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しおりを挟む思わず口を開いてしまった。
声を発する為に。
引き留める為でも、愛を囁く為でもなく。
ただ愛しき者の名を呼んだ。
『・・・エキドナッ!!!』
その粘体から白い光が眩い程に溢れ出した。
何事が起こったのかと声を発した。
返事もなく反応も返さない。
粘体だけが激しく波打ち揺れている。
『おいっ!エキドナッ!!!』
動かぬかっ!
動けっ!
あの駄女神から授かった力があるだろう!
だが震える四肢がそれを許さない。
乱れる集中が魔力を霧散した。
『ぐああああああっ!!!・・・くそっ!!!』
尾で身体を支えようと試みる。
熱の篭った身体がそれすら拒絶する。
震える尾が花冠を意図せず潰した。
それを気にする余裕すらない。
『エキドナッ!!!』
爪が岩の床に音を立て刺さる。
それでも四肢は言う事を聞かない。
そして光が激しさを増した。
直視する事も許されず瞼を閉ざした。
それでも網膜を焼くように光が刺さる。
ただ名を呼んだ。
それしか出来ない己が身を恨んだ。
役に立たない呪いという祝福を恨んだ。
これで・・・これでエキドナに何かあってみろ。
生物としての格の違い?
知った事か。
私のこの身が滅びる前に、必ずや駄女神に一矢報いてくれる。
幾度呼びかけただろうか。
エキドナには口が無いのだから、当然返事はない。
刺す痛みがなくなり、光に目が慣れたと感じた。
瞼を開けばただ白い世界があった。
・・・否。
光にやられた目の所為だ。
少しずつ回復する視力を感じる。
エキドナの気配は其処にあるのに、見えないというのはもどかしい。
だが気配があるのは生きている証と同義だ。
その事に深く胸を撫で下ろす。
撫でる前脚は動かぬがな。
目を凝らせば球体の輪郭が見えた。
無事であったと相好を崩してしまう。
視覚が色を取り戻しつつある中で、強い違和感を覚えた。
『・・・エキドナ・・・か?』
興奮した所為か体内の熱が更に暴れ出す。
吐く息が火の吐息だと勘違いしそうな程だ。
頭にも熱が回っている。
その所為だろうか?
色合いは変わらない。
相も変わらず惚れ惚れする桃色だ。
『其方・・・どうやって、大きく?』
洞穴の入り口に在った粘体は、塞ぐには足りないが明らかに質量を増していた。
水分を含む限界があった筈だ。
単純に浮腫んだ訳ではない。
それに・・・先程の光・・・
私の問いに答える事なく振り返った。
いつものように跳ね回る程の空間は無い。
捻り寄るようにズリズリと這い寄る。
そして口を開けろと肉体言語で示してみせる。
・・・訳が分からぬ。
何が起こったというのだ?
だが愛しき者の・・・最後の願いだ。
その程度ならば応えぬ訳にはいかない。
そして開いた顎に液体を流し入れた。
・・・消化液ではない。
だが匂いはエキドナの香りと味がする。
嚥下するのが勿体ない。
舌鼓を打つように堪能すれば、いつの間にか無くなってしまった。
『・・・熱が?』
スッと引くのを感じた。
焼け始めていた臓腑が、音を立てるように癒されていくのが分かる。
『エキドナ、退いてくれ』
これはマズイ。
回復はした。
これならば動けぬ事はない。
だからマズイのだ。
芯の熱が・・・更に温度を上げ出した。
惚れた雌がまぐわえる大きさで目の前におるのだ。
乾いた心が強く求めている。
飢えた身体が其方を激しく求めている。
理由は分からぬ。
何故このような事が出来るようになったのか?
何かを成してまで、私と共に在りたいと願ってくれたのか?
・・・嬉しくない訳がない。
其方が此処に居なければ泣いて喜んでいる。
だが状況が悪い。
手負いの飢えた竜の前にあるのは愛しき御馳走だ。
欲する欲に牙がカチカチと鳴る。
目に色欲の火が灯る。
このままでは・・・陵辱してしまう。
『頼む・・・其処を退いてくれ』
惚れた雌を無理に手篭めにするような雄にしてくれるな。
こみ上げる涎をただ嚥下する。
この目を見られたくはない。
薄汚れた目で其方を映したくはない。
ならばいっそこの瞳が潰れてしまえばいい。
二度と開く事のないように強く瞑った。
雨の音がする。
それと私の淫らな呼吸の音だ。
それに這うエキドナの音が加わった。
『・・・寄るなっ!』
何故に近寄る?
意味が分かっておるのか?
無理なのだ。
例え癒せても根本がどうしようもないのだ。
この欲は捨てられぬのだ。
今、私にあるのは恐怖だ。
其方を意地汚く汚してしまうのが恐ろしい。
気が付けば後脚で花冠だった物を踏んだ音がした。
尾が奥の岩壁に当たった。
これ以上は退がる事が出来ない。
『あっ・・・ああ、は、離れろ!触れるなっ!』
何時ものように・・・私を粘体で包み込んだ。
だが今は全身だ。
私の全身を丸ごと包み込んだ。
『だ、駄目だ!エキドナ!其方を汚してしまう!』
前の発情期とは違う。
冷やされるだけではもう済まん。
『あっ!・・・ぐあぁっ!』
両後脚の付け根にある鱗が音を立てる。
メリメリと音を立て、赤黒い陰茎が顔を出した。
『まだ間に合う!離れろ!』
開放感に理性が追い付いた。
動けば・・・其方を喰ろうてしまう。
大丈夫だ。
私は耐えられる。
喉からの唸り声と牙を鳴らし、涎が隙間から垂れる。
私の我慢を嘲笑うかのようにエキドナが動いた。
突き抜ける快感に膝が笑った。
その行動に思わず目を見開いた。
『は!離せ!駄目だっ!』
掴んでいた。
それはエキドナでいう手の部分だ。
『ぐ、ぐうぁ!・・・あ、ああっ!』
逆らえなかった。
それが愛しき者を求める竜の本能だ。
下を見下ろせば桃色の粘体に黄金の子種が飛び散っている。
『やめて・・・くれ・・・頼む』
治る訳もない。
その扇情的な光景は更に怒張を硬くさせた。
息も絶え絶えに懇願する。
駄目だ。
これ以上は耐えられぬ。
エキドナはその黄金の子種を・・・取り込んだ。
思わず息を飲む。
心を過ぎったのは喜びだ。
もう止められない。
煽り過ぎだ。
『・・・エキドナ・・・』
私の呼ぶ声も色付いた。
そして私の首に粘体でしがみ付いた。
陰茎を包み込む感触に慌て止める。
『ま、待て!』
更なる快感に脳まで痺れた。
粘体に埋まっている。
はっきりとそう感じた。
『くっ!動くな!私の話を聞けっ!!!』
ぷるんと粘体を震わせた。
優しくも強く包み込む陰茎に刺激が伝わる。
その刺激に耐える為に、首を折り眼下の粘体を舐めた。
そこはエキドナでいう顔の部分の筈だ。
『・・・態々身を捩ったのだ、この穴はそういう穴なのか?』
どの穴とは聞くまでもない。
現在、私の陰茎が刺さっている穴だ。
そう聞けば粘体が頷いた。
・・・情け無い。
『私は死ぬ気だったのだぞ?・・・これではまるで道化ではないか』
申し訳無さそうに萎れる。
その仕草を愛らしく思い、また顔を舐めてやった。
聞きたいことは山程あるが、優先すべき事を成さねばならない。
『もう否とは答えるな・・・』
答えてもらうぞ。
私の愛に。
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