君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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僕がヒーローになれない証明

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 *

 鋭い痛みで目が覚めた。
 跳ね起きた体はぐっしょりと汗ばんでいて。目許に添えようとした右手が、弾けるように痛む。
 外は仄かに青白く光っていて、夜明けを告げるような新聞配達のバイクが走り回っている。

「っつぅ……っ」

 呼吸を整える暇すらない。
 動かす度に走る激痛は、手のあちこちで静電気が折り重なっているようだった。
 指一本すら動かせない右手を見ると、青紫の皮膚を中心に全体が腫れ上がっていた。
 すぐに昨日のリンチを思い出す。

「だっさ、折れてやんの……」

 不吉な予感がなかったとは言えない。
 元から蹴られて痛めていた右手で、他校の一年を殴ったとき。不思議にも痛みはなかった。アドレナリンか何かのせいだったのだろう。
 
「病院行かなきゃな」

 左手でタバコを咥えて、ベランダに出る。
 明け始めた夜を吸い込んで、火を着けるでもなく。ただ、見たばかりの夢を思い出していた。

 睦宮菜月。
 彼女が死んだのは卒業前のことだった。
 あれから僕は睦宮殺害の容疑者になって。けれど偶然、逮捕されることもなく。ただ償う宛のなくなった罪悪感を、擂り潰すように家に籠った。
 眠れた夜は少なかったのに、朝になって鏡を見るといつも目の周りが赤く腫れていた。
 そうして僕は気付く。

 ──ああ、僕はヒーローにはなれないんだな

 愛してしまうから、罪悪感を覚えてしまうから。
 愛結晶の発症には、僕自身も他人を愛する必要がある。それこそ殺してしまうほどの、深い愛情を。
 結局は睦宮も、死んでしまう程度には僕に愛情を注いでいたのだろう。愛が致命傷になるなんて、残酷な話だ。

(それでも、やることを変えるつもりはない)

 僕はヒーローにはなれない。
 だったら、どこまでもやるべきことを貫いてやろうと思った。凱世のように、傷付き死んでいく人間がいない世界を作るためなら。僕は手段を選ぶべきじゃない。

 氷雨茉宵の攻略はもう始まっていた。
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