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第8章 サウセント王国編
8-17 神の武器、未来に捧げるみらい
しおりを挟む自分には才能がある。
根拠はない。
だがそれを確信していた。
今でもそうだ。
このままでは終わらない。
何となくそれを感じていた。
その兄や姉の斬撃が見える訳ではない。
まだ幼い動体視力では捉える事は出来ない。
だが何となくだが戦局が分かる。
そして最後には必ずここに来る。
それだけは確信していた。
だから自信を持って言える。
ぼくはてんさいだ、と。
ここに来る前に父の戦いを遠目に見た。
オリハは[魔王]と言った。
そして感じた。
アレはぼくのなかにもいる、と。
ただそれは将来の話だ。
何年先かまでは分からない。
だが遠くない未来、間違いなく得られる力だとアキは感じていた。
瞬時に開いたティダとギュストの距離は絶望を感じさせた。
ナツはその一撃に込められる全てを詰め込んでいた。
フユは壁に余裕なく衝突した際に足を痛めていた。
シャルには瞬時に対応する術はない。
だから予期せぬギュストの動きに対応する事は出来なかった。
ティダは慌てる事なく剣を構えた。
肩に担ぎ剣先を後方へと向けて両手でしっかりと抑えながら。
不安はなかった。
ティダは確信する。
間に合う、と。
そうスキルが教えてくれた。
そして剣へと魔力を流し始めた。
嵐の檻をただ見上げていた。
オーウェンもハルも。
アキはそっと後ろから抱きついてくれるハルの手を上から重ねた。
振り返り見上げて・・・微笑んだ。
素人目に勝負がついたように思えた。
だからハルはしがみつくような力を解き、アキに微笑み返した。
(姉上は・・・ぼくがまもる)
未だ力を宿さないその体で誓う。
発展途上と呼ぶのすら烏滸がましい。
戦闘の手解きすら未だ受けてはいない。
年の割に多いとはいえ、この場において魔力とて微々たる物だ。
その魔力はオーウェンにすら劣るのだから。
だがそれが出来るとアキは確信していた。
そしてハルの腕から惜しむようにスルッと抜け出た。
トコトコと仕方なくオーウェンの前へと進み出た。
見上げるオーウェンにその姿が見えなかったのは不可抗力だった。
誰から教わった訳でもない。
アキは自然と怒りを呼び起こす。
大切な者を傷つけようとするその存在を思い浮かべながら。
そしてソレを魂が拒絶する。
まだ早い、その時ではない、と。
それは反動となってアキに電流のような痛みを与える。
その痛みに幼い体は悲鳴をあげる。
抗う為に声には出さなかった。
その痛みすら怒りの種火にする為に薪として焚べた。
その手段が自分の命を懸ける行為だと察していた。
それを天秤にかけてさえ守りたい存在がいる。
自分がまだ幼い事などを言い訳にしたくなかった。
身体の成長に伴い強くなれた筈だ。
将来、姉を守れる存在になれた筈だ。
でもそれは今ではない。
その不甲斐なさも薪にして怒りに焚べた。
痛みに耐えながら両手を前に。
天才であるが故に至ってしまった。
魂を捻り、強制的にスキルを発動させる方法を。
幼き故に、柔らかく未熟な魂であるが故に至ってしまった。
その未来を犠牲にする方法を。
それは瞬きの間であった。
嵐の檻から魔人が解き放たれ、ナツとティダが追撃を仕掛けた。
肩から先を失った魔人が、声にもならない雄叫びを上げながらこちらに向かって来る。
状況を判断する時間さえ無い。
オーウェンには子供達を庇う時間すら許されなかった。
アキだけがこうなると予測していた。
そしてその準備を終えていた。
スキル発動の為に鍵を静かに回す。
柔らかな鍵穴は激しい痛みを伴い、魂ごと捻り捩じられる。
「・・・っ!・・・ぼくがっ・・・[まおう]だっ!!!」
漆黒の魔力が小さな手から前へと噴き出す。
アキの元々の魔力量が魔力量だ。
スキルを発動させたとて爆発的な魔力の上昇はあり得ない。
それでもその漆黒の魔力はしっかりと[まおう]の特徴を宿す。
そして命じる。
大事な者を奪おうとする輩に。
「ひれふせっ!!!」
「ガッ?!」
その言霊一つ。
それがアキの[まおう]の限界だった。
限界を迎えた魂は強制的にスキルを解除させた。
漆黒の魔力が霧散する。
それと同時にアキの意識が途絶え、膝から崩れ落ちた。
そこまでしてもギュストを地に伏させる事は叶わなかった。
片腕を失おうとも、致命傷を受けていようとも、相手は狂気だ。
その脚を止めるだけで精一杯だった。
そしてそれで充分だった。
動きを止めたギュストの体から剣が生える。
「・・・終わりだ」
深く突き刺した剣をティダが捩じり抜く。
糸の切れた人形のようにギュストが地に落ちる。
完全に受肉しているため、今までのように狂気が抜け出る事はない。
歴史は繰り返される。
それは狂気による破壊の歴史ではない。
獣人が、エルフが、魔人が、そしてドワーフの作った武器を持ち人族が惨劇を止める、その歴史だった。
「アキっ!」
そしてティダはギュストを尻目にアキへと駆け寄った。
抱き抱え頬を軽く叩く。
だが反応は無い。
「シャル!来てくれ!」
言うまでもなく誰も彼もが駆け寄って来た。
フラフラとしながらもナツが、そしてフユが。
「貸して!・・・ひ、酷い・・・」
アキを引っ手繰るようにティダから抱き寄せ、シャルは回復魔法と並行して魂の解析を行った。
器としての魂が完全にへしゃげてしまっていた。
既にシャルの魔力は、大魔法は使えなくとも普通に魔法を扱える程には魔力が回復している。
最大値が跳ね上がった恩恵でもあった。
「・・・絶対助ける」
そしてアキに魂の回復魔法をかける。
じっくりと負荷をかけないように。
それは潰した空き缶を元に戻すような作業だ。
急激に伸ばせば、魂は割れて壊れてしまうだろう。
「何がどうなったんだ?」
「あんたと同じよ・・・無理にスキルを使ったんだと思う」
「あー・・・それでアキは大丈夫なのか?」
「・・・気が散るから静かにして」
シャルの額から脂汗が流れる。
繊細で緻密な魔力操作が要求される。
その上扱う魔力はそれなりに膨大。
シャルの回復する魔力をそのままに、魂の回復魔法へと変換していく。
ただ時だけが過ぎる。
まだ柔らかく幼い魂であった事も要因の一つだ。
成形を終えて皺を伸ばすような作業へと移っていた。
年経た魂であればこうもいかなかっただろう。
そして白い光が終息していく。
「・・・ふぅ、終わったわ・・・もう大丈夫よ」
息を深く吐き、魂の外科手術を終えた。
どうしようもない箇所もあった。
そこは繋げて不要な箇所は切除した。
一回り小さくはなったが、皺一つなく綺麗な状態に戻した。
ナツが喜びの遠吠えを上げ、フユとハルは抱き合い泣き崩れた。
オーウェンは胸を撫で下ろした。
(・・・でも・・・ティダと違って・・・)
それは口にはしなかった。
小さくなってしまった事により、魂の余白はなくなってしまった。
オリハが行ったとしても、その結果は変えられなかっただろう。
この先、もうアキはスキルを使う事は出来ない。
それが未来へと捧げた代償であった。
そしてティダは剣を構え振り返った。
「・・・マ、マダダッ・・・マダオワラセナイ・・・」
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