながら部屋を出て行った。
(やれる事を、か)
最早、一刻の猶予もない。
立ち塞がるは万を越す魔物の群れ。
脚本通りとはいえやらざるを得ない。
「おいおい、時間がねえんだろ?一番槍は儂だ・・・こっちも、あっちもな」
どっちだ?
そう訝しげに突っ込みの視線をレオに向けた。
ソファから立ち上がり、肩と首を回しポキポキと音を鳴らす。
「道は作ってやる・・・儂に惚れろよ?」
「オリハ様の道は私めが作ります、貴方は下がって下さい・・・邪魔ですから」
「ああん?!」
「オリハ様の下僕たるこの豚めが露払い致します、是非、踏みにじって進んで下さい」
それは比喩なのか、実際になのか。
恐らく両者であろう。
「惚れはしない、踏みもしない・・・だが、レオ、エイン、頼めるか?」
神の武器は理の中、全知の対象である。
だが魂はそうではない。
スキルで全てを察知する事は不可能な筈だ。
その神の武器に対しての策であれば、この二人の存在は含まれていない可能性もある。
つまりギュストの想定外かも知れない。
「ふん、任せておけ」
そう言うと、燃え盛る炎のような紅い魔力で身を包みテラスから飛び降りた。
浮かべる表情は愉悦。
獰猛な戦闘狂が先に戦場へと舞い降りた。
「あの猫は色持ちでしたか、ならば遠慮はいりませんね・・・アキ、オリハ様を頼みますよ」
「は、はい!」
丸いゴム毬が跳ねるようにテラスから跳ね降りる。
浮かべた表情は憤懣。
憤怒の化身が戦場へと獣を追いかけた。
「ねえママ、エインさん・・・大丈夫?」
ナツが不安げに聞いてきた。
エインに稽古はつけてもらった。
確かに強かったが、獣王に比べそこまでの差を感じなかったのだ。
「ん?・・・ああ、そうか、ナツ達は知らぬか・・・本気のエインは強いぞ?」
「父上が?」
「うむ、まあ見ていろ」
ここからなら戦場が見渡せる。
あの二人なら問題はない。
何せオリハが戦場を安心して任せられる数少ない存在なのだから。
その二人が道を作ると、露払いをすると言ったのだ。
道を作る頃合いまで見届けてやろう。
「アルベルト殿は出立の準備を」
「っ!良いのですか!?」
「うむ、だが条件がある」
先程言いかけた続きだ。
その心と想いがあれば充分だ。
我が子の為に存分に命を懸けろ。
だが案ずるな。
天秤にすら掛けさせぬ。
「・・・ついて来い、決して遅れるな」
「はいっ!」
ならば守ってやろう。
同じ子を持つ親として。
ならば叶えてやろう。
同じ子を持つ親として。
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