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最終章
最終章-3 神の武器、狩り
しおりを挟む先行していた冒険者達とはすんなりと合流する事が出来た。
今はオリハ達の遥か後方で休息を取っている。
少人数で構成されていたので、交代で休息を取る事が出来なかったからだ。
ナツとフユは予定通り単独で動いている。
森と国境を隔てる壁を包み込むようにして、魔淀みが展開されているのがその理由に当たる。
グラード王国が帝国であった頃に、幾度のなくサウセント王国との国境線を押し上げていた。
この辺りは旧前線にあたる。
オリハ達の行軍中に砦跡地は数あれど、大きな街はなかった。
豊かな土地はあれど、戦火に巻き込まれる風土だったのだ。
逆にグラード王国側は攻め込む側だったので、国境付近にいくつかの街がある。
我が国の街があるのだから、この土地は我が帝国の土地だ、という実行支配というやつだ。
つまり魔淀みのあるこの場所から一番近い街はグラード王国側なのだ。
そしてヒトの悪意を吸収し、憤怒の塊となった魔物達は間違いなく近場から襲いかかるだろう。
それで困るのはオリハだ。
言うまでもなく単独での討伐は可能だ。
肉質を問わないという前提条件であれば。
現在のオリハの立場上、グラード側のギルドに行く事は出来ない。
名目上は防衛、討伐なのだから。
ならば是非にでもオークキングには東へ来てもらわなくてはならない。
ここで暗躍しているのがナツとフユになる。
現在、二人は冒険者でいうところのC級だ。
斥候役として国境線を超える事になんら問題はない。
その際に魔物側の斥候を仕留めたとしても問題はない。
戦闘の痕跡はないのに血の跡だけが残るような、そんな手間を加えたとしても、だ。
それとは逆に、東側に放たれた斥候とは戦闘はあるものの、魔物共は敢えて帰還させている。
これは誘いだった。
街は近いが情報収集の出来ない西側と、街は遠いが情報収集の出来る東側。
薄気味悪い敵がいるであろう西側に、数も少ない斥候を追い払う程度の戦力しか有さない東側。
オークキングは決して頭の悪い魔物ではない。
如何に怒りに囚われていたとしても、根源たる怨讐を晴らすために選ぶ筈だ。
これにより東側へ来る確率を大幅に上げられた筈だ。
念の為に魔獣対策として自身の到着もギリギリまで抑えた。
成せる事は成した。
後は伸るか反るかの運だ。
(・・・さあ!こっちへ来い!)
だが失念していた。
基本的にオリハは運が悪い事を。
(愛している!大好きだ!だからこっちへ来い!)
思いの丈という涎を飲み込みながら、只ひたすらに願う。
だが明らかに失念していた。
そんなオリハに漸く念願の「Signal」が届く。
[こちらオリハだ・・・フユ、どうだ?]
息を飲みながら返答を待つ。
[あー、ママ?・・・こっち来ちゃった・・・にゃ]
同様に思いの丈を叫ぶ変態と助平をオリハは避けているという事を。
「・・・な、何故だ・・・」
「ま、マム?」
膝から崩れ落ち地面を叩く。
だが地面にひび割れは起きない。
理性と無念と食欲が加減をしているのだ。
まだ諦め切れない己がいるのだ。
[もしもーし、ママー?]
「・・・すまぬ・・・我はまた・・・焼肉を・・・」
フユに答える言葉の代わりに地面に滲みを作った。
周りの冒険者達は、その零れ落ちる言葉で状況を察した。
「し、仕方ねえよ、そういう時もあらぁ・・・なあ?」
「あ、ああ、そうだぜ、マム・・・ほら、こういう時の為に・・・な?」
「立ちなさい、オリハ・・・残党狩り、するんでしょ?」
その可能性も当然話してあった。
「私達だっていけると思ったから・・・だから、ね」
[ママー?]
「ああ、そうだ!・・・残党でも焼肉パーティは出来る!」
「ガキ共の土産にすんだろっ!おいっ!」
[ああ、聞こえている]
「・・・もう大丈夫だ、迷惑をかけた」
鼓舞を受け、砂を掴み立ち上がる。
こちらへ逃げてくる魔物の中に、オークジェネラル程度ならいるかもしれない。
(そうだ・・・思い出せ・・・)
前回のドラゴンゾンビ騒動の時は、ジェネラルすらも口に出来なかった事を。
足りないなら足りるだけ狩れば良いのだ。
質より量という考え方があるのだから。
魔淀みにいるオーク全てを狩り尽くせば良い。
(・・・ああ、他にも・・・方法があるではないか・・・)
そうだ、魔淀みに願えば良いのだ。
心の底から願おう。
愛しのオークキングを。
「・・・諸君・・・豚肉は好きか?」
「・・・ああ!」
「よろしい、ならば焼肉だっ!」
「「「おうっ!」」」
悪意なく召喚せしオークキングの目は、澄み切った目をしている事だろう。
純真な天使の如く、その瞳をを潤ませる事だろう。
そしてその目で見るのだ。
食欲の権化と化した邪神を。
(・・・だが、まずは残党狩りだ)
子供達の食欲は大変旺盛だ。
ナツやフユは特に労ってやらねばならない。
ギルドにもそれなりに迷惑をかけた。
受付嬢達にもお土産がいるのだ。
[フユ、後は好きなだけ暴れてくれ・・・オーク共が尻尾を巻いて逃げ出す程にな]
[ん、分かったにゃ、元々尻尾は巻いてるけど・・・あれ?」
そこでブツッとフユからの魔力が途切れた。
元々が繊細な魔法だ。
戦闘が始まれば魔素も乱れ、会話は出来なくなる。
故に古代ですら廃れた魔法であった。
だが点で捉えているフユの魔力に戦闘の形跡はない。
その点の横に感じるナツの魔力にもだ。
「・・・おい、何だ?ありゃ」
そう横から声が上がった。
西の地、国境壁の更に奥より二本の柱が天を突き刺す。
一つは橙色。
もう一つは若草色。
調べるまでもない。
ここまで届くあの魔力の波動は、オリハが良く知ったものだった。
「くっくっくっ・・・」
接敵している状態ではない。
近寄るなという意思、あれは威嚇だ。
「ふっふっふっ・・・」
「マ、マム?」
お膳立てなのだろう。
あの二人ならオークキングを倒すだけなら苦にならなかった筈だ。
「あっはっはっはっ!」
騒つく周りを他所にオリハは声高に笑う。
そして目端の涙を指で拭った。
それは良く出来た長男と愛弟子を思っての感謝の涙なのか。
自力で長男が限界を超え、色持ちとなっていた事になのか。
恐らく両方だろう。
「来るぞ!オークキングだっ!」
「「「っ!!!?」」」
撤退の先頭はジェネラルやキングの筈だ。
進軍途中から慌てて引き返してくるのだから。
「先頭には我が立つ!散開!然るのちに森に潜み後続を挟撃せよ!」
「「「おうっ!」」」
顔を出すだろうか?
・・・土産がもう二ついるな。
そんな事を思いながら、オリハはゆるりと歩を進めた。
半刻の後にそれは姿を現した。
一際大きな豚は魔淀みとの境から顔を出すと、下卑た笑みを浮かべた。
そしてフゴフゴと鼻を動かす。
目の前の雌は囮なのだと判断する。
姿はなくともヒトの臭いが至る所から漂ってくる。
大きく嘶いた。
それに合わせて、ジェネラルを含むオーク共が森へ散開して行く。
その欲望を隠す事なく、糸を引かせながら舌を舐めずる。
明らかに位が異なる魔力を前に逃走した。
同族ではない雑兵を殿にして背を向けた。
この屈辱を何とする。
まず脚を喰らい腕を喰らおう。
後は壊れるまで、飽きるまで性を喰らう。
そして欲望のままに巨大な戦斧に手を掛けた。
あの時とは違う。
オリハの背にハルはいない。
なら加減をする必要はない。
料理の仕込みとは丁寧さと速度である。
比類無き一足飛びでジェネラル共の首を刎ね、キングの首を正確に1/3だけ斬りつけた。
豚の王にその姿を捉える事は出来なかった。
噴き出す血を止め、傷を塞ぎ、気配を辿り振り返る。
だが雌は居らず、また首から血が噴き出す。
僅かに視界に映ったのは、その欲望を隠す事なく顔に愉悦を浮かべ、舌舐めずりをする剣を抜いた雌の姿だった。
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