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三章
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しおりを挟む午後になるとクリスは予定通りマレに出掛けて、屋敷に残ったロラは甲斐性なしと二人で夫婦の自室に行く。
「忙しくて体調を崩さないか気がかりだったけど、様子を見るに元気そうでひとまず安心したよ」
使用人が紅茶やお菓子を支度して部屋を出たあとロラ(シャルロット)の対面のソファに座っている甲斐性なしは口を開く。
二人の関係が悩ましい状況にはあってもそれは事実で、本当に心配していた。
「私一人では無理でしたけれど、当主やクリスお兄さまが協力してくださるお蔭で何とか。まだ問題は山積みですけれど」
数ヶ月経って国の襲爵式も済んだから報告を兼ねて一度アレニエ公爵家に戻ってきたけれど、ロラ(シャルロット)が雇用主になっている侍女の解任手続きや荷物の整理のために一度戻っただけで、それらが終われば本家に帰る。
夫婦が個々に爵位を持つというのはこういうこと。
下級貴族ならまだしもどちらも公爵家だけに領地も広くやらなくてはいけないことが満載だし、屋敷もそれぞれに本家があるのだから自分が主人のそこを放置する訳にも行かない。
屋敷や領地を管理してくれる人材が揃って基盤が安定すればひと月単位の滞在も出来るようにはなるけれど。
「まだ家令や執事は決まってないのかい?」
「ええ」
甲斐性なしも手紙のやり取りの中で事情は聞いている。
家令や執事は主人と最も関係が深いだけに前公爵や第二夫人の家令や執事をそのまま雇うにはリスクが大きくて解雇したというのは納得の理由だったし、秘密も多く恐れる人も多いドラゴニュート公爵家だから人材そのものが集まらないというのも納得できる内容だった。
「じゃあピートを雇用しないか?」
「え?」
紅茶を飲もうと口元にティーカップを運ぼうとしていたロラの手が止まる。
「実は本人から相談されてね。シャルロットに仕えたいと」
「私に?」
ロラにとっては願ってもない最高の提案だけれどなぜ急にと思えばピートの方からの申し入れだったとは。
「以前話したようにピートは先代が才能に惚れて他国から連れてきた。シャルロットも見たから分かっているように彼は貴重な魔法使いだからね。ただ契約するには条件があって、いつか自分が仕えたい主人が現れたらそちらに行くと。先代はその条件を受け入れてピートと契約を交わしたんだ」
つまりピートの申し入れを断れば契約違反。
優秀な人材を失うと同時に違約金も払わなければならない。
「私の本音としては王都屋敷の執事を任せていた彼を失うのは痛いけど、国に帰られてしまうよりは自分と繋がりのあるシャルロットに仕えてくれた方がマシだ。もし人手を借りたい時にはシャルロットにお願いできるからね」
ニコッと笑った甲斐性なしにロラはくすくす笑う。
「旦那さま。それが本当の旦那さまなのかしら」
「なんの話だい?」
笑みを崩さない甲斐性なしの隣に移動したロラ。
「計算高くなければ海軍提督は出来ませんわよね」
「やはりご当主から聞いていたか」
溜息をついた甲斐性なしはソファの背に凭れる。
「私が何も聞かされていないことを知らずに話してくださいましたわ。それもそうでしょう?自分が嫁いだ伴侶の裏の顔を知らないなんて普通は思いませんもの」
ロラはそう答えてフフっと笑う。
「最初は隠していた訳ではなく既に知っていると思っていた。前ドラゴニュート公爵は私の素性をご存知だったからね。嫁ぐ前に聞かされているだろうと思っていたんだ」
「あら。そうでしたの」
父親の前公爵が知っていたなら話してあると思うのも当然。
親が決めた顔すら知らない相手と成婚するのだから両家とも嫁ぎ嫁がれする者の個人情報を相手の家に渡しているはずで、普通はそれをそのまま見せるなり話して聞かせるなりする。
「聞かされていないことはすぐに分かった。でも海軍提督に嫁いだことを君が知れば怖がるのではないかと思うと言えなくなった。言わないととは思っていたけど、抱きしめたら折れてしまいそうに儚げな姿の君を見るとやはり言い出せなかった」
魔物の氾濫が起きれば知られてしまうこと。
だから早く言わなければとは思っていたけれど、小柄で身体も細くて誰が見ても儚げな姿を見ると言えなかった。
竜の力を持っていることは聞いていたものの、それでも実際に力を使うところは見たことがなかったから。
「だから本当は守護者のシャルロットがすることに口を挟める立場ではないんだ。幼い頃から海軍提督となるよう育てられた私も戦に立って人や魔獣の命を奪ってきたんだから。自分はそうなのにシャルロットには手を汚さず愛らしいままで居て欲しいなんて身勝手な男だということは分かってるよ」
目元を隠してソファの背に項垂れた甲斐性なしは頬に触れた柔らかい感触に気付いてロラを見る。
「正直に話してくださってありがとうございます」
初めて甲斐性なしの本音が聞けた。
政略結婚で愛もなく妻から逃げていたろくでなしには違いないけれど、今はシャルロット嬢が好きなことは間違いない。
好きになったから逆に言えずにいたのだと。
「実は私、旦那さまのこと好きではありませんでした」
「え?」
「むしろ妻一つまともに養えないのに愛妾を囲って摘み食いだけはするろくでなしの甲斐性なしと思っておりました」
キッパリと言われて胸に矢が突き刺さる甲斐性なし。
いや、夫婦になる大切な成婚の誓約書を交わす時から顔を見せないような夫を好きになるはずもないし、愛妾が居ても一切気にしていなかったんだから(それどころか離縁したい時はいつでも言ってと言われていたし)、シャルロットの優しさは好意ではなく政略結婚の相手に対するものとは分かっていたけれど。
「私たちはお家同士の利益のために成婚した愛のない夫婦ですもの。お家が傾かない範囲でしたら旦那さまに何人の愛妾が居ても構いませんわ。私は初経もまだですし、アチラがお強い旦那さまのお相手をしていただけるのでしたら助かりますし」
「ま、待った!アチラが強いってどうしてそんな誤解を!」
慌てて否定する甲斐性なし。
全てにおいて色々と言いたい内容ではあったけれど、なぜそんな誤解をされているのか。
「旦那さまが寝かせてくれないとアンさまが」
それか。
思えば誤解を解いていないままだった。
使用人たちの前で話す内容ではなかったのと、まだ契約を交わしている時だったから。
「すまない。それも話さなければいけないことだった」
「え?」
「彼女は情報収集のために雇用した愛妾なんだ」
「どういうことですの?」
きょとんとして首を傾げるロラ。
それは初耳。
「彼女は別邸に近い街にある酒場の給仕で、店には隠してそこに来る客を誘って身体を売っていた。肉体関係を持つと口の軽くなる者も少なくない。あまり治安のよくないその街で薬物が出回っていることを知って、売人や元締めを見つけるために情報が欲しかった私には彼女が諜報役に適任だったんだ」
「まあ。そんなことが」
別邸のある場所も当然アレニエ公爵家の領地。
自分の領地で薬物が横行してると知って、キリのない末端ではなく大元から潰そうとしたのだろうと話を聞いて納得する。
「ただ、貴族と酒場の給仕が接触するとなると身分が違い過ぎて売人や元締めに疑われるかも知れない。だから貴族なら居ても珍しくない愛妾として雇用契約を交わしたんだ。彼女の方は情報を持っていそうな男を誘って得た情報を集めて私に売る。私の方は彼女の衣食住の保証と情報料を渡すという条件で」
「そうでしたの」
ハニートラップは情報収集の手段としてよく使われる。
それ専用の人を雇っていることも珍しくない。
ロラ自身もテネブルに居る時は情報収集のためにハニトラを仕掛けることがあったし、兄のジルも女性から情報収集する時には自分の身体を使っていた。
「あら?でしたら寝かせてくれないと言うのは」
「確かに早朝まで寝かせてあげられない日もあった。彼女が得てきた情報を私が聞けるのは酒場が終わってからだから」
「まあ、健全。私てっきり旦那さまの性欲が強くて朝まで寝かせてくれないという意味かと勘違いしておりましたわ」
「わざとだよ。食事のあと視察に出掛けることを彼女に伝えに行った際に、ああいうおかしな誤解を受けるようなことを言うのは辞めろと注意したけど」
むしろ注意が一番の目的で愛妾の居る来賓室に行った。
そのついでにシャルロットと視察に行くことと、自分たちが居ない間に騒ぎを起こさないよう部屋で大人しくしていてくれと話した。
「ではアンさまと肉体関係はありませんでしたの?」
「いや、ある。街の件では随分と役に立ってくれたから片付いた後も契約は切らず他の件の諜報を続けさせたけど、そろそろ契約を切られると察したのか段々と情報を小出しにして隠すようになって。それを吐き出させるために金も身体も使った」
あらあら、大変ですこと。
勘のいい女性にかかってミイラ取りがミイラに。
「愛妾を本邸までわざわざ連れて来て仲睦まじい姿を見せつけずともお二人の邪魔をしたりしないのにと思っておりましたけれど、そういう頭の悪い牽制ではなかったのですね」
「違う。本邸に戻ることを話してからというもの毎日毎日懲りもせず一緒に行きたいと騒がれてうんざりしたのもあるけど、何かあれば情報を引き出させるために彼女の色仕掛けが役に立つかも知れないという気持ちもあって同行を許可した」
よほど酷かったのか、そのうんざりが伝わる表情で答えて大きな溜息をつく甲斐性なし。
「旦那さまはアンさまに下心はありませんでしたの?」
「ないよ」
「本当に?魅力的な方ですのに」
「肉体関係があったことまで認めておきながらそこだけ嘘をついて何になる。諜報員として役に立って貰おうという腹黒い考えがシャルロットの言う下心に値するのなら認めるけど」
「ふふ。それは雇用主なら思う当然の考えですわね」
雇用の契約を交わしてそれに見合う対価も払っているのだから役に立って貰わないと逆に困る。
「私に対して旦那さまから愛されてるのは自分だと言いたげな言動を繰り返してらしたのは噂を聞いて私を見下していたのに違ったからと言うだけでなく、もし旦那さまが私を気に入ってしまったら別邸には戻らなくなって契約も切られてしまうと焦りがあってのことだったのかしら」
ソファの背に両手を添えこちらに身体を向けて話すロラ(シャルロット)の愛らしさに甲斐性なしはくすりと笑う。
「両方だろうね。彼女が私に話すシャルロットの噂は悪いものばかりだった。だからシャルロットを見るまでは自分が勝ってると思っていたのに、実際のシャルロットは雪の精のように美しく愛らしくて、同じ女性として敗北した気分だったんじゃないかな。彼女は随分と自分に自信があるようだったから」
そう話しながらロラ(シャルロット)の長い髪を手にとった甲斐性なしはそこに口付ける。
「まあ自分の容姿に自信がなければ色仕掛けで客を誘ったりしないだろうし、実際に何人も彼女を買う男が居たんだからそう思うのも仕方ないのかも知れない。ただ本能に駆られた男はもっと単純なんだけどね。容姿は多少アレでもやることをやれるならいい。酒場に来ている男は酒を飲んでるから尚更」
髪に口付けながら自分と目を合わせて言葉を選ばず話す甲斐性なしにロラはくすりと笑って返す。
彼にとって最大の秘密は海軍提督であることで、それを知られたからもう取り繕って本性を隠すつもりもないのね。
「こうして二人きりでゆっくりと話す機会を得て初めて知ることが出来たことの多さに、改めて私たち夫婦は圧倒的に会話が足りていなかったのだとよく分かりましたわ」
「そこは私の責任だ。ドラゴニュート一族の本家令嬢の伴侶が若輩者の私でいいのかと悩んで一年以上も避けてたから」
「それは事実でしたの?」
「事実だよ。君の夫は妻を幸せに出来る自信がなくて避けていたような情けない男だ。償いをしたいと言いながら妻の守護者という役割に戸惑ってしまうようなどうしようもない男だ」
ロラの背に腕を回してソファにそっと倒した甲斐性なしは上から見下ろしながら苦しそうな表情でそう話す。
「ごめん、シャルロット。それでも私は君が好きだ」
シャルロットが屋敷から居なくなって数ヶ月。
自分は守護者の妻を受け入れられるのかと考えた。
受け入れられる自信はなくて離縁した方が互いのためになるとも思ったけれど、この気持ちだけが変わってくれない。
「君は親から嫌々嫁がされただけだと知っている。君を好きになってしまった私とは違って好意など一切ないことも、好意どころか興味すらないことも分かっている。だから離縁してあげることが君のためになることは分かっているんだ」
それなのにその決断が出来ない。
屋敷に一度戻るという手紙を受け取って嬉しかったけれど、決断しなければならないのだと思うと苦しかった。
まだ帰って来なくていいのにと考えてしまうほどに。
「……ごめん。余計なことまで言ってしまった」
今まで言えなかったことを話したら感情までが溢れてしまった自分の言動にハッとした甲斐性なしは、ロラ(シャルロット)の背に手を添えて身体を起こす。
「それで、どうしますの?」
逃げられないよう首に腕を回して直球で質問したロラ。
自分のものではない感情が胸を締め付けるのを感じながら。
「シャルロット。この体勢はさすがに」
「近付かれたくないのですか?私たちまだ夫婦ですのに」
「そうではなくて」
既に夫婦でもまだ口付けすらしていない二人。
当然ながら寝室も別々で、唯一二人きりで話すのは寝る前に互いの寝室と繋がっているこの部屋で話すくらい。
夫婦というより兄妹のような距離感なのに二人きりの状況で抱き着かれては、シャルロットに好意がある甲斐性なしとしては色々な思いが巡って意識してしまう。
「だって旦那さま逃げますでしょう?」
「逃げないよ」
「本当に?」
「本当に。約束する」
返事を聞いて漸くロラは手を離す。
シャルロットの感情だろうそれで自分の胸がドキドキしているのを感じつつ。
「……どうかしたのか?痛い?」
自分の感情と関係なくドキドキしているのが奇妙な気分で胸元を押さえたロラを見て心配そうに聞く甲斐性なし。
「緊張しただけですわ」
「え、自分で抱き着いたのに」
「私にも予想外でした」
シャルロット嬢が命を絶ったのはこの人の所為。
この人が嫁いできた妻に顔すら見せず愛妾の居る別邸で暮らしていたから使用人も調子に乗ってシャルロット嬢を虐げた。
自分を虐げる生家から出られてもまた同じ状況になったシャルロット嬢は最終的に耐えられず命を絶ってしまった。
……と言いたいところだけれど。
「困りますわ」
「ん?」
「何が困るって、理解できなくはないことね」
誰かの所為にするのは簡単だけれどどちらの立場も分かる。
権威あるドラゴニュート公爵家の令嬢を自分が幸せに出来る自信がなかった甲斐性なしの気持ちも、甲斐性なしを慕っていたけれど限界になって命を絶ったシャルロットの気持ちも。
自分がその立場になれば同じことを考えるかも知れないし、同じことをするかも知れない。
実際にそれぞれの立場になってみなければ本当の苦しさや辛さは分からない。
どちらも相手のことを考えていたのは同じだったのにボタンを掛け違えた二人。
「はぁ……」
「シャルロット?」
「ただの独り言ですわ」
ロラには魂が見える。
だから甲斐性なしが性根から悪人ではないと分かっている。
この人もまさか自分が悩んで避けている間に女主人として迎えられたはずの妻が使用人から虐げられているとは思わなかったのだと分かるし、今もなおそのことを知らない。
全ては結果論。
この人が最初から避けず二人で誓約式を行ったところでシャルロット嬢を好きになった保証はない。
シャルロット嬢も自分を救ってくれた甲斐性なしから愛されないことに絶望して命を絶ったかも知れない。
あの時ああしていれば、あの時こうしていればと思えるのは、既に過ぎ去って結果が出ていることだから。
実際にそうなっていたら別の形で辛い思いをするだけで結果は変わらなかった可能性もある。
「大丈夫かい?様子がおかしいけど」
「私は元から考えごとをすると独り言の多くなる女ですの。旦那さまが少し悪い裏の顔を私に隠していたように私も隠していただけで。ですから私たちは嘘つきの似たもの同士ですわ。いえ、人はみんな同じと言った方が正しいかしら」
そう言ってロラはふふっと笑う。
「君は変わっている。それでも好きだよ」
ロラの頬に手を添えた甲斐性なしは苦笑すると口付けた。
胸が高鳴るのを感じるロラ。
同時に締め付けられるような胸の痛みも。
そうね、シャルロット嬢。
これがこの人との初めての口付け。
夫婦になって初めての。
・
・
・
「大丈夫かい?」
「痛かったですわ」
「それはごめん」
軽く謝りくすりと笑った甲斐性なしはベッドに俯せているロラ(シャルロット)の白い背中に口付ける。
「身体が小さい所為で気遣わせてごめんなさい」
「小さいも大きいも関係なく気遣うのが当然だよ」
「ふふ。紳士ですのね」
「本当にそう思ってる?」
「気遣いの心だけは」
今度は声を洩らして笑った甲斐性なしはチラリと振り返って自分を見ているロラの唇にちゅっと口付けた。
「ご当主に殺されてしまうかな」
「はい?」
枕やクッションを重ねてそれに凭れた自分の身体にロラを凭れさせた甲斐性なしの言葉にロラは首を傾げる。
「シャルロットを大切になさってるから怒るかなって」
「それはそれ。有り得ませんわ」
少なくともシャルロット嬢の肉体の時は。
私もシャルロット嬢の肉体の時は人妻だと常々言っているし、当主も『夫との間に継承者は作るな』と言って産み分け出来るよう自分の血を与えたくらいだから、夫婦として行為をすることは前提にして血を与えている。
そもそもの話、ヴァンピールに純潔を求めないかと。
色欲の特性を持つ種族だと知っているのだから。
甲斐性なしが言っているのは『大切にしている孫に手を出したから怒るかな』という意味でしょうけど、どちらにせよ怒らないし殺されないという返事は変わらない。
「終わったら後悔しましたの?」
「まさか。痛そうだったのは申し訳ないと思っているけど」
「旦那さまは充分気遣ってくださいましたわ」
シャルロット嬢は成長が遅れていて身体が小さいだけに、もう充分と思えるほど気遣ってくれても痛みを伴っただけで。
サイズの問題はさすがにどうにもならない。
初めて(シャルロット嬢の肉体では)だったから尚更。
「ごめん、シャルロット」
「ですから旦那さまは気遣って」
「そうじゃなくて」
「え?」
じゃあ何の謝罪?
身体を起こして甲斐性なしの方を向いたロラは首を傾げる。
「してしまったからもう離縁してあげられない」
「国王の子を懐妊しているかも知れない王家ならまだしも、貴族にそんな決まりごとはありませんわよ?」
「違うよ。今までは辛くとも離縁してあげることがシャルロットのためになるって考えが強かったのに、温もりを知った今はもう愛おし過ぎて離縁することを考えられなくなった」
ぎゅっと抱きしめて話す甲斐性なしにロラはそういう意味かと納得する。
「守護者で良いよ。生きて帰ってきてくれるのなら。別々の爵位を名乗っていても別々の屋敷に暮らしていても良いよ。時々こうして帰って来てくれるのなら。何人と成婚しても愛妾を作っても良いよ。私のことを忘れないでいてくれるのなら」
もう戻れない。
もう別れられない。
血に汚れた妻でも愛して抱きしめる覚悟はできた。
「好きだよ、シャルロット」
例え君が私を愛する日は来なくとも。
「旦那さま」
離縁して楽になる道でなく離縁せず苦しむ道を選んだのね。
逃げ道は用意されていたのに。
「私は貴方のものですわ」
シャルロット嬢が好きなのは貴方。
貴方はシャルロット嬢の夫でシャルロット嬢は貴方の妻。
それが事実。
「今度こそ私をしっかり愛してくださいませ」
「約束する。生涯君を愛すと誓うよ」
強く抱きしめられて胸が高鳴る。
これは紛れもないシャルロット嬢の感情。
想い慕う夫と漸く本当の夫婦になれたことの歓喜の感情。
そうね、シャルロット嬢。
本来ならばやり直しのできないことも、私が貴女に宿って肉体がある今ならボタンを掛け直すことができますわ。
貴方の好意という最も美しい欠片を持ったこの人と。
「旦那さま、好きよ」
「シャルロット」
夫の貴方が今度こそ逃げずにシャルロット嬢を愛すると言うのなら私も妻として貴方を大切にしましょう。
私のそれは愛ではなくとも大切にはできますもの。
ボタンを掛け違えた二つの魂が今ロラの存在で繋がった。
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