政略結婚は不幸の種 知らない間に織物職人は第二王子の婚約者になっていました

枝豆

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モーリーウス兄様

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部屋に陽の光が差して来た。
昼間たくさん寝ちゃったし、ベッドで眠る気にはなれなかったから、椅子を窓辺へと持って行って、窓から外を眺めて夜を明かした。
ボーッと外を見てぼんやり考え事をして、時々泣いて、大丈夫だと自分に言いきかせた。

そっと扉が開いて、カレンさんが入ってくる。
身ひとつで王子宮に入れられた私を気遣って、王妃様付きだったカレンさんを寄越してくれたのは王妃様だそうだ。

私がベッドを使った形跡がない事に気付いたようだけど、カレンさんはやっぱり動じなかった。
王妃様は私を気遣ってくれたみたいだけど、カレンさんは私を必要以上に気遣う素振りはないみたい、まあ別に良いけれど。

「お着替えなさいましょう。モーリウス様がご面会を希望されて控えていらっしゃいますが、お会いになられますか?」
と素っ気なく聞いて来た。

モーリウス様という言葉に私は反応した。
モーリ兄様!
兄様に早く会わなければと気が焦って私は部屋を飛び出した。
「アイリーン様!」
何事にも動じなかったカレンさんが初めて慌てて私を引き止めようとしたけれど、無視した。

隣の小さい居間には誰もいない、昨日殿下と話した大きな方の居間だ!
部屋に飛び込むと殿下が優雅にソファーに座り、兄様は部屋の真ん中に立っていた。
私に気付くとニッコリと微笑んで、おいでと言わんばかりに両手を開いて迎えてくれる。
「兄様!」
昨日レイン様と別れてから、やっと会えた馴染みある人の姿に、嬉しさが込み上げてきて駆け寄って飛び付いた。
「会えて嬉しい。」
がっしりとした兄様の胸に頬を埋めると、兄様の腕が背中に回されて、ギュッとしてくれた。

兄様はいつも優しい。みんなに優しいけれど、私には特別に優しいことを私は知っている。

「全く。着替えもしないなんて令嬢にはあるまじきすごい姿だけど。でもとりあえず顔を見せて。」と呆れながら言われた。
顔を上げると、
「いっぱい泣いたね。目が腫れてる。」と優しく瞼を撫でてくれる。
「それは泣きますよ。帰れないなんて思わなかったですもの。」
「そうだね、巻き込んじゃった。ごめんね。」
「ううん、兄様のせいじゃないもの。」
「アリと話は付けたよ。父上も大丈夫だから、ね。」 
「うん…。」

「モーリ、離れろ。今は俺の婚約者だ。」
アリスト殿下が兄様から私を引き剥がして肩から上着を掛ける。
怒ってる口調?
あ、そうか。まだ挨拶をしていなかった事を思い出す。
「すみません、失礼しました。
おはようございます、殿下。」
「おはよう、アイリーン。あまり眠れなかったようだな。とりあえず着替えを。」
「このままで私は構いません。」
かけてもらった上着の前見ごろを掻き寄せる。
「その姿ではダメだ。」
カレンさんに引き渡されてドレスルームへと向かう。

「ふーん。妬くぐらいの気持ちはあるのか。」
「うるさい、ここは俺達ふ・う・ふ、の部屋だ。弁えろ。」
「まだ、違うだろう。書名してないし。何よりリーンは、俺の、い・も・う・と、なんだから。」
背中から聞こえる会話から、なんだか2人は気安い関係みたいと思う。あー従兄弟なんだなと思い至る。
夫婦じゃないし、なんなら婚約を受けてないし。でも妹でもないけれどね、と思って、あっ妹になったのか?と気付いた。

身支度を整えてもらって、改めて兄様の元へ向かう。
「リーン、いい物持って来たよ。」そう言って兄様が出して来たのは、見慣れたエリールのお茶の葉の缶と大型のバスケット。

はい、っと渡しながらバスケットの口を覆っていた布を捲る。
中には色とりどり山盛りの毛糸と編み針だった。
「わあ、スゴイ!こんなにたくさん。」
「しばらく暇になると思うから、編み物でもしてゆっくりしてるといい。」
「…やっぱり帰れないのね。ううん、でもありがとう、兄様。」
帰れないのは残念だけれど、そこは今は悩むのは辞めた。

だから兄様からの贈り物は本当に嬉しい。
エリールではいつも何かを作っていた。
仕事して、隙間時間があれば編み物したり、刺繍をしたり。
ここには何もない。何も出来ないからムダに色々と考えてしまうのかもしれない。
お茶も嬉しい。私は毎日このお茶を飲んでいたから。

少しでもエリールにいた時と同じように過ごせるように心を砕いてくれた兄様の心遣いがとにかく嬉しい。

「リーン、とりあえずアリの「婚約者」としてここで過ごしていて欲しい。皮肉な事だけど王子宮が一番安全なんだ。
父はまだ署名をしていないから婚約がきちんと成立した訳じゃない、絶対に書かせないからそこは信じて。状況が整えば必ず迎えに来る。
だからくれぐれも大人しくしておいで。必ず、必ず迎えに来るから。」
「うん、わかりました。」
嫌だけど、仕方ない。
そう腹を括れば、頑なに強張っていたものがスッと溶けていく。
大丈夫、兄様がそう言ってくれたから。迎えに来てくれる、そう心から思うと楽になれる。

「もう良いだろ、帰れ!」
殿下がなぜか不貞腐れている。
「はいはい、帰りますよ、王子殿下。」
そう言って兄様は立ち上がった。

「リーン、最後にもう一回。」
両手を広げて、おいでのポーズ。
兄様にしっかりとしがみついた。
「来てくれてありがとう、安心した。」
「うん。」
モーリ様が私の頬に頬をくっつけた。
そして耳元で
「ホセが樽を動かすから、それまで待ってて。」
と囁いた。
私は、その言葉の持つ意味をおそらくきちんと理解した。

「もう良いだろう。近過ぎ!」
殿下が引き剥がしに掛かる。
「全く、アリはうるさいな。
じゃあリーン、母上には気をつけて。」
と言い残して、モーリ兄様は帰っていった。
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