種の期限

ながい としゆき

文字の大きさ
22 / 23
七日目

しおりを挟む
 神武天皇と一緒にいると思わず時を忘れてしまう。悠久の時を経ているからであろうか、聴いておきたいことはまだまだ山ほどあった。しかし、神武天皇とのひと時は終わりに近づいていることもお互い言葉にはしていなかったが共通理解できていることであった。総理はその中から、心の表面に浮かび上がってきた疑問を口にすることにした。
「以前に、高次元の魂達が次々とこの世に生れてきていて世の中を正しく導くと、何かで読んだことがありますが、彼らの役目とどう違うんでしょう?」
「高次元の魂達とそなた達の役目は何も変わらない。彼らとの違いは魂の使命に目覚めているかいないかである。繊細な神の波動に近い波動を持つ彼らはまだ目覚めていない者達を覚醒に導くという役目を担ってはいるが、イエスやムハンマドや釈迦のような救世主や預言者などという特別な存在ではない。なぜなら、余も含めてこの世に存在する魂達すべてが地球や天界、その他の星々に転生を繰り返し神の元へ還ろうとする旅をしているにすぎないからだ。ただ、転生する回数が多ければより神に近い高次元の波動を放つようになるだけの違いである。だからといって、転生が少ない者達は気に病む必要はない。波動の高い者も低い者も助け合って生きていくことで波動が共鳴して覚醒を速めてくれるし、地球での目的を成就することができるからだ。高次元の魂達の役割は、そなた達が選択し、決定した行いが神意に沿える方向に進むように助け、そなた達と共にマイナスエネルギーを減らしていくことであるから、役目に何の違いもない。ただ、彼らはそなた達よりもプラスエネルギーを放出する術を知っており、その量が非常に多いということだ」
「他の星々・・・?宇宙人ということですか?」
「そうではあるが、そなたが想像するような姿をした宇宙人などではない。あれは人間達の恐れからくるイメージで作り上げたものだ。もっとも彼らが人間達を怖がらせたり驚かせたりしようとして姿をワザとに変えたとしたら話は別だがね」
「姿を自由に変えられるんですか?」
「地球みたいに物質に縛られてはいないからね。しかし、創造神は自分の姿に似せて人間を作ったが、それは地球の人間の話だけではないということだ。高次元の波動を放つということは、柔軟な思考と行動力が備わっているということだ。即ち、重たいうえに、いろいろと不便さがある肉体を持つ必要がない存在ということになるな」
「幽霊・・・みたいなものですか?」
「魂本来の姿で存在していると言うべきだろう」
 神武天皇は天を仰ぎ、両手を天に大きく掲げながら話を続けた。
「これからは世の中の仕組みが変わっていかなければならない。今までのように国を治める者達が権力を振りかざし、頭でしか考えることができない者達が自由と権利をかざして世の中を闊歩していては、国は痩せ細り滅んでいくことになるからだ。国を治めまとめる者達は民の僕となって働き、民の歓びを我が歓びとして受け止められる者でならなければならない。権力と財力がある者達が国家の下支えになり、初めて豊かで幸せな国といえるからだ。なぜなら、人間達は創造神の前で最も小さき者達と最も弱き者達に救われたからである。その摂理が成就することこそが、神が下した審判を翻し、地球を救う唯一の手立てとなるからだ。しかし、それは簡単にはいかないかもしれない。具体的には、国家間においても前面に出て引っ張るよりも、支えとなって押し上げていくことの方が多くなるかもしれないが、それはとてつもない知恵と忍耐力と希望が必要であるからだ。思考や常識に従うのではなく、心の声に従うことが困難を乗り越える秘訣である。そのために、そなたはもう少しこの国を治める者として歩んでいかなければならないであろう」
「私が・・・ですか?」
「この難局を、勇気をもって民を先導して行けるのはそなたしかおるまい。それであるからこそ、余が今ここに居る理由だ。しかし、だからと言って民を忘れて財と権力に溺れてはいけない。これはそなたにしかできないことではなくて、現在の地位にいる者がそなただからできることなのだ。くれぐれも慢心を戒めることを忘れてはいけない。繰り返すが、それは決してやさしい道ではない。権力にしがみつこうとする者、力を奪おうとする者に足元をすくわれないようによくよく気を付けて意識を覚醒させておくことが必要である。その者達は心で感じることの意味さえ理解することができないため、すべてを頭で、思考で物事を捉え、考えることしかできない哀れな者達である。しかし、その者達を侮ったり憐れんだりしてはいけない。彼らは、そなたや仲間達の言葉尻や公私の隙をついて次々と責めたててくるからであり、その力はうねりとなって地球を脅かすほど強大なものになる種だからである。だからこそ、何事にも動じない強い心が必要なのであり、国を導くにはとてつもない知恵と忍耐力と民が未来へと進むための希望が必要なのだ。それを実現できるのは、現在この国の政治を担っているそなたであり、大きな役割である。国の舵を神の御心に向け、次の導き手につなぐのだ」
「次の導き手に・・・」
「その者は先頭に立って導くか蔭で支え導くかはまだ定かではない。しかし、この国は天照大神が照らし守っているように、女人の知恵と機転が大きな力となる。民に対していつの時も謙虚であり、感謝の心を示す者が次の導き手へとそなたを導いてくれるであろう。周りの者を大切にし、心眼を開いて求めさえすれば、その者はすぐにそなたの前に現れるはずだ」
「と、いうことは私の側にいるということですか?例えば現在議員として活動している者とか・・・?」
「そなたは自分で範囲を狭めないことと決めつけないことを学ぶことが必要であるな。その者は木花咲耶姫のように凛としていて強い意志と勇気を持つ者であり、決して相手を批判したり攻撃したりはしないし、立場で言動や振る舞いを変えることもない。天照大神にとって月読のような存在の者である。民を慈しみ、広くたおやかな心で待っていなさい。そうすれば向こうからそなたの前に姿を現すであろう」
「天照大神と月読・・・。確か日本書記には天照大神が月読命に保食神(うけもち)と対面するように命じられたが、もてなしの食を口から出したことに腹を立てて殺してしまったことを知り、『二度と合わない』と言ったことが日月分離した起源であると書かれていたと思いますが、私とその女性との関係がそういうことになるということですか?」
「それは余の言っていることとは別の話。記されていることがすべて事実であると鵜呑みにしてはいけない。歴史とは、時の権力者や勝者によって都合の良いように脚色されたり歪ませられたりしていることが多いものだからだ。天照大神は月読のことを信頼しているからこそ、休息されている夜を月読に任せているのである。昼と夜、日向と日陰の関係とでも言えば良かったかな?」
「そう言うことなら理解できます・・・」
「まずは信頼できる者達に役割を与え、国を治めなさい。国の内もそうだが外の国々に対しても駆け引きやバランスを考えていては神の元へ導くことは難しい。そなたがしっかりと神に向かって立っていれば信頼できる者達が手や足となって民や他の国々を連れてくるからだ。そなたは組織の弱い部分に常に意識を向けて守っていかなければならない。悪魔達は弱い部分を狙って蝕んでくるものだからである。もしも困ったり迷ったりした時は、頭で考えるのではなく、神に祈り、心が感じたことを行うが良い。なぜなら、天の神々をはじめ天使や精霊、高次元の魂達やその他の多くの者達もそなたの力となって、一緒に地球が再生できるように道を作るからである。地球が再生できるかの始まりはこの国の導きにかかっているということを肝に銘じておきなさい」
総理は膝の上で手を組み、前に乗り出したような姿勢で神武天皇を見つめている。
「我々に、私にその役目ができるでしょうか?」
神武天皇は笑顔を総理に向けた。暖かく安心を相手に与える笑顔だ。
「神はその者達ができないような無理な課題は与えないと言うではないか」
総理も今度はまっすぐに神武天皇を見つめることができた。
「勇気づけられます。また、あなたに会えるでしょうか?」
「創造神が必要と思われた時に」
そう言い残し、神武天皇は総理の前から姿を消した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜

猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。 その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。 まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。 そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。 「陛下キョンシーを捕まえたいです」 「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」 幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。 だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。 皇帝夫婦×中華ミステリーです!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...