君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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悪疫は取り除かれなければならない。

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 夜が明けてしまえばやがて朝が来るように。
 その日学校に行った僕と若が生徒指導室に呼び出されるのは、最初から決まっていたことだった。

「ンならお前ら二人で他校生リンチしたんやなァ!?」
「はい」
「間違いないっす」

 生徒指導主任のヤマナカの恫喝を、神妙な態度で聞き流して僕らは頷く。

「お前こんなん犯罪やぞ、わかっとんかいや」
「はい」
「間違いないっす」
「んならなんでやってん! 相手鼻の骨折れたんやぞ?」

 僕らはそれに、ただ「すいません」と答える。
 落としどころの見当たらない説教を聞き流して、反省したフリを続ける一時間。教室ではとっくに授業は始まっていて、僕らだけが生徒指導室に取り残されている。
 僕らが解放されたのは、二時間目が始まる五分前だった。

「センパイ」

 指導室を放り出されて、真っ先に僕を呼ぶ声が聞こえる。
 若は声の方を向くと、小さく鼻で笑った。

「先行くわ」

 先に帰っていく若の背に僕は声をかける。

「うん、一ヶ月後に」
「おう、な」

 軽いさよならを交わして、それからようやく声の方を向く。
 声の主がどこのバカなのかは、初めからわかっていた。

「おはよう氷雨。そろそろ授業始まるぞ」

 何でもないように声をかけても、ヘーゼルの目は昨日と変わらない色をしていた。憎むような、悲しんでいるような瞳だ。

「停学っスか」
「いや、謹慎。一ヶ月」
「なんで、そんな長いんスか」
「鼻の骨を折ったからね」
「そうじゃない!」

 「警察沙汰にならなくてよかった」なんて考えていると、氷雨が声を荒げた。

「なんでセンパイが……、アタシ助けてくれたじゃないッスか! なのになんでセンパイが全部悪いことになるんスか。おかしいでしょ?」

 悲痛な声が廊下に響く。よく見ると、ヘーゼルの瞳が濡れていた。
 僕は氷雨に笑ってみせる。

「助けたつもりはないよ」

 人助けをした、とは言わなかった。
 最初から、助けたつもりもない。それでも氷雨の名前を出してしまうと、まるで僕が人助けをするために誰かを傷つけたことになってしまう。
 どんな経緯があれ、リンチを正当化するような言葉は使いたくない。

「君にケガがなくてよかったよ。それじゃ」

 踵を返して、僕は歩き出す。
 そろそろ右手の痛みが限界だった。今日はこのまま帰って、病院に行こう。
 湿気た廊下の角を曲がる直前、一瞥した氷雨は怪物を見るような目で僕を見ていた。
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