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結婚する理由
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「泣くほど嫌か…。」
と呟いた声だけが聞こえた。
うん、泣くほど嫌だ。
まだやりたいことが山ほどある。結婚なんてしている暇はない!
殿下の細く長い指が瞼に当てられて、流れ落ちる涙を拭っていく。
…触らないで!
触れられたくはないから、身を離そうと後ろに下がる。
それでも殿下は力強く私を引き寄せると、ソファーへと優しく導いて座らせた。
「話を聞いてくれるかい?」
甘く優しく、まるでわたしが駄々っ子で、それを宥めるようなそんな口調で。
イヤイヤ、私が駄々を捏ねている訳じゃ無いです。
だけどそれを口にして良い訳がない。
しばらく泣いて感情を発散させると少し落ち着けたような気がする。
溢れ出た涙を荒れた指でゴシゴシと擦る。
「り、理由をお聞きしても?」
震える声をなんとか取り繕って理由を尋ねる。
「すまない、政略だ。」
あっさりと殿下はそう答えた。
「それはそうでしょう、だって…。」
会ったこともない人と恋愛結婚出来る訳がない。
その政略ってなんなのさ!と私は問いたいの!
驚愕の悲しみが怒りの感情にすり替わる。
(泣いている場合じゃない!私は帰らないと!)
「長くなる。」
前置きをして、殿下は私の方へ真っ直ぐに身体を向けた。
「まず、バーン織が軍服素材のひとつに採用される。バーン織は軍需用品になり、その製法は軍事機密扱いになる。」
「バーン織が?いや待って、あれは…そんな大層なモノじゃありません!」
「とりあえずその事は待って。俺の話を先にさせて。
問題はバーン織をウッドバーンに輸出しようとしたレインに父が謀反の疑いを掛けているということなんだ。」
「まさか!レイン様が謀反なんてそんな面倒な事する訳がないじゃないですか!」
怒って出て行った妻1人宥められないような人が、ずっと望んでいた娘が出来たのを放って帰ってしまうような人が、謀反なんてするわけが無い。
「そう、それには賛成だ。ただ父王がそう思っているという事だけが重要で、実際にレインが謀反を起こすかどうかは今は置いておく。
しかし国として芽は芽のうちに摘まねばならない。そこはわかって欲しい。」
待て待て。大事なことを2つも傍に置かないで!
だけど私の話を待たずに殿下は更に話し続ける。
「芽を摘むためにしなければならない事は3つ。
ひとつ。バーン織の製品や技術者を他国に渡す訳にはいかない。
ひとつ。エリール領がニルスから離反するのは絶対に避けたい。
ひとつ。ボガード工房がニルスから離反するのは避けたい。」
長い綺麗な指をひとつひとつ差し出しながらゆっくりと言い聞かされた。
「さて、誰を押さえたら1番効果的かわかるか?」
と聞かれる。
言われるまでもなく、わかってしまうことが悔しい。
だって、私はバーン織の技術者の一人で、エリール領主が我が子にしたいほど拘っていて、ボガード工房の工房主の子供。
だけど、だけど。
「ひっ、人質で良いじゃないですか!婚約までする必要はないじゃないですか!」
「アイリーンは牢屋に行きたい?」
ブンブンと首を振る。牢屋なんて誰だって嫌に決まっている!
「良いかい?平民の人質は地下牢で、貴族の人質なら塔に幽閉。もちろんそんなことをしたらレインが黙っていないからしない。
あともうひとつ、来賓用の離宮があるけど、そこにはフラン伯母様が居座っている。」
あっ、詰んだ。
私はフラン様には殺したいほどに憎まれているから、同じ屋根の下で暮らすなんて絶対に無理。
命がいくつあってもきっと足りない。
「今は王女宮は閉じられているし、王妃宮ではアイリーンを押さえられない。」
「何で王妃宮ではダメなんですか?」
「簡単なことさ。母上は君を逃したがっているから。」
あ、異議を唱えてくださっているのは王妃様なのか。
それは良い知らせを聞いた。
「で、残るのは王太子宮かここ王子宮か。
どちらにせよ結婚前の令嬢が住めるとしたら婚約者になるしかない。
王太子宮でも良いよ、でもそうしたら先に議会に掛ける事になるから、大々的に発表しなければならなくなる。」
なんとなく殿下の言いたい事が掴めてきた…気がする。
つまりはこれは偽装工作?
「本当に婚約する訳ではない?」
「うーん、そこはレイン次第?
婚約するためにはコンラン伯爵家が署名した書類と王家が署名した書類を揃えて、教会と議会に提出して承認されなくてはならない。こればっかりは父王でもどうにも出来ない。だから今はコンラン家からの書類待ちという状態になる。」
そうかそういうことか。
レイン様は当てにはならないけれど、きっとモーリ兄様なら書類を書くことは止めてくださる。
つまり私は宙ぶらりんのままここにいる事になる。
「いつまでここにいれば良いのでしょう?」
「えーっと、ずっと?」
「…まさか?」
「バーン織の輸出を諦める事をレインが納得して、エリール謀反の疑いがない事を父が納得するまで…かな。」
なるほど。理由はそれだけか。
バーン織の輸出は残念だけど諦められる。また違うものを作ればいい。
そもそもあれは軍用に開発されてはいないし、品質にも供給にも問題があるから、きっと直ぐに見直される。
割とすぐに帰れそうな気がしてきた。
「わかりました。しばらく人質としてここに居ます。」
「人質じゃない、婚約者だよ。そこは間違えないで。父が納得することが大切なんだ。その先に婚姻が必須になれば、俺もモーリもそうするだろうから、その覚悟は持っていて欲しい。」
その一言で殿下はおそらくこの婚約が「コンラン家の悲願」にも関わってくる事を知らない事に気付いた。
モーリ兄様は絶対に私がニルス王族に嫁ぐ事を認めない事を殿下は知らないのだ。
良かった、なら安心してここに居られる。
「わかりました。大人しくここでしばらく暮らします。」
最悪は免れた。
後はモーリ兄様が迎えに来てくれるのを待っていればそれでいい。
「ずっといて良いんだよ。」
殿下が訳がわからない事を言っている。
「いえ、必ず帰ります。」
とりあえずそう答えておいた。
と呟いた声だけが聞こえた。
うん、泣くほど嫌だ。
まだやりたいことが山ほどある。結婚なんてしている暇はない!
殿下の細く長い指が瞼に当てられて、流れ落ちる涙を拭っていく。
…触らないで!
触れられたくはないから、身を離そうと後ろに下がる。
それでも殿下は力強く私を引き寄せると、ソファーへと優しく導いて座らせた。
「話を聞いてくれるかい?」
甘く優しく、まるでわたしが駄々っ子で、それを宥めるようなそんな口調で。
イヤイヤ、私が駄々を捏ねている訳じゃ無いです。
だけどそれを口にして良い訳がない。
しばらく泣いて感情を発散させると少し落ち着けたような気がする。
溢れ出た涙を荒れた指でゴシゴシと擦る。
「り、理由をお聞きしても?」
震える声をなんとか取り繕って理由を尋ねる。
「すまない、政略だ。」
あっさりと殿下はそう答えた。
「それはそうでしょう、だって…。」
会ったこともない人と恋愛結婚出来る訳がない。
その政略ってなんなのさ!と私は問いたいの!
驚愕の悲しみが怒りの感情にすり替わる。
(泣いている場合じゃない!私は帰らないと!)
「長くなる。」
前置きをして、殿下は私の方へ真っ直ぐに身体を向けた。
「まず、バーン織が軍服素材のひとつに採用される。バーン織は軍需用品になり、その製法は軍事機密扱いになる。」
「バーン織が?いや待って、あれは…そんな大層なモノじゃありません!」
「とりあえずその事は待って。俺の話を先にさせて。
問題はバーン織をウッドバーンに輸出しようとしたレインに父が謀反の疑いを掛けているということなんだ。」
「まさか!レイン様が謀反なんてそんな面倒な事する訳がないじゃないですか!」
怒って出て行った妻1人宥められないような人が、ずっと望んでいた娘が出来たのを放って帰ってしまうような人が、謀反なんてするわけが無い。
「そう、それには賛成だ。ただ父王がそう思っているという事だけが重要で、実際にレインが謀反を起こすかどうかは今は置いておく。
しかし国として芽は芽のうちに摘まねばならない。そこはわかって欲しい。」
待て待て。大事なことを2つも傍に置かないで!
だけど私の話を待たずに殿下は更に話し続ける。
「芽を摘むためにしなければならない事は3つ。
ひとつ。バーン織の製品や技術者を他国に渡す訳にはいかない。
ひとつ。エリール領がニルスから離反するのは絶対に避けたい。
ひとつ。ボガード工房がニルスから離反するのは避けたい。」
長い綺麗な指をひとつひとつ差し出しながらゆっくりと言い聞かされた。
「さて、誰を押さえたら1番効果的かわかるか?」
と聞かれる。
言われるまでもなく、わかってしまうことが悔しい。
だって、私はバーン織の技術者の一人で、エリール領主が我が子にしたいほど拘っていて、ボガード工房の工房主の子供。
だけど、だけど。
「ひっ、人質で良いじゃないですか!婚約までする必要はないじゃないですか!」
「アイリーンは牢屋に行きたい?」
ブンブンと首を振る。牢屋なんて誰だって嫌に決まっている!
「良いかい?平民の人質は地下牢で、貴族の人質なら塔に幽閉。もちろんそんなことをしたらレインが黙っていないからしない。
あともうひとつ、来賓用の離宮があるけど、そこにはフラン伯母様が居座っている。」
あっ、詰んだ。
私はフラン様には殺したいほどに憎まれているから、同じ屋根の下で暮らすなんて絶対に無理。
命がいくつあってもきっと足りない。
「今は王女宮は閉じられているし、王妃宮ではアイリーンを押さえられない。」
「何で王妃宮ではダメなんですか?」
「簡単なことさ。母上は君を逃したがっているから。」
あ、異議を唱えてくださっているのは王妃様なのか。
それは良い知らせを聞いた。
「で、残るのは王太子宮かここ王子宮か。
どちらにせよ結婚前の令嬢が住めるとしたら婚約者になるしかない。
王太子宮でも良いよ、でもそうしたら先に議会に掛ける事になるから、大々的に発表しなければならなくなる。」
なんとなく殿下の言いたい事が掴めてきた…気がする。
つまりはこれは偽装工作?
「本当に婚約する訳ではない?」
「うーん、そこはレイン次第?
婚約するためにはコンラン伯爵家が署名した書類と王家が署名した書類を揃えて、教会と議会に提出して承認されなくてはならない。こればっかりは父王でもどうにも出来ない。だから今はコンラン家からの書類待ちという状態になる。」
そうかそういうことか。
レイン様は当てにはならないけれど、きっとモーリ兄様なら書類を書くことは止めてくださる。
つまり私は宙ぶらりんのままここにいる事になる。
「いつまでここにいれば良いのでしょう?」
「えーっと、ずっと?」
「…まさか?」
「バーン織の輸出を諦める事をレインが納得して、エリール謀反の疑いがない事を父が納得するまで…かな。」
なるほど。理由はそれだけか。
バーン織の輸出は残念だけど諦められる。また違うものを作ればいい。
そもそもあれは軍用に開発されてはいないし、品質にも供給にも問題があるから、きっと直ぐに見直される。
割とすぐに帰れそうな気がしてきた。
「わかりました。しばらく人質としてここに居ます。」
「人質じゃない、婚約者だよ。そこは間違えないで。父が納得することが大切なんだ。その先に婚姻が必須になれば、俺もモーリもそうするだろうから、その覚悟は持っていて欲しい。」
その一言で殿下はおそらくこの婚約が「コンラン家の悲願」にも関わってくる事を知らない事に気付いた。
モーリ兄様は絶対に私がニルス王族に嫁ぐ事を認めない事を殿下は知らないのだ。
良かった、なら安心してここに居られる。
「わかりました。大人しくここでしばらく暮らします。」
最悪は免れた。
後はモーリ兄様が迎えに来てくれるのを待っていればそれでいい。
「ずっといて良いんだよ。」
殿下が訳がわからない事を言っている。
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