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2の巻《かくまい人、用心棒にされる》
⑤-2
しおりを挟む若い男の恫喝が店の裏手にまで響き渡った。
重蔵と誠之助が急ぎ駆けつけると、すでに手代をひとり殴りつけ、番頭の胸ぐらを掴みあげている男がいた。
その後ろには、顔を腫らした男がひとりと、ほか十人ほどになる若者たちが、瘴気を立ちのぼらせていた。
「下がっていな」
誠之助は女将や重蔵を背に隠し、抜刀した。
「ごら。借りた金も返さねえで、力で追い返そうってなぁ、どうゆう了見だ?」
前に出た誠之助に隠れ、郡上屋の主人は証書を握りしめていた。
「か、金ならとっくに返した!帰っとくれッ」
「連れを殴ったツケがまだ貰ってねえぜ。痛くって飯も食えねえと言ってんだ、どう償ってくれんだ!おお!?」
先頭の若者がさらなる圧をかける。
さきほど誠之助に殴られたのであろう男が、大したこともない腫れを押さえ、わざとらしく痛がっている。
重蔵は静かに、堪忍袋の緒を解いた。
「誠之助どの、下がっておれ」
重蔵は誠之助を押しのけると、自ら前へ歩み出た。
「おい、無茶をしちゃならねえ。ここは俺が」
止める誠之助を隅へ追いやり、
「私も、頼られるのは嫌いでないのだよ。ことに、己の得意なことではな」
重蔵は筆頭の正面で、堂々と仁王立ちした。
「おう、小汚ねぇ用心棒よ。まさか手前の女を俺たちにくれてやるんじゃねえだろうな」
筆頭が誠之助と重蔵を嘲笑う。
その顔に、重蔵が張り手をひとつ食らわせると、筆頭の体が吹き飛び、後方に群れていた手下どもをなぎ倒した。
「ふん、羽のごとく軽い体よ」
鼻を鳴らすと、抜いた刀を誠之助に預け、その鞘を手に構えた。
「我が身には、苦節二十五年で育てた筋骨が詰まっておる。弱き者をいたぶってきただけの貧相な体で、私を倒せるのなら、やってみせるがよい」
重蔵の大喝とともに、辰の党が一挙に襲いかかる。
重蔵は一歩前に動くでも、一歩下がるでもなく、その位置を死守しながら、襲いかかる若人たちを次々と打ちのめす。
可憐な顔とは裏腹に、太い腕が放つ一撃は重い。
刃物を猛々しく振りかざす辰の党の連中さえも、一太刀を避けられれば、次の瞬間には鳩尾を打たれて、床にのびていた。
「野郎ッ」
筆頭の足が、重蔵の足元を掠めた。
足払いをされれば体勢はたちまち崩れ、隙が生まれてしまう。
ところが、重蔵は微動だにしない。
どしり、と音を立て、重蔵がついに一歩を踏み出すと、
「足払いとは、こうやるのだ」
刹那、筆頭の体が宙を舞った。
重蔵の蹴りに足元を掬われ、軽々と回転した痩身は、次の瞬間、強かに背中から倒れた。
「お前、番所へ行ってきなさいッ」
店の入口を塞ぐ者が、軒並み倒れたのを見るや、主が女中を遣いに走らせた。
やがて最寄りの番所から岡っ引きと、同心の保志月平太が駆けつけると、
「や、そなたは熊の手下ではないか」
そこでは、すでに重蔵が若者たちを縛りあげていたのである。
◇
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