93℃の執着

UTAFUJI

文字の大きさ
80 / 95
第三章

22話

しおりを挟む

 ショッピングモールの通路をぶらぶらと歩く。雑貨屋でマグカップを眺めたり、小洒落た文房具を手に取ったり。玲央が可愛いポーチを見つけて、俺に見せてきたり。

 そのあと立ち寄ったカフェでは、二人席に腰を下ろしてドリンクを片手に、仕事場の話やカフェの話をした。おかわりが半額とのことだったので、何回かおかわりをして時間が許すまでのんびりしていた。

 笑って、からかって、沈黙も気まずくなくて。時間が過ぎるのが妙に早く感じた。

 カフェの窓の外、陽が落ちて街の明かりが少しずつ灯り始めたのに気づいて、スマホに目をやると、時刻はもうすぐ十八時。あっという間に、待ち合わせの時間が迫ってきている。

 そろそろ、向かった方がいいかな。

 何気なく視線を上げた先で、玲央がストローをくるくると回していた手を止める。そして、俺の顔をちらりと見て、軽く首を傾げる。

「もう行っちゃうの~?」

「ああ。そろそろ時間だし」

 そう答えた俺の言葉に、玲央はほんの一瞬だけ目を細めた後、ふっと笑ってトレーを持ち上げる。

「ちぇー、仕方ないなぁ……まぁ、栞季くんが知らない男とデートしてるところなんて見たくないから、俺は大人しく撤退するけど~」

 そう言って立ち上がる玲央は、口ではそんな軽口を言っていたけれど、少し寂しそうに見えた。

「昨日も今日もありがとね」

 そう言って、いつも通りの調子で笑ってみせる玲央に、俺も「こちらこそ」と短く返す。

 玲央は少しだけ名残惜しそうにテーブルに視線を落とし、それからまた俺の方へ目を向けてきた。

「……また、時間ある時さ。どっか行こうよ」

「もちろん」

「よし!じゃ、できる限り楽しまないでね!」

 冗談めかして言いながら、玲央はカフェの扉を押し、夜の街へと出ていった。

「楽しまないでねって……」

 残された席で俺は苦笑した。それから、スマホの画面に目を落とす。新しいメッセージが届いてないのを確認して、依織とのトーク画面を開いた。

 『着いたら連絡して。とりあえず中央改札口に向かうから』

 そう送って、送信済みのその短いメッセージを見つめる。まだ既読はつかない。改札まではそう遠くないし、ゆっくり歩けばちょうどいいくらいだろう。

 俺は腰を上げ、軽く背伸びをしてからスマホをポケットにしまう。

「……行くか」

 この時間になると、仕事終わりのサラリーマンや下校中の学生で駅構内は先ほどよりも賑わっている。行き交う人々にぶつからないように改札口へと歩みを進める。

 天ぷら、楽しみだな。

 依織のおすすめというお店がどんな感じなのかはわからないが、あれだけ電話口で語っていたのだ自然と期待も膨らんでくる。

 ポケットの中のスマホが震える。画面を確認すると、依織からのメッセージ。

『もうすぐ着きます!わかりました!中央改札口ですね』

 ふっと笑みが漏れた。改札の案内板が見えてきた頃には、自然と歩幅も少しだけ速くなっていた。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

「大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺は いちご狩りに誘われただけだが。 何故か誘ってくれた大学一軍イケメンの海皇(21)に、突如襲われて喰われたのは俺だった? ちょっと待ていっ! 意味不なんだが。 いちご狩りからはじまるケンカップルいちゃらぶ♡ ※大人描写ありの話はタイトルに『※』あり

定時後、指先が覚えている

こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。 それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。 触れるはずのなかった指先。 逸らさなかった視線。 何も始まっていないのに、 もう偶然とは呼べなくなった距離。 静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、 等身大の社会人BL。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

「あなたが見ているのは、誰ですか」

静羽(しずは)
BL
新人社員の湊 海(みなと かい)は大手企業に就職した。 情報処理システム課に配属された。 毎日作成した書類を営業課に届けている。 海は情報処理システム課で毎日作成した書類を営業課に届けている。 そこには営業課に所属するやり手社員、綾瀬 (あやせ はると)の姿があった。 顔見知りになった二人は、会社の歓迎会で席が隣になったことで打ち解け遥斗は湊に一目惚れしていた事、自分のセクシャリティを打ち明けた。 動揺しつつも受け入れたいと思う湊。 そのタイミングで大学時代に憧れていた先輩・人たらし朝霧 恒一(あさぎり こういち)と卒業後初めて再会し、湊の心は二人の間で揺れ動く。

処理中です...