竜の女王

REON

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二章

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「奥さまがドラゴニュート公爵に?」
「ええ。当主は一度退いた身だからまた貴族のお務めのある公爵に戻るのは嫌みたいで、ワタクシが継がなければドラゴニュート公爵家は廃爵になると言われて」

控え室を出て場所をエントランスホールに移してから、扉の外で待っていたサシャやピートにも状況を説明する。

「そういう理由で襲爵することになったから、ワタクシはこのまま当主とドラゴニュート公爵邸に行きますわ」
「屋敷には帰らずこのままですか?」
「家族揃って来ていたから今お屋敷には使用人しか居ないの。前公爵たちは制裁を受け亡くなったことやワタクシが襲爵したことを早く屋敷の使用人に報告しなければ」

家族の誰かが屋敷に残っているならまだしも誰も居ない。
何も事情を知らない使用人たちは屋敷の主人たちがいつまでも帰って来なければ騒ぎになる。
サシャもそれを聞いてたしかにそうかと納得した。

「落ち着くまでに数ヶ月かかると思うわ。使用人の雇用主の変更をしたり、第二夫人や第三夫人にも訃報を報せて遺留分の分配をしなくてはならないし、領地のこともあるから」
「公爵家ともなるとやることが多いですからね」
「ええ。ですからワタクシは当分帰らないと思って」
「承知しました」

こればかりは仕方がない。
先代のアレニエ公が急逝した時は既に甲斐性なしの従者になっていたサシャも、襲爵後の慌ただしさは経験済み。

「サシャもピートも旦那さまをお願いね」
「「承知いたしました」」

女主人ではなく甲斐性なしの妻としての言葉にサシャとピートは胸に手を当て頭を下げる。

「あ。先にアクセサリーはお返しして」
「それは君への贈り物だから付けたままで構わない」

高価なビブネックレスを先に返しておこうと外そうとしたロラの手に手を添えて止めた甲斐性なし。

「それより身体に気をつけて」
「ええ、ありがとうございます」

手を離した甲斐性なしにロラはドレスを摘んで見本のような美しいカーテシーをして微笑んだ。


「……いや、デカ……」

夜空に浮かんでいる黒竜。
当主が変身したその姿を見上げたサシャは素で呟く。

「じゃあワタクシも行きますわ」
「行ってらっしゃいませ、奥さま」
「お身体にお気をつけて」
「ありがとう」

見送りに出て来たサシャとピートに微笑むロラ。

「シャルロット」

甲斐性なしが名前を呼ぶとロラも振り返る。

雪の女神のように美しくて愛らしい姿。
その姿を見て心から愛おしく思うのに声がでない。
どう声をかけていいのか分からない。

「旦那さま。頑張り過ぎて体調を崩されませんよう。たまにはお休みをとってゆっくりしてくださいませ」

甲斐性なしの気持ちを察したロラは笑顔で言うと黒竜になっている当主の背中に軽々と飛び乗る。

「みなさま、ごきげんよう」

最後にまた美しいカーテシーをして挨拶をしたロラと翼を羽ばたかせる当主に、甲斐性なしたちや近衛騎士や守衛たちも敬意を表し胸に手をあて頭を下げて見送った。

「……私たちも帰ろう」
「舞踏会はよろしいのですか?再開するようですが」
「ああ。式典は終わったからね」

祝いに来た相手はもう居ない。
隣に妻のシャルロットも居ない。
それなのにここに残る必要もない。

「では御者に声をかけて参ります」
「よろしく頼む」

庭園にある建物で待機している御者に声をかけにピートが離れると、甲斐性なしはもう一度夜空を見上げる。

「サシャには話しておくよ」
「なにをですか?」
「シャルロットと私は離縁するかも知れない」
「……え?」

他の使用人には決まるまで話さないけれどサシャは別。
幼い頃から一緒に過ごしてきた信頼する友人だから。

「御当主から言われたんだ。守護者のシャルロットを受け入れられないなら離縁しろと。私は離縁しないとは答えられなかった。きっと御当主は守護者のシャルロットの姿に私が戸惑っていることを気付いていらしたんだろうね。同じくシャルロットもそれに気付いていて私に離縁を考える時間をくれた」

シャルロットを愛おしく思う。
でも守護者として役割を果たしに行くシャルロットを気をつけて行っておいでと送り出せる自信がない。
守護者は王国にとって守り神のような存在で、彼らが居てくれるから自分もここで平和に暮らせているのだと分かっているけれど、それが自分の妻となると変わってくる。

「自分を都合のいい奴だと思うよ。普段は守護者に守ってもらっているのに、シャルロットが人の命を奪う時もあるのかと思うと守護者の役割など辞めてしまえばいいのにと思ってしまう。愛らしくて美しいシャルロットのままで居てほしいと思う」

甲斐性なしが自分で言う通り都合のいい話。
守護者には守ってもらうけれど、自分の妻には何者かの命を奪うようなことをせず愛らしい妻のままで居てほしい。

「それには何も言えない」

サシャも甲斐性なしの気持ちが分からない訳ではない。
守護者の役割が何かを知っているからこそ人を殺めることもある妻を受け入れ難いというのも分かるけれど、それを言うなら私も暗殺者の一族として人を殺めてきたのにと思う。
妻と友人ではまた違うのかも知れないけれど。

「ドラゴニュートは恐れられている一族でもあるけど、同時に多くの人から感謝されてる一族でもある。魔獣の氾濫を止めてくれるのも、他国との戦の最前線に立って戦ってくれるのも、彼らドラゴニュート一族だ。魔獣にしても人にしても命を奪うなんてみんながやりたくないことをやってくれてる」

やりたくないことをしてくれる人が居るからこそ、その他大勢の人々は手を汚すことなく生活が成り立っている。
なのにその『やりたくないことをしてくれる人』が自分の妻となると嫌だと思うならもう応援はできない。
ロラはテネブルでもルミエールでも守護者なのだから。

「嫌なら離縁した方がいい。奥さまに守護者を辞めろなんて言ってしまう前に。生きる道が違う人とは離縁して別の人と再婚した方がルカのためにも奥さまのためにもなる」

それがサシャの本音。
殺めることを悪だと思う甲斐性なしと殺めることを役割だと思うロラでは生きる世界が違うのだから、自分と合った考えや価値観を持つ相手と再婚した方が互いに幸せだと。

「シャルロットを愛おしく思うのは本当なんだけど」
「それは可愛らしい奥さまが愛おしいんだろ」
「手厳しいな」
「事実を言ったまで。守護者の奥さまのことは受け入れられてないから離縁するか迷ってるんだろうし」

ルカが愛おしいのはロラが演じる可愛らしいシャルロット奥さまで、守護者のロラのことは受け入れられてない。
妻の一部分を愛おしく思っているだけ。
夫婦だからと言って相手の全てを受け入れろとは思わないけれど、二人の違いはあまりにも大きい。

「後悔しないようにな。それしか言えない」
「ありがとう」

甲斐性なしとサシャはそう話して夜空を見上げた。





「「御当主!」」

ドラゴニュート公爵邸の邸門前に降りた黒竜。
二人の門番がすぐに気付いて声をあげると、黒竜の背からまるで風に浮いているかのようにふわりと女性が降りてきた。

「疲れたのではないか?」
「大丈夫ですわ」

黒竜の姿から人の姿に戻った当主は正装姿。
そして女性の身体を気遣って手を貸している。
そんな初めて見る当主の姿に門番二人はハッとする。
まさか当主に恋人が?と。

「あら?お二人は初めて拝見するお顔ですわね。寒い中をご苦労さまです」

そう言って近付いてきたロラに二人は固まる。
なんだこの美少女は、と。
プラチナ色が美しい長い髪と大きな瞳。
まつ毛までもがプラチナ色で、顔のパーツも含めまるで精巧な人形のよう。

「初めまして、門番さん。ワタクシの名はシャルロット・ロラ・ドラゴニュートですわ。お見知りおきを」
「ご、ご挨拶が遅れて……ドラゴニュート?」

綺麗なカーテシーで挨拶をされて敬礼しながら答えようとした門番は、聞きなれた『ドラゴニュート』の名前に気付く。

「シャルロットはドラゴニュート公爵家の長女だ」
「お、お嬢さまでしたか!大変な御無礼を!」
「私どもは数ヶ月前に雇用されたばかりでして!」
「ふふ。よろしくてよ。一年以上前に嫁いだ後は一度も戻らなかったのだから知らなくて当然ですもの」

ドラゴニュート公爵家の一員とは思えないほどお優しい。
普段は怖い家族を見ているだけに感動する門番たち。

「入ってもよろしいかしら」
「ど、どうぞ!申し訳ございません!」
「ありがとう」

急いで邸門を開けた門番たちは当主とロラの後ろ姿をぼーっと見送った。

公爵邸に着いて当主が扉を開けると使用人がずらり。
門番からの報告で当主とシャルロットが来たことを聞いて家令や従僕が集まっていた。

「ファウスト当主……」

シンとしたエントランスホール。
従僕たちは当主に跪いて頭を下げている中、挨拶をする家令の声が止まる。

「お久しぶりね。イリス」
「……シャルロットお嬢さまなのですか?」
「あら。貴方までワタクシを忘れたの?」

クスクスと笑うロラに家令のイリスは冷や汗が滲む。
なぜ別人のような美しい姿に変化しているのか、なぜこのような時間に本家へ戻ってきたのか、一族にすら興味を示さない当主がなぜシャルロットと居るのか。
心臓が激しく脈打つ。

「全ての上級使用人に報せろ。この屋敷の主人だった前公爵夫妻とフランとカーラの四名は守護者に有るまじき悪行に手を染めていたため、当主の私が制裁を行い死亡したと。新公爵には長女シャルロットが襲爵したとも」

驚いてはいるものの顔をあげられない従僕たち。
家令が口を結んでいるから身動きもとれない。
一体なにが起きているのかと理解も追いつかない。

一つ分かることは殺されるかもしれないと言うこと。
なぜなら一年と数ヶ月前までは自分たちもシャルロットを虐げていたのだから。

「イリス。全員ダンスホールに集めなさい。今すぐ」
「は、はいっ!」

ロラに命じられてイリスは駆けて行く。
本来なら屋敷は走らないことが礼儀だけれど、すぐにでもその場を離れたい気持ちが逸って。

「貴様たちも先にダンスホールに行っていろ」
「は、はいっ!」

当主から言われた従僕たちも飛び跳ねるような勢いで立ち上がると走って行った。

「シャルに後ろめたいものがあったようだが」
「ふふ。そうでしょうね。ワタクシが公爵になって戻ってくるなど思いもしていなかったでしょうから」

そう話してロラは笑う。

「シャルが戻ると都合が悪いと言うことか」
「手段は分かりませんが、ワタクシと家族の会話を聞いていたのでしょう?そうでなければ戻らなかったでしょうし」
「聞いていた。だがあれは家族の話だったが」

ロラが気になり途中から竜の力を使って様子を見ていた。
自分で制裁するつもりのようだったから最初は話を聞くだけに留めていたけれど、ロラの表情を見てすぐに城へ戻った。

「使用人も同じですわ。シャルロット嬢は家族から竜のなり損ないと虐げられていたのですもの。自分たちも虐げていいと思ったのでしょうね。罵られるのは日常。暴行も日常。使用人の仕事を押し付けられるのも日常。そうやって使用人から虐げられているのを見ても家族の誰も咎めませんでしたけれど」

助けるどころか知らないふり。
カーラに至っては使用人たちと一緒になってシャルロットを虐げて楽しんでいた。

「家族の時は手を借りましたけれど、今回はワタクシが片付けますから手出し無用。守護者として黒(有罪)の魂は制裁しますわ」
「そうか。じゃあ私は大人しくしていよう」
「ありがとうございます」

公爵邸に戻ってからずっとシャルロットの感情が騒いでいる。
悲しみ、苦しみ、恐怖、絶望。
僅かにしか残っていないはずの感情があまりにも大きくて、肉体に宿っているロラも息苦しいほど。
シャルロットの欠けた魂の殆どは生家のここにある。


公爵邸で最も広いダンスホールに集まる使用人たち。
壇上に座っている当主とシャルロット。

「お美しいお嬢さまね」
「本当に。とってもお綺麗な方だわ」
「黒髪と赤い目じゃない方も居るんだね」
「うん。私も初めて知った」

見習いのホールガールはシャルロットのことを知らず、その容姿端麗な姿を見て純粋に興味津々でヒソヒソ。

「ご当主は大きいなぁ。座ってても背が高いのが分かる」
「話でしか聞いたことがなかったけど、ドラゴニュートの象徴って言われてる方だけあって威厳が違う」

同じく見習いのホールボーイも初めて見る当主に興奮気味。
当然怖くもあるけれど、同時にその強さは若い男子からすれば憧れの対象でもある。

「屋敷に居る使用人は全て揃いました」

家令が当主とシャルロットに声をかけると静かになる。
尤も喋っていられたのはシャルロットが嫁いだ後に雇われた何も知らない使用人だけで、以前から居る大半の使用人は血の気の引いた様子で口を結んでいたけれど。

揃ったことを聞いて立ち上がった当主はロラに手を差し出し、ロラもその手を借り立ち上がって二人で前に出る。

「既に上級使用人アッパーサーヴァントから聞いた者も居るだろうが、改めて当主の私の口から報告する。ドラゴニュート公爵並びに第一夫人、嫡子フランと末女カーラ。以上四名は守護者の役割を逸脱した咎人として当主の私が制裁を行い鬼籍に入った。よって現時刻を持って現ドラゴニュート公爵家は解体する」

驚く使用人たち。
当主の話の最中に口を開く訳にはいかず黙ってはいるけれど、隣の使用人と顔を見合わせたりと僅かながら反応する。

つまりこの屋敷の主人はみな亡くなったと言うこと。
つい数時間前にデビュタントボールのために王城へ出かけたはずの主人たちが当主から制裁を受けるなど、突然のこと過ぎて理解が追いつかないのも当然のこと。

「次に新公爵についてだが、ここに居る本家の血筋の長女シャルロットが公爵位を襲爵した。王家が行う叙爵式は後日となるが、既に一族当主の私とブルイヤール国王が長女シャルロットに襲爵させることを承認したため、現時刻をもって新ドラゴニュート公爵が誕生したことを宣言する」

四名が制裁を受けての襲爵劇になっただけに、事情を知らない使用人も新たな公爵の誕生を喜んでいいのかどうか。
自分たちはどうなるのだろうという不安も大きい。

「突然のことで戸惑わせてしまってごめんなさいね」

ロラは戸惑っている新人の使用人の気持ちを慮ってまずはそう声をかける。

ワタクシが嫁いだ後に雇われた方々のために自己紹介を。ドラゴニュート公爵が長女、シャルロット・ロラ・アレニエですわ。まだ書面での変更が行われておりませんので旦那さまのアレニエを名乗っておりますが、今後はドラゴニュートを名乗って当主とともに公爵家の主人と守護者の務めを果たします」

淑女の見本のような美しく自然なカーテシー。
見た目の容姿が愛らしく美しいだけでなく所作も綺麗。
若い見習いたちは男女問わず壇上に釘付けになっている。

「当主のお話しにあったように、咎人として制裁を受けた前公爵が作り上げたものは一度解体しなければなりません。つまり前公爵から雇われているみなさまを解雇することになります」

それには多くの使用人が困惑する。
突然仕事を失うことになったのだから当然だ。

ワタクシが言葉足らずでしたわね。前ドラゴニュート公爵と雇用関係にあるみなさまを一度解雇しなければならないのであって、続けていただきたい方のことは新ドラゴニュート公爵のワタクシが再雇用いたします。ただ、新公爵に仕えることに不安がある方も居るでしょう。希望があれば新たな雇用先の紹介と退職金をお渡しいたしますから安心してください」

良かった!
シャルロットに対して後ろめたいことが何もない使用人たちは明らかにホッとした表情に変わる。
このまま働けるかもしれないし、最悪解雇されても新たな雇用先を紹介してもらえて退職金ももらえるのだから、一文無しで職なしになる心配はない。

「状況を把握しておくためにお聞きしますけれど、この中でワタクシが嫁いだ後に雇用された方は手を挙げてくださる?」

見習いや新たに雇用された使用人は手を挙げる。
中には先ほどの門番二人の姿も。
ロラはダンスホールを左右に見渡してにこりと微笑む。

「ありがとう。手を挙げた方々は明日から行う予定の面談を優先で受けていただきますから、今日はもう各自お部屋に戻って休んで構いません。希望があれば考えておいてくださいね」

新人だから優先してくれるのかな?と特に疑問には思わず、手を挙げた者たちは当主とシャルロットへ丁寧にカーテシーやボウアンドスクレープをしてダンスホールを出て行った。

「さあ、貴方たちが残された理由は当然お察しですわね?」

今までは微笑を浮かべていた表情が一転して無表情に。
真っ青になり震える者や腰を抜かして座りこんでしまう者も。

「どうかお許しください!あの頃は私も」

真っ先に声をあげたのはカーラの侍女。
言い訳の途中でロラが指を動かし首を刎ねる。

「きゃああああ!」

ダンスホールは一気にパニック状態。
ホールから逃げ出そうと我先に扉へ駆けつけた人々は見えない壁に弾かれて床に倒れる。

「まずは一つ」

首を刎ねた侍女の中から浮かび上がったシャルロットの魂の欠片がそのままふわりと空に向かって昇って行く。

「ねえ、貴方たち。静かになさい」

ロラのそんな声も殺されると思ってパニックになっている人々には無意味。

「手酷くシャルロット嬢を虐げて死にかけさせた経験もある者たちが、自分の番になったら必死に生きようとするのね」

救いのない黒(有罪)の魂たち。
粉々に砕かれたシャルロット嬢の魂の欠片を持つ者たち。
阿鼻叫喚のそれをロラは虚無の目で眺める。

「当主、血を飲ませてくださる?」

椅子に座って眺めていた当主を振り返ったロラ。

「能力を制限されている今のワタクシが制裁を行うには力不足ですから、当主にご協力いただきたいの」
「いいだろう。好きに飲め」

フッと笑った当主に近付いたロラは牙を出して、座っている当主の首筋にがぶりと噛み付いた。

「美味いか?」

そう聞かれてロラは小さく頷く。
始祖の力を持つ当主の血はヴァンピールにとって極上の味。

「シャル。髪の色が」

視界に入る髪が毛先から黒くなっている事に気づいた当主。
喉を鳴らして飲むほど髪は黒く染まって体型も変わり、今まで以上の魔力を感じた時に口が離れた。

「美味しかったですわ」

口元を拭ったその姿はもうシャルロットではない。
艶やかな長い黒髪と真紅の虹彩をした別人。
シャルロットの肉体に合わせて作られたドレスではサイズが合わず、豊かな胸が今にもドレスから零れそうになっている。

「それがロラの実の姿か」
「ええ。魔法を使うにはこの肉体の方が都合がいいの」

黒髪を耳にかけるロラの姿はゾッとするほどに美しい。
肉体の変化はさすがに予想していなかった当主は苦笑した。

「すぐに終わらせますからもう少しお待ちになって」

胸元を隠すためインベントリから出したクロークを羽織ったロラは長杖を握ってクスっと笑うと壇上から降りて、恐怖に怯える使用人の間を通り抜けダンスホールの中心に行くと長杖の先でコツコツと床をノックする。

「きゃああああ!」
「な、なんだ!?」
「なによこれ!」

ロラを中心にして床に描かれて行く魔法陣。
下から照らす眩い光に驚きと恐怖の声をあげる使用人たち。

「安心なさって。ワタクシは守護者の役割を果たすだけ。貴方たちのような快楽犯ではないから焦らして甚振ったりしないわ。苦しむ時間が少なく済むようすぐに殺してあげる」

審判人が生命を殺める時に与えるものは『死』そのもの。
残酷なほどに容赦なく命を奪うことが審判人の慈悲。

「我は始祖ヴァンピールの能力を継承する守護者なり。名はロラ・カタストロフ・ヴァンピール。罪なき者をなぶ甚振いたぶることに心が痛まぬ有罪の魂たちに破滅を。主神より賜りし審判人の宿命のもと、闇に染まった黒き魂たちに刑を執行する」

魔法陣から一瞬で高く吹き上がる黒い炎。
全ての色を黒に染めるその炎に黒(有罪)の魂は焼かれる。
ヴァンピール族と同じ守護者でありながら命を弄んだ公爵家の者たちへの制裁とは違って長く痛めつけることもなく。

「……強いだけでなく美しいとはな」

椅子に座ったまま右手で頬杖をついて眺めていた当主は、光り輝く魔法陣の中心で黒の炎に焼かれる人々から次々と昇ってゆく沢山の魂を見上げているロラの姿に呟いた。
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