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第二十三話「最新鋭機とその適正について」

新たなAMW

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 稼働中の工場と、すでにその機能を停止させている廃工場が入り混じった工業地帯。その中の廃工場に偽装された稼働中の工場の一つ。

 建ち並ぶ灰色、ねずみ色の工場群の中でも、偽装したにも関わらず一際大きく目立つ建物は、一応、周囲の工場群にその姿を紛れ込ませていた。

 その一画で、先日、博士と呼ばれていた初老の男性、楠木と、黒い背広が場違いに見える一団が居た。背広の男達の先頭に立っている男性は、恰幅が良いが背も高く、どこか厳つい、肩で風を切るような風格があった。

 衆議院委員、越前 竜舞エチゼン リュウマ。齢五十にして、未だに若手とも張り合える地元からの厚い支持と、卓越した交渉能力と絶妙なバランス感覚の持ち主で、与党内でも一目置かれている人物であった。今の日本における対テロ防衛論にも強い。日本の盾の一人として、広くその名は知られて居た。

 その隣で、まるで取って置きのプレゼントを子供に見せる直前の親のように、今も楽しそうに笑みを浮かべている楠木博士。対して、厳つい顔を崩さない越前議員。色々と対照的なイメージの二人は、挨拶もそこそこに、工場の中へと入って行った。

「こちら、こちらです」

 楠木に案内され、越前議員とその連れ、秘書らは工場の奥へと向かう。頭には、入り口で作業員から借りたヘルメットを被っていた。一見すると、全く厳重に見えないが、よく見れば、必ず見張り役の警備員──に偽装した自衛官が立っている扉をいくつか通った先に、それは立って居た。

「ほう……こいつが」

 越前議員が思わず唸り声をあげた。そこにあったのは、一機のAMWだった。

 これまでの日本国産機に比べると、全体的に丸っこい印象を受ける、俊敏さと力強さを両立して備えていうな、スリムな造形。その色はミルクをぶちまけたような純白で、ヒロイックなデザインの頭部だけが、緑のツインアイを灯している。背中に一対、羽のように生えた、丸い円筒型のユニットとその塗装が相まって、その姿はまるで、機械で再現された天使のように見えた。

「これは……」
「趣味の世界ですな……」
「本当に兵器なのですかこれは……」

 議員の連れである背広たちが、口々に感想を述べる。確かに、それは兵器というには余りにもアニメチックなデザインをしていた。不安や疑問の声も、もっともだろう。しかし、楠木博士から、事前にその性能を聞かされていた越前議員だけは、これが紛れも無い戦闘兵器であることを理解していた。

 日本で二番目のフォトン動力搭載機。苦い失敗からこけてしまったTkー9の量産化に対する国の焦りから、秘密裏に計画され、予算を度外視して生まれた。世間の目にも触れられず、一部の国防に関わる議員しか知らない怪物──

「これが私の最高、最高傑作。第一開発班の堅物共が作った、醜いTkー10を超える物……Tkー11、“ネメスィ”でございます……ようやく、ようやくここまで仕上がりました」

 感慨深く言って、道化っぽく礼をしてみせる楠木博士。ネメスィ、ギリシャ語で神罰を意味する言葉だ。正に、日本に仇なす者に罰を与える者。越前議員は思わず「素晴らしいな」と言葉を零していた。

「私も、AMWの知識は多少なりにはあるが、それでも、この機体が規格外の物であるということがわかる」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

「し、しかし楠木博士、これは正規の生産ラインに乗せられる物なのですか?」

「そうです。量産も視野に入れなければ、計画は頓挫せざるを得ない……」

 連れの一人、若い議員が当然の疑問を博士にぶつける。問われた博士は「正規のライン? 生産?」と何を聞かれたのかよく分からない様子で、少し呆けてから

「議員さん方はせっかちで、せっかちでおられる」

「な、なんですと」

「これはあくまで試作、試作品……こちらに出された要求性能を現実にし、データを取るための、言わば超過品……!  もう少し、もう少しお待ち頂ければ、量産型もしっかり用意して差し上げる、差し上げる……!」

 その言葉を聞いて、議員らはほっとした様に胸をなで下ろす。国家予算で量産も出来ない趣味の兵器を作られたとなっては、関係した自分たちの首が幾らあっても足りない。

「それよりも大切、大切なのは、この機体の性能を実証し、生産まで漕ぎ着けること、違いますかな?」

 博士に逆に問われ、議員らは確かにと頷いた。紙面上のスペックがどれだけよくても、実際にテスト運用してその実用性が証明されなければ、とても生産などできない。量産が期待されていたTkー9も、実戦において欠点が露呈して、その計画が頓挫してしまったのだ。

「しかしだ、楠木博士。テストと言っても、この機体に要求されたパイロットの条件は余りにも……」

 ここに来て、越前議員が初めて顔を顰める。事前に渡されていた資料にあったテストパイロットの条件は、現実的ではなかった。身長百六十センチ以下、受信地指数八十以上。その上で、実用試験をこなせるだけの素質と経験、知識を持つ人材。そんな自衛官は、早々いない。

 だが、楠木博士は「議員方も知らないとは、日野部君も口が硬い、硬い」とくっくっと笑った。日野部と聞いた議員達が騒つく。その名前は、衆議院員の間でも余りにも有名で、同時に悪名高くもあった。

「まさか……日野部一佐が、その人材を?」

「そう、いた、いたのですよ。これにぴたりと当てはまる。取って置きの逸材が……齢にして十八歳、しかし実戦経験と操縦経験は成人自衛官と匹敵するか、それ以上、それ以上の能力を持った。正に運命とも言える存在が!」

 白衣を翻して興奮気味に叫ぶ博士が、白衣のポケットから丸めていた書類を取り出して差し出す。比乃と、その相方である志度、心視の機士としての情報が記されていた。それを受け取った越前議員は、内容に目を通してむぅと唸り、冷や汗を流した。確かに、記載されている情報から、彼ら彼女らが優秀であることはわかる。わかるが、

「十八歳?!」
「まだ子供ではないか」
「そんな自衛官の存在が、何故認められて……」
「日野部一佐だからだろう……彼ならばどんな手でも使いかねん……」

 博士の言葉に動揺を隠せない議員の連れたちが一層騒ぐが、それも「日野部だから」の一言で静まっていく。それを片方は愉快そうに、もう片方は不愉快そうに見ていた。書類を一通り読んで、博士に返した越前議員が、Tkー11、ネメスィを見上げる。

「博士、私はこの計画に議員人生を賭けている……それだけの価値が、この機体にあるかね」

 聞かれた博士は、満面の笑みで答えた。

「存分に、存分に有ります。私の最高傑作ですから」
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