運命のひと。ー暗転ー

破落戸

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毒林檎を召し上がれ

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 太陽が目を覚ましたかという時分の早朝。移動する新幹線の中、こっちこっちと手を引かれて、誰も居ない個室に連れられる。

 

「着替えて」


 フォックスさんに投げて渡されたのは、着物だった。


「着付け方わからないんだよね。自分で出来る?」

「はい」

「終わったら声掛けてね~。外で見張ってるから」


 カタンと閉ざされた扉。目隠しフィルムを施された硝子が、扉前に立つフォックスさんの姿形を歪めて主張する。

 いそいそと着ていた洋服を脱いで、ひとつずつ手順を思い出しながら、未来に至っても伝統として受け継がれている和服を身に付けていく。帯の締め具合を調整して、己の姿を見下ろす。

 着物の色合いと柄模様に既視感がある。あぁ、そうだ。似てるんだ。太刀川さんが贈ってくれたものに。

 バレンタインのお返しに届けられた、落ち着きのある藍の色を基調とし、青と白の薔薇の柄が入っていた着物。大人っぽくて、子供だった私には、着こなせる自信が無かった。今もそんなに無いけれど。

 雪の様な純白の下地。衿下に染色された藍交じる水色が川の様だ。せせらぎも聞こえてきそうな繊細で穏やかな川にがされるようにして、濃いも薄いも、様々な青を纏った勿忘草が描かれている。

 誰かが着用していたものなのかな。新品特有の固さは無く、柔い。しかし、とても大事に扱われているのだろうなと一目で分かる。保存状態がとても良い。……本当に、私が着てもいいものなのかな。

 瑠璃紺の帯を、もう少しきつめに締め直し、乱れを整える。着物と一緒に、使い捨てタイプだから好きなだけ使えと手渡されたコンパクトサイズの化粧箱を開け、自らの顔に白粉を、そして紅を差す鏡の中の自分を見つめる。

 数年前は、種類も用途も豊富な化粧道具のひとつひとつ、人の手を借りねば何をどう使えば良いのかちっともわからなかった。こっちに来てから、その年で化粧の仕方も知らないのかと驚かれたし、呆れられた。当時はまだ中学生だったし、学校でのお化粧は勿論禁止されていたので、お化粧をするのは、少し形式ばった特別な機会に、お祖母ちゃんに施してもらう時ぐらいだった。私としても、まだ小学校に通っていそうな年頃の女の子が、今の私の様にぽんぽんとファンデーションを慣れた手付きで頬にまぶしているのを見て大層驚いたものだ。まだまろい、ふわふわのマシュマロの肌には必要ないだろうと思った。しかし、私よりも、皆、内も外も大人びていて、六歳ぐらいの女の子に「お化粧ヘタクソ。ブス。せいしんねんれいおこちゃま」と鼻で笑われたときは反論も出来なかったし、本当に情けなかった。

 孤軍奮闘では太刀打ちなど出来なかった。取り敢えず何事も挑戦だ。取り組んでみなければ学べはしない。怒られ、叱られ、注意されのお仕事が終わり、私にと宛がってもらったお家に帰宅したらば、女将さんから授かった化粧箱を開け、手鏡を睨み付けながら、あれはこれはと弄り倒す。日々の練習だと、チークやらリップやらをせっせと塗りたくっていると、泊まりに来ていた香澄ちゃんに「トラ●シルバニアからやってきた博士か、イッ●のピエロかよ」と罵られた。ティム●リーで統一された。

 いい加減に上達しろ、と私の頬をつねり、プリプリした香澄ちゃんは、覚えの悪い私にめげることなく、ベースメイクから手解きをしてくれたし、出勤する度、女将さんには肌荒れをチクチクの指摘された。特に女将さんには、人前に出る職なのだから、みっともないのは許さない、サボることなく、きちんと毎日手入れを怠るなかれ、とスキンケアグッズをこれでもかと頂いてしまった。後で知ったのだが、どれもこれもお値段の張るものばかりで、慌てて「お返しする。せめて代金だけでも」と訴えたのだが、素気無くされてしまって取り合ってもくれなかった。

 優しい女性だった、本当に。ふとした所で、然り気無く気にかけているという素振りも見せず、手を差し伸べるのが上手なひと。

 もはや懐かしい。あの頃の私は本当に子供だったのだなと思う。アンパ●マン、ちび●子ちゃんだと揶揄されていた時を考えたら、まだ拙さはあるも、少しは上達しただろうか。

 最後に口紅を塗ろうと小箱を探る。親しみ慣れたスティックタイプは見当たらず、その代わりに、はまぐりの形をしたものが入っていた。その用途には覚えがある。躑躅色の貝の蓋を開けると、ほんのりとした桜色の艶紅が収まっていた。

 オルゴール館で太刀川さんとふたり過ごしていた時、彼が私の唇に紅を差すその所作を思い出す。ちろ、と舌を出して薬指の腹を濡らす。紅を少量付けた薬指を唇に近づける。薄い皮膚で覆われた、内臓の一部と呼ばれる柔らかい部分を丁寧になぞる太刀川さんの指を、間近で感じる静かな息遣いを、真剣な青の眼差しを飾る長い睫毛を追慕する。唇についた紅がずれていても、薄く一笑すれば、それすらも様になり蠱惑的だった。

 あのとき、太刀川さんが私に言ったことを時折反復し、そして考えた。考えて考えて、考え続けて、ここまできたとしたら。

 あ、ずれた。やっぱお化粧下手だ。
 







「はい。耳につけて」

「なんですか? これ」

無線インカム。ちゃんと聞こえるか確認。はい、テステス~って」


 着替えが終えた旨を外で待っていたフォックスさんに伝えると、お着物と化粧箱の次に渡されたのは、小さなイヤホンに似たものだった。上手く髪で隠してねと言われたので、耳に入れてサイドの髪で覆う。初めは雑音が何度か入り込んで、少しすると女の人の声が聞こえてきた。『はいは~い。感度はどうでございましょ』と仄かに色気を含んで楽しそうだ。


「リゼさんですか?」

『あ、良かった。ちゃんと聞こえてるわね』

「これ、私の声も届いてるんですか?」

『マイク機能も付属してあるから、バッチリ。フォックスは?』

「おっけ~です。ちゃんと連動してる」

『なれば良し。それじゃあ、今後は何かあれば、これ使って、各自、状況確認を欠かさない様に、ちゃんと報告・連絡・相談してね。私も不測の自体に備えて、司令塔から適宜指示出していくから』

「いいなぁ、リゼさん。私もソッチが良かったなぁ」

『羨ましいなら出世なさい~。ってか、こっちも相当大変だから。あっ。遠坂さんは何かあれば、トントンって二回インカム叩いて。そうしたら私にすぐ繋がる様にしてあるから』

「わ、わかりました」


 リゼさんが今どこに居るのかは私には知らされていない。リゼさんの声の向こうで、カタカタという音が聞こえてくるので、おそらく白鷹組のお屋敷の地下にあったのと同じ、パソコンがたくさん並べられた場所にいるのかもしれない。


『遠坂さん』

「はい」

『耳にタコでしょうけど、このまま五体満足で京都に行きたいなら、大人しく協力して頂戴ね』

「……」

『昨日、シラユキも言ってた通り、貴女はただ居るだけで十分なのよ。余計なことはしなくてもいいから。据え置きよ、据え置き。だから、そう気負わないで頂戴ね』


 太刀川さんを死に追いやる為の行動を? 思わず口に出そうになったのを、下唇を噛んで耐える。リゼさんにそれを詰めるのは、どう考えたってお門違いだ。だって、私がこうして此処に居ることは、彼等にとっては、私自らが白鷹の案に承諾したことも同然なのだから。

 覇気無く情けない声色で「はい」と返事をすると、それじゃあまたあとで、とリゼさんの声は聞こえなくなった。

 ぽんぽんと軽く肩を叩かれる。振り返ろうとすると、ふにゃりと柔らかいものが頬に押し付けられた。ふわりと香るいい匂いに、思わず顔が熱くなる。私の頬に、ぷるんと艶々なグロスが塗られた肉厚な唇を押し当てた張本人であるフォックスさんがにこりと笑った。可愛らしい笑顔になんだか擽ったくなる。


「え、あ、え?」

「オマジナイ。これすると皆元気になんの。色んな意味で」

「そっ、そうですか」

「んふふ。私もついてるからダイジョブだよ。なんとかなるなる。それに、いつもそんなオドオドビクビクしてたらしんどくない? ここぞというとき以外、気張るもんじゃないよ」

「(いや、まさに気張りどころなのでは)」

「適当に頑張ろうね~。えーっと遠坂さん……ってのも、今更他人行儀だよねぇ。私とそんなに年変わんなさそうだし。っていうか、あたし、遠坂さんのことなんて呼んでだっけぇ? こうやってちゃんと面と向かってふたりで話すなんてことなかったもんねー」

「そうですね……。その、お好きに呼んでください」

「そ? じゃあシキティって呼んでいい?」

「……だ、大丈夫です」

「って顔じゃないけど。目の泳ぎ方えげつな。視力検査かよ。わかりやすいね~」

「うっ」

「いーよ、別に。シラユキさんだけの特別な渾名なんでしょ? とりあえず、まぁ」


 マゼンダ色のネイルが塗られた華やかな指先が私に伸ばされる。あんなにも熾烈な激闘を繰り返してきたなんて想像もつかない程、綺麗な手だ。傷ひとつないことが、そう年も変わらないであろう女の子の強さを物語っていた。

 おずおずと、女子力としては相当低めの自らの手を出して、フォックスさんの手を軽く握る。きちんと日々のお手入れがされた、きめ細やかな、さらさらの肌をしていた。すると、仲良しこよしの友人の様に、ぶんぶんと上下左右にふられる。勢いがすごい。もげそう。ちょっと痛……結構痛い。


「ほんじゃまー、改めて。よろしくね。しきちゃん」

「こちらこそ。御迷惑をお掛けすると思いますが……」

「あー、そういうのはいいのいいの。こっちも仕事でやってんだし。気にしなくていいよ」

「でも」

「あたしはやれって言われたことをやってるだけだから。あ、そうだ。あと、これ」


 突然、フォックスさんが短すぎるスカートを躊躇もなく捲し上げたのでギョッとする。見るからに柔らかいむちむちの太腿を包む網タイツを固定させる為のガーターベルトが覗く絶対領域は、同性の私にとっても妖艶に映り、目に毒だ。というか、そんな堂々とスカート捲らないで頂きたい。目のやり場に困る。どえらいスケスケ黒のTバックが見えてる。
 
 目の前に現れたものに、一瞬思考が停止する。小さめではあるも、その殺傷能力が衰えることはない。ゲームのなかでしか握ることなどないだろうと思っていたそれは、手にしたことがある。人に、そして己にも向けたことは、今でも色濃く鮮明に、脳裏に焼き付いている。冷たく無機質で、全身の血を凍らせる無情な音しか響かせない、虚しさを生む道具。


「どいつもこいつも人外揃いだから使い物になるとは思えないけど、流石に丸腰じゃあねぇ」

「……」

「使い方はわかる? 覚えてる? って聞いた方が正しいのかな。レクチャーしたげようか」


 取れと促される。躊躇いがちに伸ばし、一度引いてしまった手を固く握り、小さく深呼吸をしてから受け取った。

 重い。こんなにコンパクトなサイズなのに重厚だ。引き金に添えたこの指が、一度は本当に自身の命をろうとした事実がのし掛かる。

 や、やるときはやれるんだよな、私。実証もされてるし、あのとき太刀川さんが止めてくれなかったら、本当にこの頭に風穴が開いて、この世にオサラバしていた訳だ。いやだな、変なとこで度胸あるの、なんなんだろう。別のところで発揮してくれたらいいのに。

 もう少し時間があるから、ゆっくりしてたらいいよ、とそのまま個室で過ごす様に薦められたので大人しく座っていると、真向かいの座席に腰を下ろしたフォックスさんがひっきりなしに欠伸をしているのに気付く。

 尋ねてみると、「最近夜がメインの仕事ばっかりだっから。朝日浴びるの自体久し振りなんだよね~」らしい。元々、早起き自体苦手なんだとか。

 フォックスさんがうとうととしているのを眺めていたら、突然に勢いよく横に倒れたものだから驚きはしたが、どうやら無事にスヤァと夢の世界に旅立たれた様である。幸せな夢でも見ているのか、時折ふへへと笑っている。涎をほんのりと垂らしたヘニャヘニャの顔。つい先程まで「こっちも仕事でやってんだし。気にしなくていいよ。あたしはやれって言われたことをやってるだけだから」と、キリッとしていた彼女は一瞬で何処に行ってしまわれたのか。あ、夢の中か。思わず笑みが零れる。

 個室に備えられた毛布を取り出し、起こさない様に気をつけてフォックスさんにかけると、ふにゃふにゃと何か呟きながら、もぞもぞと毛布を手繰り寄せ、心地好さそうにしていたので、安眠の手助けは出来ているらしい。

 座り直し、車窓から移動する景色を眺める。徐々に歴史ある趣深い建物が見えてきた。もう目的地は近そうだ。

 袖の中に手を入れて、宝物を取り出す。没収されなくて良かった。荷物を確認されたときに、どうしてもこれだけはという思いだった。持っていきたいものは? と尋ねられて、私が怖々と見せたものに対し、リゼさんが大層驚いていたのが印象的だ。そりゃそうだ。解体した筈のものが、かつての姿のままで私の手の上に鎮座していたのだから。察しの良いリゼさんは「キザなことしちゃって~。やるじゃない。このっこのっ」と隣に居た岡崎さんを肘で小突き、何も問題はないと携帯することを許してくれた。

 宝石箱オルゴールの仕掛けを解き、細やかく小さな音粒が穏やかに流れるのを聞く。なだらかな音色は、小さな私が何かに傷つき、すんすんと泣いていたとき、いつも私を宥め、安心させ、眠りの世界へと誘ってくれた。フォックスさんにとっては違うかもしれないと確認したが、むにゃむにゃ寝言を呟くのをやめて、深い眠りについていた。

 宝石が埋め込まれた箱を撫でる。ひとつひとつ、太刀川さんが手ずから何もない状態から組み立て、飾り、一から作り上げたもの。暖かい気持ちになって、無意識に口角が緩んだ。

 目を閉じて宝石箱オルゴールを両手で優しく包み、胸に抱く。それは、これから私が臨もうとしていることへの願掛けか、祈りに近い。


「志紀。入っていいか。フォックスも居るんだろ」
 

 コンコンと扉がノックされ、向こうから聞こえてきたのは岡崎さんの声だ。どうぞ、と応答する。中に入ってきた岡崎さんは、上下共に全身真っ黒で動きやすそうな服に、蘇芳色でロング丈のトレンチコートを羽織っていた。

 腰から提げた刀がこちらを見ている。派手な色合いだけれど、どこまでもその刀が上品なのは、遠くからでは気付かない、近くで見たときにだけわかる繊細な刀装のデザインにあるのかもしれない。特に、韓紅の鞘にこっそりと施された華模様は目を引く。

 岡崎さんの首もとに視線をやる。ベルトに似寄る首輪は今も外されていない。

 そのまま目線を上げると、岡崎さんが私の手の中に収まっていた宝石箱オルゴールと着物姿をじっと見て、一瞬きゅっと下唇を強く噛んだのを見逃さなかった。すぐさまスンと「別に、何にも気にしてませんよ」とな表情に戻り、そっぽを向いていたけれど。その素振りには何も言わずに、宝石箱オルゴールをそっと袖の中に戻す。


「あと30分程で到着するから、準備しとけよ」

「はい」

「って、フォックス。お前な~、護衛役の意味わかってんのか。オラ、起きろ。ぐーすか寝てんな」

「あふぁふぁふぁ~。おはよう、おかざきさん~。ふぁあああ」

「よだれよだれ」


 フォックスさんの口の端に垂れていた涎を、岡崎さんがやけに丁寧に、そして優しく、ごしごしと袖口で拭う。彼女もムニャムニャ言いながら、為すがままに身を任せていて、すりすりと岡崎さんの手に頬を擦りつけている。慣れている様子だ。仲良いなぁ。

 すると突然、岡崎さんが勢い良く顔だけを此方に向けた。あまりのスピードに、いやそれ首取れるんじゃない? と心配になる。一回転も二回転しそうな勢いだった。私の様子をジッと半目で観察する岡崎さんは、ミステリーの原因を探る探偵よろしく、いたく真剣で、容疑にかけられた私は少したじろぐ。


「あ、あの?」

「……」

「や、やだな。そんなに見ないで下さい。なんか恥ずかしい。私の顔面に風穴開けるつもりですか。なんかついてます? お、お化粧変でした?」
 
「……ハァアアア」


 わざとらしく、重苦しいため息をついた岡崎さんは、これだから素人は……ガッカリだよ! と言わんばかりの顔をした。黙ってたらイケメンなのに、そういう変顔するから勿体無いんだって何度も教えてあげたのに。なんだ、そのおやつを貰えると思って尻尾振ってたら、貰えないと知ったときのわんちゃんの反応。

 どんよりとしたオーラを纏い、そして撒き散らしながら、岡崎さんがブツブツ念仏……というよりも呪言を呟き、フォックスさんの豊満な胸に顔を埋めた。フォックスさんはまるで宗教画に出てくる聖母の様な包容力で「よしよしよ~し」と胸に収まる岡崎さんの灰色の頭を撫でている。彼もそれに甘えてスリスリと頭を左右に降り、その柔らかさを堪能している。クレ●ンしんちゃんかよ。慣れてるな。ほんと慣れてるな。さては常習犯だな、このひと。ほんと大きいおっぱい好きなんだな。かつて、いかがわしいお店から出てきた岡崎さんが、まりんちゃんにデレデレしていたことを思い出した。

 いや、スミマセンね。小さくて。小さくて。岡崎さんの「心折れそう……」という呟きに、私もシンクロする。あとでフォックスさんに、何を食べて、何をどうしたら、そこまで育つのか聞いてみよう。









 リゼさんが言うには、私は太刀川さんを炙り出す為の餌らしい。太刀川さんは以前と代わり、滅多に表に出てくることは無くなった。舞台に立つのは、雲隠ればかりして本当に存在しているのかと危ぶまれていた瀧島さんで、いつも、あの黒服の集団を引き連れている。どちらか一方の、例えば瀧島さんの首のみを取ったところで意味は無い。必ず残った方が台頭し、また繰り返される。両名共に討ち取らねば真の勝ち取りとは言えぬのだと教えてくれた。遠坂志紀が出てくれば、太刀川尊嶺も重い腰を上げて、多少の無茶をしてでも出てくる筈だと。

 だから、一気に諸共討つ。勿論、無茶は承知で。


『とりあえず、ここから一端通信は切るけど。聞いておきたいことはある?』


 京都、嵐山。新幹線を降りてからは、待ち受けていた車に乗せられた。覗いた外の景色は、以前よりも人の息吹が甦っている。隣に座るフォックスさんは京の外観に興味は無いのか、どこか調子の外れた鼻唄をご機嫌に歌い、銃に弾を詰めている。車内にも関わらず、あちこちから怒号や罵声が聞こえてくる辺り、お世辞にも治安が良いとは言えない。けれど、岡崎さんとこの地に足を踏み入れたときと比べたら、確かな生を感じさせた。どっしりとした歴史漂う情緒は強く、そのまま残っている。


「リゼさんは、どうして極道になったんですか?」

『え?』

「あ、す、すみません。つい。ごめんなさい。気にしないで下さい」

『ん~、別に教えてもいいけど。特に面白くないわよ?』

「え」

『よく覚えてないのよね~。なんていうのかしら。そこらへんの記憶が? すっぱ抜けてる? というか』

「え」

『私、この組織じゃ古くは無いわよ。白鷹に入ったのはそうね。何となく。流れで? 』

「な、何となく? すっぱ抜けてるっていうのは」

『よくわかんないの。これまで自分が、何処で、どう生きてたのか。ふと気付いたら、自分が立ってた場所でヤクザ共が丁度抗争中で、巻き込まれて、危うく殺されるところだった。ビックリしたわよぉ。周りにはグッロイ死屍累々で。映画のロケかと思ったわ』

「ど、どういう」

『私はどうしてこんな所にいるのか、どういう経緯で此処に来てしまったのか、私は今まで、どんな仕事をして、どんな生活をしていたのか知らなくて、覚えていたのは、くそ長ったらしい自分の名前だけ』

「記憶喪失ですか」

『そうとも言うのかもね。で、命からがらのところを衣笠組長に救われ、引き取られ、今に至るって感じね。ね、面白くないでしょ。特にロマンチックなあれこれも復讐劇もなーんにも無い。ごめんなさいね、ガッカリさせちゃって』

「いえ……。こちらこそすみません」

『やだ、すぐ謝る。なんにも覚えてないんだから、疑問はあれど、辛いも何も無いわよ。ほんと気にしないで』

「でも」

「あ、着いたっぽい。ホラ、遠坂さん。降りるよぉ」

『あら、もう? それじゃ二人とも。頑張ってね~。チャオ』


 プツリと途切れた女性の声。フォックスさんが軽快な動作で外に出て、周囲を確認してから、私側のドアを開けて出してくれた。

 辺りを見渡す。渡月橋がすぐ近くにあった。橋を渡った向こう側には、懐かしいオルゴール館に、もはや縁という言葉では収まらない天龍寺がある筈だ。後ろには緑豊かな山が聳え、あちらこちらで桜が咲いている。穏やかな春の匂いがした。

 こっちだとフォックスさんに手を引かれる。先程の喧騒からは離れ、川のせせらぎとチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる嵐山公園の道を歩く。この場所は天龍組の規制が強いられているのか、人通りが少なく、輩も居ない。私がよく知る京の姿に最も近い。

 ぞろぞろと数名の白鷹の人達に囲まれながら、ほんの少し歩いたところに、明らかに一見さんはお断りであろうなとわかる空気の老舗の前で立ち止まる。公園の片隅に聳える小さな入り口で、フォックスさんが無線を使って何事かを報告する。一言二言話して、「了解」とのんびりとした声で会話を打ちきった。


「シラユキさんはもう中に居るって~。いこいこ。あとの皆は予定通り行動してヨロシク」


 随行していた白鷹の皆さんは、「了解」とそれぞれ散っていった。それらを見送り、フォックスさんが私の手を引いて中に入ろうとしたが、私の足がそこから動かなかった。動こうとしてくれなかった。


「あれ……あれ?」

「……」

「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと、いきます。ちゃんと行きますから」


 まずは右足から踏み込もうとするのに、言うことを聞いてくれない。なんで、どうして。意思とは反する行動をする身体に焦りが募る。金縛りにあったみたいだ。歩き方を忘れてしまった様な。

 まさか、怖じ気づいたのか。ここまできて。

 いや、認めよう。怖い。この先に太刀川さんが居るのかと思うと、心臓が急速に逸る。どんな顔をしていたらいいのだろう。一言でも話してもいいのだろうか。それとも声を出さず、言われた通り、据え置きらしく、息を殺して黙っておいた方がいいのか。顔は上げていいのか。俯かせておいた方がいいのか。

 話すとして、何を? 生きていて良かったと、私の胸はそれでいっぱいなのに。けれど、彼はそれだけで済まない。これまで何をしていたと罵倒されるのだろうか。会いたい。会いたい。会いたくない。会ってしまえば二度と離れられなくなる。離れたくなくなる。離れたくない。会いたい。会いたくない。会いたくない、会いたい。


「大丈夫だよ」


 すとん、と落ちてくる。恐る恐る顔を上げると、フォックスさんが「ウワァ、すっごい汗。せっかくのお化粧落ちちゃうよ」とぺちぺちと気を持たせるために頬を軽く叩いてくれた。にっこり笑いながら私の頭をよしよしと撫で、フォックスさんが私を慰める。泣いている子供をあやすみたいに。


「あなたは死なないわ。私が守るものー。なんちって。元ネタめっちゃ古いから、わかんないかぁ」

「どうして」

「ん?」

「どうしてそんな、親切にしてくれるんですか? だって、私」

「だって、しきちゃんは、岡崎サンが一番大切にしたい女の子なんでしょ? 色々すれ違って、岡崎サン、カワイソウなことになってるみたいだけど」

「……」

「確かに、端から見りゃ、岡崎サン、完全に間男ポジションだもんねー。なんていうか、最初から負けが見えてる、かませ犬?」

「……」

「私は、シラユキさんが本命で、しきちゃんが遊びだと思ってたからさぁ。だって、シラユキさん、優しいし、美人だし、スタイル良いし、仕事出来るし、しっかりしてるし。しきちゃん、真逆のタイプだし」


 フォックスさんが結構ぐさぐさと来ることを次々指摘してくる。正直、かなりオーバーキルを喰らっているのだが、ひとつも否定できない。


「たぶんさ、今一番不安なのって、岡崎サンだと思うんだよね。大事な女の子を身内が人質に取って、誰にどんな扱いされてるかわかんないから逐一確認しにきたり。しつこぉ~って思うぐらい様子見に来たり。平気な顔してるけど、いつもと比べたら無口だし、やっぱり不安で、心配で、仕方なくて、居てもたってもいられなくて、落ち着かないんだと思う。トイレしたいけど、出来なくてウロウロする犬みたいな」

「いや、例え方」

「こっちとしてはさ、杞憂なく、気兼ねなく、安心して身を投げてほしいんだよね。だから、ちゃんと私も大事にしてあげる。フォックスなら、しきちゃんを傷つけたりしないって安心してほしいから」

「……」

「親切心じゃないってガッカリした? 私の為じゃないのかよってイラッとした?」

「いえ。ほっとしました。岡崎さん、やっぱり愛されてるんだなって」

「……」

「私が居なくても、岡崎さんを大事だと想ってくれて、支えて、一緒に並んでくれる人達が居るんだって安心しました」


 そう伝えてから、ちょっとした静寂が流れる。おや? と反応の無さに首を傾げて隣を見ると、フォックスさんは、ほんの少し唇を突き出して、少々不満げな顔をしている。


「ふぅん。成る程なぁ」

「え、え?」

「こりゃあ重症だわ。岡崎サンが心配するのちょっとわかる」

「……」

「危なっかしいよ。話には聞いてたけどさ。献身的なのは美徳だけど、もっと自分のことも考えたら?」

「か、考えてますよ」

「そうは見えないけど」

「じゃあ、隠すのが上手いんだと思います」

「そんな器用に見えないけど」

「エゴの塊ですよ。私」

「……」

「どこまでも自分本位なんです。私も」


 心から献身的に捨て身になって、相手に自分の身を全てを擲つことが出来る人間なんて居ないのだと知った。皆、誰かに自覚は無くても、何らかの利を求めるから授ける。人助けならば、優しい自分という相手からの評価を、救いを求める手に差し伸べたから、神の祝福を私に、といった風に。私だけじゃない。だからもう自分は利己主義者であるのだと貶すことももうしない。何よりも、その振る舞いによって心を掬われる人達は必ず居る。まさにギブアンドテイク。そうして世の中成り立っている。

 私が選んだ選択肢は、彼等を助けてくれるだろうか。私が授けるものを、太刀川さんは受け取ってくれるだろうか。








 和の風情が漂う料亭だ。カコンと鹿威ししおどしの音が聞こえ、清廉としている。格式ある老舗で、案内をしてくれる係りの方も、気品溢れる佇まいで、こちらの背筋も伸びる。


「お連れの方もお待ちです」


 通されたのは広いお座敷だ。開けた障子の向こう側には典型的な日本庭があり、先程聞こえていた竹が水を打つ音も、此所からだったのだとわかった。その庭を背面として、ズラリと畳の上に座り込んでいるのは、いかにも極道に生きております、おいでなすって、と脳裏に台詞がよぎるオールスターが、それぞれご自慢の得物を見せびらかす様にして、各々が好きなように座り込んでいる。障子を開けた瞬間、「ア゛ァ゛ン゛なんじゃこりゃ、小娘ェ」と目を凄ませメンチを切られたので、やはりどこまでも小心者な私はヒュッと白目になったし、私に続いて!後ろからルンルンと出てきたフォックスさんを見て、私に凄んでいた人達がコンマ一秒でわかりやすく値踏みする様に顎に手をやり、フォックスさんを「ふむふむ、成る程」と鼻の下を伸ばして観察するものだから、男のひとって……と白けたのも、また当然と言える。というか、多勢に無勢じゃなかろうか。ひぃ、ふぅ、みぃ、と数えて、お柄が悪くていらっしゃる方々は五人居る。

 そんな彼等と対面になる様に、お膳が2つずつ並べられている。しかし、男性方には用意されていなかった。そして、渦中の相手方はまだ来ておらず、虚しく風が吹いていた。

 入ってから、右手の列の真ん中で、古傷に刺青にと、いかにもなものを蓄えた方々を相手に、ひとり静かに、綺麗な正座で対峙している女性はシラユキさんだ。軍服に似た正装を身に纏い、帽子は傍らに置いて、固く口を閉ざし、真っ直ぐに誰も居ない空間を睨み付け、その時を待っている。

 岡崎さんの姿は何処にもない。別行動なのだろうか。


「ほら、遠坂さん。座って座って」

「は、はい」

「いや、どこ座ってんの。こっちだって」

「え、あ」


 シラユキさんの後ろ辺りに控えようとしたが、フォックスさんに背中をぐいぐいと、用意された食膳の前に押される。わ、私がこっちなのか。私達の後ろにすとんと座ったフォックスさんはパチッとウィンクをくれた。

 厳しい視線を前からひしひしと感じながら、シラユキさんの隣に掛ける。正座が上手く出来ない。ズキ、と痛む足は私に暗い思い出を思い出させる。我慢しろ。耐えろ。そして、私にこの痛みを与えた人物が、もうすぐ此処にやってくる。これくらい、なんだ。音をあげるんじゃない。ぎゅう、と膝の上に置いた手を握りしめる。


「崩していい」


 ふ、と掛けられた言葉は誰のものだったか。隣から聞こえたそれは、一人しかあり得ない。右に顔を動かす。シラユキさんは変わらず前だけを見据えていたけれど、紅を薄く塗った唇を開いた。


「畏まるに値する相手じゃない」


 私を気遣う為じゃない。心の底から相手に敬意など払う必要も無ければ、有りもしない誠意を示す義理もないということなのだろう、たぶん。けれど、胸のなかにシラユキさんにかけられた言葉がじわじわと浸透していく。

 こちらでございます、と障子の向こうから案内係の声が聞こえてきた途端、私達の対面に居た男性達が引き締まった表情になり、一斉に姿勢を正し、足を整えた。恐らく挨拶と思われるのだが、何と言っているのか聞き取れない豪傑な声をあげて、ザッとこうべを垂れている。


「遅くなってすまなんだなぁ」


 障子の開く音。畳を踏みしめるいくつもの足音。重圧感。いや、これは威圧感か? ぐ、と息が詰まる。頭が重い。後頭部に重りを乗せられたみたいだ。なんとか視線だけを前に向けて、今入ってきた人達の足元だけを視界に入る。この中に居るのか。本当に? ぐ、と生唾を飲み込む。

 ドクドクと忙しない心の臓。今にも止まりそうだ。は、と息を吐いて呼吸を整える。そして、相手方が腰掛けた音を聴いて、ゆっくりと顔を上げた。


「や、志紀ちゃん。髪切った?」


 親しい相手に出会ったときの気軽さで私に片手をあげるそのひとは、白鷹組がその首を狙わんとする天龍組が大将、何を考えているのか察することは不可能と評される、瀧島さんこと、天龍組組長。

 そして、その隣に腰を下ろしたのは、天龍組の若頭である太刀川さんではなかった。

 きらきらと太陽の光に反射する銀髪に、透き通った白い肌、鉄紺の口紅。真っ黒な着物に、紫水晶の眼睛。私とは対照的な、黒檀の着物に咲いているのは真っ赤な曼珠沙華。穏やかに、しかし妖艶に私達に微笑みかけてくるのは、嶺上組組長、故人浩然さんの前妻である、霧絵さんだった。

 いつも瀧島さんを取り囲んでいるという黒装束達は居ない。外に控えているのだろうか。

 勿論、動揺が走る。私がこの場に居る一番の理由である人物が居ない。来ていない。釣られてくれなかった。

 顔に出そうなのを、口内で頬を噛むことで必死に耐える。肩の力が抜けた訳ではない。ピリピリと体をつんざく緊張感は増すばかりだ。


「へへっ。どうしたんだい。志紀ちゃん。ひょっとこみてぇな素っ頓狂な顔して」

「えぁ、あ、いや。その」

「相変わらずの吃り癖だなぁ。成長してんだか、してないんだか、分かりにくい子だなぁ」


 けらけらと瀧島さんに揶揄われ、霧絵さんにはクスクスと小さく笑われ、思わず体が小さくなる。

 予定とは違う。隣に居るシラユキさんの様子を伺うも、彼女は私と違って一切の躊躇も、油断も、動揺も、欠片ひとつ見せず、瀧島さんと霧絵さんを見つめていた。そして、世間話でもする速度で口を開いた。


「瀧島組長殿、息災で何より。此度は我々白鷹組との辯論の場に、ご足労頂きましたことを」

「あぁ、そういうの、いい、いい。俺は堅っ苦しいのは好きじゃあねぇんだ。無礼講といこうじゃねぇか」

「……」

「こうしてツラ合わすのは初めてじゃあねぇのかい。えらい別嬪さんだなぁ。こんな別嬪が親分なら下も幸せだろうよ。なぁ、お前ら」


 そうだろ、と後ろにいる強面の男達に瀧島さんが同意を求めると、彼らは「へい、ごもっともです」と媚びへつらい、舎弟ばりにへこへこと頷いている。


「本日は、お二人で来られると伺っておりました」

「おん? 来ただろ。二人で」

「御組の若頭殿がいらっしゃるかと。御挨拶をと思っておりました」

「太刀川のことかい? あぁ、いいのいいの。アイツはもう、こういう場所には出すつもりはねぇから」

「出さない?」

「俺は、こう見えては重んじるタイプなんでね。会合には自分てめぇの運命の道連れにするツレを同席させるっていうなぁ。お前さんも、そのつもりだったんじゃねぇのかい」

「……」
 
「惜しいなぁ。アンタ、綺麗な顔してるってのに、そのナリに、その片腕。まるで野郎じゃあねえかい。つまりなんだ、アンタの一蓮托生は志紀ソレって訳か。ソッチの気があんのか? あぁ、その気概だから、組の長になれたのか。へへっ」

「やだ、失礼よ、瀧島さん。今時は女でも出世する時代よ。性別に拘るなんて古いったら」

「いやいや、偏見なんざ持っちゃあいねぇよ? 理解は出来ねぇがね。へへっ。下世話な話だが、女同士の閨ではどうすんだって気になるところでなぁ。突っ込むモノも無ぇし」


 煙草をつけながら瀧島さんが言うと、何が面白いのか、後ろにいる男の人達が下品に笑う。なんとなく、嫌な感じだ。


「昼飯がまだだろう。とりあえず話の前に腹を満たそうや」

 
 料亭らしく高級志向のお料理が運ばれ、膳に並んだ。真っ昼間から日本酒を嗜み、お仲間と楽しそうに話をしつつ、霧絵さんにお酌させている瀧島さんの余裕っぷり。こちらはと言うと、そんな愉しげな空気とは程遠く、正反対そのもので、シラユキさんは箸にも触れない為、料理には一切の手をつけなかった。それに関しては私も同様だ。まず、食欲が湧かない。こんなにも美味しそうなご飯がズラリと並んでいても、口にまで運べない。口に入れたとしても、飲み込める気がしない。

 私にだけ声が入ってこないだけで、リゼさんから何かしらの情報がシラユキさんとフォックスさんには流れてきているのだろうか。私はただ居るだけでいいとしか聞かされていないので
、この後の段取りなど何も知らない。流れに身を任せればそれでよい、とだけ伝えられていた為に、不安が募る。この事態は想定内なのか、想定外なのか、判別もつかない。

 太刀川さんは来なかった。私にはもう其ほどまでの価値は無いと見限られたか、遂に愛想を尽かされたか、それともシラユキさん達の意図を読んで、あえて姿を現さないだけなのか。

 出さない、と言っていた瀧島さんの言葉も気になる。もし、この場に来れない程に、病が悪化していたら。

 ぐるぐると思案する頭は、いつの間にか時を忘れさせていたらしい。気を取り直したときには、目の前で舞妓さん達が舞を披露してくれていた。繊細な手先、手首の動き。 京扇子を操り、見るひとを魅惑させる。時折投げられる艶やかな流し目は、太刀川さんを思い起こさせた。


「本当は、こんな畏まったところよりよぉ、キャバクラとかで、どんちゃん騒ぎながら飲む方が好きなんだよなぁ。へへっ」

「いややわぁ。瀧島はんはイケズやねぇ」

「いや、なに。俺には場末の女の方が性に合ってるってことよ。アンタらは、俺みたいなのからしたら高嶺の花よ。欲しくなっても、俺みたいな小便かけられた雑草なんか相手にしてくれないだろぉ?」

「あらやだ、瀧島はんたら。お上手」


 へらへらと笑いながら上手いこと立ち回り、舞妓さん達とやりとりする瀧島さんの姿に感心する。流石に慣れていらっしゃる。私が初めて出会ったときは、失礼ながら、家も無くさ迷うひとのそれだったのに。

 静として青の眼光で見据え、圧倒的な見えない力で相手を支配下に置くのが太刀川さんのやり方なら、瀧島さんは緩やかな表情で相手を油断させ、他愛もない話をして懐のなかに忍び込み、懐柔させてくるタイプだ。例えるなら、岡崎さんに近い手法に思える。


「瀧島組長殿」


 三味線と唄が終わったタイミングを見計らい、シラユキさんが話を始めようと促した。それに対し、瀧島さんは軽く苦笑し、手を振った。舞妓さん達は颯爽と、優雅な物腰で下がり、瀧島さんの少し後ろに侍った。


「せっかちだなぁ、柊組長さんは。仕事熱心って言った方がいいのかねぇ。へへっ」


 咥えていた煙草の吸い殻を灰皿に落とし、それで? と瀧島さんがシラユキさんに続きを催促した。


「白鷹組のシマに、天龍組の傘下にある組織が蠢いている。貴殿の後ろに控えている党の人間も居た。誤魔化しは不要。蜥蜴供の撤退を命じてもらいたい」

「何をあまっちょろいこと言っとんじゃい、女ァ! 今はどういう状況下かわかっとんのかいや! 戦争やぞ、ワレゴラ!」

「おどれら白鷹が天龍組に散々カチコんできたこと、忘れたとは言わさんぞぉ!」

「生意気言いくさって、調子に乗るのも大概にしろや、ワレェ! いてまうぞゴルァ!」


 瀧島さんではなく、その後ろから飛び交う怒号、罵倒、野次の嵐。舞妓さんの上品気質な舞からの転落。果てしなく治安が悪い。今にも道具を取り出さんばかりの勢いに気圧される。

 上品に日本酒に口をつける霧絵さんも、あらやだ、と瀧島さんに寄り添う舞妓さんも、ちっとも怖がっている風ではない。おそらく、こういった恫喝はいつものことで、常套手段なのだろう。必死に黙って耐えてはいるが、一般人寄りな私には効果覿面だ。普通にこわい。リアルアウ●レイジである。


「無論、タダでとは言わない」

「ほぉ? 何をくれるってんだい」

「此処にいる、遠坂志紀を献上致しましょう」

「へへっ。そりゃあまた。可愛い弟分達の咆吼ひとつにぷるぷるビビっちまう、取って食われるだけの小動物に、どんな価値があるってんだ? 体力もねぇ、頭もそれ程賢くはなく、騙されやすい、いかにもカモにされる女ってこたぁ、俺もよく知ってるよ。俺の隣に居る霧絵ちゃんばりの傾国の美女なら、話は別だが……」

「この娘を侮らない方がいい」


 瀧島さんの言葉を遮ったのは、他でもないシラユキさんだった。


「国を傾ける力など何にもならない。重要なのは、対する目前の相手を、いかにして己の肚の内に収めるかが重要なのです。全を動かすためには、まず一が必要となる。その一を疎かにし、全体を手込めにしようとすれば、土台は崩れ、最後には必ず全てが朽ち果てる」

「衣笠からの受け売りか? 信託やらを重視していた奴の言いそうなことだ」

「いいえ。これは世の摂理です。やはり、長いこと雲の上で高みの見物をしていた貴殿は、地上での人の成り立ちをあまりご存知でない」

「まるで、俺が世間知らずだって言いたげだなぁ」

「ええ、その通りです。失礼を承知で申し上げる。貴方は人間というものを、価値でしか見定めていない。自身にとって利となるか害となるか、あるいは益となるか損となるか、単純な物差しでしか測ることが出来ていない」


 興味深そうに、瀧島さんがシラユキさんの話にウンウンと耳を傾けている。瀧島さんの代わりに不平不満を遠慮なくぶちまけようとしていた男性達を黙らせ、シラユキさんにそのまま語らせた。


「聡明な貴方なら気付いていると思っていましたが」

「……」

「こうして、安全な天上で雲に隠れていた貴殿を天から引きずり降ろし、我々の前に姿を晒させたのは、衣笠でも、朝倉でも、ましてや私でもない。その決定的な一手を突いたのは、此処にいる遠坂志紀です。貴殿はその張本人を目の前にして、この娘を侮る愚か者だったのか」


 挑発している。私の首根っこを掴んでぶら下げ、シラユキさんは、瀧島さんの化けの皮を剥がそうとしている。シラユキさんの語る言葉の羅列が本心からのものなのか、それとも本当にただの焚附けなのか、定かではない。


「つまりだ、俺が此処であんたの押し売りを断って志紀ちゃんを返品すりゃあ、俺はモノの価値も計る目利きが無い野郎だって認識されちまうって訳だなぁ。まぁ今更どう思われようが構うこたぁねぇが、イイ年したオジサンが女にしてやられるってのもなぁ。情けねぇというか、男が廃るというか。なぁ、霧絵ちゃん」

「あらやだ。もうこれ以上無い程の廃れっぷりなのに。磨くところも無い位」

「へへっ。褒められちったぁ」


 えへへと照れる瀧島さんが本当に何を考えているのかわからなくて恐ろしい。へらへらとした物腰で、地獄に続く谷底に、平気でひとの背中を蹴飛ばして落としてしまうひとだ。落ちいく人間をせせら笑い、酒の肴にしてしまう様なことが出来るのだから、一瞬たりとも気を許してはならない。汗が伝う。今、私達は得体の知れない生き物を相手に喧嘩を仕掛けようとしているのだと、改めて実感した。


「マァ、とりあえず、アンタの要望は、お宅らのシマからウチが撤退することなんだろう。聞いてやらんでもないが、そんなまどろっこしいことをしなくたってぇ、もっといい代替案がある。柊さん、アンタも気に入ると思うよ。これこそ断る理由が無い」

「聞きましょう」

「あんたんとこのやり口とそう変わりゃしねぇ。これからは仲良しこよし、兄弟として手を組もうや」

「……は?」


 ここにきて初めて、シラユキさんが表情を変えた。眉を潜め、静かに、何を言っているんだと問いたげな声を漏らして。そんなシラユキさんの反応を見て、瀧島さんはニタニタと厭らしく笑んでいた。

 シラユキさんは暫く口を閉ざしていたが、粛然たる佇まいで瀧島さんを見据える。


「私達白鷹をも、その後ろに控えている連中共々、傘下につけたいということなら、以前にも、その誘いは御組の若頭から持ち掛けられている。此方側の返答は何ら変わりはしない」

「いやぁ、違う違う。同盟を組もうだとか、そんなちゃちな次元の話じゃあねぇよ」

「……」

「統合交渉だよ。天龍と白鷹は、今後はひとつの組織として、この日ノ本を制していく。どちらが上で、どちらが下だの、そんな柵は取っ払うんだ。盃を交わそうっていってんだよ」


 瀧島さんは日本酒の入ったお猪口を掲げた。突拍子もない瀧島さんからの予想外の発案に驚愕し、口をぽかんと開けているのは私だけではない。瀧島さんと霧絵さんの後ろに控えている、恐らく天龍組と手を結んでいる組織か、それとも舎弟か、彼等もまたあんぐりと大口を開いたり、酸素を求める金魚のように口を開閉させていた。


「おやっさん! 俺らはそんな話一切聞いちゃあいねぇぞ!」

「なんで白鷹なんぞと」


 その中でも、白鷹組に怨み辛みの念があるのか、声を荒げ、瀧島さんの背中に、顔を真っ赤にして訴える者も居たが、瀧島さんはちっとも意に介さない様子で「まぁまぁ、落ち着けよ」と軽く諌めていた。

 私も、表情の変わらないシラユキさんと、後ろに居るフォックスさんを小さく振り返り、反応を窺う。フォックスさんは私のあからさまな不安げな視線を受けて、困ったよねぇ、と言いたげに眉を下げながら笑い、小さく肩を竦めてみせた。彼女にとっても、これは予想外の展開だったらしい。

 くびくびとお猪口を傾けて霧絵さんが注いだ日本酒を口に運んでいる瀧島さんが、何をしようとしてあるのか、何を求めんとしているのか、この場で唯一詮索出来る立場にあるシラユキさんが新たな一手を打つ。


「これまで嗜虐の限りを尽くし、掌握下にある同胞すらも容赦なく見限り、打ち捨ててきた相手の言葉を信じられるとでも?」

「最後まで聞きなって。こっちは平等な関係を結んで、正真正銘兄弟になろうってんだ。それなりの誠意は示すつもりだよ」

「誠意?」


 シラユキさんが鼻で笑う。


「これ以上、ドンパチ続けて無為に血を流すのは心が痛む。不毛ってもんだ。それに、白鷹には優秀で豪傑な人材が多い。滅多に人を誉めはしねぇ霧絵ちゃんのお墨付きは信用できる。それをみすみす蹴散らすのは俺としても惜しい。ホラ、少子高齢化だし。今後の人材不足も不安なところっつって」

「諧謔は不要。貴殿の目的は変わらない。私達白鷹を取り込み、その権をより強固にしたいだけでしょう」

「当然だろ? それも目的のひとつだ。けど、それは天龍組としてじゃあねぇ」

「瀧島組長。貴殿の指揮下に下るという話なら断固御断りします。話にもならない」

「だぁかぁらぁ、わかんない子だなぁ。利かん坊は止せ。早とちりしなさんなよ。誠意を示すって言ってるだろうが。いつ俺が指揮を取るなんてぇ言った?」

「……」

「心配するな。俺じゃあねぇ。まして、私怨にまみれたアンタも相応しいとは言えねぇし、どこまでも白鷹寄りの思考に寄っちまうんじゃあフェアじゃあねぇ。それに、天龍うちは、白鷹みてぇにリベラルな思考は持ち合わせてなくってなぁ。頭でっかちの古い頭の奴等は、女が頭じゃあ士気も上がらねぇってんで、ついていく気がしねぇんだと」


 シラユキさんが顔を顰める。そして何かに気づいたのか、目を丸くした。小さく開いた口に一旦蓋をし、再び開いた。


「先導者は」


 誰を据えるつもりでいる、と感情の籠らない声が空気中に響き、皆の鼓膜を支配する。ピリピリとした緊張が皮膚を刺激する。真正面に座っていた霧絵さんと目が合う。紫水晶の瞳が細められ、薄い唇はゆっくりと弧を描く。背筋も凍る不気味な一笑だった。


「あんたんとこの犬ッころ。岡崎徹也はどうだ」

「は?」


 思わず漏れ出た声はシラユキさんのものではない。慌ててブレーキの外れてしまった口を両手で覆う。くすくすと私の失態を笑う霧絵さんの声が聞こえてくる。しかし、そんな余裕があったのは彼女だけだ。瀧島さんに随行してきた男性諸君は、皆ブ●ザガを喰らったみたいにカチンコチンに硬直している。

 口は抑えたまま、隣に座するシラユキさんを見上げると、表情こそは変えないまでも、その瞳孔は開き、内に驚愕を秘めていた。


「岡崎徹也を、新たな組頭として正式に育てたい。白鷹アンタらの息もかかったあんちゃんだ。天龍の性質も、誰かさんを通して、よぉく理解してるだろうよ」

「……」

「白鷹にだけ足並みを揃えさせる訳にゃあいかねぇ。天龍の仕組みにも馴染ませることについちゃサポートだってしてやらぁ。幸い、うちには優秀な躾師がいるからなぁ」


 躾師と言って、瀧島さんが霧絵さんに目配せし、空になったお猪口を傾ける。彼女は、心得た、と上機嫌にお酒を注いだ。


「俺も、直々に一から物を教えてやる。白鷹のやり方も尊重した上で、天龍の思想も頭に叩き込ませる。そうして、うまいことふたつを溶け合わせて、ひとつの個体として、一組織として再構築する」

「何故……」 

「岡崎のあんちゃんは、おふざけが過ぎるところもあるが、そういうヤンチャな所も可愛いってもんだ。今の時代、大胆にやらかしてくれる気概と愛嬌がねぇと、栄進もしねぇ。文句無しの腕っぷしに、人を掌の上で転がす狡猾さ、観察眼もある。申し分無しだ。適任だよ」

「……」

「これなら文句も無ぇ筈だ。実質の舵取りはアンタらに任せた様なモンだ。れっきとした新しい家族として、互いを受け入れようじゃねぇか」


 果たして、こんなに情の籠っていない、薄っぺらいという言葉があっただろうか。

 たらりと嫌な汗が頬を伝う。わからない。このひとが、瀧島さんが恐ろしい。

 嫌な予感がする。今から起こらんとしていることに脅え、ぎゅっと膝の上で小刻みに震え始めた拳を握り抑えこむ。焦るんじゃない、志紀。深呼吸しろ。落ち着け。この男のひとの言葉には、いつだって裏がある。耳を澄ませ。嗅ぎ取るんだ。真意を読み取るんだと自分に言い聞かせる。でなければ、またあのときと同じ様に背中を蹴っ飛ばされる。蟻地獄に突き落とされてしまう。

 シラユキさんは返事をしない。黒く濁り凍てついた目で、今にも刺さんばかりに瀧島さんだけを見つめている。真意を探るような眼をいくつも受けて、瀧島さんはいやだねぇと言いつつも、厭らしい笑みを浮かべたままだ。


「結構譲ってやってるんだがなぁ。なんせこちとら、おたくのワンコロに引き継ぎを済ませたら、この地位を退陣して、静かな老後を過ごすとまで言ってんだよ。それでも、まだ信頼に欠けるってのかい。どうしたらいいかねぇ、霧絵ちゃん」

「無理もないわ。彼女たちは親も同然の存在を屠られているんだもの。それに、いくら白鷹組に利を持たせたとはいえ、5Aを条件に持ち出すのは、彼らにとって主戦力を奪われるって感覚に近しいんじゃないかしら」

「なら、その犠牲と交換に見合う価値あるものを示せってぇことかい。あぁ、そうだ。そういうことなら、丁度いいのがいるじゃあねぇか」


 思い付いた、と上機嫌に胡座をかいていた己の膝をパンパンと景気よく叩いた瀧島さんの次の発言に、私の腹の底がぐつぐつと煮えて熱くなるのは当然のことだった。


「柊組長。確かに、聞きようによっちゃあ、俺達が岡崎のあんちゃんを横取りするようにも聞こえなくもねぇ。だから俺達からも、あんたらに、友好の証として贈り物をくれてやる。なぁに、そんなにたいしたぁものじゃあねぇが。使い物にはならぁ」

「贈り物?」

「喜んでくれるな? 飽きもしねぇで、何遍もしつこくアイツに喧嘩売って、弔い合戦仕掛けてきたもんなァ」


 熱烈なもんだと、何をされようとも、ちっとも痛くも痒くもなかったと、あしらう様な言動を見せつけてくる。

 アイツ、と瀧島さんが指す人物。

 パズルのピースを組み合わせるのは簡単だ。家族を殺されたというシラユキさんが、ずっと息の根を止めようと奮闘してきた相手。一番に思い浮かぶのは。


「岡崎徹也の身柄を、オジサンに暫く預けるってぇ誘いを呑んでくれりゃあ……」


 瀧島さんが煙草の煙を吐き出しながら、遂に言い放った。シラユキさんにとって、瀧島さんの誘いは恐らく、蜜よりも甘いものだったに違いない。


「うちの太刀川を、お前さんらにくれてやるよ。家族の仇討ちに、アイツの首を取りたくて堪らなかったんだろ?」


 瀧島さんの隣から聞こえてくる、クスクスと鈴を転がす様な笑い声は、あらあらやんちゃな子ねェ、と悪さをした子供を嘲笑し、自尊心を削り取るソレに似ていた。


「ここまで、この俺がお膳立てしてやったんだ。組の長なんだろ。あんたも女なら、度胸見せて、この船に乗ってみな」


 ふぅ、とシラユキさんに目掛けて煙を吐き出す瀧島さんの表情は、子供みたいで、邪気がなけれども、どこまでも極悪人の顔だ。この手を取れ、さすればお前の望みは成就せん、と甘い言葉で、シラユキさんを闇の道へと引きずり込もうとする。

 瀧島さんの吐く音は、思考を冒す毒だ。一度人のからだに巻き付けば、二度と絡み付いて離さない。まさに、龍。

 仇を取り、そして共に、己の望むがままの未来を造ろうじゃないかと差し伸べられた手を、シラユキさんは、ただ黙し、凝視していた。

 己に残された左手を、固く握り締めたまま。

 

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