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墜落した夜の欠片たちは

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 一際大きな花火が咲いた後、夜は平穏を取り戻していった。
 音の割れたステレオが祭りの終わりをアナウンスして、人の波が僕らのいる海岸にも移動してきた。
 追われている身の僕らは夜闇に紛れて海岸を出る。乗ってきた自転車はどこにも見当たらなかった。きっと盗まれたのだろう。
 自転車を停めていた跡を眺めた時の、不思議そうな茉宵の言葉は何気なくて。でもそのせいで、僕は彼女の素朴な疑問に共感してしまった。

「悪いことに、程度の差なんてあるんスかね」

 祭りの終わった公園からは、浴衣の群れが流れてくる。
 僕は何も答えない。彼女はきっと、どんな言葉も求めてはいないのだろうから。

「被害者からしたら、何されたって同じように最悪の気分だと思うんスよね。なのに罪を裁く罰には重い軽いがあって、被害者には謝罪の言葉だけで諦めろって言う。なんだか不思議な気分です」

 法も罰も被害者の為にあるのではない。けれど今更そんな話でお茶を濁そうとは思わなかった。
 僕は通りすがる着物の沈丁花を眺めながら、相槌を打つ。

「人殺しをカモにする悪人も、いるんだよ」

 茉宵はうなずいて、口元だけで笑って見せる。

「不思議っスね。人殺しから自転車を盗む軽犯罪者は取り締まられないなんて」

 会話の代わりに、僕は彼女の手を繋ぐ。
 そうして二匹の人殺しは、また人気のない暗がりを探して海岸線を歩いた。
 ある程度の夏夜の蒸し暑さを、海風が忘れさせてくれる。
 海沿いの朽ちたトタン小屋を見つける頃には、喧騒はもう聞こえなくなっていた。
 僕らはそこで一夜を明かすことにした。
 行きがけにテイクアウトした牛丼を平らげてから、明日の「生き残った時にすること」を話し合う。
 スイカの種飛ばしに天体観測、山に戻って秘密基地を作るなんて色々な提案があったけれど、結局一つに絞りきる前に肩口から寝息が聞こえてきた。

 ──いつまで僕らは、こうしていればいいのだろう?

 ありきたりな将来への不安が、瞬く間に絶望となって胸を満たしていく。
 氷雨が目を覚まさないようにそっと床に横たえて、月の顔を拝みに行く。半端に丸い月輪が冷たい光で夏を冷やしていた。僕は海水で顔を洗う。
 途端に思考は風を吹いたように晴れて、迷いのほとんどが消えた。
 ようやく、盗んだものを使う時が来たのだろう。
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