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空を目指して浮いた泡
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大西洋にインド洋、グレートバリアリーフのサンゴ。
きっと平均的な人生では、一生かかっても渡り切れないほどの海を巡った。
今ならなんとなく、若の水族館への熱意もわかるような気がする。
「今日は、来てよかったよ」
大水槽の緩やかな下り坂の中腹に置かれたベンチに、僕らは二人で並んで座っている。
ふと零した言葉に、氷雨がにんまりと笑顔を向けてくる。
「おやおや~? よぎセンがなんか可愛らしいこと言ってますねー。ニコチン切れました?」
「別に、中毒じゃない」
ただ生きているだけじゃ、深呼吸をする機会がないだけだ。だからタバコを吸うんだ。
氷雨から逸らした視界には、おちょぼ口の魚が桜色の群れを成して泳いでいる。上層を優雅に泳ぐのはハンマーヘッドシャークだ。
こうして見ていると、恐ろしいサメでさえ人間なんかよりもよっぽど完成された動物のように見えてしまう。
「率直な感想を言っただけだよ」
一瞬だけ、水槽の空を見上げる沈黙があった。
それからそっけないくらいに乾いた声で、氷雨が言う。
「へぇ、そりゃあ、照れますね」
嘘吐け、と思った。
目線を氷雨に下ろす。
うつむきがちなワインレッドの髪が垂れて、その隙間から朱に染まった耳が見えた。
僕は何も言えなかった。こんな時に限って、水族館の静かな喧騒すら聞こえなかった。
心臓の音だけがうるさかった。
誰にも聞かせたくない音だったから、立ち上がろうとする。
その袖を氷雨の指が掴んで、力の抜けた肩に、氷雨がそっと頭を載せた。
「感謝してます。アタシが囲まれた時、助けてくれたこと」
僕だけに聞こえる声で氷雨が言った。
触れ合った肌に、お互いの熱が溶けて混ざり合っている気がした。
「ホントは怖くて、どうしようもなかったんスよ。男子もいたし」
優雅に泳ぐマンタの影が微かに落ちて、けれどそれだけでは塗りつぶせないほどの赤い頬が、僕を向く。
「ねぇ、夜霧先輩」
ふと桜色の唇が動いて、僕の名前を呼んだ。
「アタシ、センパイのこと好きみたいっス」
心臓の音すら聞こえなくなるほどの衝撃があって、頭の中がくらりと揺れた。
関係が動いた音がした。
きっと平均的な人生では、一生かかっても渡り切れないほどの海を巡った。
今ならなんとなく、若の水族館への熱意もわかるような気がする。
「今日は、来てよかったよ」
大水槽の緩やかな下り坂の中腹に置かれたベンチに、僕らは二人で並んで座っている。
ふと零した言葉に、氷雨がにんまりと笑顔を向けてくる。
「おやおや~? よぎセンがなんか可愛らしいこと言ってますねー。ニコチン切れました?」
「別に、中毒じゃない」
ただ生きているだけじゃ、深呼吸をする機会がないだけだ。だからタバコを吸うんだ。
氷雨から逸らした視界には、おちょぼ口の魚が桜色の群れを成して泳いでいる。上層を優雅に泳ぐのはハンマーヘッドシャークだ。
こうして見ていると、恐ろしいサメでさえ人間なんかよりもよっぽど完成された動物のように見えてしまう。
「率直な感想を言っただけだよ」
一瞬だけ、水槽の空を見上げる沈黙があった。
それからそっけないくらいに乾いた声で、氷雨が言う。
「へぇ、そりゃあ、照れますね」
嘘吐け、と思った。
目線を氷雨に下ろす。
うつむきがちなワインレッドの髪が垂れて、その隙間から朱に染まった耳が見えた。
僕は何も言えなかった。こんな時に限って、水族館の静かな喧騒すら聞こえなかった。
心臓の音だけがうるさかった。
誰にも聞かせたくない音だったから、立ち上がろうとする。
その袖を氷雨の指が掴んで、力の抜けた肩に、氷雨がそっと頭を載せた。
「感謝してます。アタシが囲まれた時、助けてくれたこと」
僕だけに聞こえる声で氷雨が言った。
触れ合った肌に、お互いの熱が溶けて混ざり合っている気がした。
「ホントは怖くて、どうしようもなかったんスよ。男子もいたし」
優雅に泳ぐマンタの影が微かに落ちて、けれどそれだけでは塗りつぶせないほどの赤い頬が、僕を向く。
「ねぇ、夜霧先輩」
ふと桜色の唇が動いて、僕の名前を呼んだ。
「アタシ、センパイのこと好きみたいっス」
心臓の音すら聞こえなくなるほどの衝撃があって、頭の中がくらりと揺れた。
関係が動いた音がした。
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