赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
139 / 162
最終章

最終章-21 神の武器、意図

しおりを挟む


王都の学園は古い歴史を持つ。
正確には分からないが、500年前の惨劇以降に設立されたと記録にはあるらしい。
生徒数の増加に合わせての増築の影響か、施設棟の数と敷地面積の広さが目立つ。
その一つ一つが生徒を送り出したという、実績と歴史を刻んでいるのだろう。

学科も一つではない。

初等部、高等部、そして騎士科初等部、高等部、魔導科初等部、高等部の三科六部だ。
初等部、高等部に関しては、聖オリハ学園とさして変わりはない。
騎士科の高等部に関しては、ほぼ貴族の箔付けに等しい。
魔導科の高等部に関しては、研究機関といって差し支えはないだろう。

確かに広い。
生徒数も当然多い。
だが学び舎の美しさでは負けてはいない、とオリハは少しズレた感想を持つ。
子供らの人数の差という負け惜しみからであった。


揃って宿を出て、徒歩で門へと辿り着く。
兜は腕に待ち、鎧は既に着込んである。
聖オリハ学園規定の魔物素材のアンダーウェアの装備は認められていない。
安全に万全を期したいところではあるが、ルールである以上は仕方ない。

門番に招待状を差し出す。
生徒達は剣術大会の参加者であることも告げて。
確認の為、と暫く待たされる。
その間もこの学園の生徒らが、こちらを軽く気にしながら横を通り過ぎていく。
ちらちらと視線を向けられているのはアルのようだ。
本人はそれを気にする様子はない。
流石の王子殿下である。

待っている間に声をかけられる。
声の主は同じように生徒を連れた、南方面にある学園の引率の教員であった。
挨拶がてら情報を交わす。
その学園の理事長は来ていないらしいが、どうやら招待状は全ての学園に送ってるようだ。

「毎年のことなのか?」

「いや、こんな交流戦は初めてですよ」

そう言って肩を竦める。
そも騎士科があるのは、サウセント国内でもこの王都の学園のみである。
南の学園にあるのは水産科であるらしく、文字通り胸を借りに来たようだ。

「んなことねえよ、見てろよ、俺たちが優勝してやっから!」

と言う生徒に「体力だけは有り余ってますんで」と、笑いながら肩を竦めた。
生徒も腕っ節には自信があると見える。
だが喧嘩と剣術は別物だ。
教員もそれが分かっているのだろう。

テンプレである「悪いが優勝するのは俺達だ!」などとは誰も返さずに、ワイワイと雑談をする生徒達。
南の海産に興味を示す内陸の生徒と、ここ数年で物流の拠点となっている、サテライトの情勢が気になる南の生徒の情報交換の装いを成す。

こういう交流ならば望ましいのではないか、などと微笑ましくその様子を眺める。
いずれは短期間での交換留学なども面白いかも知れない。
自分達が汗水流した水産品が、どの様に加工され、どの様に流通するのか。
当然、その逆も然り。
販売する商品がどうやって作られているのか、どうやって漁をしているのか。
それを知っている、知らない、の差は大きい筈だ。
オリハは学園に戻ったら、それらを教員達に提案することを決める。

(・・・また未練が増えたな・・・)

その景色をこの目で見る事は叶わない。
だから提案する。
いや、そうする事しか出来ない。
己が主導で仕切れる程の時間が残っているのか分からないから。
仕方がないのだと己に言い聞かせる。
足掻きようのない運命なのだと。
もう癖のようになってしまった仕草、己の手をじっと見つめながら。


先程の門番が3人程引き連れて戻って来た。
一人は初等部の、もう一人は高等部の教員で残りの女性は理事長付きの秘書だと言う。
話を聞く限り、どうやらオリハは予選には随伴出来ないらしい。
お菓子を欲しがる子供の如く駄々を捏ねる算段を頭の中で立てるが、予想したハルの冷たい眼差しがそれを許さないとオリハを咎める。
「ううっ」と息を詰まらせ、これ見よがしに落胆する。

それに戸惑うのは周りである。
その悲しげな顔は「生徒に着いて行きたい」様相を有り有りと浮かべている。
著名でもあり、他校の理事長という来賓が肩を落としているのだから。
これはこれで目論見が通じたとも言えなくもない。

「お姉さん、本戦は理事長も観れるんですよねー?」

「え、ええ、引率の教員以外の方は来賓席で観覧して頂く予定よ」

とはいえ事前に来る旨を伝えている、他校の役職者はオリハだけらしい。

「ほら、頑張って本戦に出るから、ねー?」

ワルンやユグルドらに言い聞かせるようにハルが言う。
違う、そうじゃない、とオリハは首を横に振った。
ただ観たいのだ。
予選から。

「えー、わたしたちじゃ出れないと思ってるんだ、あれー?応援してくれないんだー」

慌ててそれを否定する。

「じゃあ、騒がず静かに応援してくれるよねー、ね?」

有無も言わせぬ声が聞こえた気がして、オリハは諦めて勢い良く頷く。
聖オリハ学園の面々はいつもの光景に乾いた笑いを浮かべ、取り敢えずは納得した様子のオリハに大人達は胸を撫で下ろした。
引っ張られている訳でもないのに、秘書にトボトボと着いて行き、ドナドナ宜しく振り返るオリハに、ハルは元気良く手を振るのであった。

ハル達は門番に連れ添っていた教員らに、初等部、高等部の予選会場に別れて案内される。
引率の教員は同行しているので問題はない。
除け者気分のオリハが不満である事を除けば。

そのオリハは現在、説明を受けながら王都の学園内を案内されている。
内心では(広いだけで、我が学園の方が綺麗だ)などと、かなりやさぐれていた。
そも新設校と綺麗さを比べる事自体がおかしいのだ。

そんな不機嫌さを隠し切れないオリハに、秘書は説明口調ではなく、覚悟を決めたかのように口を開く。

「あの・・・オリハ理事長」

「うむ?」

「この度は大変申し訳ありませんでした」

「・・・何がだ?」

その謝罪が真摯なのだとは匂いで伝わってくる。
だが意図までは分からない。
秘書としては不機嫌そうな理由は、きっとそれなのだろうと誤解したのだ。
オリハは素直に問い直したのだが、相手からすれば、これでは逆に追い詰められたようなものだ。

「昨年度の会議の資料、拝見致しました・・・本年度からは当学園でもいくつかの案を導入させて頂いてます」

「ああ、生徒達の役に立つのなら構わないが?」

それなら謝罪ではなく感謝だろう。
続きを疑問符で促す。

「ですので・・・今回、お呼び立てしたのは、その折の意趣返しであったり、その様な趣きでは決してないのです」

「・・・そうなのか?」

オリハはてっきりそうなのだと予想していた。

「はい、その・・・我が校の学園長は少し、いえ、ほんの少しだけ変わっておりまして・・・悪い方ではないのですが・・・」

ふむ、と頭を捻らせた。
かなり歯切れが悪い言い方をしている。
だが何らかの意図はある。

「なら気にする事はない、今回の事は生徒達の成長にも繋がった・・・こちらとしても、全く悪い話ではなかったのだ」

「そう言って頂けると助かります」

その後は学習指導要領に関していくつか質問を受け、オリハはそれに誠実に答えた。
こういう時には、相手の感情が嗅げる己の能力に感謝をしたくなるというものだ。
その答えを子供達の役に立ててくれる、というのが分かるのだから。

そうこうしている間に、一際目立つ扉の前に着いた。
来賓の為の扉、もてなす為の観覧をする間なのだと窺い知れる。
中から数人の気配を感じる。
秘書がノックをしてから扉を開いた。

中は赤い天鵞絨の絨毯が敷き詰められおり、その豪勢さは時に王族なども利用する事があるのだろう、と察せられる。
狐の気配が無い事に安堵し、他の気配を探る。
椅子から立ち上がった初老の男性は見知った顔だ。
他の気配は動く事がない事から、恐らく護衛なのだろう。

握手と挨拶は簡単に済ませる。
初顔合わせの際に、自己紹介はしっかりと済ませてある。
それに己の名前と学園の名前をセットにして毎回のように告げる蛮勇など、オリハは持ち合わせてはいない。
そして秘書の告げた事が謀りではないのだと理解もした。

敵意は全く感じられない。
ニコニコと微笑むその顔からも、そのような特有の底意地の悪さは感じられなかった。
いやらしい感情の臭いもしない。
だが何だろうか?
ほんの少しだけ引っ掛かる臭いがした。

「いやあ、あの資料はかなり参考にさせてもらいましたよ」

「ああ、そこの秘書殿から伺った、役に立てたなら嬉しい限りだ」

「ええ、お陰様で・・・ところで当学園は見て参られましたかな?」

「広過ぎて些か疲れはしたが、確かな歴史と重みを感じさせられた」

「そうでしょう、そうでしょう、古いと言われればそれまでなのですが、壁の、廊下の傷一つ一つが達の歴史と思い出なのですよ」

「・・・ああ」

「そんな賢くも優しい素晴らしい子達の伝統を引き継ぐからこそ、新しい達も良い子に、いえ、さらに良い子に育つと思っていたのですがね?いやはや古い考えは良くない、お陰様で元々優秀な達が更に優秀にですな、そうそう、今年の騎士科などは・・・」

そっと横目で秘書殿を窺い見る。
その様からこれが本命たる理由なのだと知る。

「・・・全く分かっとらんのですよ、なら見習いではなく、直接近衛に誘うわれて然るべきところなのにですよ?そりゃ経験が足らんと言われれば・・・」

これを知っていたからこそ、他の学園のトップらは参加していなかったのだ。

「・・・なのですよ、あの子は是非にオリハ理事長にも見てもらいたい!それ以外にも・・・」

を自慢したかったのだ。
強いて言うなら、資料の御礼がてらに優秀なうちの子を見せてあげても良い、と言わんばかりである。

「・・・まあ学園の広さも、うちの子達の心の広さに繋がっているんですがね」

「確かにここには賢そうな良い子が多そうに窺えた」

だからこそだ。
もう我慢は出来ない。

「はっはっはっ、そうでしょう、そうでしょう」

「だが達はそれ以上に優しい」

「・・・なんですと?」

「まず我が学園のある街では重い荷物を持った老婆など存在しない、らが率先して声をかけるのでな、ああ、迷子も同様だ」

飴玉目当てとも言う。

「ここと違い目が届く程度の大きさしかないが、輝く真新しい学び舎がきっと達の心に反映しているのだ」

「いやいやは・・・」

「ああ、それでもは・・・」

「はっはっ、何を仰っるやらの場合は・・・」

「ああ、貴殿の言う通りきっと良い子なのだろう、だがは・・・」

秘書は焦点の定まらない虚ろな視線でその様子を眺める。
恐らく初めてみたのだろう。
同じ穴の狢というものを。

そしてオリハは時が過ぎ昼食を取るのも忘れて、遠慮なくうちの子自慢を続けるのであった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...