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最終章
最終章-21 神の武器、意図
しおりを挟む王都の学園は古い歴史を持つ。
正確には分からないが、500年前の惨劇以降に設立されたと記録にはあるらしい。
生徒数の増加に合わせての増築の影響か、施設棟の数と敷地面積の広さが目立つ。
その一つ一つが生徒を送り出したという、実績と歴史を刻んでいるのだろう。
学科も一つではない。
初等部、高等部、そして騎士科初等部、高等部、魔導科初等部、高等部の三科六部だ。
初等部、高等部に関しては、聖オリハ学園とさして変わりはない。
騎士科の高等部に関しては、ほぼ貴族の箔付けに等しい。
魔導科の高等部に関しては、研究機関といって差し支えはないだろう。
確かに広い。
生徒数も当然多い。
だが学び舎の美しさでは負けてはいない、とオリハは少しズレた感想を持つ。
子供らの人数の差という負け惜しみからであった。
揃って宿を出て、徒歩で門へと辿り着く。
兜は腕に待ち、鎧は既に着込んである。
聖オリハ学園規定の魔物素材のアンダーウェアの装備は認められていない。
安全に万全を期したいところではあるが、ルールである以上は仕方ない。
門番に招待状を差し出す。
生徒達は剣術大会の参加者であることも告げて。
確認の為、と暫く待たされる。
その間もこの学園の生徒らが、こちらを軽く気にしながら横を通り過ぎていく。
ちらちらと視線を向けられているのはアルのようだ。
本人はそれを気にする様子はない。
流石の王子殿下である。
待っている間に声をかけられる。
声の主は同じように生徒を連れた、南方面にある学園の引率の教員であった。
挨拶がてら情報を交わす。
その学園の理事長は来ていないらしいが、どうやら招待状は全ての学園に送ってるようだ。
「毎年のことなのか?」
「いや、こんな交流戦は初めてですよ」
そう言って肩を竦める。
そも騎士科があるのは、サウセント国内でもこの王都の学園のみである。
南の学園にあるのは水産科であるらしく、文字通り胸を借りに来たようだ。
「んなことねえよ、見てろよ、俺たちが優勝してやっから!」
と言う生徒に「体力だけは有り余ってますんで」と、笑いながら肩を竦めた。
生徒も腕っ節には自信があると見える。
だが喧嘩と剣術は別物だ。
教員もそれが分かっているのだろう。
テンプレである「悪いが優勝するのは俺達だ!」などとは誰も返さずに、ワイワイと雑談をする生徒達。
南の海産に興味を示す内陸の生徒と、ここ数年で物流の拠点となっている、サテライトの情勢が気になる南の生徒の情報交換の装いを成す。
こういう交流ならば望ましいのではないか、などと微笑ましくその様子を眺める。
いずれは短期間での交換留学なども面白いかも知れない。
自分達が汗水流した水産品が、どの様に加工され、どの様に流通するのか。
当然、その逆も然り。
販売する商品がどうやって作られているのか、どうやって漁をしているのか。
それを知っている、知らない、の差は大きい筈だ。
オリハは学園に戻ったら、それらを教員達に提案することを決める。
(・・・また未練が増えたな・・・)
その景色をこの目で見る事は叶わない。
だから提案する。
いや、そうする事しか出来ない。
己が主導で仕切れる程の時間が残っているのか分からないから。
仕方がないのだと己に言い聞かせる。
足掻きようのない運命なのだと。
もう癖のようになってしまった仕草、己の手をじっと見つめながら。
先程の門番が3人程引き連れて戻って来た。
一人は初等部の、もう一人は高等部の教員で残りの女性は理事長付きの秘書だと言う。
話を聞く限り、どうやらオリハは予選には随伴出来ないらしい。
お菓子を欲しがる子供の如く駄々を捏ねる算段を頭の中で立てるが、予想したハルの冷たい眼差しがそれを許さないとオリハを咎める。
「ううっ」と息を詰まらせ、これ見よがしに落胆する。
それに戸惑うのは周りである。
その悲しげな顔は「生徒に着いて行きたい」様相を有り有りと浮かべている。
著名でもあり、他校の理事長という来賓が肩を落としているのだから。
これはこれで目論見が通じたとも言えなくもない。
「お姉さん、本戦は理事長も観れるんですよねー?」
「え、ええ、引率の教員以外の方は来賓席で観覧して頂く予定よ」
とはいえ事前に来る旨を伝えている、他校の役職者はオリハだけらしい。
「ほらお母さん、頑張って本戦に出るから、ねー?」
ワルンやユグルドらに言い聞かせるようにハルが言う。
違う、そうじゃない、とオリハは首を横に振った。
ただ観たいのだ。
予選から。
「えー、わたしたちじゃ出れないと思ってるんだ、あれー?応援してくれないんだー」
慌ててそれを否定する。
「じゃあ、騒がず静かに応援してくれるよねー、ね?」
有無も言わせぬ声が聞こえた気がして、オリハは諦めて勢い良く頷く。
聖オリハ学園の面々はいつもの光景に乾いた笑いを浮かべ、取り敢えずは納得した様子のオリハに大人達は胸を撫で下ろした。
引っ張られている訳でもないのに、秘書にトボトボと着いて行き、ドナドナ宜しく振り返るオリハに、ハルは元気良く手を振るのであった。
ハル達は門番に連れ添っていた教員らに、初等部、高等部の予選会場に別れて案内される。
引率の教員は同行しているので問題はない。
除け者気分のオリハが不満である事を除けば。
そのオリハは現在、説明を受けながら王都の学園内を案内されている。
内心では(広いだけで、我が学園の方が綺麗だ)などと、かなりやさぐれていた。
そも新設校と綺麗さを比べる事自体がおかしいのだ。
そんな不機嫌さを隠し切れないオリハに、秘書は説明口調ではなく、覚悟を決めたかのように口を開く。
「あの・・・オリハ理事長」
「うむ?」
「この度は大変申し訳ありませんでした」
「・・・何がだ?」
その謝罪が真摯なのだとは匂いで伝わってくる。
だが意図までは分からない。
秘書としては不機嫌そうな理由は、きっとそれなのだろうと誤解したのだ。
オリハは素直に問い直したのだが、相手からすれば、これでは逆に追い詰められたようなものだ。
「昨年度の会議の資料、拝見致しました・・・本年度からは当学園でもいくつかの案を導入させて頂いてます」
「ああ、生徒達の役に立つのなら構わないが?」
それなら謝罪ではなく感謝だろう。
続きを疑問符で促す。
「ですので・・・今回、お呼び立てしたのは、その折の意趣返しであったり、その様な趣きでは決してないのです」
「・・・そうなのか?」
オリハはてっきりそうなのだと予想していた。
「はい、その・・・我が校の学園長は少し、いえ、ほんの少しだけ変わっておりまして・・・悪い方ではないのですが・・・」
ふむ、と頭を捻らせた。
かなり歯切れが悪い言い方をしている。
だが何らかの意図はある。
「なら気にする事はない、今回の事は生徒達の成長にも繋がった・・・こちらとしても、全く悪い話ではなかったのだ」
「そう言って頂けると助かります」
その後は学習指導要領に関していくつか質問を受け、オリハはそれに誠実に答えた。
こういう時には、相手の感情が嗅げる己の能力に感謝をしたくなるというものだ。
その答えを子供達の役に立ててくれる、というのが分かるのだから。
そうこうしている間に、一際目立つ扉の前に着いた。
来賓の為の扉、もてなす為の観覧をする間なのだと窺い知れる。
中から数人の気配を感じる。
秘書がノックをしてから扉を開いた。
中は赤い天鵞絨の絨毯が敷き詰められおり、その豪勢さは時に王族なども利用する事があるのだろう、と察せられる。
狐の気配が無い事に安堵し、他の気配を探る。
椅子から立ち上がった初老の男性は見知った顔だ。
他の気配は動く事がない事から、恐らく護衛なのだろう。
握手と挨拶は簡単に済ませる。
初顔合わせの際に、自己紹介はしっかりと済ませてある。
それに己の名前と学園の名前をセットにして毎回のように告げる蛮勇など、オリハは持ち合わせてはいない。
そして秘書の告げた事が謀りではないのだと理解もした。
敵意は全く感じられない。
ニコニコと微笑むその顔からも、そのような特有の底意地の悪さは感じられなかった。
いやらしい感情の臭いもしない。
だが何だろうか?
ほんの少しだけ引っ掛かる臭いがした。
「いやあ、あの資料はかなり参考にさせてもらいましたよ」
「ああ、そこの秘書殿から伺った、役に立てたなら嬉しい限りだ」
「ええ、お陰様で・・・ところで当学園は見て参られましたかな?」
「広過ぎて些か疲れはしたが、確かな歴史と重みを感じさせられた」
「そうでしょう、そうでしょう、古いと言われればそれまでなのですが、壁の、廊下の傷一つ一つがうちの子達の歴史と思い出なのですよ」
「・・・ああ」
「そんな賢くも優しい素晴らしい子達の伝統を引き継ぐからこそ、新しいうちの子達も良い子に、いえ、さらに良い子に育つと思っていたのですがね?いやはや古い考えは良くない、お陰様で元々優秀なうちの子達が更に優秀にですな、そうそう、今年の騎士科などは・・・」
そっと横目で秘書殿を窺い見る。
その様からこれが本命たる理由なのだと知る。
「・・・全く分かっとらんのですよ、うちの子なら見習いではなく、直接近衛に誘うわれて然るべきところなのにですよ?そりゃ経験が足らんと言われれば・・・」
これを知っていたからこそ、他の学園のトップらは参加していなかったのだ。
「・・・なのですよ、あの子は是非にオリハ理事長にも見てもらいたい!それ以外にも・・・」
うちの子を自慢したかったのだ。
強いて言うなら、資料の御礼がてらに優秀なうちの子を見せてあげても良い、と言わんばかりである。
「・・・まあ学園の広さも、うちの子達の心の広さに繋がっているんですがね」
「確かにここには賢そうな良い子が多そうに窺えた」
だからこそだ。
もう我慢は出来ない。
「はっはっはっ、そうでしょう、そうでしょう」
「だがうちの子達はそれ以上に優しい」
「・・・なんですと?」
「まず我が学園のある街では重い荷物を持った老婆など存在しない、うちの子らが率先して声をかけるのでな、ああ、迷子も同様だ」
飴玉目当てとも言う。
「ここと違い目が届く程度の大きさしかないが、輝く真新しい学び舎がきっとうちの子達の心に反映しているのだ」
「いやいやうちの子は・・・」
「ああ、それでもうちの子は・・・」
「はっはっ、何を仰っるやらうちの子の場合は・・・」
「ああ、貴殿の言う通りきっと良い子なのだろう、だがうちの子は・・・」
秘書は焦点の定まらない虚ろな視線でその様子を眺める。
恐らく初めてみたのだろう。
同じ穴の狢というものを。
そしてオリハは時が過ぎ昼食を取るのも忘れて、遠慮なくうちの子自慢を続けるのであった。
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