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第二十三話「最新鋭機とその適正について」

無自覚の邂逅

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 明るい照明に、響き渡る盛大な音楽。それにそこかしこにいる、ゲーマーやスタッフの騒めき立つ声。それらが交わった独特の喧騒。どこのゲームセンターも、似たようなものだなと、比乃は感じた。

「あんまり、こういう騒がしい所は得意じゃないんだけどなぁ……」

 もう少し静かにならないものか、などと漏らす比乃。対照的にわくわくした様子を隠していない、連れである志度と心視は、東京郊外にあるゲームセンターにやってきていた。その目的は、少し前に二人がはまったゲームである。

「おーい比乃、予約入れてきたぞぉ」

「十人待ち……だって」

「大人気だね、このゲーム」

 大型のゲーム筐体の脇にあったフリップボードに、三人分の名前を書き込んだ二人が、立ち並ぶ客の隙間を縫って比乃の下まで戻ってくる。富山駐屯地にいる間、幾度も立ち寄ったショッピングモールにあったゲーム“AMW”をプレイしに来たのだ。

 すっかりそのゲームを気に入り、密かに東京にもこれを置いたゲームセンターがあることを調べていた二人が、比乃に強請るに強請って、休日に連れてきて貰った。まるで引率の親になった気分の比乃は、やれやれと思いつつも、今回の外出には案外、乗り気だった。

 本物のシミュレータ代わりの良い練習になるし、何より、ここ数日はTkー7改二のテストに出突っ張りで、中々アパートに戻れないでいた。なので、たまには三人で遊ぶのも悪くないと思ったのだ。

「それじゃあ待ってる間に何かしてようか……クレーンゲームなんてどう?」

 比乃の提案に、二人は「クレーンゲーム!」と目を輝かせた。二人ともその存在は知っていたが、実際にやったことは、生まれてこの方ないのだ。興味津々である。

 提案は受け入れられたので、比乃は近くにあった適当なクレーンゲームを覗き込む。景品はお菓子類のようで、それが大きめの箱に収まって並べられている。側から見れば簡単そうに思えたので、早速そのゲーム筐体にコインを投入し、ボタン二つを使って操作する。

 下に伸びたクレーンは、見事に景品をキャッチしたように見えた。が、アームは空箱を引っ掻いただけで、滑って空振りしてしまった。どうも、アームの力が弱いらしい。どうにか工夫しないと、上手く掴めないように出来ているようだった。

 それから、選手交代した心視と志度も、そもそも景品にアームが届かなかったり、虚しく空を切ったりと散々の結果であった。ムキになった三人は、更に千円分程プレイしたが、三人揃って成果はゼロ。いい加減、諦めようと比乃が二人に提案しようとした、その時。

「下手くそだな、おめーら」

 不躾にそう声をかけられて、三人は振り向いた。そこには、派手な様相の少年が立っていた。

 その少年、高校生くらいだろうか、見る方に柄の悪そうな着崩した服装で、髪はなんと緑色に染めていた。明らかに普通ではないその高校生に、比乃は少し警戒の視線を向ける。しかし、相手は気にした様子も見せない。

「見てらんねーよ、ほれ、どいてな」

 そう言うと、比乃を横にずいっと押し退けて、コインを投入してゲームを初めてしまう。

「こういうのはよ、クレーンを弱くしてあんだよ。だから──」

 緑髪の少年はクレーンを巧みに操作すると、景品についているタグに上手くクレーンの先端を引っ掛けると、そのまま持ち上げて、景品受け取り口まで運んでしまった。余りの手際の良さに、三人は思わず「おおっ」と感嘆の声をあげて、志度と心視は拍手までした。景品を取り出した少年は、席から退いて、やってみろ、と椅子に座るように手で促す。

「ほれ、やってみな」

「あ、はい」

 催促されて、比乃は思わず返事をして席に着き、コインを投入。横から入る「もうちょい右だ、そうだそこだ」「そこでアーム下げろ」という言葉に従ってクレーンを操作すると、先程、緑髪の少年がやったように、アームがタグに引っ掛かり、見事に景品を手に入れることができた。

「おお、これは凄い……」

「おめー飲み込みはぇーな、見どころあるぜ中坊。ただ、あんまこのやり方してると店員に目つけられっから、程々にな」

 比乃がえ「えっ、中坊?」と首を傾げたが、それに気付く前に少年は「じゃーな」と言ってさっさと立ち去ってしまった。比乃達は手にした景品とその背中を見比べる。

「人って、見掛けによらないものだなぁ」

「ほんとにな」

「見た目で判断するの……良くない?」

 そう口々に呟いたりした。この後、三人は身につけたクレーンゲームの技術を遺憾なく発揮して、景品を取りまくり、先程の少年の心配通りに、店員に目を付けられたのだった。

 ***

「遅いですよ緑川さん、何してたんですか」

「ちょっとトイレ行くにしては長かったな」

 そういうのは、黒い髪を腰まで伸ばした、大和撫子と言わんばかりの美少女だった。その隣には、地味目な格好をした少年が立っていた。二人に文句を言われた緑髪の少年──緑川は「へいへい、わるぅござんした」と適当に流して、

「ちょっとゲームが下手くそな中坊が困っててよ、ちょっとお節介焼いてたわけ」

 緑川がヘラヘラした顔でそう言うと、二人は目を丸くして驚いた様子を見せた。

「人に親切するなんて……緑川らしくない」

「ほんと、緑川さんらしくないですね」

 二人から遠回しに散々な評価をされた緑川は、二人を睨みつける。

「白鴎、紫野、てめぇら……」

 拳をぷるぷる震わせて怒り始めた緑川を尻目に、紫野と呼ばれた少女が二人の手を取って、ぐいぐい引っ張った。

「それより早く行きましょう、今日は白鴎さんの怪我が完治した記念日なんですから!」

「ちょっと待ってくれって、まだ松葉杖取れてあんま経ってないんだから……!」

「紫野ぉ、おめぇちょっとは落ち着けねぇのか?」

 二人は少女に手を引かれながら、ゲームセンターに併設された映画館の方へと歩いて行った。
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