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第8章 サウセント王国編
8-18 神の武器、ギュスト
しおりを挟む地の底から響かせるような怨嗟の声をあげる。
胸には穴が空き、血が流れ続けている。
生物として既に終わっている。
それでも意識があり這うように動くのは執念だ。
それは狂気故の妄執。
辺りの魔素を急激に吸収していく。
崩壊する体を維持する為に。
「いや・・・もう終わりだ」
ティダに油断はない。
これまで剣を交わしていたからこそ油断はしない。
まだ目は生きている。
紅く燃える狂気の炎をその目に宿しているのだから。
静かに魔力を込める。
十全に剣を振るう為に。
それは必殺にして必勝。
「・・・やめて・・・」
囁くような声にその剣が止まる。
「もう・・・いいよ・・・」
泣くように囁いたのは・・・ハルだった。
涙を袖で拭い立ち上がる。
「お、おい」
「大丈夫だから」
歩み寄ろうとするのを止めるティダをキッパリと制した。
「お兄ちゃん・・・さみしかったんだよね?」
「・・・」
「ねぇ、わたしが友達になってあげる」
「・・・クッ・・・あはははは、僕と?友達に?」
「うん」
「僕は・・・さみしかったのかな」
「・・・ちがうの?」
ギュストは仰向けになり目を閉じた。
「・・・そうだね、さみしかったんだ、きっと」
誰もいなくなった。
誰も助けてくれなかった。
誰も分かってくれなかった。
理解者であり共犯者とは意思の疎通は出来なかった。
だから少しでも・・・この世界を良くする方法を[全知]に教えてもらった。
それは自分が世界にとっての共通の敵になる事だった。
狂わなければやってられなかった。
狂うための理由はある。
全てを神々の所為にすれば良い。
何せ怠慢していたのは事実なのだから。
自分を止められるか、世界が壊れるか。
五百年前は結果を見ずに賭けに出た。
結果を知ってしまえば狂う事も出来なかっただろう。
「ねえ・・・君は・・・さみしくないかい?」
一度狂った歯車は止められない。
壊れてしまうまで。
だから受肉した。
誰かに止めて欲しかったから。
そしてギュストは静かに目を開けた。
最後に聞きたかった。
そして目で見たかった。
自分の言葉を。
「・・・うん!」
「なら・・・うん・・・よかっ、た・・・」
狂気は滅んだ。
その結果だろう。
ギュストの目には紅い炎は消えて、元の色へと戻っていた。
青空のような、澄んだ空のような。
そして静かに目を閉じた。
眩しくて堪らなかった。
肉体が滅んでいくのを感じる。
仮初めのこの魂は消滅するだろう。
だが寂しくはない。
悲しくはない。
心の底から笑う自分がそこにいるのだから。
サラサラと砂となり、その肉体が消えるまで、誰も口を開かなかった。
気が付けば辺りの魔素も消えて、魔澱み自体が消え去っていた。
ダンジョン化していた遺跡は元の古い遺跡へと姿を戻す。
日の光が射し始めた。
「・・・やばっ!」
そう声を出したのはシャルだった。
消費していた魔力が回復して、再び色を持ち始めた。
「お、おい、それ止めろよ」
「せ、制御出来ないの!・・・ど、どうしよ・・・」
取り敢えず片っ端から回復魔法を飛ばしてみる。
だがその程度では消費が追いつかない。
害意が無いので威圧感はないが、単純な圧はある。
近くにいられる状況ではない。
「・・・離れようぜ」
「「うん」にゃ」
「ま、待ってよ!ちょっと!何とか・・・あっ!オリハさん!」
魔澱みではなくなり、地下の気配が感じられるようになった。
それは地下からも言えた。
強いシャルの魔力を感じたオリハが子供達より先に顔を出した。
「・・・何があった?」
戦闘も終わり、狂気も消えたようだ。
魔澱みも消え、ダンジョン化すら解除されている。
ナツとフユの気配が変わり、シャルの魔力量が尋常ではない量になっている。
流石に戸惑わずにはいられないだろう。
「お、オリハさん!・・・コレ・・・何とかしてぇ~っ!」
その後、シャルに魔力の制御を教え、アキの状態を確認して安堵する。
ナツとフユをわしゃわしゃと撫でてやり、ハルを抱き抱えた。
オーウェンはミシェルを見つけ抱きしめていた。
「ねえ、お母さん」
「ん?」
「おつかれさまでした」
「うむ」
そして新しい子供達を紹介した。
既に弟、妹扱いである。
先の事など、オリハに考える余裕は無い。
「・・・すげえ増えたな」
そう言うティダは置いておく。
大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせながら。
確かに針は動き出した。
動き出した針を止める事は誰にも出来ない。
だが今日、明後日、一月、二月、そのような感じでない。
一年か二年か、または数年先なのか。
そこまではオリハ自身とて分からない。
いつかは天へと帰る日がやって来る。
その日まで・・・後悔だけはしたくない。
その日まで・・・我は母なのだから。
「ハル」
「なに?」
せめて・・・せめてハルが成人するまでは。
せめて、生きやすい世界にしてやりたい。
「・・・何でもない」
「へんなの」
世界は決して優しくはない。
意図せずとも起こりうる不幸とてあるのだから。
「・・・今、何と言った?」
オリハは一国の王にそう聞き返す。
「だからオリハちゃん、この国で司祭やんない?」
「違う!そっちではない」
「ああ、うん、孤児院の運営の方かな?」
誘拐された子供達の中にはそういう子も出るだろう。
それを見越してオリバーはサテライトの街に孤児院を併設した教会を作ったと言う。
「・・・良いのか?」
「あれ?嫌なの?」
「い、嫌な訳があるか!」
オリハにとっては、寧ろ願ったり叶ったりだろう。
各国には保護者が迎えに来るまでは、この国で預かる旨を通知してあるという。
見知らぬ大人に囲まれて、誘拐された子供達を連れ帰すのは、精神的な不安になるだろう、という大義名分からだ。
何よりオリハに懐いている。
ならばそうした方が良いだろう、というオリハ包囲網である。
その意図を理解するエインとレオは「ぐぬぬっ」と唸っていた。
オリハにとってもそうだ。
このまま旅を続ける。
それは子供達の負担にしかならない。
腰を据えるのは決して悪い話ではない。
当然だがオリハもその意図を正しく理解している。
何かしらに利用しようという腹だろう。
だが子供達という餌が極上なのだ。
その上、王都に囲い込むのではなく、やや離れた街の方だ。
ならば鬱陶しくなくて良い。
「傷付いた子供達を救うと思ってさ・・・やってくんない?」
もう駄目押しである。
「こ、子供達の為なら仕方あるまい、うむ、我が引き受けよう」
「「ぐぬぬぬぬっ」」
これは神の武器の物語。
幸か不幸か魂を得てしまった神の武器。
地上へ遣わされたその神の武器が、再び天へと帰るまでの物語。
時計の針は緩やかに進む。
秒針は動く。
時針の如き緩やかさで。
終演に待つのは幸せの旅路なのか。
それとも悲しみの旅路なのか。
これは神の武器の物語。
オリハに待つのは人としての幸せなのだろうか・・・
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