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墜落した夜の欠片たちは

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 僕は遠くの海を眺める。夜は不均一な濃度で辺りに漂っていて、今日は漁火の一つも見えやしない。
 夜の暗さに慣れたあまりに、その手前の光源を見落としていたのだろう。しゃがみ込んだ僕の掌を、茉宵の頭が押し上げていた。どことなく犬っぽい。

「何してるんだ?」
「撫でられてます」
「雑なのが好きなのか?」
「雑いと思うなら、もっと優しい手付きで撫でてくださいよ」

 言われるままに手を動かす。
 ウミホタルの薄明かりがぼんやりと、けれど確かに試すようなヘーゼルの瞳を浮かび上がらせていた。

「なーんか、また難しいこと考えてる顔っスね」
「いや、これでも楽しんでるよ」
「だったらほら、もっと笑ってくださいよ」

 真昼のような笑顔で、茉宵が僕の口角をむにむにと持ち上げてくる。

「楽しみましょ。せっかくのデートなんスから!」

 人工的な灯りが、夜を駆け昇る。
 一瞬の沈黙と、その分だけ巨大に聞こえる破裂音が空から降り注ぐ。
 赤に、橙に、緑にそして青。蛍光する青でさえもウミホタルの輝きには遠く及ばず、偽物の輝きで夜を汚していった。
 贋物の燈火が消えた空に、正しい星の夜が帰ってくる。
 夜は深くなっていく。夏の大三角が僕らを見下ろしている。
 それが取り返しのつかない僕らの、些細な幸福だった。後のことはうまく考えられないほど、僕はその瞬間を楽しんでいたのかもしれない。
 その夜、僕は死神と再開する。
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