政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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アリストリア殿下

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いつの間にか眠ってしまっていたらしい私は、ソファーで横になっていて柔らかい毛布に包まれていた。さすが王室、手触りの良い最高品質の毛布だった。つい癖で頬を擦り寄せてて触り心地を楽しんでしまう。 

外はすっかり陽が落ちていて、部屋のあちこちに蝋燭が灯されていた。

うーん、と背伸びをして、身支度を軽く整える。
喉が渇いたなぁと思ったけれど、テーブルの上にあったはずの茶器はすっかり綺麗に片付けられていた。
一応念のため、と思って入ってきた扉を開けようと試みたけれど、やっぱり扉を開くことは出来なかった。

しかし起きた気配は伝わったようで、軽いノックの音とともに背後の扉が開かれた。
おお、まだ続き部屋があったんだ!
「お目覚めですか?」
入ってきたのはカレンさんで、手元には水差しとグラスの載ったトレーを持っている。

「はい、寝てしまったみたいですみません。」
「随分と待たされましたから仕方ないですよ。」
グラスに水を注ぎながら、カレンさんは言ってくれる。
でもこのカレンさんという人は有能そうだけれど感情が全く見えない。冷たいお人形のような人に見える。

どうぞ、と差し出されたグラスを受け取り、ゴクゴクと一気に水を飲む。
うっ、まずッ!ニルスは水まで甘いのか。

「アリストリア殿下がお目覚めをお待ちになっていますので、ご用意致しましょう。」
そういってカレンさんは私の髪と泣き崩れた化粧を手直ししてくれた。

おお、家族会議終わったんだ!やった帰れる!
アリストリア殿下には断られる為に一度会わなければならないだろう、それくらいは我慢しないとね。
立ち上がってカレンさんに導かれるままに隣の部屋に移った。

隣の部屋は更に大きなリビングになっていた。うーん、さっきいたのが個人部屋のリビングだとしたら、こっちは王子様用?食事用と思われるテーブルには六脚の椅子が並べられていた。

リビングの大きなソファーに腰掛けさせられて、アリストリア殿下が来るのを待った。
「お待ちしています。」じゃなかったな。
すぐにまた違う扉から、今度はノックもなしに人が入ってくる。

スラリと背の高い、綺麗な青年だった。物語に出てくる王子様そのままだ。歩き方も優雅で非の打ち所がない。
おそらくこの人がアリストリア殿下なのだろう。


立ち上がって礼を取ろうとしたところ、やんわりと、「そのままで。」と制された。
だけど相手は殿下。そういう訳にはいかないので、立ち上がって礼を取った。

「アイリーン・ボガードです。」
「ボガード?」
苦い表情で殿下は言葉を溢した。
そう、私はボガード。コンランじゃない。
「まあとりあえず今はいい、ニルス第二王子アリストリアだ、アリーでもアリでも好きに呼んでくれ。」

「…はい、ではお言葉に甘えて、アリストリア殿下とお呼びさせて下さい。」
どうせこの場限り、愛称なんかでは呼べません、そのままきちんとお呼び致しますよ、殿下。

するとハアーっと大きく溜息をつかれた。
イヤ、溜息つきたいのは私です。

「随分と待たせてしまったようですまなかった、少し話し合いが長引いた。」
「そうですか…。それで結論は出たのでしょうか。」
間違いだった、帰って良いよ、という言葉を期待して結論を聞き急いだ。

「大丈夫、きちんと話は出来たよ、アイリーン。君は私と婚約する事になったから。」
よろしくね、と綺麗なお顔が弾けるように微笑む。

その一言の破壊力は凄まじかった。
大丈夫なんかじゃない!
帰れると思っていたところから、一気に突き落とされて、目の前が真っ暗になる。

「嫌…嘘、嘘ですよ。」
つうーっと一筋涙が流れた。
ヤバ、泣いている場合じゃない。さっき散々泣いたじゃないか!
慌てて手の甲で目を擦る。
しかし一度流れ出してしまった涙はもう止めることは出来なかった。
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