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第十六話「テロリストについて」
作戦開始
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横須賀基地を出航して一週間後。ミッドウェイ沖二十キロ、時刻は二十三時。空は雲一つなく、星空が満天に広がっていた。
その夜空の下、海上自衛隊所属、いずも型護衛艦は、波を弾きながら夜の海を進む。すでに島へと近寄れる距離としては限界であったが、Tk-7のオプション装備では、これ以上遠くへは移動できない。そのため、これだけぎりぎりの距離まで近づいていた。
もしも、敵に迎撃の備えがあったとしたら、大変危険な状況である。敵に何か動きがあったら、即座に転進しこの海域から離脱しなければならなかっがが、事前の調査通り、それらの心配は無用のようであった。
ミッドウェイ島に対して横腹を向けた所で、甲板に設置されているエレベータがせり上がった。その上には、水中推進用のオプションを取り付けたTkー7改が四機と、ちょうどAMWが一機入る大きさのコンテナが一つ鎮座している。
オプションをつけた四機とコンテナ一つが、飛行甲板に並ぶ。甲板要員は居ない。真っ暗闇の中、暗視装置を頼りにTkー7が甲板の端へと歩いて行く。
誘導のための人員がいないのは、万が一にもテロリスト側に作戦行動を行おうとしているのを察知されないようにという配慮と、今回のようなヘリ空母の運用は始めてで、何もかもが手探り状態なためであった。
水中行動用のオプション装備――胴体の両脇に括り付けられた酸素ポンプと、前後から挟むように取り付けられた高圧ジェット推進装置。それとバラストからなる水中用装備。これらが実際の作戦で使用されるのは、今回が初めてとなる。
本来、陸上兵器であるAMWはこれだけの装備を施しても、水中を三十キロメートルも進めないし、潜れる深度も数十メートルが限界である。
万が一にも、甲板で転んで変な体勢から水没したら事である。僅かに揺れる甲板の上を八メートルの人型が一歩進む毎に、艦橋内の全員に緊張が走った。
彼らの心配も他所に、全機が何事もなく甲板の縁へ辿り着いて、艦橋に向けて敬礼した。艦橋の中でほっと胸を撫で下ろした艦長らクルーも返礼する。そして、Tkー7各機と一基のコンテナは、スキューバダイビングのように、順番に夜の海へと降りて行った。
小さな抵抗感、それもすぐに無くなり、機体はゆっくりと静かに潜って行く。着水して波を掻き分け、数トンもある機体が水中へと没して行く。くぐもった音と海流が機体にぶつかる音。
機体の暗視センサー越しに、深緑色の海がやや不鮮明に、それでも照明を付けられない中では何もなしよりはずっと良い視界の中を、コンテナを曳航しながら深度二十メートル程まで沈む。そこでバラストを調整、水中推進の姿勢に移った。
『各機、最短距離で持ち場へ移動するぞ。酸素は往復分だからな、少しでも余裕を持たせておく』
先行する安久の声に、残りの三人が「了解」と返すと、ジェットの推力を上げて、護衛艦から離れるように進路を取る。
護衛艦の方も、万が一に備えて一度島を離れるように進路を変えてその場を離れた。次に合流するのは最速で一時間半後だ。それまでは何があっても撤退できないし、逆に二時間以上は待ってくれないことになっている。
中々にハードな条件だが、ここは敵の制圧圏内である。こうして潜入作戦を執り行うこと自体、無謀に等しいのだ。それでも、危険を侵して海を突き進む。ただ一人の同僚を救い出すために。
三十分ほど泳ぐと、眼下に海底の岩肌がぼんやりと見えてきた。陸地がそれだけ近付いているということだ。そろそろ、敵の警戒網が敷いてあってもおかしくはない距離に入る。安久、志度、心視が警戒度を引き上げた。
『それにしても、一週間近く敵地で大人しくしてるなんて、比乃ちゃんもまだまだねぇ』
宇佐美は続けて「私だったら棒切れ一本で基地制圧チャレンジとかやっちゃうわね、百人斬りやってもいいかも」と冗談っぽく言う。冗談っぽく言ったのだが、そうは聞こえず、志度と心視は沈黙する。安久はため息をついた。
『あら、面白くなかった?』
『面白いも何も、貴様の場合は冗談に聞こえんのだ……!』
『流石にそこまで野蛮人じゃないわよ、やるにしても百人斬りとかじゃなくて、ちょっと偉い人の指を一、二本……』
『野蛮人ではないか! もう敵地なのだから、真面目にやれ!』
安久に怒られたが『私はいつだって真面目よー』と、器用にくるりとロールして見せる宇佐美機。『ふざけるのも大概にしろ!』と怒鳴る安久の、この状況下にも関わらずあまりにもいつも通りのやり取りを聞いて、志度と心視は思わず吹き出してしまった。
『あ、やっと笑った』
「笑わせるために……やってたの?」
『そういうわけではないが、お前たち二人はここ数日、ずっと思い詰め過ぎていたからな。責任を感じるのは大いに結構だが、そんなことでは成功する作戦も成功しない。正直に言えば、心配すらしていたぞ』
『それは、手間をお掛けしました。もう大丈夫です』
『日比野ちゃんもそうだけど、志度ちゃんも心視ちゃんも、もうちょっと大人にならなくちゃねー』
「大人……?」
首を傾げた心視に、モニターの向こうで宇佐美はにっと笑った。
『どんな任務でも、どんな状況でもゆとりを持つ、大人の余裕って奴よ』
『そんなもの持てるのは貴様くらいだろうが……適度の緊張感という物もないのか』
またもや口論を始めた二人を回線から切り離し、心視は志度に直通回線を繋げる。
「絶対……助け出そうね」
『おう、汚名返上名誉挽回してやろうぜ』
モニター越しにサムズアップして見せた志度に、心視も珍しく、同じようにやる気を示して見せた。
『Teacher1より各機へ、予定地点まで残り五〇〇。ここで二手に別れる、いいな?』
安久が、この人員で使われるネームでそう告げる。ここから先は、敵格納庫付近へと強襲を掛ける安久、宇佐美組と、施設を制圧して比乃を捜索、救出し、コンテナの中身を開封する志度、心視組に別れて行動する。
『Teacher2、了解!』
『Child2、了解!!』
『Child3……了解』
全員が応答し、二機ずつ、それとコンテナを曳航する組になって目的地点へと散開していった。
その夜空の下、海上自衛隊所属、いずも型護衛艦は、波を弾きながら夜の海を進む。すでに島へと近寄れる距離としては限界であったが、Tk-7のオプション装備では、これ以上遠くへは移動できない。そのため、これだけぎりぎりの距離まで近づいていた。
もしも、敵に迎撃の備えがあったとしたら、大変危険な状況である。敵に何か動きがあったら、即座に転進しこの海域から離脱しなければならなかっがが、事前の調査通り、それらの心配は無用のようであった。
ミッドウェイ島に対して横腹を向けた所で、甲板に設置されているエレベータがせり上がった。その上には、水中推進用のオプションを取り付けたTkー7改が四機と、ちょうどAMWが一機入る大きさのコンテナが一つ鎮座している。
オプションをつけた四機とコンテナ一つが、飛行甲板に並ぶ。甲板要員は居ない。真っ暗闇の中、暗視装置を頼りにTkー7が甲板の端へと歩いて行く。
誘導のための人員がいないのは、万が一にもテロリスト側に作戦行動を行おうとしているのを察知されないようにという配慮と、今回のようなヘリ空母の運用は始めてで、何もかもが手探り状態なためであった。
水中行動用のオプション装備――胴体の両脇に括り付けられた酸素ポンプと、前後から挟むように取り付けられた高圧ジェット推進装置。それとバラストからなる水中用装備。これらが実際の作戦で使用されるのは、今回が初めてとなる。
本来、陸上兵器であるAMWはこれだけの装備を施しても、水中を三十キロメートルも進めないし、潜れる深度も数十メートルが限界である。
万が一にも、甲板で転んで変な体勢から水没したら事である。僅かに揺れる甲板の上を八メートルの人型が一歩進む毎に、艦橋内の全員に緊張が走った。
彼らの心配も他所に、全機が何事もなく甲板の縁へ辿り着いて、艦橋に向けて敬礼した。艦橋の中でほっと胸を撫で下ろした艦長らクルーも返礼する。そして、Tkー7各機と一基のコンテナは、スキューバダイビングのように、順番に夜の海へと降りて行った。
小さな抵抗感、それもすぐに無くなり、機体はゆっくりと静かに潜って行く。着水して波を掻き分け、数トンもある機体が水中へと没して行く。くぐもった音と海流が機体にぶつかる音。
機体の暗視センサー越しに、深緑色の海がやや不鮮明に、それでも照明を付けられない中では何もなしよりはずっと良い視界の中を、コンテナを曳航しながら深度二十メートル程まで沈む。そこでバラストを調整、水中推進の姿勢に移った。
『各機、最短距離で持ち場へ移動するぞ。酸素は往復分だからな、少しでも余裕を持たせておく』
先行する安久の声に、残りの三人が「了解」と返すと、ジェットの推力を上げて、護衛艦から離れるように進路を取る。
護衛艦の方も、万が一に備えて一度島を離れるように進路を変えてその場を離れた。次に合流するのは最速で一時間半後だ。それまでは何があっても撤退できないし、逆に二時間以上は待ってくれないことになっている。
中々にハードな条件だが、ここは敵の制圧圏内である。こうして潜入作戦を執り行うこと自体、無謀に等しいのだ。それでも、危険を侵して海を突き進む。ただ一人の同僚を救い出すために。
三十分ほど泳ぐと、眼下に海底の岩肌がぼんやりと見えてきた。陸地がそれだけ近付いているということだ。そろそろ、敵の警戒網が敷いてあってもおかしくはない距離に入る。安久、志度、心視が警戒度を引き上げた。
『それにしても、一週間近く敵地で大人しくしてるなんて、比乃ちゃんもまだまだねぇ』
宇佐美は続けて「私だったら棒切れ一本で基地制圧チャレンジとかやっちゃうわね、百人斬りやってもいいかも」と冗談っぽく言う。冗談っぽく言ったのだが、そうは聞こえず、志度と心視は沈黙する。安久はため息をついた。
『あら、面白くなかった?』
『面白いも何も、貴様の場合は冗談に聞こえんのだ……!』
『流石にそこまで野蛮人じゃないわよ、やるにしても百人斬りとかじゃなくて、ちょっと偉い人の指を一、二本……』
『野蛮人ではないか! もう敵地なのだから、真面目にやれ!』
安久に怒られたが『私はいつだって真面目よー』と、器用にくるりとロールして見せる宇佐美機。『ふざけるのも大概にしろ!』と怒鳴る安久の、この状況下にも関わらずあまりにもいつも通りのやり取りを聞いて、志度と心視は思わず吹き出してしまった。
『あ、やっと笑った』
「笑わせるために……やってたの?」
『そういうわけではないが、お前たち二人はここ数日、ずっと思い詰め過ぎていたからな。責任を感じるのは大いに結構だが、そんなことでは成功する作戦も成功しない。正直に言えば、心配すらしていたぞ』
『それは、手間をお掛けしました。もう大丈夫です』
『日比野ちゃんもそうだけど、志度ちゃんも心視ちゃんも、もうちょっと大人にならなくちゃねー』
「大人……?」
首を傾げた心視に、モニターの向こうで宇佐美はにっと笑った。
『どんな任務でも、どんな状況でもゆとりを持つ、大人の余裕って奴よ』
『そんなもの持てるのは貴様くらいだろうが……適度の緊張感という物もないのか』
またもや口論を始めた二人を回線から切り離し、心視は志度に直通回線を繋げる。
「絶対……助け出そうね」
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モニター越しにサムズアップして見せた志度に、心視も珍しく、同じようにやる気を示して見せた。
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