好きになったのが神様だった場合

麻生璃藤(あそう・りふじ)

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#13 神様に恋した結果

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翌日、明香里は学校帰りに水天宮へ行く。

それは以前に戻ったようだが、少し違うのは社務所のインターフォンを鳴らしたところだ。
返事はガラス張りの引き戸の向こう側に見える人影だった、それはふたつあった。
引き戸を開けたのは、長身の影の健斗。

「やあ、いらっしゃい」

笑顔で出迎えてくれる。

「お邪魔します、よろしくお願いします」

明香里はバイトは未経験だ、初めての事に緊張してしまう。

「まあまあ、あなたが明香里さんね。こちらこそよろしくね」

挨拶をしたのは、もうひとつの影、健斗の母・紹子だった。

「さあ上がって、身支度しましょ」
「僕も手伝いましょうか?」

健斗が笑顔で言うと、紹子が睨み付けた。

「全く、何を言ってるの」

そんな言葉だけで、明香里は別室に連れていかれた。言葉の意味を明香里はその時理解する、その部屋には巫女装束が衣装盆に置かれてあった。

「着付け、判るかしら?」

それは無理だ、明香里が天井を見上げた時、

「明香里!」

障子の向こうで天之御中主神アメノミナカヌシノカミの声がした。

「明香里が来ていた! そこか!?」

そんな声に、健斗が応えているようだった。そして障子の向こうの影が濃くなったとき。

「開けてはいけません──ああ、いいですよ、開けても。きっと素敵なものが見られるでしょうから」

そんな健斗の声も聞こえ、紹子は溜息ひとつ、襖を開けた。

「あ、紹子殿!」

天之御中主神が笑顔で言うが、紹子はぎろりと睨み付ける。

「天之御中主神さまも健斗も、いい加減になさい。即刻ここから離れて……いえ、外にでも行っていなさい」

怒られ天之御中主神はしゅんと肩を落として反省したが、健斗は肩を竦めただけで反省をした様子はなく歩いていく。





15分後、明香里は鏡に映った自分の姿を紅潮した顔で見つめている。巫女装束は思いの外可愛く、我ながら似合っていると思えた。

「まあ、何度かやれば覚えるでしょうから。明日は明香里さんが自分で着てみてね」
「はいっ」
「ああ、似合いますね」

その声ははっきりと聞こえた、終わったとも言っていないのに健斗は襖を開いて明香里の姿を見ている。

「ねえ、可愛らしいわ」

それを注意もせず、紹子も肯定する。

「それだけお似合いなら、是非うちにお嫁に来てもらいたいですね」
「まあまあ、それはそれでいいお話だけどねえ」

紹子もまんざらでもないが、それは当人次第だと判っている。
紹子自身、やはり神社の娘だった。自分では一般家庭への結婚も視野に入れていたが、結果的には人を介してこの水天宮への輿入れとなった。それに後悔はないが、選択の余地はもっとあってもよかったとは思っている。息子の健斗が跡を継ぐと言ってくれたのは嬉しいが、別に気にしなくてもいいのに、とも思う。
健斗の背後から明香里を見つけた天之御中主神もほくほく顔だ。

「うんうん、夏を思い出すな、やはり明香里はその手の格好の方が似合うぞ」
「そうかなあ」

袂を広げ、鏡に映しながら明香里はその姿を確認する。

「ええ、似合いますよ。では仕上げは僕がしましょう」
「仕上げ?」

明香里も紹子も声を上げた。
健斗の手には巾二センチほどの和紙があった、それを見て紹子は、ああ、と呟く。

「さあ、座って」

明香里は鏡の前に正座した、その間に健斗はその紙を折っていく。最終的にはそれを明香里のローテールの髪に掛けて輪にし、きゅっと締め上げた。

「え、これって……」
「巫女装束の一部です、丈長たけながと言うんですよ」

健斗が説明する中、紹子が手鏡を渡した。明香里はそれに反射させてその丈長を見る。

「わあ……かわいい……」
「ええ、似合ってます」
「あ、写真撮ろ、お願いしていいですか」

明香里が鞄からスマホを取り出し健斗に渡したが、健斗は紹子に渡して、明香里と肩を組む。明香里は「ん?」と思いつつも一緒に撮ってもらってしまう。

「俺も、俺も!」

天之御中主神アメノミナカヌシノカミが訳も判らず声を上げ、明香里と並んだが。

「──まあ」

紹子は声を上げた。

「──天之御中主神さまは、本当に神様、なんですね」

そんな言葉に皆は、え、と呟く、その間に紹子はシャッターを切った。
撮ったその写真を、紹子は見せる。
絶対に、明香里の隣に天之御中主神は居た筈なのに。明香里の肩に腕を掛けた姿でいた筈なのに。そこに天之御中主神の姿はなかった。

「──なんでだ?」

天之御中主神は不機嫌に言う。

「顕現していても、肉体はないと言う事なのでしょうかね」

健斗が冷静に分析する。

「そんな」

天之御中主神は呟き明香里を見下ろすと、その頬をそっと指の背で撫でた。

「そんなはずはない、ちゃんと触れられる、明香里の温かさもわかる」

熱のこもった瞳に魅入られ、明香里は慌てて顔を伏せる。

「明香──」

天之御中主神はその指を顎にかけ明香里の顔を上げようとしたが、健斗がその手を叩き落とした上、ふたりの間に割って入る。

「妙齢の女性にする仕草ではないですね」
「何をいう! 俺と明香里の仲だ! 邪魔だてするな、権禰宜!」

言い合いを始めるふたりに、明香里はこそこそ逃げ出し、紹子も肩を竦めて明香里を連れてその場を去った。





来訪者にお守りの販売をした、その会計が終わり、販売口のガラス窓を閉めると背後から健斗が声をかける。

「なかなか上手ですね、本当に初めてですか?」
「物を売る経験なんて、文化祭の出し物くらいです」

明香里は恥ずかしそうに答える。

「本当ですか? なかなか堂に入っています。すぐにここでの仕事を任せられます」

とても遠回しなプロポーズの言葉に、明香里は太腿を叩きながら振り返った。

「権禰宜さん!」
「健斗です。そんな堅苦しい肩書で呼ばれることは、まずありませんし」
「──健斗さんっ」

むしろこちらは呼びにくいと思いつつも叫ぶ。

「からかうのはやめてください! 私が天之あめのくんを好きなのは知っているでしょ!」
「知っていますよ、結ばれることのない、無駄な恋をしていると」

はっきりといわれて明香里の顔は凍り付く。

「まあ、本人たちもわかっているようなので改めていう必要もないんですけど。そんな恋でも恋は恋ですし、恋は女性を綺麗にすると言いますからね、その点では無駄ではないですね。でも無駄に神様とこの先どうこうなろうなんて夢を見るより、私という現実で手を打ってはい──」

瞬間、明香里は健斗の頬を平手ではたいていた、軽快な音が響く。

「──そういう、手を打つではなく」

しょせん女性の力の平手だ、わずかに感じる痛みを健斗は手の甲で拭う。

「夢を見ちゃダメなんですか!?」

明香里自身わかっている、いつまた見えなくなるかもわからない、そんな相手をこうも想うのは辛い過ぎるのだ。

「10年も片思いをしていたんです、今更忘れるなんて無理なんです! ほんの少しの間でも恋人でいたいんです……!」

右手の痛みを、そっと左手で包み込み胸に押し当てた。その痛みは胸が感じる痛みだと思える。
涙をこらえる明香里に、健斗はさすがに言い過ぎたかと溜息を吐いて反省する。

「恋人気分を味わうために天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまにプレゼントを?」
「そうですよ、悪いですかっ?」
「──いつかいなくなってしまうなら、なくなってしまう物のほうがよいのでは?」
「いいんです、いつか、天之くんが見えなくなってしまったら私が引き取ります」

天之御中主神が触れたものが何よりの大切なものに思える、それらを数少ない天之御中主神との思い出に──そう思うと涙がこぼれた。
そこへ天之御中主神がひょっこりと顔を出す。

「明香里、なんの騒ぎだ──って、泣いておる! おい、権禰宜! 明香里を泣かせるとは許さんぞ!」
「はいはい、すみませんでした」

軽い謝罪に天之御中主神に怒りを見せ、明香里の腕を引いて抱き寄せる。

「大丈夫か、乱暴でもされたか」
「されたのは私のほうです」

僅かに赤くなった左の頬を示すと、天之御中主神は鼻で笑う。

「頬を叩かれたら、もう一方も差し出せという言葉を知っておるか」
「ほほう、なかなか博識ですね、異国の聖書の言葉までご存じとは。さすがは宇宙の誕生とともに生まれた神様です」

天之御中主神は黙って左手振り上げた。

「そもそもその言葉にはいくつか解釈があるのはご存じですか?」

健斗は意に介せず話を続ける。

「叩かれていない方の頬を差し出すのは自分に敵意はなく、仕返しはしないという意思表示とだというものや、本来その言葉は右を叩かれたら左も出せというものです、それは明香里さんのように人間の多くは右利きで、それで左の頬をはたかせるには手のひらでぶたなくてはいけないでしょう、それは身上の者に対する反逆心の現れを示したものだというものもあったり」
「よくは知らん」

いって天之御中主神は目を光らせ、今こそ手を下ろさんとする。

「本当に心の狭い神様です、慈悲の心はないんですか」
「ない、明香里をいじめる者には特に」

はあ、と呆れた溜息を吐いた健斗の右の頬を、明香里が優しい力でぶった。

「──は?」

男ふたりの声が重なる。

「天之くん、これで許してあげて」

いくらなんでも男の力でぶたれてはかわいそうだと思い、明香里自ら叩いて場を収めようとした。そんな明香里の気持ちを理解し、天之御中主神は明香里を抱きしめる。

「明香里は、本当にかわいいやつだなあ!」

ぐりぐりと乱暴に顔を明香里の頭や首筋にこすり付ける、明香里は恥ずかしくも嬉しかった。

「うんうん、お前がよいならもういい! さあ、境内の掃除でもしよう!」

嬉しそうにいって手を引き売店を出ていく、明香里も素直についていった。
そんな後姿を見送って、健斗は再度溜息を吐く。

「──まったく、ピュアすぎて負けますね」

ふたりは社務所の引き戸から外へ出た、脇の壁には竹ぼうきが立てかけてある。

「これで石畳にある砂利を払うのだ」

いって竹ぼうきを明香里に差し出す。

「俺はゴミ拾いをしよう、道具を持ってくる、明香里は始めていてくれ」

いわれて明香里は微笑んだ。

「はい、先輩」
「先輩?」

不思議そうに聞く天之御中主神に明香里は微笑む、僅かでも先にここでの仕事を始めていたのは天之御中主神だ、しかもきちんと仕事を指示してくれる、本当に先輩のように感じられた。
明香里の笑顔に天之御中主神も笑顔で返し、本殿脇にある掃除用具が入った倉庫へと向かう。

明香里は言われたとおり、石畳にある玉砂利を元へ戻すために掃き始める。
まもなくだった。

「お、巫女さんだ」

若い男の声に明香里は視線をやると、しっかりと目が合ってしまったので小さく会釈をする。それは水天宮の一員と認識しての挨拶だ。
4人の男達だった、20歳前後と見える、どこへ行くつもりだったのかは知らないが、ひとりが足を止めると皆で止まり、顔を見合わせてにやりと笑ったのに明香里は恐怖を覚える。
だが逃げることはしなかった、直に天之御中主神も戻るだろう、背を向け掃除に意識を集中させる。

「巫女さん」

その声はすぐ近くでした。

「そんな恰好で寒くないの?」
「え、いえ……」

振り返った時には左右にも男がいて、三方を囲まれていた。

(え、なんで……っ)

「へえ、なかなかかわいいじゃん、服装のせい?」

右側にいた男が抜いた衣文をひっぱった、不意のことに明香里は必要以上に驚く。

「やめてください!」

振り払おうと体を動かすと、持っていたほうきの柄の端が前に立っていた男にぶつかってしまった。

「いってー!」

大げさに声を上げ、当たった腕を押さえて座り込む。

「え、ごめんなさい……」

謝罪は弱くなってしまう。そんなに強く当たったつもりはない、先ほど健斗をはたいた時より弱いと思える力だったが、当たり所はあるかもしれない、しかしコートの上からだ、衝撃からいってもそう痛みはないように思ってしまう。

「大丈夫か、ジュン! あーあ、巫女さんが怪我させるなんてなあ!」

ひとりが上げた大声を、他のふたりが賛同する。

「すみません、あの、手当てを」

社務所に来てもらおうと思い建物を指さす。手伝いのつもりで始めたバイトなのに、逆に迷惑をかけてしまうことになってしまった。

「いや……薬ならうちにある……巫女さんが来てくれて、ちゃんと手当してくれたら、痛みが引くだろう……」

男の言葉に、明香里は「は?」と間の抜けた声が出てしまう。

「だってよ! ほら、来いよ!」

乱暴に腕をつかまれた、背は別の男に押される。

「あの! だから社務所へ……私、バイト中なので、勝手に抜けるわけにはいきません!」
「俺から連絡しておくよ! ほら、行こ──」
「なにをしている!」

天之御中主神の鋭い声に、明香里は安堵した。

「ち、男か」

姿を見た男がいう、聞いて背を押していた男は手を離した、だが離れた手は明香里の胸を背後から強い力でひと掴みしてからいなくなる。

「──い……っ」

叫び、胸を押さえてよろめく明香里に、天之御中主神は異常を察知する。

「貴様ぁ!」

声に質量があったように明香里は感じた、それは風のように明香里たちに吹き付けたが、明香里には髪を揺らす程度にしか当たらなかった。だが4人の男たちは鉄球に弾かれたように地面に転がる。

「な、な!?」

何が起きたかもわからず動揺する男たちの頭上に水がかけられた。バケツをひっくりかえしたでは済まない水の量だ、まるで消防車の放水車のような水に頭上を見上げる。
それが雨だとわかったのは雨雲があるからだが、おかしいのは雨雲は4人の2メートルほど上空にある点だ。直径も2メートルほどで4人を包み込むだけしかない。

「──は!?」

なんだなんだと思う間に、危険を察知した。真っ黒な雲の内部がピカピカと光り始めたのだ。ミニチュアのような積乱雲が雷を落とそうとしている。

「なんだ……!?」
「やべ! 逃げろ!」

4人は慌てふためいて、立ち上がるのもままならぬ様子で転がるように走り出す。その上を雲はぴったりとついていく。

天之あめのくん!」

明香里は叫んでその体に抱き着いた、その時騒ぎを聞きつけた健斗も社務所から出てくる。

「何の騒ぎです?」

聞くまでもなかった、参道の極地的に水たまりができているのがすでに異常だった、そして鳥居の向こうを走って逃げていく男たちを追いかけるように積乱雲が光りながら動いている。

「天之くん!」

悲痛とも思える明香里の声がする、天之御中主神を見ればただ前方をにらみつけているだけだが明香里の気持ちを汲み取り、近づくとその頭頂部に手刀を入れる。

「い……っ、たいのう! 権禰宜、なにをする!」

瞬間、雲は蒸発するように消えた。

「そんなに強くはやっていません、それより明香里さんを見なさい」

いわれて自身を抱きしめる明香里を見た、不安そうな目と合い、事態を察する。怒りに任せて力を使ってしまっていた、それはやってはいけないことだ。

「──すまぬ」

謝ると明香里は微笑み返す。

「ううん、助けてくれてありがと」

いって両腕を伸ばし、背伸びまでして天之御中主神アメノミナカヌシノカミの首に腕を回す。

「ぎゅってして」

そこに天之御中主神がいると感じたかった。天之御中主神すでに密着している体をさらに強く抱きしめ、明香里のうなじに鼻を埋めその香りを深呼吸する。

「今の男たちは?」

健斗は現実に引き戻そうと声をかける。

「はい、なんだか知らないですけど……たぶん、ナンパです」

明香里はため息交じりに答えた、男たちに触れられた場所がぞわぞわと虫でもはりついているように感じる。

「天之くん……」

ひんやりとするその体に、明香里は体をこすり付けた。

「なんとも節操のない連中ですね。魅力的な明香里さんを前に我慢ができないのはわかりますが、私の明香里さんに手を出すなど」
「誰がお前の明香里だ、明香里は俺のものだ!」

耳元の大声に、恥ずかしくも嬉しくなる。

「ともあれ、外にはいないほうがいいでしょう、中で作業をしてもらえますか?」

いわれて3人で社務所内の事務所に入る。

紙垂しでを作ってもらいましょう」
「しで?」
「これです」

棚から下ろした木箱には材料と出来上がった紙垂が入っている。

「あ、これ」

しめ縄や玉串の飾りに使われる、和紙を切って折って作った飾りだ。雷の形を模しているともいわれる。

「そう難しくはないのですが、教えますね」

丸椅子に腰かけるようにいうと、その隣に天之御中主神も座ろうとするのを見て、健斗が咎める。

「あなた様は掃除の続きをお願いします」
「そんなことをいって、明香里とふたりきりになろうというのだろう!」
「本当に心の狭い神様です、ずっとはいませんよ、神職はそう暇ではありません」

そういわれ、明香里にもごめんねと謝られて、天之御中主神はしぶしぶ外へ出た。
さっさと終わらせてしまえばいいだけだ。指を立て軽く振るうと小石は砂利の中へ戻り、落ち葉とお菓子の空き袋はちりとりに入る。不自然に濡れた参道が気になった、手のひらを上下に振れば地上から10センチほどの高さで雨が降り、参道全体を濡らす。

「これで文句はあるまい」

掃除道具を持ち倉庫へしまいに行く、そればかりは自身の手で行った。ゴミは倉庫脇のゴミ箱へ放り込む。
そしていそいそを社務所へ戻った、姿を見つけた健斗が眉をしかめる。

「ちゃんときれいにしたんですか?」
「ああ、もちろんだ! 確認してこい!」

そこまでしなくても、と健斗は思う。もとより常日頃からきれいを心がけているわけではない、いつもなら気が向いたときに掃除をする程度だ。

「──まあ、いいですけど。じゃあ、明香里さん、このお手本を見てもわからなくなったら、私か母を呼んでください。別にいっぱい作らなくていいので頑張らなくて大丈夫ですよ?」
「はい」

明香里の返事を聞いてから、健斗は社務所の奥へ消える。

明香里は奉書紙を広げる、やや厚手の半紙というところか。その前には紙垂の過程順に4つ置かれていた。切れ目だけのもの、一回折ったもの、二回折ったもの、三回目で完成したものである。

「俺も手伝おう」
「うん。えっとまずは、これを6枚に切るから……」

長手方向に半分、それをさらに三等分になるようカッターで裁断した。

「これを半分に折って……」
「俺もやろう」

それくらいならできそうだと、天之御中主神も折り始める。

「そうしたら、互い違いに切れ目を入れて」

それは見本があった、天之御中主神がふむふむと見ていると、明香里はカッターを取り損ね、その場でくるりと回転してしまう、慌てて手で止めた。

「あ……っ、やだ、いった……っ!」

声を上げ、右の人差し指を咥える。

「どうした!?」
「ん、ごめん、刃は出しっぱなしにしちゃ、ダメだね」

口から出した指先を見た、傷口は数ミリだ、そう深さはないが血はなおもあふれてくる。明香里は舌先でそれを拭った。

「ごめん、こんな手じゃ作れないや、天之くん、作ってくれる?」
「それは構わんが、お前のケガは」
「大したことないよ、とりあえずばんそうこうもらってく……」

立ち上がろうとした動作すら止まった、天之御中主神が明香里の手を取ると、何のためらいもなく口に含んだのだ。

「あ、天之、くん……っ」

冷たい口内だ、さらに冷たい舌が指先を妖しく舐め、吸い上げ、明香里の心臓はやたら主張し始める。

「だ、だめ、だよ……」

ため息交じりの拒絶は何とも弱い、指先が震えそうになるを懸命にこらえた。

「他人の血なんか、飲んじゃ……っ」

血は決してきれいなものではないと聞いたことがある、どんな感染症に侵されているか判らないのだ。

「なに、俺はそもそもヒトではない、心配するな」

天之御中主神は笑顔でいい、なおも溢れて来る血を舌先で拭った。
色っぽくも見えるしぐさに明香里は耐え切れず指が、いや手そのものが震えたが、天之御中主神は痛いのだろうかと思っただけだった。
震えたのは手だけではなかった、全身が興奮にぞくぞくしてくる。その得も言われぬ感覚に駄目だという感情はなくなっていた。ただじっと天之御中主神の顔をじっと見つめてしまう。

天之御中主神アメノミナカヌシノカミもまた、明香里の指から離れられない気持ちになっていた。指先の血だけでない、手そのものに舌や唇を這わせていた。どうしようもない興奮が全身をむしばむ、体が熱くなり心臓の鼓動が早まり、頭がぼうっとしてくるのに任せて、一心不乱に明香里の指に食らいつき、血を吸っていた。

口内に溜まったそれをごくりと嚥下した時、

「──う」

突然呻き、天之御中主神は手を離した、明香里ははっと我に返る。

「天之くん、どうしたの?」

見る間に天之御中主神は青ざめ、脂汗をかいてくる。

「え……っ、だから血なんか飲んじゃダメって……! 健斗さん! お母さん!」

明香里は袴を翻して事務所を出ていった。





社務所の一階、事務所の奥には一家団欒ができる座敷がある。そこに天之御中主神アメノミナカヌシノカミは横たわり、羽毛布団をかけられうんうんと唸っていた。
周りには御園一家も集まり、天之御中主神の様子を見守っている。

「──これは」

そんな天之御中主神を見て白狐は絶句する。

「権禰宜さん! 早く救急車を……!」

天之御中主神を手を握りながら明香里は訴える、そんな明香里に健斗は溜息まじりに答えた。

「仮にも神様です、人の力で治せるものですか?」
「だって、私のせいで……!」

怪我をして血を舐めて拭ってくれたと訴えたが、みな半信半疑のようだ。その程度でここまで苦しむものなのかと。

「現実的な話をさせてもらえば、彼は健康保険にも入ってませんから、病院で治療などしたら請求額は莫大になると」
「そんな! このまま見捨てるつもりですか! お金なら私が一生かけてでも払います!」

半ば冗談のつもりでいったが、真面目に答えられてしまい健斗は肩をすくめる。

天之御中主神アメノミナカヌシノカミさま、祝詞でもあげましょうかな」

宮司の成恭が笑顔でいう、まったく緊迫感がない。

「そんなもので……治る気がせん……」

ご本尊たる天之御中主神にいわれ、そんなひどいと神職たちは憤る。

「……気持ちが、悪い」
「大丈夫? 吐く? 吐くなら吐いて」

今すぐかと焦り明香里は両手を差し出した、紹子が慌てて器を取りにその場を離れる。

「腹が、沸騰でもしているようだ……」

そういって体を縮こませる、痛みが楽なる場所を求めるようだと明香里は思う。

天之あめのくん……っ」

自分のせいだと痛感し、少しでも楽にしてやりたいとその背を撫でながら抱きしめた。

「──すごい熱……!」

いつもはひんやりとしているその体が、ありえないほど熱くなっていた。

「お願いです、病院へ──このままじゃ死んじゃいます!」

叫び起こしかけた体を、天之御中主神が手をかけ引き留めた。

「居てくれ。明香里が触れていると、少しは楽だ」
「本当?」

はあ、と深く息をついての言葉に、本当に楽になるのならばと明香里は天之御中主神に覆いかぶさる。

「そんなことをいって、見せつけるなど──」
「そこです!」

健斗の文句を、狐が突然大きな声を上げて遮る。

「なんです?」

健斗が静かに聞き返した。

「粗慢な神とはいえ天之御中主神さまは間違いなく神様なのです、何十年もお仕えしておりますが、当然のことながら病気など一度もしたことはございません」
「狐ぇ、一言多いぞー」

天之御中主神は苦しい息の元ながら言い返す。

「顕現しておるとはいえ、神がこうも具合が悪くなるなど、あるでしょうか!?」

言われて皆で顔を見合わせる。

「──でも、こうして触れることはできますから、肉体があるのでは?」

健斗が言う。

「わたくしめも霊体と肉体の間の存在です、触れることはできますが、食事を必要とはしませんし、具合が悪くなることもありません」
「でも今の天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまは、明らかに具合は悪そうですね」
「悪そう、ではない、本当に死にそうに辛いぞ」

苦しげに言うが、あなたに死がわかるのかとは誰も聞かなかった。

「そもそも、なぜこんなにも長い時間顕現されておるのです? あなた様の身に何が起きているのです!」
「そうは言われてもなあ……」

狐の言葉に天之御中主神は明香里の腕の中で小さくなって呟く、明香里は涙目で訴えた。

「いつもは冷たい天之あめのくんの体がこんなに熱いだけでおかしいんです、お願いですから助けてください」
「ふむ」

健斗が顎をさすりながら考える。

「あなたの血をなめたそうですが、見たところケガはないですよね」
「指を切りました」

いって右手の人差し指を見せる、まだ生乾きと言っていい血がついていた。

「コップ1杯飲んだというならまだしも、そんなかすり傷程度の血を舐めたからといって、こうも具合が悪くなりますか?」
「でも、現にそのすぐあとにこんな風になったんです」

熱いのに青ざめ体を震わせる天之御中主神を見て、明香里は不安になってさらに強く抱きしめる。

「明香里さんの血になにか毒性でも?」
「そんなことはないですけど!」

そんな確証はないが、そう思うしかない、自分はすこぶる健康だ。

「どうする、健斗?」

泰道が不安そうに長身を見上げる。

「そうですね──正直、治せる医者がいるとは思いませんが、明香里さんが心配しているのではとりあえず病院へ行きますか」

近所の医院にでも連れていくかと思いながらいう健斗の声を、白狐がかき消した。

「安徳天皇さま!」
「安徳天皇?」

皆の視線が狐に注がれる、狐は拝殿と社務所を繋ぐ扉を見ていた、皆も一斉にそちらを見るがその存在は確認できない。だが狐の視線は動き天之御中主神のあたりで止まる。
見る間に天之御中主神の呼吸が緩くなってくる、全身に入っていた力が抜けていくのも明香里にはわかった。

「天之くん……!」

苦しげだった顔も元のきれいな顔立ちに戻って、明香里は安堵する。呼びかけに天之御中主神はぱちっと目を開いた。

「楽になった! 安徳が施してくれたのか、ありがとな!」

健斗も快癒にほっとしながらも「人騒がせな」という嫌味は忘れなかった。天之御中主神は嬉々として体を起こし、辺りを見回す。

「はて。安徳はもう戻ったのか?」

言葉に狐がはっとする。

「いえ、今もおそばに──見えないのですか?」
「うん? 安徳?」

見回すが幼子の姿はない。

「……そんな」

白狐が呟く、天之御中主神はぶるりと体を震わせた。

「なにやら、冷える……っ」

呟き、やや乱れた白衣しらぎぬの襟を直し合わせを正して、上掛けを引き寄せる。

「──冷える? 寒いってこと?」

思わず明香里は呟いた。

「え? ああ、寒い……」

しっかり白衣を着こんで小さくなってから、天之御中主神もはたと気づく。

「──今まで寒さなど、感じなかった」
「一応、この部屋は暖房は入ってますけどね」

健斗は言う、しかし天之御中主神も脂汗をかいた後だ、それで冷えているのかもしれない。

「着替えを持ってきましょうか、しかし一体、何が……」
「安徳天皇さま」

いって狐が身軽に跳ねながら天之御中主神のかたわらにやってくる、そしてなにやらうんうんと頷いた。

「不思議なことに、天之御中主神さまは人間になってしまわれたと安徳天皇さまはおっしゃっております。天之御中主神さまから感じる霊力はとても弱いとのことです」
「霊力が」

天之御中主神は呟き、淋し気に微笑んだ。

「確かにお前の声すら聞こえぬ」

狐の視線の先にいるのならば近くにいるはずなのに。それまであった物を失う淋しさが込み上げる。
自分の両手を広げ見つめる、自分自身では特に変化は感じられないが──その右手の人差し指を前方に振ったが、なにも起こらない。

「お?」

今度は天井へ向けて一回転させる、その仕草を明香里は以前見たことがある、直後に大雨が降ったのだ。
だが室内にはもちろん、外にすら雨が降り出す気配はない。同じように振るったつもりだが、どうにも今までのような意識の集中ができないのがわかる。

「なんと! 力が使えん!」

驚き声を上げた。

「え、じゃあ……本当に人間になってしまったの……?」

明香里は顔が緩んでしまう、力を失ったという意味を悟れば嬉しかった。今まで会うこともままならなかった相手が人になったならば、なんの制約もなくなるということだ。

「……天之あめのくん……!」

腕を伸ばしその体を抱きしめた、天之御中主神アメノミナカヌシノカミも笑顔で抱きしめ返す。いつ消えるともわからなかったが、そんな心配もなくなったのだ、いつでも、いつまでも明香里のそばに喜びを噛みしめた。

その明香里の怪我をした指先が、じわりと熱を帯びる。

「ん?」

天之御中主神にしがみついたまま、その指を確認した、見る間に傷が治っていく。

「え……!?」
「安徳天皇さまです」

狐がいう、今は安徳天皇は天之御中主神の背後に立ち、明香里の手を小さな両手で包み込んでいるが、その姿が見えるのは白狐だけだ。

「そっか……安徳天皇さまが、天之くんも治してくれたんだ……」
「左様にございます」
「ほう、安徳、お前にはそんな力が。俺よりよっぽど神様らしいな」
「天之御中主神さまには遠く及ばないと申しております」
「天之御中主神さまは雨を降らせるくらいでしょう。雨より傷を治してくれたほうがありがたいですね」
「なんだと!」

健斗の減らず口を、天之御中主神が怒鳴って応じる。

「しかし、その力もなくなってしまうとは。神様が人間になるなどあるのですね。でも一体なぜ」

健斗は顎を撫でて考え込む。

「熱が原因? そんなものがきっかけで特殊能力を持つ事例を聞いたこともあります、まああなた様の場合は失ってますけど」
「血ではないかと」

うんうんと何なら頷きながら聞いていた狐が、健斗の言葉を受けて答えた。なおもうんうんとうなずくのは、安徳天皇の言葉を聞いているのだろう。

「明香里殿の気配が、意識が、命が、天之御中主神さまの指の先から髪の先まで感じられるそうです。取り入れたという血液がなんらかの作用をもたらしたのでは、と申しております」
「──そうか」

呟き明香里を抱きしめなおす、何気なく舐めたそれにそんな効果があるとは思わなかった。だがふと思い当たる、一番初めに顕現した時は、何があったのか。

「──涙だ」
「涙?」

明香里と健斗が繰り返した。

「明香里と初めて会った時、明香里は泣いていた。その涙を俺は舐めた──その時が初めての顕現だった」

母とはぐれたと泣いた明香里の指を舐めた、しょっぱさが口に広がったのを覚えている、その直後、全身に熱い血潮が流れたような感覚になったのも。

「その次に顕現できた時も、お前は泣いていた」

体を離すと天之御中主神は微笑み、指の背でそっと明香里の頬を撫でた。

「え、そうだったっけ……って、その後はそんなに泣いた覚えはないんだけど」

迷子だった時に泣いた事はよく覚えているが、その後はあったろうか。
なにより、「次に顕現できた」以後は、ずっと存在しているではないか。天之御中主神が霊体に戻ることがなくなったのは何故か、天之御中主神は明香里の涙をペットボトルにでも取って常に補充していたとでも言うのか。

「うーむ。確かに涙を舐めただけでは一刻ほどで戻っていたが……」

なにがあったかと腕を組み考え込む天之御中主神が、はっと顔を上げ何食わぬ顔で言葉を足した。

「そうだ、いつも口吸いをしていた!」
「くちすい?」

聞きなれぬ言葉に明香里はきょとんとしたが、狐がにやぁと嫌らしく笑うのが見えた、背後で健斗が吹き出すのも聞こえて、その文字がやっと合致した、その瞬間健斗に言われる。

「なるほど、会う度に濃厚なキスをしていたと。仲睦まじくていいですね」
「濃厚は余計です!」

明香里は真っ赤になって応える。

「まあともあれ、回数や量にもよるのでしょうが、あなたさまが明香里さんから体液をもらうことによって顕現されたのはまちがいないようですね。そして何より濃度が高いであろう血液を取り入れたことによって、あなたさまはヒトになられてしまったと言う事でしょうか」
「それは気づかなかった! もっと早く気づいていれば、明香里を10年も待たせなかったのに!」

天之御中主神は喜び、明香里を抱きしめる。

「よもや、そんな方法があろうとは!」
「それはやはり、おふたりの思う気持ちがあってのことではないかと、安徳天皇さまはおっしゃっております」

白狐の口上に天之御中主神は「そうか」と頷いた、そして白狐は「あ」と呟く。

「どうした?」
「あ、いえ、その、安徳天皇さまが明香里殿にキスを……いえ、顔中を舐めて、ああ、そんな、そんな、いけませぬ」

本当に恥ずかしそうに目をさまよわせ、伏せの状態になって顔を両の前肢で覆った。

「え、キ……っ」

明香里は慌てて口を手で覆うが、別になにか感触があったわけではない。

「こら、安徳! 機に乗じてなにをしておるか!」

天之御中主神も怒鳴るが、どこに怒鳴っていいかもわからなかった。

「ええ、ええ、そこまでしても、安徳天皇さまは顕現できませぬ。明香里殿が特別、天之御中主神さまが特別なのではなく、おふたりが互いを思う気持ちが起こした奇跡なのでしょう」

そうか、と明香里は嬉しさに頬を染めたが、

「なにをどこまでしたというのか! 良いようにいって罪を逃れようとしても許さんぞ! 安徳、姿を見せろ!」

当てもなく怒鳴る天之御中主神の顔に、狐が飛んできて貼り付いた。

「狐! 邪魔立てするな!」
「わたくしめのせいではー、安徳天皇さまー、おやめくださいぃ!」

狐は身を反らせて抵抗する、そんな狐に両手をかけて剝がそうとするが剝がれないのは、
やはり特別な力で起こっていることなのか。

「安徳天皇さま」

明香里は優しく呼びかけ、両腕を広げた。なにかを感じるわけではない、それでもその腕を丸く縮こませる、そこに安徳天皇がいると見えるのは狐だけだ。
その狐は音でも立てそうな勢いで天之御中主神の顔からはがれる。

「天之くんを取ってしまってごめんね、寂しくなっちゃうね」

明香里は静かに謝った。

「──本宮より、新たなる天之御中主神さまをお迎えする手配をいたしましょう」

言葉を添えたのは白狐だ。

「そんなこと、できるんだ……」

分祀だ。沢山の天之御中主神がいると思うとなんだか複雑な気分にもなるが、目の前の天之御中主神はたったひとりだと思いなおす。

「──天之くんと、ずっといていいんだよね?」

声に出して確認すると、天之御中主神は破顔した。

「ああ、俺はずっと明香里と共にいる」

力強い声に明香里も笑顔で返す。

「持続時間の程は判りませんよ? 効果が切れて神様に戻る可能性も」

健斗は冷静に答える。確かに、と明香里は思った。涙で顕現できたという時はまもなく消えてしまっていたではないか。

「なに、その時には血をもらえばいいだけのこと!」
「えーやだよ、そんなホラーな設定」

吸血鬼が首筋に噛み付く様子を思い出して言ったが、明香里は微笑んでしまう。それはなにか特別な関係なような気がして嬉しくなる。

「でも……神様には戻らなくていいの?」
「よい、俺にとって大事なのは明香里だ」

熱い言葉に心が満たされ、明香里は天之御中主神アメノミナカヌシノカミの胸に飛び込んでいた。

「死が分かつまで共にいよう。いや、明香里が先に死ねば、俺は後を追うが」

明香里の髪に顔を埋めて天之御中主神はいう。

「え、そんなことしないで」

慌ててあげた顔を、天之御中主神はそっと撫でる。

「俺はもう十分生きた。そしてここ何年かは明香里のためだけに生きていたように思う、その明香里がいなくなればこの世に未練はない」
「そんなこと言わないで」

明香里は天之御中主神の手を取り握りしめて訴える。

「もし私が先に死んだら、天之あめのくんは私の分まで──」
「そんな悲しい約束をするくらいなら、明香里さんは私に譲ってください」
「なんだと!?」

健斗の言葉に天之御中主神はすぐさま反応する、明香里は渡さんと言わんばかりに抱きしめて怒鳴る。

「私なら明香里さんを泣かせたりしません。天之御中主神さまが愛しているのは明香里さんでしょうが、私も明香里さんを同じくらい愛しています」
「なんだ! トンチのようなことをいいおって!」
「10年の片思いなど、簡単に蹴散らしてやるといってるんです」

笑顔でいって両手を広げた、飛び込んで来いというのだろう。

「明香里さん、私もかなり頑丈にできていますよ、きっとあなたより長生きします」
「俺だって……!」
「そういうことじゃなくて」

明香里が静かな声で言う、どちらが先に死ぬかの話ではない。

「約束したいのは、ずっとそばにいたいってことだけ──それは天之くんがいいです」

あっさり振られた健斗は、ただ肩を竦めた。

「ねえ、確かめてみよ?」

明香里が提案する。

「何を?」

不思議がる天之御中主神アメノミナカヌシノカミを、明香里は外へ連れ出した。行った先は、かつて一ノ鳥居があった場所だ。

「なるほど」

明香里が買ってくれたコートを着た天之御中主神は空を見上げた、かつてそびえていた一ノ鳥居を思う。
天之御中主神の言葉に明香里はうなずいた。

「ここを出られるかどうか、だよね」
「うむ」

見つめ合い、うなずき合ってから、手を繋ぎ直して歩き出す。

天之御中主神は感じていた、かつて感じていた壁の様なものは無くなっている事に。
そんなことはわからない明香里は不安だった。結界と呼ばれるものに阻まれ天之御中主神はいつもそこから出る事は叶わなかった、人間になったいう今も無理かもしれない。それならば明香里の日参はこれからも続くのだろう、しばらくは来られない、逢えないことに変わりがないことに──繋ぐ手が震えるのを止める事ができなかった。

だが。

いつもは別れを告げるその場所を容易く抜け、通りを更に数歩歩いてから天之御中主神は足を止めた。半歩程後ろを歩いていた明香里も止まり、天之御中主神の横顔を見上げる。

「……天之あめのくん……っ」
「どうやら、本当に神ではなくなったようだな。不思議な事もあるものだ」

どこか淋しくも聞こえる声だった、明香里が言葉を失くしてじっと横顔を見つめていると、天之御中主神は視線を落として明香里と目を合わせ、無邪気な子供のような笑みで喜ぶ。

「嬉しいことだ、明香里と共にいられる」

明香里の返事は、天之御中主神を抱き締める事だった。天之御中主神も抱き締め返す、明香里の体が僅かに震えているのは、泣いているからだとわかった。
泣くな、そんな気持ちを込めて背中をさする、大きく温かな手が間違いなく天之御中主神のものだとわかり、明香里は本当に天之御中主神が神様ではなくなったのだと確認できた。
ずっと共にいられる、どこまでも──。

「あ、行きたいとこある」

唐突に思い出した。

「いいぞ、どこへでも行こう」

天之御中主神は力強く答え、明香里は笑顔で返して手を引き歩き出す。
天之御中主神はコートの襟を直した。玄関に立った時寒さが染みて、明香里がコートをくれて助かったと思いすぐさま着こんだのだ。
ついた先は奈央が働くファストフード店だ、夕方で込み始めたそのレジに奈央の姿を見つけて、明香里はその列に並ぶ。

「いらっしゃい……まー!?」

明香里かと確認すると同時に、高身長の男性の姿に奈央は叫び声を上げる。当の天之御中主神は見たこともない食べ物と店構えに、遠慮もなくキョロキョロしている。
奈央は仕事中であるにもかかわらず、明香里の胸倉をつかみ乱暴に引き寄せ小声で怒鳴った。

「は!? このあいだポテト買ってやろうっていってた相手!?」
「あ、うん、そう」

来られるようになったのだという言い訳を考え始めたが。

「なに、あんた、こんな顔面偏差値ヤバめ、超絶ハイスペック美形イケメン色男と付き合ってたの!? いつのまに!?」
「いつ、っていわれてもなぁ」

逢えたのはとても最近だが、ずっと思いを寄せていた。逢えない期間は寂しい思いをしたが、天之御中主神の立場を思えば水天宮に行けば会っていたのだ、そう思うとどうにも歯切れが悪くなる。

「明香里! どれを食べてもいいのか!」

そんな会話も知らず、天之御中主神は嬉々とした声で聞いた。

「うん、おなかと相談ね。健斗さんたちと夕飯も食べるだろうから、ハンバーガーはやめておきなね」
「そうか、これからは腹が減るのだな」

しげしげとメニューを見つめる天之御中主神に、奈央は事情を察する、そうだ、フライドポテトを食べたことがないといっていた。

「なに、病気で長期入院とか?」
「うん──そんな感じ。あ、シェイクふたつ」

奈央に雑談に付き合わせるわけにはいかない、現に店の奥からにらみを利かせている者がいる。

「お味はどうしますか? え、どこの人? 近所? 明香里が東北行ったらさみしいね?」

にやにや笑いながらいう奈央に明香里はため息で応じる。

「チョコとバニラ──って、堂々と私の彼氏を狙わないでくれる?」
「馬鹿ね、明香里、こんないい男を置いていくほうが間違ってるわ、私じゃなくても狙うわよ」
「明香里がこの間買ってきてくれた『ぽてと』は食べたいのう」
「うん、じゃあ、ポテトのSと、ナゲットもください、ソースはバーベキューで」
「店内でお召し上がりですね! 揚げたてをお持ちしまーす!」

キッチンを確認もせずに番号札を置いて、すでに用意されたシェイクが乗ったトレーを押し出す。席で待っていろというのだろう。

明香里がそれを持って2階の飲食スペースへ上がっていく。窓際の横並びに座れる席が空いていた。
バニラ味のシェイクを一口飲んだ天之御中主神が笑顔になる。

「夏に明香里が買ってくれたかき氷とはまた違って、うまいな」
「そう? よかった」
「おお、これも金がかかるのだな、今度は俺がおごってやるからな」
「うん、楽しみにしてるね」

そんなこといいのに、と明香里は心の底から思う。チョコ味のシェイクを口に含む。

「そちらとは味が違うのだな」
「飲んでみる?」

明香里が差し出すそれを、天之御中主神は明香里の手ごと包み込んで体を近づけて飲んだ。

「ふむ、これはこれで」

天之御中主神が朱鷺色の舌で唇を舐めた時、

「お待たせしましたー、チキンナゲットとフライドポテトでーす」

奈央が割り込んできた、トレーに乗せたままのそれらをふたりの間からテーブルに乗せる。

「お客様、見せつけるのはやめてくださいな」

間接キスをにやにや笑いしながらいさめた。

「見せつけるつもりは」

明香里が抵抗をするが、天之御中主神は笑顔で答えた。

「しかたあるまい、俺は明香里と『きす』をしないと死んでしまう奇病なんだ」

瞬間店内に悲鳴が起きる、完全に周囲に聞かれていたのだとわかり明香里は恥ずかしくなって俯くばかりだ。その理論は間違ってはいないが何かが違うと思うが言い訳など考えつかなった。
間近で聞かされた奈央も返答に困る、それは真面目な話なのか、単にのろけなのか判断がつかなかったのだ。ただひとつ、はっきりしたことはあった。

「──他の女がつけいる隙はない、と」

天之御中主神はうん、と頷く。

「そうだ、明香里だけが特別だ」

いわれて奈央は肩をすくめる。

「まあ、親友の彼氏を本気で取るつもりはなかったけどさ。お邪魔しましたわね」

番号札を手にし、それを別れのあいさつに振った。

「明香里もモテるのに男に興味なさげだったのがもったいないって思ってたから、安心したわよ、つかびっくりしたけど、いきなりここまでハイスペックとは」

ハイスペックの意味はわからず天之御中主神は首をかしげる。

「明香里ももうすぐ東北行っちゃうけど、そんな逢えない距離と時間とか関係ないんだろうね」

奈央の言葉が明香里の心をじんと熱くしたが、

「って言うても寂しいときもあるでしょう、よかったら私が話し相手に、ええ、なんなら朝まで」
「奈央!」

怒鳴られ、奈央は「冗談よー」と笑いながら去っていく。

「まったく、油断も隙も……!」

明香里が呟くと、それを慰めようとするかのように天之御中主神は握ったままの明香里の手をさらに強く握る。

「明香里以外の女は、いや男も、幼子も老人も、俺にとっては大差ない、ただのヒトだ」

それは日々やってくる参拝者がそうだった、個別認識などしていないのだ。

「明香里だけが特別だ、明香里以外の者は要らない」

そんな熱烈な愛情表現を、近くの席に座る者は聞いている。美形の口から発せられる愛の言葉に全員がもだえていた。

「明香里だけを愛している」

私も、と明香里は答えたいのに涙が喉を封じて声にならなかった。涙は嬉し泣きだ、逢うこともままならなった人が特別だと言ってくれる幸せを噛みしめる。

10年越しの人と神の恋が実を結んだのだ。





翌日明香里が水天宮へ行くと、まずは事務所へ呼ばれた。

「いろいろ考えたんだが」

宮司の成恭がにこにことして切り出す。

「恐れ多いのですが、天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまを我が子として迎えようと思いましてね」

成恭の隣で天之御中主神もにこにこしていた。

「え、我が子?」
「本当は私の兄弟になるはずだったのですが」

健斗が不機嫌に口をはさむ。

「父がどうしても妾腹の子がいたなどと、触れまわりたくないと」

成恭の隣で泰道が「当たり前だ!」と顔を真っ赤にして怒った、その隣で妻の紹子はまあいいのにねえなどとのんきに笑っている。

「え、いえ、そうじゃなくて、なんでわざわざ養子になんて……」

明香里の疑問に美園家が一同で「ああ!」とうなずいた。

「戸籍のためです。単純な話をすれば、このままでは明香里さんと結婚もできませんよ」

いわれ、明香里は恥ずかしそうに頬を染めつつも理解した。
天之御中主神には戸籍がない。それは日本国内で生活していく上では様々な不都合が生じる。

「もちろん戸籍などなくても生活はできます、私たちもサポートしましょう。でもうちもそれなりの家柄で人目を引きます、そこにこんな目立つ男がいたら当然噂になるでしょう。それが無戸籍の成人男性だなんて少々困ったことになりますから、戸籍の申請をするんですが、元が神様だからです、と言い訳するわけにもいかないでしょう」

明香里はうんうん、と頷く。

「初めは泰道がよそで作った子にすればいいといったんだがな、紹子さんも構わないというのに」
「冗談じゃない! 後ろ指を指されるのはごめんだ!」

成恭の言葉を受けて、泰道は大きな声を上げる。

「まあ、天之御中主神さまがいいとおっしゃってくださったので、私の子として申請することにしました。少し時間はかかりますがこれで名実ともにニンゲンになられますよ」

母はすでになく、実父である自分を頼ってきたということにすると成恭は笑って話す。

「せっかく日本国民になってももしかしたら神様に戻ってしまうときが来るかもしれませんが、その時は明香里さんに血を分けてもらうか、まあその頃に明香里さんが天之御中主神さまに飽きてそんなことはしたくないということなら失踪届ですね」

健斗の言葉に、その先のことも考えてのことだと納得できた。

「なんだと! 明香里が俺に飽きるなど!」
「名前なんですけど」

健斗は天之御中主神の言葉をまるっと無視して言葉を続ける。

「いつも明香里さんが呼んでいる天之あめのくんでは、美園天之みその・あまのとなって漫才師のようなので、なにかいい案はありませんか?」

いわれて明香里は吹き出した、確かに『みその・あめの』の『の』がいけないのだろうか、コンビ名のようだ。

「え、なにがいいんでしょう? なんかめでたい感じがいいですよね、神様だもん」
「何もしない神様ですが」
権禰宜ごんねぎ! ひとこと多い!」
「あ、でも私は天之くんのままでいいと思うよ、漫才師みたいでも」
「明香里! 笑いながらいうな!」
「だって。今更呼び方も変えられないし」
「そうなんですよね」
祥吾しょうごでは」

成恭が嬉しそうにいう。

「しょうご?」

皆の声が重なった、成恭はうんうんとうなずきながら答える。

「吉祥のしょうに、我を意味する、うん、なかなかよい。健斗も俺がつけたんだ、いいセンスだろう?」

自慢げにいわれては、そうですね、と答えるしかない。

「祥吾かあ」

明香里が繰り返す。

「なに、戸籍上のことです。普段はいつもどおり、天之あめのくんとお呼びすればよい」

成恭にいわれ、明香里はうなずく。

「それと、明香里さんは仙台に行かれるんですよね」

健斗にいわれて明香里は再度うなずいた。

「そちらにも水天宮があるので、しばらくはそちらで修行という名の元置かせてもらうようお願いしましたから」
「──え……」

驚きが笑顔になってしまう。

「私たちより明香里さんのほうがはるかに天之御中主神さまの操縦が上手です、明香里さんの目の届くところにいたほうがおとなしくしていると思うので」
「俺は狂犬か!」
「似たようなものです」

天之御中主神と健斗の言い合いに、明香里はにやける顔を抑えきれない。

「うふ……なんだかんだいって、健斗さんも優しいんですから」

明香里にいわれて健斗はつん、と顔を背ける。

「私が言い出したことではありません。狂犬というより赤子です、こんな大きな赤子の世話は大変なので、明香里さんに任せたいのです」

それを紹子は明香里の腕を突いて呼び、手を左右に振って見せた、やはり健斗の提案なのだ。

「ありがとうございます、これで心置きなく仙台に行けます」

深々と頭を下げる明香里に、健斗が問いかけた。

「でもなぜわざわざ仙台の大学へ? こちらにもいい大学はいくらでもあったでしょう。大好きな天之御中主神さまと別れてまで選んだ理由は?」

いわれて明香里は微笑む。

「だって、そもそも天之くんとこうして会えるとは思っていなかったし」

ひと目逢いたい、そればかりを思っていた、その先は考えていなかったようだ。

「私、英語の勉強をしたかったんです、留学しようかとも思ったんですけど、それはちょっと勇気が出なくて……天之くんから離れる勇気が」
「明香里~」

天之御中主神が背後から抱きしめる。

「外語大でもいいかなって思ったんですけど、そうしたら進路担当がこんな大学もあるって紹介してくれて」

講義のほとんどが英語で行われる大学があったのだ。

「推薦も出せるって言ってくれたので、そちらに決めたんです」
「しかし、泣いていたではないか、ここを離れなくてはならないと。なぜそうまでして遠い学校を選んだ?」
「ここが頑張り時だと思ったからだよ」

抱きしめる天之御中主神の腕を撫でて明香里は答える。

「一生が決まると思ったから学生時代は妥協しないって決めて、そのためになにかを犠牲にしてでも頑張ろうって思ったの。だから少しの間だけ思い出は胸の奥深くにしまって、勉強に専念しようって」

そのための転出でもあったのに。

「──まさか、天之くんが来てくれるなんて思わなかった……夢じゃないよね?」
「もちろんだ」

天之御中主神は明香里の髪に顔をこすりつけいう。

「もう離れぬからな」

力強い声に明香里は小さくうなずいた。





わいわいと話す声が近づいてくる、社務所を拝殿を繋ぐ廊下がきしむ音もして、白狐は御簾みすから顔を出した。まもなく扉が開いて神職の装束を着た天之御中主神と明香里が姿を見せる、ふたりの笑顔に狐も微笑んだ。

「狐、おるか」

不遜に呼ばれ、狐は御簾から身を躍らせる。

「掃除をする、手伝え」

手に持ったほうきを突き出す、狐はそっぽを向いた。

「天之御中主神さまはもうわたくしめの主ではございません、そのようなご指示には従えません」
「なんだとぉ?」
「新しい主はおります」

いって厨子を見上げた、明香里も視線を向けるが、当然その姿を見ることはできない。

「そうか、もう来たのか。皆を頼む」

天之御中主神がいう。皆とは安徳天皇、白狐をはじめ、美園一家やここへ参拝に来る者たちまでもだ。

「任せておけ、と」

狐が仲介した、天之御中主神はうむ、と頷いて明香里ともども拝殿の掃除に取り掛かる。
明香里は雑巾でガラスを拭き始めた、天之御中主神はほうきを手に床の掃除を始めようとしたがふと顔を上げる。

「──ほう。貴様も明香里が気になるのか。明香里はどれだけ魅力があるのか──いや、魔力かもしれんな」

とても低く、小さな声でいった。

「──だが、新しい天之御中主神よ、あれは俺のだ、手出しは許さん」

狐が大きく目を開く、人になり神が見えなくなったのではないのかと──天之御中主神は何もないはずのその空間をにらみ、不遜に微笑む。

「──元の俺がそうであったように、貴様のような不安定な存在を消すなどたやすい、依代がなくなればどうなるか」

叩き壊してやろうとか思った天之御中主神の心がわかったのだろうか。屋内だというのに一陣の風が吹いた、拝殿の中ほどから厨子に向かって──それは明香里の後ろ髪をかすかに揺らした。

「ん? 窓が開いてる? 寒いよね、閉めよう」

見回すが、空いている窓はなかった。天之御中主神が微笑む。

「すまん、すまん。俺が乱暴にほうきを振るったのだ。狐が邪魔をするのでな」
「そっか」

明香里は疑うことなく納得し、作業を再開した。濡れ衣に狐はただ物陰に潜んで身を隠し、僅かに震える体を懸命に抑えていた。

(安徳天皇さまのお姿を見れなくなったのでは……でも今は確かに天之御中主神のお姿をその目に捉えておられた……!)

宙に浮かぶ天之御中主神を恫喝したのは間違いなかった、狐には見ることができた。しかもそれを明香里には明かさない、隠しておこうというのだろう。単に恋心の問題かもしれないが──突然得体のしれない存在に感じられて恐怖に思う。するすると這い、本殿に逃げ込んでいた。

「明香里」

背後から呼ばれて明香里は顔だけそちらに向ける、天之御中主神はすでにすぐそばにいた。

「ん?」

見上げて返事をする明香里が特別かわいらしく見えた。
手を伸ばし頭を撫で、髪を梳き後頭部で固定する、その意味を明香里だってわかる。

「だ、だめだよ、こんなとこで」

慌てて天之御中主神の胸に手を突き離れようとするが、

「誰も見ておらんし、こうすれば外からは見えん」

白衣しらぎぬの腕を持ち上げた、長い袂がふたりの頭部を外から隠す。

「早くしないと、また神に戻ってしまうぞ」

天之御中主神が脅す。

「え、ほんと!?」

それは困ると、明香里は天之御中主神の白衣を軽くつかみほんの少し背伸びした、天之御中主神は身をかがめ明香里に近づく。
唇が重なる、すぐに離れると思っていたのに、天之御中主神は深く求めてきた。

(……でも、もし神様に戻っても、また血をあげたら人間になれるんだよね……)

それには期待が膨らむ、もう逢えないと悩み苦しむ必要がなくなったのだ。具合が悪い天之御中主神を見るのは辛いが、体質が変わるためには必要なのかもしれない。
静かな室内に水音は響く、思いのほか深く長いキスに、明香里は戸惑う。

(狐さん、いる……)

視線だけで探した、先ほど姿を見た物陰にはいないようだ。

(神様が、見てる……)

今どこにいるかも見当がつかない、それでもここにいるはずの2柱の神様からはこちらは丸見えのはずだ。今いる天之御中主神はどんな姿をしているのだろう、今キスをする天之御中主神と同じ姿なのだろうか──そう思うと不謹慎にも興奮した。明香里から天之御中主神の首に腕を回し、深呼吸をしていた。

以前とは違う、熱く湿る舌と唇を十分に味わった。
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