赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
149 / 162
最終章

最終章-31 神の武器、顛末

しおりを挟む


主はアピールするかのように顎髭を撫でる。
だがその顔は優男としか言いようがない青年の面立ちだ。
そこはかとなく違和感しか感じられない。
似合わないとしか言いようがなかった。

・・・アレに触れてはならない。

そう感じ取ったオリハは膝をつき視線をふせる。
ヒトが王に行うような礼儀で良いのかは分からない。
それでも行わないよりは良いだろう。
何よりも長い顎髭の感想を誤魔化せる。
それが一番大事だった。

「ああ、そんな事はしなくていい、必要ないよ、言葉遣いもあちらと同じ、いつも通りで構わないから」

「で、ですが・・・」

柱同士の間でもそんな遣り取りはない。
頂点に立つ主もそれを求めた姿を見た事はない。
だがその御手で作られた存在であるオリハには、礼を欠くのは不敬だと感じられた。
誤魔化す為でもあったが。
それに主は首を振る。

「敬われるような存在じゃない、私達はただこの世界を管理している存在に過ぎないのだから」

「そのような事はっ!」

「確かにシステムを作ったのは私だ、だがその中身を作ったのは私じゃない、あの世界だ・・・ん?となると、私は君の父親みたいなものじゃないか、だったらなおさら礼儀なんていらないよ、寂しいじゃないか」

「ほう?ではオリハルコンを打ち出した儂が母親という事になるのか?」

「母親は世界の方でしょ?そんなむさ苦しいお母さんなんていらないわよ、ねえ?」

他の柱も会話に混ざる。
それでもオリハはついた膝を崩せない。
初めての会話なのだ。
それは致し方ないのかも知れない。

「・・・仕方ない、ではする、いつも通りで構わない、良いね?」

このままでは話も進まない。
それは否定を、二の句を継げさせないという意思を孕んでいた。
これ以上の拒否は逆に不敬だろう。
強い緊張にはち切れてしまいそうな胸を押さえてオリハは立ち上がる。

「ふぅ・・・分かった、そうさせてもらう」

「うん、それて良い、どうせ必要なくなるんだから」

その言葉に内心鼓動を早める。
その意味を考える。

「まずは座って、話はそれからだ」

そう言うとパチンと指を鳴らした。
白い円卓が少しだけ大きくなり、空いたスペースに白い椅子が出来る。
緊張、動揺、頭の中も白く染まる。

だからいつもの定位置に着こうと円卓に登る。
円卓中央にある敷物の上に。

「落ち着きなさい」

「そこじゃない」

円卓に膝を乗せた所で、最初に生み出されたとされる、水と恵み、風と土を司る柱が抑揚なく止めてくれた。

「あー、もう君はヒトなのだから椅子でいいんじゃないかな?」

「も、申し訳、ない・・・」

気恥ずかしさから語尾を落とす。

「いや、こちらもちゃんと伝えれば良かった・・・落ち着く為にもまずは良い話からしようか」

なら悪い話もある。
思考が悪い方にしかまとまらない。

「・・・頼む」

だが聞くことしか出来ない。
もう選択肢はない筈だ。
主は静かに頷く。

「今ここにいるのは、存在証明の完結からじゃない、ここに君を招待した・・・いや、ようやく呼べるようになった、が正解かな」

「それは・・・」

「君の魂がことわりの外の存在だからね、神託も何も伝える事ができなかったんだ・・・すまない」

その説明に口吃るオリハ。
欲しい言葉はそちらではなかった。

「帰れるわよ」

察しの悪い主を置いて美の柱が口を挟む。

「・・・ほんとう、に?」

「ええ、でも結末までは変えられない、悪い話はその事よ・・・」

「だが!確かに我の時は・・・っ!」

残っていなかった。
5千年繰り返して来た降臨と帰還。
その感覚に狂いはない筈だ。

「そうだね、君にはその方が大切な事だった・・・[地母神]を使ったんだよ、君の子供達がね、まさかシステムの刻を押し留めるとは思わなかったよ」

「では、我は?」

「恐らく、としか言えないが・・・半年、リミットが伸びたようだ」

足りない。
未だその欲は止まらない。
それでもまた会える。
耳で声を、手で触れる事が出来る。

ようやく思考が晴れた気がした。
抑圧から解放された、が正しいのかも知れない。

「その事で・・・我々は君に詫びなければならない事がある」

「・・・誰もそうなるとは思わなんだ、許して欲しい」

「ほんとっっっうにゴメンねっ!」

口々から告げられる謝罪。

「今回の降臨とその存在証明の話だ」

理由を加えてくれた。

「・・・ハル、いやギュストの魂を救う為、ではないのか?」

それだけではないのは分かっている。
それならこの段階で存在証明を終える筈がない。

「それなら、救った時点で君は帰還している筈だろう?・・・利用したんだ、成し得ない存在証明を立て、ギュスト、いやハルを救う為に」

各々が口を開く。

「お前に魂があるのを儂らが知ったのは・・・500年前のあの時だ・・・」

「あれは我らの罪だ」

「怠慢だってギュストに怒られた」

「謝っても許してくれなかった」

その記憶はオリハにはない。
帰還の直前までの記憶しかなかった。
考え込むオリハを見て、主が付け加える。

「・・・君は眠っていたようだからね、狂気に抗おうとした分、その魂の損傷はギュストよりも酷かったんだ」

「記憶は、どこからあるんだ?」

「・・・降臨の途中からだ」

「ならその間眠っていたんだろう・・・正直、私達はオリハルコンの使用を金輪際するつもりはなかったんだよ」

「ギュストは魂の癒しを、輪廻を拒絶した・・・そして眠るお前の横で我らをただ見張っていた」

「だから結構真面目に働いてたんだぜ?・・・まぁ、反省してたしなぁ」

やはり眠っていたのだろう。
酒と悦楽の柱が働いているところなど、オリハは見た事がない。

「飲んだんだろ?[神の雫]」

「ああ、あれは本当に美味かった」

「だろっ?!あれは自信作だったんだよな!」

胸を張り、指で鼻の下を擦る。

「これ悦楽のっ!自慢する事ではない!」

「働くのは」

「当然」

「へいへい」

柱達も疲れ切っていたのだ。
何も変わらない世界に。
打てども響かない現状に。
きっと同じように憂いていたのだ。
オリハには、このように集まり語らう柱の記憶はなかったのだから。

「そして500年経って、ようやくギュストは許してくれた」

柱達の何人かは元々ヒトである。
主もヒトを生み出した存在だからとて、それを不敬とも傲慢とも思わない。
少なくともヒトから柱になった存在は、現世からの信仰により成り立っている。
誰もがそれを理解しているのだ。

「輪廻を望んだ先が・・・最後のダークエルフ種の赤子だった」

それを聞いて、オリハはギュストらしいと思った。
最後の最後まで捻くれていたのだろう。

「・・・何度も夢で逃亡先を誘導した」

「不吉の雨も降らせたわね・・・アキ君の時にも降らせた雨よ」

「足りなかった」

「助けられなかった」

悔しそうな顔を見渡す。
必死に手段を講じたのがそれだけで分かる。

「・・・だから君を使用した・・・返事も出来ない君に勝手に託したんだ」

「お前がヒトになるのかは、正直、賭けだったが・・・問題はそこからだな」

「詫びの一環として器を与えた、ヒトとしての生涯を過ごせるように」

「私達が君に発した証明は・・・[悠久足る平和への架け橋]種族間の争いもなく、生きる者全てが平和に暮らせる、その世界のきっかけを作る事だった」

「・・・誰も成し遂げるとは思わなかったんだ」

「我らの浅はかな思慮の所為で、より貴女を苦しめてしまった」

「ごめん」

「ゴメン」

いくつかの疑問がようやく融解する。
好きに生きろ。
あれはそのままの意味だったのか。
張り詰めた氷の張った心を溶け始める。
己の行動は間違いではなかった。
確かに世を去る事にはなった。
これからも手を抜く事は出来ない。

平和とは緩みの無い糸のようなものなのだから。

それでも残される我が子らに、残してやれる。
少しでも愛を教えてくれた者達に報いる事が出来たようにも思えた。
主をして不可能と思われた事を成し遂げてみせたのだ。

後悔はある。
不満もある。
だが未練は消えた。

「だが勘違いするでないぞ、成し遂げた行為には一同感謝しておるのだ」

「ああ、その為に俺達は働かせれてんだからな」

「・・・自主的に頼むよ」

もう良い、満足だ。
達成感という愉悦すらある。
その上、我が子らが己を思い猶予をくれた。
残された思いも回収出来るだろう。

気が付けばオリハも笑いの輪の中に入っていた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...