君を殺せば、世界はきっと優しくなるから

鷹尾だらり

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悪疫は取り除かれなければならない。

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 平日の公園は嫌味なほどに晴れ渡っていた。
 梅雨晴れの陽気の中で、僕と若はベンチに座ってタバコを吹かしている。味なんてわからない。ただ落ち着くために、美味しくもない煙を口先で弄ぶ。

「お前、それなに」

 顎をしゃくって、若が僕の右手を指す。僕は短く答える。

「折った」
「シメた時?」
「うん」

 唇にタバコを預けて、左手でギプスをなぞる。
 右手は顎に入れた一発目で折れていた。鎮痛剤で落ち着いてはいるものの、本来なら外出は控えた方がいいらしい。
 知ったことか。こんな馬鹿げた病気すら知らないヤブ医者の話を聞くほど、僕の人生は長くない。

「病院行くなら乗せてったぞ」
「原チャで? これ以上バレて困ること増やしたくないよ」
「謹慎食らった一日目から出歩いてる奴が何言ってんだ」
「お互い様だろ」
「間違いない」

 下らない会話が心地よい。
 公園の裏手には僕の下宿先があるから、バレても問題にはならないと思う。
 さすがに謹慎初日に集まるのは、まあまあな問題だろうけど。

「あの一年」

 ふうっと吐いた煙で空を掴んで、若が言う。

「結構可愛いな」
「何言ってんだよ。芽衣花がいるだろ」
「だから付き合ってねぇっつってんだろ、シバくぞ」
「やってみな、こっちはギプスだ」
「病人だから容赦しろってか」
「違う、これで殴る」
「凶器かよ」

 早口に捲し立ててから、一呼吸置く。伸びてしまった灰を弾いて、ため息を重ねた。どこか拗ねたような若の声が、鳥の声に被さる。

「アイツ、来ると思うか?」
「来るでしょ。絶対バレてる」

 「アイツ」と呼ばれる少女も、僕らの友人だった。
 笠原芽衣花。若にとっては幼馴染みに当たる。
 彼女は僕らと同じ中学出身で、僕らが何かをする度にゲンコツと罵声を浴びせてくる。近所のおばさんのような少女だった。

「アイツ、母上みてぇにうるせぇんだぜ。ありゃ抱けねぇよ、ペチャだし」
「最低だな。もう少し言葉を選んだ方がいいよ、おっぱい星人」
「へいへい。考えとくよ、ピエロ野郎」

 言いながら、若の踵がタバコを揉み消す。

「もう帰るのか?」
「アイツの名前出されちゃ敵わねぇ。見つかってもメンドいし」

 若は芽衣花に弱い。
 家も近いし、付き合いも長い。誰が見ても両想いのはずなのに、お互いの名前を出すと面白いように狼狽える。
 互いに臆病なのだろう。ただ、

「あー、また吸ってる! アカンゆーてるやん!」

 今回ばかりは手遅れだった。
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