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最終章
最終章-4 神の武器、戦の後
しおりを挟む肉の解体は手早く済ませた。
元キングであり、元ジェネラル共だ。
関係者分も含め、土産用に王の肉は小分けに冷凍、封印を施して収納してある。
オリハは待機していた先行隊に合図を送り、焼肉パーティの準備を始める。
土産用を除けば、王の肉はこの場では各自一口分、味見程度といったところか。
ここで打ち上げと称して、たらふく食べるよりもその方が嬉しいだろう。
どうせなら家族と共に食したい筈だ。
食卓を共にしたい大切な者が、各々にいる筈だ。
何よりオリハ自身が一番それを望んでいる。
戦場は既に残党狩りへと移行している。
「ひゃっはー!」「肉だ!肉を寄越せー!」などと楽しげな声が耳に届く。
オリハはそれを手伝うつもりはない。
ノリと勢いで「お肉は網焼きだー!」と言いそうだからではなく、ジェネラル級なら兎も角、只のオーク如きに苦戦するような柔な鍛え方はしていない。
意図した訳ではないが、ここにいる冒険者達はオリハが鍛えたと言っても過言ではない。
現在のオリハの業務は多岐にわたる。
冒険者としてのランクはA。
これは引退する予定はない。
S級へと昇級の通達もあったが、これを拒否。
理由は「孤児院を離れられない」からだ。
住まいは孤児院兼、教会である。
どちらが主なのかは言うまでもないだろう。
なので司祭としての仕事もある。
その業務は冠婚葬祭や悩める子羊の相談、地域福祉などである。
本来であれば、これに寄付を募る活動などもあるのだろうが必要性を見出せない。
金はあるのだ。
仕方なしに変態に感謝せざるを得ない。
何なら「寄付しろ」の一言で済むまである。
リスクが恐ろしいので言うつもりはない。
見習い期間や修行も無しに、司祭としての役職を与えられた際は批判もあった。
だが[子連れの聖母]の名は伊達ではない。
必須とされる聖属性はいうまでもなく、信心は人並み以上。
オリハは直接その神々に造られたのだから。
認めさせる折に、既得権益を貪っていた上層部や権力者がそれらを失う事になったのは想像に容易い話だ。
その司祭の役務の中に軽度犯罪者の更生も含まれる。
本来であれば信徒として神の教えを説くのだろう。
「甘えた事を抜かすな、不満があるなら拳で語れ」
そして愛の鞭と言う名の特訓。
我が子らに戦う術を教える傍でそれを成す。
脚を踏み外した者ほど、強い存在に憧れを抱きやすいのもあったのかも知れない。
または、本当に恐ろしい存在というものを理解したのかも知れない。
世の中には死ぬより恐ろしい事が確かにあるのだから。
更生した者の中には冒険者を職に選んだ者もいた。
新人ながら腕利きと持て囃される。
だが勘違いする者はいない。
あの孤児院の子供達は化け物揃いである。
当初「わたし弱いよ?」と自称する少女にすら敵わなかった。
だからなのか、引き続き教えを請われる。
油断は死を招く仕事だからだ。
気が付けば熟練者も脚繁く通うようになった。
その一部がオリハ目当てであったのは言うまでもない。
そういう連中は笑顔の少年が遠慮なく鼻を折っていった。
余談にはなるが、アキには5年前の影響が出ていた。
魔力を感じる事が出来ない「魔力不感症」という症状に侵されていた。
その名の示す通り、魔力を一切感じられなくなったのだ。
目に見えない微細な魂の傷と、幼い身で色持つ魔力を経絡に通した所為だとオリハは診断した。
だから剣を学び始めた。
それはアキにとって当然であり必然。
母を姉を、そして新たな妹達を守るのは自分なのだから。
そしてシスコンが加速したとしても不思議ではない。
孤児院は極楽郷なのだから。
そんなアキに敵は多い。
オリハを狙う輩は多い。
その中には父親も含まれている。
最近はハルに集る王子までいる。
故に強さを求めた。
そこで強さを選ぶ辺りが母親からの影響と教育の賜物なのだろう。
そして孤児院の責任者。
これについては「母親は仕事ではない」という理論で割愛される。
明らかに多忙な日々。
だがそれを煩わしいとは思わない。
残された時間には限りがある。
だからこそ、その日が訪れるまでやりたい事をやるのだと決めた。
そしてやり残した事がまた一つ一覧から消える事になる。
オークキングを食べる。
炭にも火が通った。
網もしっかりと焼けた。
「ママー!」
尻尾をフサフサと振りながら、魔淀みから我が子らが手を振って出て来た。
気配探査に魔物の影はない。
残党狩りも終わったようだ。
その回収は国、後発隊に任せれば良い。
オーウェンなら手筈に抜かりはないだろう。
「おお!お疲れ!」
笑顔で手を振り返すオリハの笑顔に影はなかった。
「ぬ?ティダとシャルはやはり来んのか?」
「うん、そう遠くない内に顔出すからって」
「・・・そうか」
分かってはいた返事に寂しく思う。
オリハは格上を打ち破ったのだから胸を張れと伝えた。
誇るべき殊勲を立てたと言っても過言ではない。
だが二人はそうではなかった。
代わりに守ると誓った。
そして望んだのだ。
あの場にオリハが残っていたとしたら?
慚愧の念は消える事はない。
その場合、地下の子供達がどうなったのかは言うまでもない。
ティダのスキルが選んだ未来は最善の物だった。
そして幼き身ながら選んだのはアキ自身だ。
二人の為の土産を取り出し、指に乗せ回しながら思案する。
追いかけっこをすれば捕まえる自信はあるし、そうしたい思いに駆られる。
オリハ自身が会いたいのだから。
だが尊重すべきだとも同時に思う。
遠くない内に、とそう言ったのだから。
「ママ、それ兄ちゃんと姉ちゃんの分?」
「・・・ああ」
「アタシ達が届けて来ようかにゃ?」
「疲れていないか?」
「へっちゃらにゃ!それに・・・聞きたい事もあったし」
それにナツも同意し頷いてみせる。
悩み事があるのは知っている。
それが何であるのかも。
オリハではどうしようもない事なのも。
「では頼めるか?」
「分かった!行ってくる!」
肉を受け取り、直ぐに駆け出そうとするナツの襟を掴む。
「ま、待て!食ってから行け!」
タレに漬け込み準備は済んでいる。
忘れてたと言わんばかりに踵を返す。
そこでナツの目に入ったのは、網の前を陣取っているフユだった。
全く止める気がなかったのは、ナツの分も食べる気満々だったのだろう。
作戦に関わった全員が揃ったところで一斉にソレを焼き始めた。
辺りを甘くも芳ばしい香りが包む。
合わせてこだまするのは炭の弾ける音と脂が蒸発する音。
そして喉を鳴らす音だけだ。
オーウェン率いる後続部隊は警戒を高め、行軍を続けた。
地響きのような雄叫びと、天を突き刺す光の柱が見えた。
それが何であったのかは言うまでもないだろう。
後世の歴史書は語る。
後にも先にもオークキングを食したとされる記録はない。
それは食肉へと至らせる高い難易度と低い出現率の所為だ。
幾人かの冒険者が名前を出し、その感想を語った。
学がなく語彙力に欠けたのは仕方ない。
それでも貴重な資料である。
その当時のサウセント王国、オリバー国王はこう述べた。
肉を噛み締める際に音が鳴った。
プツリと耳に、ハッキリと聞こえた。
その弾力がありながら、口に含むと溶けて消えたのだ。
まるで綿あめのように。
肉の甘みと旨みが舌を包み、捉えて離そうとはしない。
残念ながら、私が食せたのはその一口だけだった。
二口目を望めば間違いなく物理的に天に召されただろう、と。
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