種の期限

ながい としゆき

文字の大きさ
10 / 23
四日目

しおりを挟む
 政府の思惑も長くは続かなかった。神々の次の動きにより、巷にも指導者や預言者が姿を現し、創造主の決定を民に伝えるようになったからである。
「スタジオの皆さん、私は今、奈良県橿原市大久保町にある神武天皇陵の前に来ています。普段は観光客も少なく、静かで厳かな雰囲気が漂うところなんですが、今日は多くの人でにぎわっています。と言うのも、実は、一昨日ここでとっても不思議なことが起こったからなんです」
各局の報道機関が中継するため、リポーターをはじめとする取材班が押しかけて来ており、神武天皇陵の神々しさを損なってしまっている。
「一昨日の十五時頃、神武天皇陵の鳥居の中から古代の髪型や服装をした男の人が出てきたんです。当時観光に来ていた方は二十名ほどだったんですが、その中の数人が彼の周りに集まってくると、『余は神武天皇である』と名乗られたそうです。そして、『地球を救うために一種族の犠牲が必要になったので、絶滅する一種族を決めよ』と告げた後、その場で忽然と消えてしまったとのことでした。当時ここに居た全員が目撃していますし、その中の数人は動画を撮影しており、SNS等にアップしています。では、当時の映像をご覧ください」
 動画は白い古代の服を着て髪を角髪(みずら)に結い、鼻の下と顎の髭を伸ばした男性が鳥居をくぐり、柵を通り抜けて陵墓の前に現れた。やや小柄だがたくましい体つきの男性で、太く落ち着いた声をしている。そして天之御中主神様の御心を告げに来たと話し、その後一瞬で画面から姿が消えてしまった。
 画面が切り替わり、レポーターの女性のアップが映し出された。
「それでは、この動画を撮影された木下さんにお越しいただいているので、お話しを伺おうと思います。木下さん、当時のようすをお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
画面には四十代と思われる男性が緊張した面持ちでマイクを向けられている。
「はい、私も歴史が好きで神武天皇陵には良く来るんですが、こんな体験をしたのは初めてで、何と言って良いか・・・。最初は誰かのイタズラじゃないかと思ったんですけど、鳥居の柵を乗り越えたんじゃなくて、何もないかのように通り抜けてきましたからね」
「木下さんは何で動画を撮っていたんですか?」
「はい、最近SNSを始めたもんですから、それに投稿するためにカメラを向けていたんです。そしたら、間もなく鳥居の奥から人が歩いてきたんです。だから撮影できたのは全くの偶然なんです。しかも消えるところまで撮れていたんで本当にラッキーでした」
「イタズラじゃないと思ったのは、どうしてですか?」
「いやぁ、正直言うと、実は今でも半信半疑ではあるんです。もう一度お会いできるかもしれないって思いながら、その後も続けてここに来ていますけど、あの日以来会えていませんからね。でも、世界の色んな所でイエスだったりマホメットだったりが目撃されているって聞いたので、自分が会ったのもそうなんじゃないかって思ったんです」
「CGじゃないかって声もありますが」
「いや、これははっきりと言えることなんですが、決してCGなんかではありませんでした。映像を見てもらったらわかるように、神武天皇が消える前に私の手を取られて『皆にもしかと告げよ』とおっしゃられたんですから。その感触とぬくもりは今でもはっきりと覚えています。神に誓ってすべて実際にあったことです。嘘なんかじゃありません、当時ここにいた人全員がお会いしているんですから」
「はい、木下さんお忙しい中大変ありがとうございました。現場からは以上です」
 画面が再び切り替わり、スタジオが映し出された。
「皆さん、この動画どう思います?信じられるぅ?」
司会者が嘲笑を浮かべながら男性のお笑い芸人に話しかけた。
「いゃあ~、でも、この人のこと、そこにいた人たち全員が目撃しているんでしょう?映像にもハッキリと残っていますからねぇ。集団催眠とか気のせいっていうモノでもないしねぇ・・・。し、信じないわけにはいかないんじゃないですか?」
困惑の表情を浮かべながらコメントしているが、いつものような笑いには持っていけないでいる。
「コスプレ好きの人のいたずらでもないですよね。みんなの前で消えちゃったんですから。それに、鳥居の下から出て来る時、そうそう、そこの場面、閉じている柵を通り抜けていますよね。って言うことは、実態がないってことなんじゃないですか?CGとか」
隣に座っている女優も続けてコメントする。
「そう、そうなんだよね。柵がないかのようにすり抜けちゃってるんだよね。これ、イタズラ映像っていうやつじゃないの?合成とか編集とかしたりしてさ。だったらすり抜けも突然消えちゃうのも説明つくよね。えっ、本物?じゃあ、何かイリュージョンみたいなやつとか?それとも最新のCGとかってこんなこともできちゃうの?」
「でも、登場から消えちゃうまでしっかり撮れているってさぁ、何かちょっと都合よすぎない?」
「でも、あの人絶対素人さんでしょ。カメラとかにもそんなに詳しそうな感じもしなかったし・・・」
コメンテーターも返答に困っているようすがテレビに映っている。誰も口を開く者がおらず、しばらく沈黙の場面が続く。
「えっ、じゃあ、みんなは神様って本当にいると思ってんの?」
司会者の苦しいフリに
「そういうわけじゃなくて、今まで神様なんて考えたことなんてないから・・・。いやぁ~、こういう時のコメントってホント困りますね」
誰もが苦笑いをしながら司会者のタレントと目を合わせないようにしている。
 首相官邸の執務室でテレビを観ていた総理大臣はフンと鼻を鳴らし、渋い表情をしながらリモコンで別のチャンネルボタンを押した。
 次のチャンネルでは青い空と青や金色をしたモスクを背景にして男性のレポーターが立っていた。
「私はイスラエルにある都市、エルサレムの旧市街地に来ています。ここはユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地になっているところです。そして、この教会が、一昨日の午前九時頃にイエスが再降臨し、絶滅する一種族を決めよと唱えられたとされる場所です。とても信じられないことですが、当時、多くの市民や観光客が訪れていたこともあり、目撃された人々の中には携帯で動画を撮り、SNS等に投稿する人もいます。また、イエスだけではなく、モーセやムハンマド、日本ではマホメットと言った方が親しみあるかもしれませんが、それぞれのゆかりのある場所に現れ、エルサレムは『いよいよ世界の終わり、終末が来た!』とのうわさが各信者の間で拡がり、一時は警察や軍が出るほどの大変な騒ぎになりました。しかし、この現象はエルサレムだけではなく、世界各国においても釈迦や神武天皇など各宗教の救世主や預言者を名乗る者が次々と現れ、多少のタイムラグはありますが世界中で同じような現象がほぼ時を同じくして起こりました。彼の元に跪き涙を流す人や感激のあまり失神する人も大勢いたとのことです。これに対して私達の取材に応じてくれた専門家は、どの人物も同じ内容を伝えていることもあり、本当であればいよいよ終末の時、つまりハルマゲドンが起こる予兆と推測できるが、テロ組織やテロ支援国家が混乱を引き起こして、軍事行動に出るためのデモンストレーションである可能性も否定できないと話されており、今後も十分な分析と検討が必要になってくると思われます!」
「専門家って・・・こういう時の専門家って、何の専門なんだよ・・・」
嘲笑気味に独り言を呟きながら総理はテレビのボタンを消した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...