地獄の沙汰は、

荷稲 まこと

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十四話 地獄の沙汰は?

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◇◇◇

◇◇



 ポケットに千円を入れていたので、特急サービスを受けられた。
 しかし、以前のはどうも快速特急だったようで、特急は荒っぽい船頭ががむしゃらに漕いで進む、というものだった。
 そのせいで、全身びしょ濡れだ。
 黒いタイルが湿っていたのは、このせいだったんだろう。

 ガラクタの小山に囲まれた細い道を進む。
 俺が捨てる物はそう多くない。
 小山の上に新しい看板が立っていた。
 電子看板で、文字が右から左に流れている。

 気がつくと、俺はクリーム色の丸になっていた。

 開けた場所に出る。
 同じようにガラクタの道から抜け出した人がぞろぞろと列に加わっていた。
 俺は白い扉へ続く列と、黒い扉に続く列の間でふらふらと彷徨う。

「どっちに並んでも大丈夫ですよー」

 鼻にかかったような高めの声が、背後からかけられた。
 アケビ。

「……あんた、来たのか。待ちくたびれたぜ。九十六歳。大往生じゃねえの」

 八重歯を見せて、彼は笑う。

「何してたんだ? 教師か。あんた教えるの上手かったもんな。おれも速くたいぴんぐできるようになったんだ。見せてやりてえけど……もう無理だな。手が透けてきた」

 末端から透けた彼は、淡い紫の三角になった。

『この形って、何を基準に決められてんのかねえ。あんたはなんとなく丸っぽいなって思ってたけど』

 言葉が心に直接届く。
 アケビが言っていた声とは、これのことだったのか。
 思念みたいなものかな。

 二人並んで、列に向かう。
 その直前で、アケビは立ち止まった。

『……あのさ。あんたは白だろうけど、おれは黒だ。盗みもしたし、殺しの手伝いだってした。人間に生まれ変わんの、遅くなっちまうと思う』

 なんだ、そんなことか。
 今度は俺が待つ番だな。
 何回廻ったって、待ってる。

『絶対だぞ。忘れちまってたら、恨むからな。悪霊になって憑りついてやる!』

 けたけたと彼は三角の体を揺らした。
 俺たちは一度離れて、ゲートをくぐる。
 俺は何も聞かれなかった。
 アケビは少し遅れて出てくる。

『ああ、もうお別れかぁ……またな、キョウ』

 またな、アケビ。……あ、そうだ。
 女に生まれ変わらなくていいからな。
 お前のままでいてくれ。

『ははっ! あんたもな!』

 俺は白に、アケビは黒の扉に進む。
 扉が開くのを待っていると、軍服のようなものを着た一つ目の男がアケビに近づいてきた。

『獄卒様? おれ、嘘なんかついて……』
「閻魔様より言伝だ。約五百年の勤務、ご苦労。退職手当を受け取るがいい」

 そう言って、一つ目の男はアケビを俺の方に投げ渡した。

「今回限りだ。来世では悪事を行わぬように」
『……ほんとかよ』

 地獄の沙汰も、勤労次第、か?

『あはは! さっすが閻魔様! キョウ、一緒に行こう!』

 丸と三角、ぴったりと寄り添って、眩い光の中に飛び込んだ。
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