囚われた姫騎士は熊将軍に愛される

ウサギ卿

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王宮は狂気に満ちていた。
国王であるラグオス・チューバッカは雄々しい鬣を揺らしながら頭を抱えていた。
目の前にはこの国の誇る最大戦力と言っても過言ではないハッグ将軍がいる。

そのハッグ将軍から涙ながら恋愛相談を受けているからだ。

歳も近く幼い時からの友であった。
ハッグが侯爵家という身分だったのもあるが、王子から王となってからもその関係は続いた。

ラグオスは王となって直ぐに軍部の改革を行った。
その最たる物が22歳にして部隊長となったハッグの将軍への異例とも呼べる起用だった。
新王となったばかりで旧軍部との軋轢があり、刷新の目的も兼ねていた。

反対する諸侯を抑えるのは王の役目だ。
容易な事では無いが、それ以上に友に苦労をかける事を思い牙を噛み締める。

だが思惑は大きく外れてしまう。

ハッグは圧倒的な武で異論を黙らせ年若い兵の心を掴んだ。
酒を酌み交わし裏表の無い性格で年長の兵の心を掴んだ。
過去幾度も将軍を輩出したベアード侯爵の血筋は貴族の社交の場に置いても遺憾無く発揮された。
そして迎えた将軍としての初陣で成果を上げた事により、揺るぎない立場を手にした。

当のハッグは変わった事をしたつもりもない。
苦労したつもりもなかった。
ただ周りから勝手に好まれただけだった。

「将軍になったせいで番が見つからない」

そうラグオスに愚痴をこぼすハッグは懐刀であり右腕であり最も信を置く存在だった。


そのハッグが一週間前に戦場から数人の兵を率いて王都へ戻ったと一報を受けた。
怪我ではないと聞き安堵する。
その日は登城せず2日目に登城した。
そして番が見つかったと知らされる。

ただそれは人間で帝国の士官だという。

王として特別扱いは出来ない。
捕虜を取らないのは数世代前からの決まり事だ。
その事をハッグに告げた。

そこには全てに抗う獣がいた。

獣人にとっての番とはそこまでの存在だ。
ハッグにとって真に番なのだろうと察する。
王たるラグオスでさえ王妃の為なら国を捨てでも守るだろう。

だから説得を諦めた。
何よりラグオス自身がハッグを失う事を恐れた。
とはいえその番を国に対して隷属させる必要がある。
そうしなければ国民からの信は得られない。
代替え案として魔道具[咎人の足枷]を嵌める事を強制した。

その番の自殺を防ぐ為だ、王命だと押し切った。
渋々納得したハッグを友として心配する。
王として学んだ中に捕虜に対する物もあった。
捕虜に対して民がどの様な感情を抱くのかを理解している。
その番が心を壊さない事をハッグの為に案じた。

そして書庫で文官に調べ物をさせた。
人間と国交を絶って数百年を過ぎた。
手元にある書籍では参考にならなかったからだ。
だから獣人と人間との番の事を調べさせた。

王として例外を認めさせる為に動いた。
これは反対もなかった。
寧ろ、国の利益になる方法さえ論じられた。
ハッグの人柄なのだろうと思う。

そして現在に至る。
今日までに解ったのは子供は出来る事と、過去に何かの問題があったという事だ。
そしてハッグの話を聞き推察されたのは、獣人側のみの番への気持ちだろうと結論付けた。

やはり人間と深く関わるべきではないとラグオスは断ずる。
番への気持ちは人間の言う愛や恋よりも遥かに重いものだ。
一方的な強制に他ならない。

だがもう遅い。
ハッグは出逢ってしまった。

「あら、簡単な話ではありませんか?」

泣き噦るハッグに王妃のライライナが声を掛けた。
その声に縋る様な視線を向ける。
その視線に番としてラグオスはイラっとしたが仕方なく黙認する。
ハッグが獅子人ならば、間違いなく殴り掛かっている所だ。

「その方は特別な感情は一切持ち合わせていない、と仰られたんでしょう?」

「グスッ・・・ああ・・・」

「では嫌いとも憎いとも思われていないのですよね?」

「・・・っ!?」

光明を照らしたライラを崇める様にハッグが見上げる。
そのハッグの視線にラグオスはイライラとする。
いや、確かにライラは美しい女神だがっ!と内心呟き椅子を爪でコツコツと叩く。

「惚れさせれば宜しいのでしょう?」

「そ、そうかっ!確か基本はプレゼントだったなっ!先ほど薔薇の花束は渡したのだが」

「あら、最初はもっと可愛らしいお花の方が喜ばれますわよ?」

この言葉にラグオスはギクッとする。
最初に渡したのは薔薇の花束だったからだ。

「どんな花が良いのだろうか・・・?」

「それを渡す言葉と一緒にハッグ様自身が考えて上げる方が喜ばれると思いますわ」

「分かった、王妃よありがとうっ!」

そう言うと謁見の間からあっという間に姿を消した。

「全くアイツは・・・」

そう苦笑いを浮かべ友の背に溜息と共に呟いた。

「そういえば・・・最近ラグオス様よりお花を頂いた記憶がありませんね?」

「っ!?・・・いや、花の方がだな・・・ライラの美しさを前にして咲きたがらないんだ」

そう苦笑いから微笑へと切り替えて星を飛ばした。

「ではもう咲く頃ですわね、お言葉と一緒に楽しみにしておきますわ」

「あ、ああ、楽しみにしていてくれ」

扇子で星を叩き落とされ宿題を与えられる事になった。

その後王都では王と将軍が花屋で買い物をする姿が目撃されたという。


尚、謁見の間にハッグが現れた時から泣き噦り相談を始めた為、登城させた目的を伝えられておらず、その翌明朝、書簡にて屋敷の方へ通達される事となった。


夜の街並みは静謐に包まれる。
日が落ちてまだ数時間だが家々の灯火は姿を消す。
早く眠る習慣があるのかも知れない。
灯る明かりは街道を照らす魔道具の灯火と星の光、そして月明かり。
マリーは窓辺で椅子に腰掛けた。
時折吹き込む優しい風に長い髪を靡かせる。
視線を街並みから手元へと移す。

そこには寄せ植えの鉢が一つ。
ハッグは怪我人に鉢植えを贈る意味を知らなかったのだろうか?

「この国に・・・儂の側に根付いて欲しい」

渡す時にそう言った。
寄せ植えの花は黄色や白やオレンジのゴールド。

「今はまだ構わない、いつかこの花の色の様な明るい笑顔を儂に見せて欲しい・・・」

渡す時にそう言った。
薔薇の時には魔道具の制約により告げられなかった言葉を紡いだ。
その気持ちと出来るだけの笑顔を贈った。

「・・・ありがとう」

その時の真っ赤なハッグの顔を思い出しながら人差し指でマリーゴールドをツンと突いた。

自分の名前が含まれているローズ薔薇とマリーゴールドとローズマリーの花言葉くらいは知っていた。
そこは女を捨てた騎士とはいえ抜かる事はあり得ない。

・・・熊はそこまでは知らなかったのかも知れないな・・・

そう思い花を指先でまた突いた。

マリーゴールドの花言葉は[変わらぬ愛]
そしてローズマリーの花言葉にも同じ意味がある。
マリーの胸の中に温もりが生まれる。

マリーゴールドの花言葉は[別れの悲しみ]
温もりに懺悔と後悔という名の夜の帳がそっと降りた。


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