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第三十九話「再びの帰郷とそのおまけについて」

格納庫見学

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 宇佐美の口から、このやり取りは部隊長が親っぽい事をやりたいという我儘によって行われた茶番だと言う事実を聞いて、比乃を含めた高校生達はがっくりした。
 件の部隊長は、それでも満足そうに、威厳たっぷりだった態度を崩して「で、土産は?  東京バナナは?」などと言って、比乃は「そんな物、用意する暇がありませんでしたよ」と冷たく返した。

 そうして、部隊長企画、主演の茶番劇を終えて、再び宇佐美に連れられた一行は、今度はAMW格納庫へとやって来ていた。
 広大な倉庫に、鋼鉄の巨人達がずらりと並んで首を垂れているその様は、晃達を感嘆とさせるには十分な迫力があった。

 観光客四人が「おーすげー」と歓声をあげているのを尻目に、比乃は基地に来た時から疑問に思っていたことを宇佐美に聞いた。

「そういえば、剛はどうしたんです宇佐美さん」

 安久と宇佐美は同じ小隊、同じ分隊の言わばパートナーである。二人一緒なのが常なので、その片割れがいないことに違和感を覚えたのだ。聞かれた宇佐美は「出動中なのよ、あの人」と口を尖らせて答えた。
 相方、つまり弄る相手がいない事が、なんだかんだ不満なのである。

「今日は筋肉コンビと一緒のシフトなの剛は、日比野ちゃん達が来る前に出撃したんだけど、そろそろ戻ってくるんじゃないかしら……噂をすれば」

 言いながら、宇佐美が手で、間近でTkー7を見ようとしていた晃達に下がるように促す。それと同時に、巨大な機械の足音が複数聞こえて来た。
 そちらを見れば、ちょうど格納庫の入り口が開かれ、三機のTKー7改が踏み入って来た所だった。

 こちらに重い足音を立てながら近付いてくる鋼鉄の巨人に、晃が感激した様子で拳を震わせる。

「すげぇ、稼働状態のAMWをこんな近くで見れるなんて、最初はどうなることかと思ったけど、来て良かった……」

「晃は案外そういうの好きなんだな、ちょっと意外だぜ」

「いいか志度、ロボットは男の子の味なんだ。男子にとって大事なことだから、よく覚えておけよ」

「……味?  それって、美味しい、の?」

「心視にはちょっとわからないかもしれんな。所謂“男のロマン”という物だ」

 晃が力説し、志度と心視が首を傾げ、紫蘭が補足している間に、三機の内の先頭を歩いていたTkー7改が、比乃達のすぐ近くまで来て止まった。その外部スピーカーから、久しぶりに聞く男性の声が響く。

『宇佐美、一般人を稼働機がいる格納庫に入れるのはどうかと思うのだが?』

 安久 剛一等陸尉、比乃達の上官の片割れである。後ろの二機に先に行けと手振りで指示してから、剛機は足元の宇佐美に詰問するように屈む。

 それに対し、宇佐美は怯む様子もなく、むしろTkー7改のカメラを睨み返すように、腰に手をやって堂々とした態度を取った。

「だーいじょうぶよ。しっかり部隊長の許可は取ったから、もーまんたいもーまんたい」

『許可を取った取らないの話ではなくだな。俺は安全面や機密の面で問題があるのではと……』

「それとも何よ、日比野ちゃんのお友達を歓迎するのが嫌だっていうの剛は?  冷たいわねーこの冷血漢!」

『そういうわけではない!  まったく……今そちらに行くから待っていろ』

 機体越しではなく直接話した方が良いと判断した安久は、機体の上半身を起こすと、指定の場所、そこからAMWで数歩ほど歩いた空きスペースに機体を持っていくと、駐機姿勢を取らせた。
 そしてTkー7改の頭部がスライドすると、開いたハッチから筋肉質の男、剛が出てきて、手慣れた動きで地面に降り立った。

 頭のヘッドギアを取ると、それを手に持ったまま比乃の方に大股で歩いて来る。
 その顔には、どこか不機嫌なような、しかしそうなりきれないような、何とも微妙な表情を浮かべていた。

 安久は押し黙ったまま、ずんずんと宇佐美の前まで歩いて行き、比乃や晃達が無言で見守る中、口を開いた。

「……では宇佐美、彼ら民間人をここに入れた理由。懇切丁寧に説明して貰おうか」

「日比野ちゃんの友達だから、いじょ」

 宇佐美のあまりにも簡潔な説明に、安久はこめかみをひくつかせ、次の瞬間、

「今節丁寧にと言っただろうが!  比乃の友人だからと言って、機密事項だらけの区画に民間人を入れて良い訳があるか!」

 早口で怒鳴り声をあげた。目の前で怒鳴られた宇佐美は、うるさそうに耳を塞いで「はいはい私が悪うございました」と反省ゼロの謝罪をし、更に安久が激昂して「貴様はいつもいつも!」と常套句を述べてから説教を始めようとした。

 そこに、比乃が割って入った。

「ちょっと落ち着いてよ剛、僕の友達の前なんだから。これ以上身内の恥を晒さないで」

「む、すまん……これ以上とは、執務室で何かあったのか?」

 どうやら、自分達が部隊長と面談することまでしか知らない安久に、比乃が事のあらましを説明する。
 説明を聞いた安久は額に手をやって「あの人は……」と嘆くように天を仰いだ。

 その姿勢で数秒、ぶつくさと何か悪態をついてから、安久は顔を晃達に向けた。

「それで、彼らが比乃の友人か」

「うん、僕の学友だよ、と言ってもメアリとアイヴィー以外の二人は初めてだよね自己紹介して貰おうか?」

「いや、お前の報告書と、近辺調査で顔と名前は知っている。とは言った物の、一般市民と言えるのは有明君しかいないがな」

「あら、紫蘭さんのことまでご存知なのですね。それも調査の結果ということですか?」

 メアリが意外だとでも言いたげな口調で尋ねると、安久は「勿論です。メアリー殿下」と口調を丁寧にして返答した。

「貴女の事やそのご友人であるヴィッカース嬢、それに財閥の令嬢である森羅嬢についてまで、我々、日比野に関わる隊員は常に最新の情報を把握しているつもりです。無論、有明君のこともです」

 堂々と個人情報を握っていると言ってのけた安久に、宇佐美が横から軽く肘鉄を入れた。

「お馬鹿、そこまで正直に話してどうするのよ。無駄に警戒されたら元も子もないでしょ」

「いや、しかしメアリー殿下にまで偽りの情報を差し出すのはだな……」

「ふふ、構いませんよ宇佐美さん。それと安久さん。ここで殿下は辞めてください。私はあくまでメアリ・アレキサンダとして日本にいるのですから」

「……そう仰られるなら、メアリさん。自分もそのつもりで話させていただく」

「あら、適応力が高いのですね、うちのジャックとは大違い」

「ジャックはそういう切り替え下手だもんね」

 今頃、護衛に付いて行けずに歯噛みしているであろう自分達の護衛のことを思い出して、メアリとアイヴィーはくすくす笑い合った。その後ろで、晃が紫蘭の肩をつついて、神妙な面持ちである事を尋ねていた。

「な、なぁ紫蘭……もしかしなくても、俺の友人って凄いのばっかりじゃないか?  王女様に国防企業の令嬢に、凄腕の機動兵器乗りって、普通じゃ中々知り合えないぜ……」

「……その中に何故、森羅財閥の令嬢であるこの私が入っていないかは置いておくのだ……そうだな、確かに晃のような庶民にしては、非常にバリエーションに富んだ交友関係だな」

「だよなぁ……これって、恵まれてるのか、俺」

「交友関係に恵まれるというのは、良い事も悪い事もそれだけ多く運ばれてくるということだ。晃も将来森羅財閥を継ぐのだから、その辺りをしっかり意識しておいた方が良いぞ」

「ああ、そうだな……って、いや継がねぇよ?!」

 さらっと自分の将来を勝手に決められかけた晃が、同意しかけ慌てて否定する。紫蘭は舌打ちをして、

「惜しい……あと少しで言質が取れる所だったのに……」

 と、懐から取り出した機材を操作して停止させた。ボイスレコーダーであった。

「……私の前で勝手に晃さんといちゃつくなんて、度胸がありますね森羅さん」

 そこへ笑みを浮かべたまま怒気を放っているメアリが割って入り、三人がわーきゃーと言い争いを始めた。
 自分の同僚を前にしても、普段と全く変わらないやり取りをし始めた友人達を前に、比乃は溜息を吐いた。

「俺は何を見せられているんだ。比乃、説明しろ」

「……友人の恥、かな」

「場所を選ばず修羅場れる心意気は買うけど、もうちょっとこっちにも興味を示して欲しいわよねぇ」
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