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君の手を握る時に想うこと
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若の顔から血の気が引く。
それでも彼は目を逸らそうともせず、見たこともない顔を僕に向ける。
まるで傷ついてしまった、少年のような顔だった。
「芽衣花が、な」
力なく歪んだ口から漏れる声は、真夏の夜に嫌味なほどよく響く。
「俺の彼女が、久々お前に会いたがってんだ。その、彼氏としては腹立たしいが、気が済んだら帰ってきてくれよな」
それはもう叶うことのない、未来の幸福だった。
僕らがもう一度揃う未来はあるのかもしれない。けれどそれは、僕が氷雨と出会わなかった世界に限った話だ。
冬が終われば雪が溶け、桜が咲くのと同じように、きっと僕は何度でも氷雨を抱きしめる。殺意を伴うほどに強烈な好意を寄せ続ける。
僕は去っていく若の背を、その夜に霞がかかるまで見送った。もう最後になる彼の言葉を、強く胸に刻みつけながら。
せめて去りゆく若や芽衣花が、これからも喧嘩を繰り返して、そのたびに絆を深めていくよう祈った。
やがて気力も意識も尽き果てる、夜の深い時間が来た。
この数日を走り続けた体は、もう僕の制御が及ばないところで眠りに落ちようとしている。
僕は体の求めるままにベンチへと体を沈める。それから四時間ほど、泥のように眠った。
そうして僕は、また怪物の夢を見る。
愛した人すら自らの愛で殺してしまう、哀れな怪物の夢だ。それが僕を指すのか氷雨を指す夢なのかは、もうわからない。
僕は以前見たそれとは違う結末を辿っていく夢を、無感情に眺めていた。
それでも彼は目を逸らそうともせず、見たこともない顔を僕に向ける。
まるで傷ついてしまった、少年のような顔だった。
「芽衣花が、な」
力なく歪んだ口から漏れる声は、真夏の夜に嫌味なほどよく響く。
「俺の彼女が、久々お前に会いたがってんだ。その、彼氏としては腹立たしいが、気が済んだら帰ってきてくれよな」
それはもう叶うことのない、未来の幸福だった。
僕らがもう一度揃う未来はあるのかもしれない。けれどそれは、僕が氷雨と出会わなかった世界に限った話だ。
冬が終われば雪が溶け、桜が咲くのと同じように、きっと僕は何度でも氷雨を抱きしめる。殺意を伴うほどに強烈な好意を寄せ続ける。
僕は去っていく若の背を、その夜に霞がかかるまで見送った。もう最後になる彼の言葉を、強く胸に刻みつけながら。
せめて去りゆく若や芽衣花が、これからも喧嘩を繰り返して、そのたびに絆を深めていくよう祈った。
やがて気力も意識も尽き果てる、夜の深い時間が来た。
この数日を走り続けた体は、もう僕の制御が及ばないところで眠りに落ちようとしている。
僕は体の求めるままにベンチへと体を沈める。それから四時間ほど、泥のように眠った。
そうして僕は、また怪物の夢を見る。
愛した人すら自らの愛で殺してしまう、哀れな怪物の夢だ。それが僕を指すのか氷雨を指す夢なのかは、もうわからない。
僕は以前見たそれとは違う結末を辿っていく夢を、無感情に眺めていた。
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