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■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)
第4-4話 行き詰ったときは釣りです
しおりを挟む「レイル、どうしますか?」
「石板のかけらが保管されている別邸にはたどり着けないそうですが……」
宮殿を出た俺たちは、雪が舞う大通りを歩く。
馬車が通る中央部は除雪されているものの、歩道には1メートル近い雪があるので、どうしても歩みはゆっくりとなる。
「そうだな……一度雪崩の現場を見に行くってのも手だけど……なあフィル、お前が使える「フレア・バースト」とかの爆炎魔術で、雪崩を融かすことは出来ないかな?」
フィルの問いに、オレは先ほどから考えていたことを話す。
フィルが使う爆炎魔法系のスキル……グランワームをネストごと吹き飛ばしたときも思ったが、この世界の常識をはるかに超える威力の魔術を使って、雪崩を丸ごと吹き飛ばすことが出来ないだろうか?
「そうですね……雪崩の規模を見てみないと確かなことは言えませんが……いくらわたくしの魔術が強力だとは言っても、ヘタに雪を融かすと周りの雪が崩れてきません?」
ドドドッ……
フィルが視線を投げた先、ちょうど屋根からの落雪が、轟音とともに山を作るのが見える。
「だよなぁ……ちょっと危険が大きいかぁ」
中途半端に融かすことで、さらに大きな雪崩を引き起こすかもしれない……。
いっそ冬が終わるまで滞在するか?
いやいや、2か月たっても終わってないんだぞ、冬が続いている原因を取り除かない限りどうしようもない可能性がある。
かといってオレたちがこの冬を終わらせてやる! なんて意気込んでも、国を挙げて調査しても解決できていない事件を、オレとフィルのふたりだけでなんとかするのも現実的じゃない。
くぅ……
やはりというかなんというか……迷宮に陥りかけたオレの思考を断ち切ったのはフィルの腹の虫だった。
「いやレイル、違いますのよ? これは朝ごはんのパンをもう一斤食べとけばよかったとかそういうことではなくてですね?」
目線の先にホットドッグの屋台を捉えながら、苦しい言い訳を試みるフィル。
この流れもおなじみになってきた。
お昼にはまだ遠いけど、腹ペコお嬢様を放っておくわけにはいかないだろう。
「フィルはトッピングどれがいい? オレも小腹がすいてきたから、一緒に食おうぜ」
「! 焼きサバ! 焼きサバをお願いしますわっ!」
見かねたオレが屋台に誘導すると、パッと笑顔になるフィル。
欲望に忠実な様子が大変かわいい。
「へいらっしゃい! おふたりさん何にするね?」
「けさ採れたばかりのヒューベルサバのサバサンドがおすすめだよっ!」
「じゃ、それをふた……みっつ。 マスタードはたっぷりで!」
「あいよっ!」
ずっと冬が続くという異常事態なのに、街の人々は元気でパワフルだ。
じゅうじゅうと鉄板でおいしそうな音を立てて焼かれた大きなサバの半身が、細長いコッペパンに包まれる。
シャキシャキとしたレタスをアクセントに、マスタードたっぷり……おお、これが本で読んだヒューベル公国名物サバサンド!
「おまちっ!」
サバの脂がたっぷりと染み出た、ずしりとボリュームがあるサバサンドがオレたちに手渡される。
「この香り、もう辛抱たまりませんっ!」
「ぱくりっ! んん~~~っ!!」
サバサンドを受け取るなり、口の端にヨダレをにじませているフィルが、大きく口を開けてかぶりつく。
とろけるようなメシウマ顔が魅力的だ。
負けじとオレもかぶりつく。
皮はパリッ、中はしっとり……くうっ……美味い。
「へへ、美味そうに食ってくれるじゃないか……そういや兄ちゃんたち観光客かい?」
「もぐっ?」
サバサンドを平らげるオレたちをニコニコと眺めていた屋台のおっちゃんが、そういえばという感じで話しかけてくる。
「冬のヒューベルといえば”ワカサギ釣り”……今年は冬が長くてまだまだシーズンだから、良かったら行ってみたらどうだい?」
そういうとおっちゃんは一枚のチラシを渡してくれる。
冬のワカサギ釣りか……確かに一度してみたかったんだよな……雪崩をどうするかは考えるとして、まずは息抜きでもしますか!
そう決めたオレは、サバサンドのおかわりを買っているフィルに声を掛けるのだった。
*** ***
「く……まだ、まだです……」
竿先にわずかな変化、魚が餌をつついている証拠だ。
だが、ここで焦ると先ほどの二の舞……封印魔術を求めてSランクダンジョンに挑み、その最下層でエルダードラゴンと相対した時に匹敵する集中力で竿先をにらみつけるフィル。
溢れ出る魔力で竿が燃えそうだ。
彼女の期待通り、竿先がわずかに震える。
「ひとつ……ふたつ……みっつ……今、わたくしが見せるお嬢様的クアッド (四連)ヒットおおおっ!」
ざぶっ!
裂帛の気合と共に、湖水から飛び出したフィルの仕掛けにはしかし、一匹のワカサギすら掛かっていなかった。
「のおおおおおっ!? わたくしの天ぷらがっ!?」
「まったく……欲張るからだっての……ほいっ!」
餌をすべてワカサギに奪われ、頭を抱えてのけぞるフィル。
オレはその様子に苦笑しながら、竿先を軽く動かす。
僅かな振動が短いロッドを通して手元に伝わり、軽く上げた仕掛けには、2匹のワカサギが掛かっていた。
「よしよし、これでちょうど50匹……」
「ちょっとレイル! わたくしとの勝負に釣りスキルを使うのは卑怯ですよ!」
あっさりとワカサギを釣りまくるオレに、スキルを使っていると感じたのだろう。
ピコピコと耳を動かしながら、ずびしっと指を突き付けてくるフィル。
「ん~? フィルなら分かるだろ、今スキル使ってないのが。 いや~、シンプルな釣りも楽しいなぁ!」
「むきいっ~! こんなに釣果の差があるとか納得いきませんわ!」
悔しさのあまり、地団駄を踏みながらオレと自分のバケツを見比べるフィル。
彼女のバケツには10匹程度のワカサギがさみしく泳ぐだけだ。
フィルはいちいち動作が大きいんだよな……ワカサギ釣りは繊細な釣り……不器用豪快お嬢様には荷が重かったか。
「それより、そろそろ一度食いに行こうぜ」
「揚げたてのワカサギは絶品だそうだし」
釣り始めてからそろそろ2時間……おなかもすくころだ。
「はうっ……仕方ありません。 勝負はお預けですね」
フィルはまだ釣りたそうだったが、腹の虫の脅威には勝てなかったのだろう。
バケツを持つとオレに続いて立ち上がる。
行き詰ったオレたちは、レジャーを兼ねて街の郊外にある湖へワカサギ釣りに来ていた。
オレはフィルを連れて”かまくら”を出ると、湖畔に立つ建物へ向かった。
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