種の期限

ながい としゆき

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五日目

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 そして半年の月日が経った。
 大型の雹による大災害も一部の保障トラブルを除けば、社会の傷跡はほとんどなくなったと言って良いだろう。それくらいに社会は落ち着きを取り戻している。また、連日のように流れていた絶滅民族を予測する報道も、三ヶ月を過ぎた頃から次第にテレビや新聞の画面や紙面から姿を消しはじめ、六ヶ月を過ぎた頃には、誰も話題にすることがなくなっていた。
 ごく一部の宗教団体が終末思想を訴えることはあったが、社会が混乱するようなことはなくなり、人々は落ち着いた日常を取り戻していた。
「そんな事もあったねぇ」
「ひょっとしてウソだったんじゃね?」
「もしかしてどこかの国か誰かに集団催眠とかかけられてたんじゃない?」
「幻ぃ~!」
「草」
などと、話のネタにはなったとしても、真に受けて話す人はほとんどいなくなっており、ワイドショーなどの話題も、芸能人や政治家のスキャンダルで忙しいようだ。
 世間が落ち着いてきたことは、政府にとっては好都合だった。
「七十五日とはよく言ったものですな」
珈琲を飲みながら、首相官邸の五階にある総理執務室の窓から外を眺めながら官房長官が総理に話しかけた。
「あのままの状態で混乱が長く続くようであれば、手の内を見せて各国と交渉しなければならなくなっていましたからね。一安心です」
「一部のオカルト雑誌とかではまだ騒いではいるみたいだが、記事に対する社会的評価は低いからね。彼らが騒げば騒ぐほど、国民はノストラダムスの時みたいに不安はありながらも遠ざかっていってくれる。だけど、完全に忘れてしまったわけではないから、ちょうど良い距離感が取れているってところだな」
 どの国の政府も表立って公表はしていないが、これがテロ組織やテロ支援国家の仕業などではなく、天地創造の神が実際に存在し、その神からのメッセージであるということを、疑いようのない事実として捉えている。
 不測の事態に備えて、政府は同盟国や友好国との連絡を取り続けており、各国がそれぞれ自分の民族の生き残りをかけて、水面下での交渉が続いている。どの国も自分達が優位に立とうと、ギリギリのラインでの緊張状態が続いているようだ。
 ただ、心配なのは自暴自棄になった国や民族が、周辺国や他民族を道連れに衝突を起こさないかということである。それを阻止するためにも、各国手の内を明かせないでいるのが本音だ。
「現在までは我が国が優位に進められていると思います。このまま行ってくれれば多分、我が国は大丈夫だと思うんですが・・・」
この半年間での首脳会談や閣僚級の会談、G七などで各国への手ごたえは十分感じられている。それは官房長官だけでなく総理も同じだ。関係が悪化してきている国に対しても、自分の主張は通しながら最悪の状態にはなっていない。仮に相手が日本を選択しようとも日本人が犠牲になる可能性は極めて低いはずだ。
「あと六ヶ月、何事もなくこのまま過ぎてくれれば良いのだけれど・・・」
「弱気になってはいけません。日本人が絶滅してしまえば、色々な面で困るのは他の国々ですからね。私達は確実に大丈夫です」
「そうだと良いんだが・・・」
 駆け引きはさておき、どの国の首脳も同じ思いで天を見上げていることだろうと総理は思った。
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