政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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王子宮

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ええ、歩きましたよ。歩きましたが何か?
だって宰相閣下ったら脅しに掛かりました。行かないと不敬罪で捕らえられるって…。しかも私じゃなくて父と母が。
許可申請を出したのはボガード工房で、ボガード工房の経営者は父と母と父の弟子のナラだから、って。
レイン様が謀反で捕らえられるのも困るけど、父と母が不敬で捕らえられるのはもっと嫌だ!

私は諦めて王子宮へと自力で歩き、そのまま上等な部屋に押し込められた。広くて豪華な寝室と居室の続き部屋だった。
しっかりと鍵まで掛けられて、これは監禁?軟禁?拉致?
誘拐…は違うか?

カレンさんという侍女さんが身の回りの事をしてくれるらしい。
とりあえずコルセットが要らない楽な服に着替えさせて貰おうとお願いすると、ズラっとドレスが並べられた部屋に通してくれた。

「お好きなのをお選びくださいませ。」
カレンさんからここの部屋にある服は全てアリストリア殿下が婚約に際して用意した私のための衣装だと教えられた。

…なんか悔しい。
左右の壁ぎっしりと詰め込まれたこれだけの量のドレスを用意できる期間が王室にはあったという事だ。1週間?2週間?ひと月?ふた月?
婚約相手だという私本人が知ったのは今さっきだというのに!

その時私の目に飛び込んできたのは、瑠璃色の1枚の豪華なドレスだった。

(なんでこれがここに…?)
見覚えのある瑠璃色の杉綾模様に織り上げられたこの布は、ふた月前にボガード工房からニルス商会に新作の反物で納品されたものだ。
サトラリア王太子妃に謝意を込めて献上したこの世に一点しか無い最高級品。
とっくにサトラリアに送られたと思っていたのに…。

悔しい…。そう思うと涙が溢れた。
瑠璃色のドレスの裾をギュッと握りしめる。
商会に納品された物がこちらの希望通りに流れていない事は頭ではわかっていたけれど、実際こうやって目の当たりにすると、怒り心頭に発する。

(わかっていたじゃない、私たちの事なんてニルス王族はなんとも思ってないって事くらい。なんでも好き勝手にやってるってことくらい、わかっていた事じゃない…。)

国王陛下がサトラリア王太子の結婚式でやらかした事は国際問題にまで発展した。
その余波でエリール商会の商品はサトラリアとの取り引きを停止されている。
結婚式にケチをつけてしまったせめてものお詫びとして、心を込めてサトラリア王太子妃に献上したものだったのに。

私はドレスの裾を掴んで、悔し泣いた。

カレンさんは私を着替えさせるのを諦めたのか、そっと私の手をドレスから引き剥がして居間のソファーへと導いた。
「お茶をお淹れしますので、少しお休みなさいませ。」
丁寧に入れられたお茶を一口飲んでみる。
…不味い。甘ったるい花の香りがするニスルのお茶は好きじゃない。
そのままカップを押しやる。

そのままグジュグジュと泣いていたけれど、人ってそんなに泣き続けられないものね。そのうちに感情が収まり始めた。

「はあ。」
とりあえず大きくて溜息をひとつ。
きっとレイン様は当てにはならない。
父と母も心配はしてくれているとはおもうけれど、平民だから何か策を講じるなんてきっと無理。
望みはモーリ兄様しかいないけれど、モーリ兄様は果たして国王陛下相手にどこまで頑張ってくれるのかなぁ?

このまま会ったこともない人と婚約するなんて考えられない!
というか無理。私平民だし。
職人の心を踏み躙るような王族なんて大嫌いだし。

どうしたらこの話を蹴り飛ばせるか…。
逃げる?闘う?
…でもどうやって?
グルグルと思考を巡らせるけれどダメだ、全く頭が働かない。

救いなのが、この話に異議を唱えてくださっている方がいらっしゃるようで、今は家族会議をしていると聞いた。

王様と王妃様と王太子様と王子様。

出来れば異議を唱えてくださっているお方が国王やアリストリア殿下とやらを諦めさせてくれないだろうか。
もしそうなったらいいなぁ、とぼんやり考えることしか出来なかった。

王子妃ってもっと高貴な産まれで、可愛くて可憐で優雅な人がなるもんじゃないの?
男性に混じって染料や糸に囲まれて仕事をしている、こんなガサガサの手指の平民女がなれるとは誰も思わない。

そうだきっと何かの間違いだ。
間違えちゃったよ、アハハと言ってくれるだろう。
私は何にもしないで家族会議が終わるのを待っていたらいいんだ、きっと、多分…。

もう…そんな訳ないじゃん。今日はもうなんか疲れちゃった。
朝早くから着なれないドレスを着て、馬車に乗ってお城まで来て。
おまけにこんなところに閉じ込められて、なんかよくわからないうちに結婚させられそうになって、自分らしくもなく泣いている。

一体なんの冗談なんだろう…。

工房でも家でもそこそこ身体を動かして働いていた私は、何もせずただ座っているなんてなかった。
かと言って扉にも窓にも鍵が掛かっているし、勝手に何か触ったりしていいものかもわからない。

だから気付いたらそのまま眠ってしまったみたい。
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