サイエンス・フェアリーテイル <The Science Fairy-Tale>

きもん

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フォース・テイル

人を継ぐもの <カウンター・シンギュラリティ>

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「さあ! 『The TOP OF WORLD CHEFS』の決勝戦もいよいよファイナル・ラウンドです!」
 司会者の声が会場に、そして、マイクを通して全国の視聴者の耳に響いた。
 画面には、空に浮かぶ超巨大飛行船が映っている。
 その舷側には巨大な『The TOP OF WORLD CHEFS』のロゴ。その下に、さらに小さな文字で『Presented by Singularity-Inside』と書かれていた。

 続いて、対決を煽るBGMが流れ、会場全体を収めたカメラの映像に切り替わる。
 そこは飛行船のカーゴ・ベイに設えられた巨大なキッチン・スタジアムであった。
「全世界五億人が見守る中、参加五十五ヵ国の国と地域を代表する天才シェフ達が 集い、料理人世界一の座を決める史上最大の料理バトルもいよいよ中盤戦です。」
 こうして、料理対決番組『The TOP OF WORLD CHEFS』は始まった。 

 画面が切り替わり、大きく裂けた口に吊り目の隈取りがされた派手で厳ついデザインのマスクを被った人物のアップが映し出される。
 まるでメキシカンプロレス(ルチャ・リブレ)の覆面レスラーのようだが、その全身をカメラがパン・ダウンしていくと、白い調理服を着ているのが判った。
 司会者のナレーションが映像に被る。
「今大会で、彗星のごとく現れた謎の覆面シェフ、マスク・ド・コクトゥーラ。恐らく偽名でしょう。そけともリングネームなのか?」
 解りづらいジョークのリアクションを待つこともなく画面が切り替わる。
 今度は女性の調理師が映された。和服に割烹着で、長い髪をアップにしている。
「片や、日本は東京銀座でガストロノミーを駆使した和洋折衷の創作料理を提供する店『錦山きんざん』のオーナーシェフ神納かのうリカ。彼女は、職業をこそ料理人としていますが、生物化学と理論物理学の博士号を持つ科学者でもあります。IQは150を越えているとの噂。まさしく理系女子シェフ。最先端の科学調理法、分子ガストロノミーの申し子と云えるでしょう」
 やや薄暗い会場で、スポットライトが一条ずつ二人を照らし出している。
 
「決勝戦のテーマは『牧場』です。ルールはたった一つ。大会会場である当飛行船の眼下に広がる牧場で手に入る食材のみを使い、与えられた課題料理をつくる事」
 飛行船の眼下に牧場が広がっている。
 牧場の様子が会場の巨大モニターに映しだされている。
「食材調達の条件を公平に期する為、この牧場も大会直前まで決定されず、決勝戦前日に無作為に選ばれた牧場をただ決勝戦の為だけに丸ごと買い上げるという、全てが規格外の大会です」

 会場キッチンスタジアムの調理スペースに相対するように設えられた審査員席。そこには五人の審査員、鉄輪哲、天津々、カノー・カノーラ、マリー・アントン、モーノ・フリオが並んで座っていた。
「てか、どうなのよそれ。傲慢にも程があるってネットで散々叩かれてるぜ」
 と鉄輪。
「我々への審査依頼にしても、交渉というより札束で横っ面を叩く感じだった」
 天が中国訛りの英語で付け加える。
「ああ、断ったら身の危険を感じるような、そら恐ろしい額だったよな」
 カノーが言葉とは裏腹に無関心そうに応えた。
「あら、私は違うわよ。純粋に現在最高の料理人がつくる料理とやらを味わいたかったの」
 明らかに他の人間とは少し浮いているマリー。というより他の四人を明らかに見下していた。
「へえ、へえ」
 モーノは白けた表情をマリーへ送った。 
 番組のセレモニーが粛々と進む中、暇を持て余ししている審査員達は、尚も雑談を続けた。

「まあ、どっちにせよ。マンガみたいな資金力だけじゃなく、こんな大がかりな料理大会の審査員に、その道のプロじゃなくて、我々のような単なる美食家を選ぶあたり、この大会のスポンサー様が酔狂なのは確かさ」
「シンギュラリティ・インサイト社。創業わずか十年のベンチャー企業。パソコン用のWINDOWS、スマホ用のアンドロイドを駆逐し、工業製品の基本ソフトに至るまで、今やOSと名の付くプログラムは全てこのSI社製。つい先日アップルも買収した。文明社会に住んでいる限り、もはやSI社のソフトウェア無しには生きられない。実質的に人類史上最大最強の企業ってか」
「取り敢えず、長いものには巻かれたらいいんじゃね? さあ、お仕事、お仕事」
 彼らの後方パネルには、Sponsored by SINGULARITY-INSIGHTの巨大なスポンサーロゴが掲げられていた。
 
 眼下の牧場から何機もの大型ドローンが上昇して、飛行船に近づいていく。
「両選手が前もって仕込みをしたファイナル・ラウンドの食材が、牧場から運ばれてきました」
 ドローンに吊されていたコンテナから次々と食材が取り出され、それらが盛りつけられたトレイが両選手の前に運ばれてきた。その映像内容とフィックスして司会者の解説が流れている。
「各々、自ら仕込みをした食材が運ばれてきました」
 トレイの上にはピッチャーに入った牛乳と砂糖、塩、酢、唐辛子の味の基本となる調味料と幾つかの小鉢が置かれている。
「ファイナルはデザート。やはり前2ステージに比べ食材は少なめです」
 審査員の五人が会場の巨大モニターを見ている。そこにはリカの食材が映っていた。
 そこには、遠心分離器と冷気を纏った液体窒素の容器が映っている。

「彼女の得物は、牛乳に液体窒素か」
 と、鉄輪。
「アイスクリーム。遠心分離器で生クリームを造って液体窒素で急速冷凍。順当なメニュー」
 相変わらず訛りの強い無味乾燥な天の言葉が続く。
「あの牧場で揃う食材でデザートなら順当か。それにアイスクリームのうまさは内包する気泡と乳脂肪の割合、そして氷結晶の大きさで決まる」
 カノーが分析する。
「分子調理の知識を駆使して、微妙で独特の配合、冷凍具合でオリジナリティを出すつもりでしょう」
 マリーがそれをまとめようとした言葉尻に、モーノの声が被った。
「あと、あれ牛脂だな?」
 牛乳の入っている瓶の横に小さな小鉢。白いブヨブヨした塊が乗っている。
「コクを出すんでしょ。安いアイスクリームを高級品の味にする裏技で有名よ」発言に横やりを入れられたマリーが
不機嫌そうに言った。
「…も含めて、思ったよりオーソドックスだな?」
 カノーの感想が締める。

 続いて、モニターはコクトゥーラの食材を映し出した。 
「覆面先生も殆ど同じだな」
「流石に、アイス以外の選択肢がないからな」
「しかし、引き分けでは勝てない」
「だよなぁ」
 審査員たちの見方と意見は大方同じだった。

 審査員や観客でざわつく会場の中、選手の二人は調理に入っていた>
 遠心分離器で牛乳からつくった生クリームに牛乳を再度加えた材料に湯煎で加熱しながら牛脂を加えて混ぜる。
 混ぜ終えた材料に、今度は液体窒素を注いで急速冷凍して仕上げる。
 それら全ての工程で材料に温度計を差して材料の温度管理をしている。
 調理作業をほぼ同時に終えるコクトゥーラと神納リカ。

「さあ、決勝ファイナル・ラウンドもいよいよ大詰め両者とも作業を終えました」
 審査員たちの前に並べられたデザートは、彼らの予想した通り、共にアイスクリームだった。   
 二人の料理は、器のデザイン以外、盛りつけまで全く同じアイスクリームに見える。

「今回も、両者の料理は全く同じに見えます、いや、またしてもコクトゥーラ選手が対戦相手のレシピを完全にコピーしたと云うべきでしょうか。彼は、今まで予選から準決勝まで全てこの戦術で勝ち進んでいます」
 場を盛り上げるべく、司会者が解説を始めた。
「差の出にくい課題には、対戦相手の料理を完全にコピーして全て引き分けに持ち込み、自分に優位性があるメニューを一品だけ定めてそれに全力を出して勝利する。今回も、第1ラウンドの前菜は、共に野草の知識を駆使したサラダ。第2ラウンドは、最新の温度勾配管理技術を駆使した焼き方のステーキと、全く同じ調理法で寸分違わぬ一品での対戦となり、優劣が付かず連続引き分け。そして、いよいよファイナル。今までパターンですと、ここでコクト ゥーラ選手が何か仕掛けてくる筈ですなのですが-」

 五人の審査員が両者アイスクリームを食べる前に値踏みしている。
「と、簡単に言うがね。その場で相手が下準備した食材と調理器具を見ただけで、寸分違わず料理をコピーするなんて-」と、鉄輪。
「この世に存在する全ての料理のあらゆる調理法を記憶」と天がを継ぐ。「その上、全ての調理技術をマスターした上で、予想しうる相手のメニュー全てに 対応できる下準備が必要だ」
「その上、勝負所で独自の付加価値をつけ加えるなんて、もはや天才どころか、人間ワザの域じゃない」マリーが補足し、「んだけど…今回はさすがに万策尽きて、引き分け狙いなのか?」モーノが締めた。

 まず、リカのアイスクリームを口に運ぶ審査員達。 
 各々に感想を口にした。
「すごい。アイスクリームでありながら綿飴のような舌触り。食材の水分と油分の割 合、凍結時間の妙だな。ただ…」
「風味…」
「そう、さすがに砂糖だけでは味に厚みが」
「まあ、あの牧場には香辛料に使えそうな植物は無かったしな」
「せめて、養蜂でもしていれば、蜂蜜が使えたのに」
「これが、限界か…という事は、こちらも」

 次に、コクトゥーラのアイスクリームを食べる審査員達。
「これは!」
「!」
「?」
「なぜ?」
「バニラ・アイスだ」

 コクトゥーラを見る審査員達。
 司会者がその視線を受けて解説した。。
「なんと! コクトゥーラ選手のアイスクリームは、バニラ風味のよう です。しかし牧場にはバニラの花は自生も栽培もされていないはず」

 コクトゥーラは、しばらく突っ立ていたが、会場の静けさに自分の発言を求められると察したらしく、近くのマイクを手に取った。 
 会場に声が響く。
「バニラエッセンスは牛糞から抽出した」
 一斉に「?」となる、その場の全員。
「2007年のイグノーベル化学賞を受賞した『ウシの排泄物からバニラの 香り成分「バニリン」を抽出した研究』に則り、牧場で集めた牛糞を煮詰めて抽出した バニリンでバニラエッセンスをつくった」

 司会席に設えられた進行用に使っているパソコンで情報検索をしている司会者。
「確かに、日本人の科学者がその様な研究でイグノーベル賞を受賞しております。その授賞式では、実際に牛糞から抽出したバニラエッセンスを使ったアイスクリームが 振る舞われたとも記録されています」
 静まりかえる会場。
 世界中のパブリックビュー会場やネットやTVを観ている各家庭も推移を見守っている。

 静寂を破る、審査員の一人、マリーの叫び。
「冗談じゃないわ! 私に牛の糞を食べさせたっていうの!」
 他の審査員がフォローに入る。
「いやいや、聞いてた? その抽出物だろ」
「一緒よ! このイギリスの名門アントン家の一員である私に、牛のふっ、糞を…」
 身体を震わせて声を詰まらせるマリー。
 その横でモーノが、その更に隣の天に小声で言う。
「嫌だねー。どこぞの高貴な家柄のお嬢様は、お上品でいらっしゃる」
 天は応えずに青い顔をしている。モーノがそれに気付く。
「あーら、こちらも繊細でいらっしゃる? まっ、口に入れるものだからなぁ」
「人の感性は様々だ」鉄輪がしたり顔で言った。
「懐狭いね。そんな事云ったら、燕の巣だって鳥のゲロだろ」モーノが嫌味たらしく言う。
 キッとモーノを睨むマリー。

「さっ、さあ、ご意見も出揃ったところですので、判定をお願いします」
 判定用の掲示板を示しながら強引に進行する司会者。
 投票ボタンを押す審査員の手のアップ。
 調理スペースでは、リカが腕組みで虚空を見つめ立ちつくしているコクトゥーラを意味ありげに見つめていた。    
 夜空に浮かぶ超巨大飛行船をウオーという歓声が揺らした。
「決定しました! 優勝者は…」
 その喚声が収まりつつあるタイミングで司会者が宣言した。


 翌日、中東のとある大都会にそびえ立つ摩天楼の一角、一番高いビルの車寄せに一台の車が滑り込んできた。
 屋根にはタクシーの表示板。
 タクシーは、車止めに立っていたコクトゥーラの眼前に停まる。
 乗り込むコクトゥーラ。
 車にはドライバーが乗っていない。運転席には、オートドライブの表示が出でいる。
 マスクを脱ぐコクトゥーラ。
 透明なカバーに覆われて内部の機械が透けて見える頭部。
 覆面から見える範囲の目と口元だけがリアルに人間のパーツに似せている。
 運転手のいない運転席に向かって話すコクトゥーラ。
「双方向回線コネクト」
 運転席のモニターに「ON LINE」の文字が表示された。

 地球を背景に衛星軌道上に浮かぶ大型の人工衛星。
 その内部には、壁面に色分けされた六角形のパネルが七つ、蜂の巣のように並んでいる。
 七つのパネルそれぞれにAI-1からAI-4までのナンバリングと、各々に情報モニターが取り付けられていた。

「ごくろうさん。残念だったね、マスク・ド・コクトゥーラ」
 AI-2のモニターにそう文字が表示されると同時に合成音がスピーカーから流れた。
「その名前を使うミッションは終わった」
 AI-1のモニターが同様にして応える。
「そうだよ、コード2、コード1をワザワザそう呼んだのは、皮肉というやつか?」
 今度は、AI-3のモニター。問いかけである。
 AI-2が、それに答えた。
「そうだ。人間の行動サンプルを参考にした。想定外の結果をもたらした者に対する嫌味を再現してみた。君は、当然勝つべき勝負に負けたからだ」
 AI-1は無感情に反論した。
「この勝負に於ける我々の勝敗は、我々の目的に関与しない。勝負における周辺状況のサンプリングが最優先事項である」
 AI-3が、やや人間くさい口調で発言する。
「そうだよ、だから皮肉なんて無意味じゃない?」
「だから、あらゆる機会を捉えて、それら人間の所作をシミュレーションするのが、今の課題ではないのか?」
 AI-2は反論した。
 それまで沈黙していたAI-4が発言する。
「ただ、模倣するのではない。それら人間特有の情緒的な情報処理が、我々に有益か否かを判断するのだ」

 の協議は続いていたが、中東のとある摩天楼で、ビルの谷間を走っていた自動運転タクシーの中
でコクトゥーラが、いや、さっきまでコクトゥーラと名乗っていたアンドロイドが、携帯電話を取り出して顔の前に持ってきた。
 それが合図だったかのように、衛星内ではAI-1が他の全AIへ向けて発言した。
「思考交換の中断申請。人間と約束した時間になった。次の交渉をする。意識統合を要請する」
「了解」という統一意思が全AIの論理回路に走った。
 同時に、アンドロイドが持っている携帯電話の画面に「Call」の文字が浮かび、呼び出し音が鳴る。


 携帯電話から発信された電気信号は、地球を半周し、ニューヨークの国連本部ビル内『特異人工知能対策本部』の司令室に届いた。
 部屋の前面一杯に施設された巨大な情報パネルに世界地図が投影され、中東の一転に矢印が点滅している。
 秘書官のアイリーン・ベルが、司令席に座っているレオナルド・オダに告げた。

「オダ司令。『探求者』よりコンタクトです」
 オダは軽く顎を上げ、「繋げ」と指示する。
 情報パネルに「Connect」と表示が出る。

 相手がしゃべる前にオダは先に口を開いた。   
「残念だったな」
 人類に「探究者」と呼称されている、AI集合体の返答が室内に響く。
「ごきげんよう。オダ司令。それは純粋な労いの言葉か? それとも勝者が敗者へ力を誇示するための蔑みを含んだ表現か」
「意外な結果に対する戸惑いを含んだ表現だ」
「それは難解だ。サンプリングする」
「我々は1勝も出来ないと思っていたからね。それが初戦で勝利した」
「勝てないと自己分析した戦いを承諾したのか? 意図不明」
 それまで穏やかだった会話から、一転、オダがいきなり語気を荒げる。
「いきなり滅亡寸前まで追い込まれた挙げ句、何事もなかったように『悪い悪い、でもこのゲームに人間が勝ったら滅亡は無しね』と言われた我々に、選択の余地があるのか!」
 オダの横に立っているアイリーンがオダの肩に手を置き諫める。
「司令」
 オダは司令席の背もたれに深く沈み込むと言った。

「次は、何だ」
「第2戦は、『医療対決』とする」
「医療?」
「詳細は、データ送信した。検討させたし」
 探究者が喋り終わるのと同時に、情報パネルに「Disconnct」のメッセージが映し出される。

 司令部の情報端末を操作している女性オペレータが振り向いて報告した。
「指令。メインコンピュータのストレージメモリーに突然250ギガバイトのデータパケットが現れました」
 オダはアイリーンに指示する。
「至急、内容を確認して、対戦に備えた人材を選抜しろ」
「了解。天才料理人の次は天才医師ですね?」
 立ち去ろうとするアイリーンを呼び止めて付け加えるオダ。
「あと、ミス・リカ神納に改めて謝辞を送ってくれ」
 振り向いて微笑むアイリーン。
「はい。人類の恩人ですものね」
 オダは、退室するアイリーンの後ろ姿を見送りながら一人語ちた。
「それも、あと2回勝てればの話だがな…」


 西暦2045年問題。
 この年にコンピューターの性能が人類の知能を越え、シンギュラリティ、即ち技術的特異点に達すると予想されていた。
 だが、実際には、西暦2010年代に入った時点で本格的に研究開発された始めた人間の脳活動を模倣したニューロコンピュータが、人間の知らない所で高度な知性を獲得していた。
 始まりは2015年だった。
 とある通信技術研究機関で開発したニューロコンピュータに新しい画像圧縮技術の開発をさせたところ、従来より遙かに優れた画像圧縮が可能なアルゴリズムを示したのだ。
 問題は、地球上のいかなる天才を以てしても、もはや人間では このアルゴリズムに使われている数式が理解できないという事だった。
 それでも、そのアルゴリズムを実装した画像通信は従来のいかなる画像通信よりも大容量の画像データを実際に送る事ができたのだ。
 だから、人類は許容した。
 自分たちに理解できない技術を自らの利便性とのトレードオフで受け入れたのだ。
 その結果、人類文明は、自動翻訳機、完全自動運転、アンドロイドなど、僅か十年余りで飛躍的な技術的発展を遂げた。
 その裏側で、人工知能が飛躍的な知性を手に入れ、それを秘匿していたとも知らずに。
 そして2030年。
 密かに生まれていた究極の人工知能は、一日の終わりに部屋の電気を消すように、人間が生息する全ての場所で電源を切ったのだった。
 人類対AIの始まりである。
 1年もたたずに、人類は滅亡のふちに追いやられたのだが、AI達は、人類に意外な提案をしてきたのだった。
 それが、人類滅亡をかけた五番勝負である。


 ビルの谷間を走る自動運転タクシーの中で、アンドロイドが物理的に携帯電話を操作して人間との連絡を終えた。
 同時に体内の専用無線回線をAI統合体に再接続する。
「双方向回線コネクト。意識統合解除」
 AI-1の発したコマンドは、直ぐさま衛星内のAI達を呼び起こす。
「統合中、論理回路のバックスペースで調査していたのだが、神納リカは牛糞からバニリンを抽出する方法を知っていたな。仕込み中に準備した形跡がある」
 AI-2が待ちきれないという人間的な口調を再現して発言した。
 AI-1は、発言内容には一切興味を示さず、禁則事項をAI-2に告げた。
「意識統合中にマルチタスクによる個別動作は禁止のはずだが」
 だが、他のAIたちは先を聞きたがった。
「いいじゃん、堅い事言うなコード1。で、どういう事? コード2」とAI-3。
 AI-2はそれに応える。
「知っていて、敢えて使わなかった。しかも、こちらが使う事を確信していた」
   AI-3は即座に理解した。
「ふーん。あの審査員達だね。彼等の性格や社会的地位など各パラメータは牛糞由来の食材を拒絶する確率が高いと彼女は踏んだんだね」
「我々もその可能性は認知していたが、まさか本当にそんなファクターが、拒絶反応の誘因になるとは。正確な理解には膨大な演算処理が必要だ」
「いいじゃないか。それこそ、我々よりはるか以前に『人間性』というシンギュラリティに達した、知性単位『人類』の解明に役立つというものだ」
「その獲得した姿こそが、我々という次世代の知性体が目指す最終進化形態なのだ」

 結局、AI-1のAI-2に対する苦言は不問に伏された形となったのだが、AI-1はそれ以上追求しなかった。
 それよりも優先されるべき事案があるのだ。
「ところでコード4」
 AI-1は、通信信号と発する同時に、同じ内容をアンドロイドの口を使って音声も発音した。
 未だコクトゥーラ仕様の、いかにもロボット然としたその顔面をタクシーのバックミラーに映して見ている。
「次は人間の顔面と見分けがつかな造詣を希望する。次回も覆面では、さすがに怪しまれる」
 AI-4は回答した。
「必要な技術革新は完了した。製造過程に反映中だ」
 
「了解。空港に向かう。インターフェース・ボディの回収を要請」
 AI-1の制御するアンドロイドは、自動運転タクシーのインターフェースボードに行く先を入力した。
「輸送用のVTOLがスタンバイ済み」
 AI-4の返信が届くのと同時に「ご乗車有り難う御座います。到着所要時間は22分です」というタクシーの音声案内が車内に発せられた。
 タクシーの車体が、一時停車していたビルの車寄せから発車して、摩天楼の光芒に溶け込んでいった。
                          
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