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40 エピローグ ハッグ
しおりを挟む城の中の一室に案内されて時を過ごしていた。
兵士達は城の外で警護に当たっている。
暫くすると近衛兵らしき者が宰相殿だけを呼びに来た。
「儂は共に行かんで良いのか?」
疑問に思ったのだ。
役職も年齢も宰相殿の方が上だ。
そして何よりラグオス王の代行だ。
「はい、陛下より宰相殿を先にお呼びするように伺っております」
「事前に打ち合わせでもあるんだろ、行ってくる」
そう言い宰相殿が部屋を出た。
来賓などやった事はないが無礼があってはならん。
誰もおらんでも姿勢は崩さない。
外は暑い陽射しが照りつけておる。
昼も過ぎ太陽が少しづつ真上から動き始めたた。
こうして見る街並みは王国も帝国も変わらん。
そして儂は大きく溜息を吐いた。
やはり儂はまだまだマリーの足元にも及ばん。
後になってからマリーの思っていた事や考えていた事が多少理解出来るのだ。
・・・儂は殺し過ぎた。
帝国に入ってからの事を思い出す。
親切にされ、優しくされる程、殺した者が頭に浮かんでくる気がした。
笑顔を向けられる度に心に棘が刺さる気がした。
マリーが贖罪を求めた気持ちが真に理解出来た。
儂には出来るのだろうか?
死ぬより酷い目に合う覚悟が。
生きて償う事を選ぶ覚悟が。
死は寧ろ許しなのだ。
考える必要がなくなるのだから。
ならどうすれば良いのだ?
親の仇だとナイフを持った子を前に儂はどうする?
マリーと共にいる事が幸せだと言うなら・・・
身体の芯が冷えたような気がした。
そして罪悪感が疑念を抱かせた。
・・・遅くないか?
椅子から立ち上がり時計を見た。
もう宰相殿が出られて半刻は経つ。
来賓とはいえ主賓ではない儂が最後なのはやはりおかしいのではないか?
疑念が懐疑に変わり猜疑へと移る。
だが本能が否定する。
それを脳が自答する。
信じられるものが、縋れるものが欲しい。
それが・・・マリーにとっては足枷だったのか・・・
・・・震える身に声が届いた。
さもしい儂の本能が想像した声ではないか?
そう思ったがフラフラと立ち上がり部屋の外へ出た。
侍女も誰もいない廊下があるだけだ。
足音も人の気配さえもなかった。
また儂の名を呼ぶ声が聞こえた。
その声に引き摺られるように走った。
不安な儂の心が縋りたいと訴えた。
瞳に涙が滲むのを感じた。
慌てふためき手をバタつかせ命乞いをする様に走った。
「ハッグ!」
その声の先に白い服を着たマリーがいた。
やや悪い笑みで何故か半身の構えをしたマリーがいた。
「・・・本当に来たわ」
他に誰がいたようだが儂はフラフラとマリーの前に跪いた。
そしてマリーの腰にしがみつきブルブルと震えた。
「・・・どうしたんだ?何があった、ハッグ」
懸命に泣くのを堪える子供のようにただマリーにしがみついた。
考えるのも口にするのもただ怖かった。
「はぁ・・・王妃様まだ時間はありますか?」
「大丈夫よ、少し席を外すわね」
腰の横にある儂の頭をマリーがそっと撫でてくれた。
懐かしい記憶が蘇る。
もっともっと古い懐かしい記憶も。
「何があった?話してくれないとわからないだろ?」
子供をあやすような声がした。
泣き止めと蜂蜜を手渡すような甘い声が。
そっと顔を上げてマリーを見た。
心が温かくなった気がした。
そして何とか思い付いた疑問を口にした。
「・・・儂は・・・許されるのか?」
言葉にしてから自分でも意味が分からないと思った。
違う、これでは伝わらぬ。
そしてもう一度口を開こうとした。
だがマリーが儂の頭を撫で答えを告げた。
「私が必ず幸せにしてやる」
その言葉が心の棘を抜いた。
「私を遠慮なく介せば良い」
その言葉が心の重荷を放り出した。
「ハッグがそれを全て背負う必要はない」
そうか・・・儂も少しはマリーの役に・・・
「私達は・・・番なのだろう?」
助けになれておったか・・・
何とか儂はコクコクと頷いた。
いつの間にか全身の震えも止まっておった。
「全く・・・折角驚かそうとしたのに台無しじゃないか」
その言葉の意味が分からず首を傾げた。
「・・・この格好を見て分からないか?・・・年を考えずに頑張ったんだぞ?」
そう言われて顔を離してマリーを見た。
真っ白いドレスだった。
ああ、そうか・・・これは帝国の小説に出てくる純白のウェディングドレスだ。
「儂と・・・してくれるのか?」
「他の誰とするんだ・・・それとも私とじゃ嫌か?」
「い、嫌じゃない!したい、結婚式マリーとやりたい」
「よろしい・・・ならば立てっ!」
ビクッと反応して思わず直立した。
ああ、やっと実感が湧いてきた。
マリーがそこにいる。
大丈夫だ、儂はマリーがいれば耐えられる。
何があっても大丈夫だ。
まだまだ儂は強くなれる。
「よし、ハッグ・・・行こうか」
そうして儂の手を握り引っ張ってくれた。
少しは儂も成長出来たのだろうか。
今度は・・・先に言えそうだ。
「マリー」
「ん?」
「愛している」
「・・・ああ、私もだ」
そして純白のドレスを着たマリーと純白のバージンロードを歩いた。
小説に書いてあった。
あなたの色に染めて欲しいという意味があると。
ただ儂の意味は少し違う。
この純白はマリーの色なのだ。
弱い心も何もかも染め上げる程の純白なのだ。
だから儂もマリーに染めて欲しい。
これからも・・・いつまでも・・・
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